表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/26

一話 追放巫女と新たな出会い

 苦しい……。痛い……。


 私はいつまで、こんな辛い人生を生きなければならないのだろう? 


 何度ループしたって不幸なら、いっそ、この手で命の灯しを消してしまおうか。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「卯月様は今日もお美しい……」

「わずか七歳で巫女の力が宿り、十三歳になった今では奥様と並んで立派な巫女だものね」


「それに比べてアレはなに?」

「奥様もいつまであんな役立たずを置いておくのかしら」

「しっ。聞こえるわよ」


「……」


 朝、目覚めて扉を開けると、聞こえてくるのは私の陰口ばかり。以前は週に一度くらいだったのに、今では毎日のように嫌な音が聞こえてくる。


 もう……聞きたくない。

 ちなみに卯月というのは私の妹だ。


 私の家系、神無月家は女性は巫女、男性は陰陽師と代々決まっている。


 陰陽師は結界の外に現れる妖などを退治する役目があり、最近はよく神社の外に妖が出るので兄さんや従兄が昼間から御札を持って、外に出ていくのを度々見る。


 巫女は神様のために舞を踊ったり、参拝客の相手をしたり、他にも色んな仕事がある。


 巫女の力が目覚めるのは十歳前後。水晶に手を当てると光り輝くという。それが陰陽師や巫女に目覚めたときの合図である。

 その際、巫女や陰陽師である資格があると認められ、まわりからは祝福される。


 だから七歳で巫女に目覚めた卯月は優秀な子。普通なら自慢の妹が出来て姉である私も喜ぶべきなのだが……。


私は世話係の人達が噂するようにあまり良いように思われていない。それもそのはず。


 私はもうすぐ十六歳になるというのに、巫女の力に目覚めていないのだから。


 水晶に手を当てるのは通過儀礼として、この家に生まれた者は誰しもが経験する。が、今まで十六歳までに能力に目覚めなかった者はほとんどいなかったらしい。


 過去には私と同じように役立たずだと判断された者はその日の内に遠くの山に捨てられたと聞く。何故、私は捨てられないのだろう? 未だに私は神無月家に何も貢献していないというのに。


 巫女や陰陽師は綺麗な心を持つ者が能力の開花が早いとされてきた。卯月が綺麗かどうかは置いておいて、その噂が仮に本当だとしたら私が巫女になれないのも納得だ。なぜなら私はとうに穢れてしまっているから……。


 それは遠い、昔のこと。 

 私は前世の記憶を覚えている。


 ねぇ、神様。

 本当に神様がいるのなら教えてください。


 ……前世の穢れはいつ浄化されるのですか?


「まだいたの? 緋翠(ひすい)姉さん」

「……おはようございます。卯月様」


 隣の部屋から出てきた卯月に深くお辞儀をした。私たちはれっきとした姉妹だ。だが、一度壊れてしまった、その溝は埋まらない。


 私が十歳になり通過儀礼をしたあの日、巫女の力が宿らなかった私を見た卯月は絶望した。昔は一緒に遊んでいた卯月。

 小さい頃は「緋翠お姉ちゃん」っていつも後ろをついてきていたあの頃が懐かしい。


 いつも笑顔で私の名前を呼んでいた卯月はいつしか、私を見て名を呼ぶ度、顔を歪めていた。まるでゴミを見るような目だ。


 名を呼んでくれるのは情からなのか。それとも、未だに姉妹として接してくれている? そんなこと、ありえないよね。


 卯月は巫女。私は卯月や兄さんたちの世話係に地位が落ちたのだから。庭の掃除。朝食の支度。他にも陰口を言っていた女性たちの世話をしている。


 そう、私は世話係よりも下な使用人のような生活を強いられている。それでも卯月の部屋の隣なのは、せめてもの救いなのか。


 ……違う。母は私が卯月を見て、早く巫女に目覚めろと言っている。これは母からの圧だ。重圧に押し潰されて今にも胸が張り裂けてしまいそう。


「それで、いつ出ていくの?」

「……え?」


「え? じゃないでしょ。緋翠姉さんはいつまで私の姉でいる気なの!?」

「きゃっ……!?」


 私は突き飛ばされてしまった。だけど、私に救いの手を差し伸べる者はいない。


「母さんもよくこんなゴミ、いつまで置いとく気? もうすぐ十六になるくせにまだ巫女の力に目覚めないとか……もう手遅れね」

「っ……」


「大体さぁ、この目が穢れの原因なんじゃないのぉ?」

「いたっ……!」


 私は右目に眼帯をしている。これは前世、鬼に目を抉られたときのだ。普通なら生まれ変わってしまえば目を引き継ぐことはないのだが、私は片目のまま生まれてしまった。


「それともなに? 十歳の祝福の儀には、とっくに処女じゃなかったとか? だから、こんなに臭いんだぁ~。穢れた女なんて最悪じゃん。もうアンタの顔なんて見たくないから、早く出て行ってよ」

