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第七十八話 難民対策

78話に出てくるカイヨウハス・アイランドは「ワールドキングダム」登場アイテム図鑑としてnoteにアップしています。

●78.難民対策

 党本部の会議室には党三役が集まっていた。

「大イスラエルの旗印のもとにレバノン・シリア・ヨルダン・エジプトの一部に侵攻しているイスラエルをどう扱いますか」

ケリー党首として切り出していた。

「郷に従えの立場からすると、それぞれの国の施策を支持するので、当事者同士解決してくれということになりますが、互いにリスペクトがないことは確かです」

林原は特に解決策は持ち合わせていなかった。

「パレスチナの人たちは、ナチスのしたことをどう思っているのか…ドイツ人の私としては複雑な気持ちでもあります」

ベルガーは歴史を振り返るような目をしていた。

「最終的にはサウジアラビアの一部やイラクなども大イスラエル構想には含まれていますから、いくらなんでも、アメリカやサウジアラビアが黙っていないと思います」

とケリー。

「我が党が与党の特にアメリカの動きが気になるとところですね」

とベルガー。

「ユダヤ系米国民の動きを大統領がどうコントロールするかにかかっていると思います。ここはハロルド…いやウォレス氏が収監されていて良かったかもしれません」

林原は党三役という立場を意識していた。

「私も、モーガンさんも気をもんでいます」

ケリーは地球儀のアメリカを見ていた。

「それで現在、イスラエルに国境なき地球党がアプローチをかけていると総合情報局から聞いています」

と林原。

「国境を無視した侵攻は国境なき地球党に通じる点がありますが、言語や宗教においては相容れないでしょう」

ケリーはアプローチが成功しないと踏んでいた。

「名ばかりの国連は制裁決議を可決しましたが、ほとんど意味がないですから世界は我々の行動を注目していると言えますよ」

ベルガーは若干困り顔であった。

「とにかく様子を見て、特に動かないのが得策と言えますか」

ケリーはまとめようとしていた。

「宗教や長い歴史が絡む問題は根が深いですから、よそ者が軽はずみな偽善の言動をしても、双方から恨まれるだけです」

とベルガー。

「ただ一般庶民は犠牲者となり、行き場をなくします」

林原はその点が引っかかっていた。

「我々が介入して、郷に従え与党国陣営の犠牲者を出すよりはマシです」

ベルガーは仕方ないといった表情であった。

「…海外渡航の制限をし、移民や難民を極力減らすのも郷に従え党の使命ですけど、せめて受け入れる場所ぐらいは提供したいものです」

林原は続けた。

「でも、そんな場所がありますか。どこかの国に押し付けることはできないでしょう。それにイスラエル、パレスチナ双方の民衆が問題を起こすのは必至です」

ケリーは、怪訝そうな顔をしていた。

「南極はどこの国でないとしても、勝手に人を移動させることは無理ですよ」

とベルガー。

「いや、それなら、新しい土地を作れば良くないですか」

「ええ、」

「ええ、」

ベルガーとケリーは口を揃えていた。

「とりあえず、今、耕作地拡大と二酸化炭素吸収、海洋温度を下げるために使っている植物島を提供すればどうです。提供して人が住んでも機能はし続けますから」

「あの鹿島灘沖の植物人工島ですか」

ケリーは手元のタブレットPCに画像を表示させていた。

「はい。今の所、3つしかありませんが、1つを提供することはできます。それにあの島は基本的に植物なので成長し大きくなっていきます」

林原はケリーのタブレット画面を垣間見ていた。


 国会の衆議院予算委員会は本来の予算のことではないイスラエル問題で揺れていた。

「日本及び、郷に従え与党諸国は、イスラエルの周辺諸国に対する侵略を見過ごすのですか」

社共党の女性議員が吠えるように言う。

「見過ごすつもりはありません」

梶川首相は任期が長くなるにつれ、堂々としてきた。

「それでしたら、国連の制裁決議に則り、和平に向けてご自慢の自衛軍を派遣しないのですか」

「何を言っているのですか。自衛軍はあくまでも日本の存立に関わる時にのみ出動します。いたずらに

海外派遣することはありません」

「中東の周辺諸国は日本と直接かかわりがないからと見殺しにするのですか。私は認めませんけど、核保有する国としての役割を発揮する時ではないですか」

