十一話 怒り②
「庵様。どうして私を責めないのですか?」
「緋翠は何も悪くないからだ」
「そんなことありません。私が龍くんを人間だと思ったから……本当にお父さんを探してると本気で信じてしまった私がいけないんです」
どうして忘れていたのだろう。妖は嘘をつくのが上手いということを。妖は大人だけじゃない。子供だって存在している。
「緋翠。お前は優しい奴だな」
「庵様……」
慰められるように頭を撫でられた。……嫌じゃない。あれだけ触られることに拒絶反応を起こしていたのに。庵様に触られると安心してしまう。
だけど、庵様の怒りはまだ収まっていない。何故なら漆黒の翼は未だに黒く染まり続けているから……。
私には優しく振舞っているつもりでも、翼が見える私は庵様が無理に笑っていることもお見通しだ。
「緋翠の手を引いて中に入れたと聞いたときから、龍という子供には違和感を抱いていた。だが、俺には相手が妖かどうかわかる強い力はない。妖気が強ければ多少わかるがコイツのように上手く人間に変化すれば、人と妖の判断は難しい」
「……」
妖気が強いから、龍くんは背中に黒い翼が見えたのだろうか。だとすると私は人間と妖の区別が出来るということになる。
でも、その理屈で言ったら庵様はどうなるの? 六枚の黒い翼、それはまるで……。
卯月だってお母様だって巫女とはいえ普通の人間なんだ。それでも黒い翼は現れる。なら、庵様だって同じ。枚数が多いからって人間じゃないなんて判断するのはまだ早い。
「妖気が強い? 褒め言葉をどうもありがとう。それでいうならさ、お兄さんだって変化が上手いじゃん」
「減らず口を叩くのはこの口か?」
「庵、様……待って……っ!」
庵様は再び刀を振り下ろそうとしていた。今度こそ龍くんは死んでしまう。
「緋翠、離せ。お前を巻き込みたくはない!」
「嫌です! 絶対離しません!!」
「何故止めるんだ! 相手は妖! お前だって妖は嫌いだろう!? 妖は人を騙し、躊躇なく人間を殺すんだ!」
「そんなこと、わかっています」
それは私が嫌ってほど知っている。
三度目も四度目のループだって、私は妖から無惨に殺された。
庵様が何故ここまで妖を嫌うのか。庵様も私と同じなのだろうか? 家族や友人を妖に殺された、とか。
「お姉さん。僕に何か言いたいことがあるんでしょ?」
「お父さんを捜しているのは本当? それとも私を騙すために嘘をついたの?」
「お姉さんはどっちだと思う?」
「私は信じるわ」
「お姉さんはつくづく甘いね。……お兄さん、さっさと殺してよ。さすがにこのまま放置だと逆に苦しいんだ」
「お前に言われなくともそうするさ」
「庵様、どうして……。妖だって、いい人はいます。今回はたまたま悪い妖だったかもしれない。けれど、探せばきっと……」
「たまたまで俺の国は燃やされたのか?」
「っ……」
「俺がいなければ、とっくに死者が出ていた」
あれだけの悲鳴を聞けば犠牲者は多くいると思っていた。でも、火事の被害はかなり大きく妖も人を襲っているように見えたのに死者がいない? そんなことが有るのだろうか。
「お兄さんだって僕たちと変わんないのにさ。いつまで変化してるつもり? やっぱり、そこのお姉さんを守るため? そんな必死に守ったって人間は簡単に死ぬよ。
人間の寿命はあっという間。だから、守るだけ無駄なんだよ。ねぇ、お姉さん。このお兄さんにいつまで騙されてるの?」
「えっ……?」
庵様が変化? さっきも龍くんは庵様にそう言っていた。一体どういうことなの?
庵様が龍くんと同じ? それって……。
「子供、安心していいぞ。お前の父親も見つけ次第、お前と同じように地獄に落としてやる」
「ははっ。僕のお父さんがお前なんかに簡単に殺されるもんか。せいぜい、僕のお父さんにコテンパンにされて泣きべそかくといいさ……うっぁ……。お姉、さん。僕は地獄で待ってるから早く来て……ね」
「ッ……!」
庵様は龍くんの喉を刀で刺した。そして龍くんは最後の言葉を言い残して、死んでいった。
目の前で妖が死んだ。憎いはずの妖が死んだはずなのに、私は涙が止まらなかった。
龍くんにも家族がいたはずなのに。お父さんと再会出来ないまま、この世を去るなんて考えるだけでも辛い。
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