「今、お金を溜めてるの。ある程度溜まったら出て行く。だから、それまではココに……」


「誰が待つの? 私、言ったよね? 出て行ってって」

「卯月ちゃ……」


「様をつけろぉぉぉぉ! 気安く私の名前を呼ぶなぁぁぁ!」

「いっ……! いたっ……やめっ……」


 私は卯月の足で身体を殴られた。顔を、肩を、お腹を蹴られた。今の卯月は私のことを本当に嫌っている。だって、その証拠に卯月の背中には黒い翼が生えているから。


「ちょっと……朝からなんなの!?」

「母さん……!」


「卯月! どうしたの!?」

「緋翠姉さんが私に暴力を振ったの~! 巫女は穢れの存在だ~って」


「私、そんなこと言ってな……っ」


「なんですって!?」

「お母様……違い……きゃっ!?」


「穢れてるのはお前のほうよ、緋翠」

「っ……」


 胸ぐらを掴まれて言い放たれた言葉。私には痛いほど突き刺さった。……お母様に私の言葉は届かない。だから卯月に暴力を振るわれたといっても信じない。


 以前、卯月に逆らい、お母様に真実を言ったとき、お母様はこう言った。「卯月から聞いているわよ。貴方は卯月のことが嫌いで、卯月を陥れるために卯月を虐めてるって。今後、貴方の言葉は信じない。私は巫女である卯月を信じるわ」と。


 ねぇ、そんなに巫女が大事? 私は巫女である以前に貴女の娘じゃないの?


 私が生まれたとき、喜んでくれたよね。それは巫女の跡継ぎが生まれたから祝福してくれただけだったの?


 そんなに巫女が偉いの? ……わかってるよ。お母様の中で巫女が特別な存在だってこと。役立たずな私は貴女の中で娘でもなんでもないだもんね。


 ねぇ、お母様。今の貴女にとって、私はどう映っているの?……世話係、いや、使用人として使えればいいほう、だよね。


 知ってる。だって、お母様の翼も黒いから。

 殺意と悪意に満ち溢れている。……痛いほど伝わってくるよ。


 私は巫女の力には目覚めなかったけれど、一つだけ能力があった。それは自分に対して相手がどう思っているかわかるということ。


 黒い翼が生えていたら、私のことが嫌いということ。赤やピンクなど明るい色なら私をよく想っている。が、そんな人には今まで会ったことがない。


 そして、もう一つ。黒い翼は病気を抱えていたり、死期が近くても現れたりする。その場合、翼は二枚ではなく四枚。今のところ、お母様も卯月も二枚だから、単に私のことが嫌いという感情が強くて現れた翼のようだ。


 この力は言っても信じてもらえないと思って、誰にも話していない。

 自分の感情が相手にわかってしまうなんて、これほど恐ろしい能力はない。こんなの、話したところで怖がられるだけだ。


「……そうだわ。思い出した」

「お母、様?」


「緋翠。貴女、今日誕生日だったわよね?」

「え?」


 お母様が突然なにを言い出すかと思えば……私の誕生日は三日後。お母様は私の誕生日さえ忘れてしまったのか。


「せっかくの誕生日だし、何かプレゼントでもあげないと、ね」

「っ……」


 昔の私ならお母様からのプレゼントという言葉にすぐに飛びついただろう。だけど今は違う。お母様の黒い翼の色がさっきよりも黒くなった。


 お母様は一体なにを考えているんだろう?

 私には翼で感情がわかっても、お母様の考えていることが全て見えるわけじゃない。


「誕生日おめでとう。出来損ないの緋翠ちゃん」

「いっ……っ!」


 私は髪を引っ張られ、そのまま玄関へと連れて行かれた。そして、ドンッ! と突き飛ばされ、外に出てしまった。


「いい気味~。緋翠姉さん、そのまま妖の餌になっちゃえば?」

「っ……! お母様……!!」


 お母様は私を外に出すや否や、振り返ることなく、家の中へ入っていった。


 お母様、私を見て。私はここにいるよ……!


「嫌っ……!私、妖の餌になんかなりたくない!」


 私を嫌っている卯月(妹)に命乞いなんてみっともないのはわかっていた。だけど、妖の餌になるのだけはもう嫌。 


 三度目、四度目の前世でも私は妖の餌になった。

 五度目も、また私は繰り返してしまうの?