「…イギリスやフランス、中華連合の動きを注視し、慎重に見守っています」

「ほら、何もやる気がないじゃないですか。あなたはね、一国の指導者として失格です」

「それはちょっと失礼な言い方ではないですか」

梶川はムッとしていたが、傍聴席を見て一呼吸おいていた。傍聴席で変装して座っている林原は、梶川首相に野球の監督のようにブロックサインを手早く送っていた。

「結局、郷に従うとか言って、何もしないだけ。呆れたわ」

女性議員はスッキリとした表情になったが、梶川がニヤリとしたので少し表情が曇った。

「ですが、秘策があります。温暖化対策の海洋植物・カイヨウハスを使い勝手よくした改良種のカイヨウハス・アイランドを難民の避難場所として提供いたします。和平を望むイスラエル人とイスラエルに侵略された国々の難民を受け入れるつもりです。これなら、どこの国にも難民問題は起こりませんし、ここで共住することでイスラエルとパレスチナの和解が模索できるかもしれません」

梶川の発言に野党側は声が出なかった。

 翌日、林原は首相官邸に出向き、急遽、難民対策特命大臣に任命された。林原は何回かニュースなどで目にしていたカイヨウハス・アイランドだが、実際に訪れるのは初めとなる。


 ジェット推進タイプの飛行車の窓から見下ろせるカイヨウハス・アイランド3は、透き通るような水色の花弁を持つ巨樹が咲き、おとぎの国のような感じであった。林原たちはこの島を管理している事務所の近くに荒々しく着陸した。エンジンが少し不調のようだった。

 「以前にカイヨウハスを間近で見たことはありましたが、ここは人が暮らせますし、全然違いますね」

林原は事務所の窓越しに周りの畑を眺めていた。

「はい。ここは通常のカイヨウハスと違い、巨樹の株が連なり地面を作り、耕作地としても利用できるようになっています。その上で二酸化炭素も吸収しますし、海水温を下げる機能も維持されています」

カイヨウハス・アイランド3の統括マネージャーの陣内は、事務所に掲げられた島の地図を見せながら、どこか自慢げに説明していた。

「昨日、総理が申し上げたとおり、今回はパレスチナなどの難民の受け入れ先として活用することになりましたので、ここにいる日本人は退去してもらいたいのですが」

「現在全部で世田谷区と練馬区を合わせたぐらいの広さですが10名しかいないので、大型ヘリコプターが1機もあれば、すぐに完了します」

陣内はいつでもどうぞという感じであった。

「そうですか。それなら、一緒に暮らしても問題なさそうですから、希望者は残っても良いと思います」

「わかりました。それでその難民と言うのはどれくらいの数を考えているのですか」

「取りあえず10万人ぐらいは来ると思います」

「彼らの住むところはどうするのですか」

「住宅を建設する必要がありますし、インフラの整備もあります。当初は仮設住宅に住み、穀物や果樹などを育てて収入を得たり、工場を誘致して働いてもらいます」

「なるほど、ただ単に生活費をあげて、受け入れるのとは違いますね」

「このような対策をしても近場の周辺国には難民が流れ込むと思いますが、ある程度は抑えられるはずです」

「政府の方々も、野党のやり玉に挙がって、いろいろと大変でしょう」

陣内は同情的であった。

「これでは根本的な和解や解決にはなりませんが、苦しむ人々を減らすことはできます」

林原はいろいろとその先のことを構想していたが、ここでは言うつもりはなかった。

「それでは、植物島内をひととおりご案内いたしますので、あちらの車にどうぞ」

陣内は事務所の車寄せに停まっている車を手で指し示していた。


 「この車は…何で動いているのですか」

林原は乗り心地を確かめながら言っていた。

「島内で生産されるサトウキビやトウモロコシから抽出したメタノールで動いています。ですから地産地消で賄えるようことを基本としています」

ハンドルを自ら握る陣内。

「全て完結しているのが良いですね」

「それで、難民を受け入れるとしていますが、結局日本が一手に引き受けることになるのですか」

「数が増えれば日本以外の他国の海洋に浮かべているアイランドで引き受けるつもりですが、将来的には、どこのアイランドも郷に従え党の直轄地とし、どこの国にも属さない地球上の共有財産にできれば良いと思っています」