「緋翠姉さん。私、一度だってアンタを本当の姉だとは思ったことないから。勘違いしないでよね」

「っ……」


 それは私にとって最悪の日。


 小さい頃、卯月が私に向けてきた笑顔はなんだったの? それは私が出来損ないになる前だったから? 


 通過儀礼が絶望の日に変わったあの日から、卯月は私から距離を置いた。そうよね。こんな役立たずの私は卯月の姉として情けないよね。


 ごめんね、卯月。貴女の自慢のお姉ちゃんになれなくて。……お母様、ごめんなさい。お母様の期待する子供になれなくて。


 私が巫女に目覚めていれば、幸せな未来もあったのかな? なんてそんなの、想像するだけで虚しいだけだけど。


 ……私は覚悟を決めて、歩き出した。


「家が恋しくて戻って来るとかやめてよねー? あっ、餌になっちゃったら戻って来れないか。アハハっ。やっと邪魔者がいなくなった。私ってばなんて幸せ者なの~!」


 少しでも助けてほしいと思った私が馬鹿だったんだ。私が目の前の森の奥深くに入るまで聞こえてきたのは卯月の楽しそうな笑い声。


 卯月、あんな風に笑うのね。やっぱり私がいないほうが卯月も幸せになれるんだ。


 森を抜けると、そこには崖。あと三歩も歩けば崖下に落ちてしまう。妖に見つかって殺されるくらいなら、もういっそのこと自らの命を手放してしまおうか。


 これで五回目のループも終わり、か。私はかつて四回のループを経験している。


 一度目はかつて好きな人に裏切られ、暴力を振るわれ、そのあげく殺された。二度目は親友に裏切られ、親友の恋人に身体を散々弄ばれたあげく、無惨に殺された。


 三度目は鬼に誘拐され、足の骨を折られ、身動きが取れぬまま、身体を滅茶苦茶にされた。

 四度目は九尾に目を潰され、四肢を引き裂かれ、殺された。前世で九尾に目を壊されたせいで今も片目は見えない。


 そして、今、五度目のループだ。何度ループしたって、私はハッピーエンドに辿り着けない。

 幸せになりたい。でも、幸せになろうと手を伸ばした瞬間、いつもどこかで殺されてしまう。


 私はどこで間違ってしまったのだろうか。でも、もういいんだ。五度目のループでも、私は家から追い出された。つまりはそういうこと。


 私は幸せになるなと神様から言われている。どうせ、ここで命を手放しても六回目のループをする。いや、もしかしたら、ここで終わりかもしれない。それはそれでいいんじゃないか。もう苦しまずに済むのだから。


「さようなら……」


 次はせめて少しでもいい。ほんの少しの幸せを私にください。


「……お前の願い、聞こえたぞ」

「!?」


 落ちる寸前、何かにグンッ! と引っ張られた。私はこの人に助けられたの?


「この高さから落ちてもよくて軽傷だ。……自殺か? この森では見たことない女だな」

「死なせてください……!」


 あと少しで死ねたかもしれないのに、どうして私の邪魔をするの? 本当はありがとうとお礼を言いたかった。けれど、それは死ぬということから逃げている気がして言えなかった。


「お前は幸せになりたいんだな」

「……!」


 私の心の声が聞こえる? そんなわけ、ないのに。この人は全てを見透かすようにそう言い放った。


「ほんの少しの幸せと言わず、心の底から幸せを手に入れたほうが気持ちいいぞ」

「いきなりなんですか」


「お前の顔が幸せになりたいって、そう言ってる」

「は、はぁ……」


 すごく変わった人だ。けれど、握られた手も全然嫌じゃない。それだけじゃない。


 ……不思議だ。この人の翼は真っ白だ。しかも六枚なんて。白の翼は今まで会ったことがない。 一体この人は何を考えているの? 私に対してどう思っているのか全然わからない。


 それにしても、よく見ると顔が整っている。サラサラの黒髪に黒い薔薇の着物がよく似合っている。


 オーラが気品溢れていて、私とは住む世界の違う住人のよう。それに白い翼だってそうだ。その姿はまるで皆が信仰している神様みたい。


「その命、捨てるには惜しい。捨てるくらいならどうだ? 俺にその命を預けてみないか?」

「えっ……?」


 そういって手の甲に優しいキスを落とした。


 最初の印象は少し顔が良い女たらしの男性だった。けれど、後に私は衝撃的な真実を知ることとなる。


 私、神無月 緋翠(ひすい)は五度目のループで運命の人と出会い、幸せになるなんて、この時の私はまだ知らない。

読んでいただき、ありがとうございます。


この小説を読んで、「面白そう!」「続きが気になる!」と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


あなたの応援でモチベが上がって、更新速度が増えるかもしれません!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