「いずれにしましても、日本本土領内で受け入れるのではないので、民族的な軋轢は起きませんね」

陣内は道路上で羽を休めている鳥を避けていた。

「はい。とにかく、イスラエルの侵攻が収まると良いのですが。話は変わりますが、このアイランド内で危険生物などはいるのですか」

林原は人を恐れない鳥を窓から見ていた。

「独特の環境ですから、島内は鳥以外はいませんが、この海域にはサメが多くなっているようです」

「海に落ちないように注意すれば良いわけですか」

「はい。そんなところです」


 「ここの株が一番最初に芽吹いたところでして、その後どんどん成長し、島内で一番標高が高い場所になっています」

陣内は車から降りて深呼吸をしていた。

「これでも海水温を下げたり、二酸化炭素を吸収するにはまだ物足りないとは、人間の影響力はなかなか良い方に転がらないわけですね」

林原は広範囲に点在する株とその間をつないでいる土地を見下ろしていた。

「カイヨウハス・アイランドの成長に期待するしかなさそうですよ」

陣内は温暖化と難民の両方のことを言っている感じであった。


 陣内が運転するメタノール車は、アイランド3の突端部の半島のような所まで来た。まだ海岸線までは、距離があったが、陣内たちは車から降りていた。

「先ほどの事務所の辺りから比べると、こちらはかなり新しい株で、土地もつながったばかりです」

陣内は双眼鏡で海岸線の辺りを観察していた。

「ということは地面の下はすぐに海ということですか」

「いえいえ。薄いとはいえ、ツタが絡まり腐葉土質の堆積物が2mほどあるので、人が歩く分には問題ありません」

「昔、メガフロートというものがありましたが、人工植物島とは隔世の感があります」

林原の言うメガフロートのことを陣内は知らない様子だった。

「あそこに、アホウドリの巣があります。近くで観察してみますか」

陣内は歩き出した。

「鳥にとっては格好の営巣地というわけですか、でも突かれたりしませんか」

「先ほどの道路に居たように何とも思ってませんよ」

「鳥がいるということは在来種の種が散らばり、ここの景色も見慣れた植物と共生するのでしょうか」

「たぶん、おとぎの世界と現実世界のミックスということになりますよ」

陣内は林原よりもかなり先に行っていた。

 「あぁ、林原さん、こちらに来ないでください」

と陣内。

「どうしました」

「地面が沈みかけています」

陣内が言っていると、アホウドリが飛び立って行った。陣内と林原の間の地面が割れ、海面が見えてくる。陣内が立っている株の辺りが切り離れて行く。

「私としたことが不用心でした」

「陣内さん、私が車からロープを持ってきますから、それで引き寄せましょう」

林原は、車に向かって走り出した。


 林原がロープを持って戻って来ると陣内の乗っている株は、30~40mぐらい離れていた。泳いで行ける距離ではあったが、サメの背びれが、ちらりと何ヶ所かで見えていた。

「陣内さん、なんとかします」

「もうしわけない」

陣内の声は風にかすれて聞こえていた。

 「佐々木、飛行車のエンジン修理は終わったか」

林原はスマホを耳に当てていた。

「今、最終チェックしていますけど、」

「陣内さんが、流されてしまったんだ。今いる地点に助けに来てほしい」

「あ、はい。わかりました。終わり次第、そちらに駆けつけます」


 陣内が乗っている株は、少しずつ沈み始め、彼の足首の辺りまで海水でピチャピチャしていた。さらに距離は100m近く離れてしまった。

 林原が苛立ちながら空を見上げていると、飛行車が上空に飛来し、ホバリングした。林原が説明するまでもなく、佐々木は飛行車を陣内の株の方に向かわせた。

 飛行車の排気による風で株が揺れ、陣内は海に落ちそうになっていた。

「佐々木、俺の所にあるロープを持って行き、上から垂らして、陣内につかまらせてくれ」

林原はスマホで呼びかけていた。

「了解しました」


 飛行車から垂らされたロープにつかまり、陣内は林原のいる所に戻ってきた。

「やはり突端部は、危ないですね。私としたことが面目ありません」

「慣れている人がこうなるのでしたら、難民のためにも、突端部は立ち入り禁止地区にしましょう」

「だいたい一週間ごとに大きくなっていくので、移動式の柵にしておきます」


 仮設住宅や給水施設が整った3週間後、郷に従え与党諸国に一時的に滞在していた中東難民たちを順次、カイヨウハス・アイランド3で受け入れていった。


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