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第六十話 大陸動乱

●60.大陸動乱

 デモの車列は成都から2日かけて夕刻西安にたどり着いた。西安の道路は成都に比べ車線数は減るが、環状道路の両車線を周回するデモ行進になっていた。また環状道路に接する放射道路にも車の洪水は押し寄せ、辺り一帯の道路は車の海という感じであった。さらに西安上空では雲霞の如く空飛ぶ車が周回し、それが月明かりに照らされ、何とも不思議な光景になっていた。成都で見たデモ行進とは違った壮観さに参加者も傍観者も魅了されていた。

 「西安では、デモが周回していますから、劉玄仁の車に遭遇する確率は高くなるのではないですか」

市原は対向車線を注視していた。

「確かにそうだな。それで市原、西安でのデモの規模はどれくらいになったのだ」

林原が言うと、市原はスマホで部下と連絡を取っていた。

「長安がこのような乗り物であふれるとは、玄宗皇帝も楊貴妃もビックリっすね」

田沢は超高層ビルの隙間からちらりと見える唐代の建物を見ていた。

「高楼も超高層ビルに変わっているからな」

「林原さん、西安での発表では1億台の電気自動車と1千万台の空飛ぶ車が参加しているとのことです」

「1億台か…、また増えたな」

「林原さん、あれに劉玄仁は乗ってませんか」

田沢が不意に叫んでいた。

「どこだ」

林原は対向車線を見ていた。

「違います。上っすよ」

「あ、あの大型の空飛ぶ車か」

林原はプロペラではなく、小型ジェットエンジン4基を搭載し、飛行している大型飛行車を目にした。

「はい」

「お、あれか。あれこそSF映画などに出てくる未来の空飛ぶ車の姿だな。劉郭林汽車にはあのようなモデルもあるのか」

「周囲の空飛ぶ車が時代遅れというか、ヘリコプターにしか見えないですね」

市原も上空を見上げていた。

「たぶんあれに乗っているだろう。何とかして会ってみたいな」

「林原さん、あれは図体の割にはかなり機敏に動きますね。大雁塔の辺りに着地するようです」

市原はその操縦性能にも驚いていた。

「あれだと、ミサイルやロケットランチャーでも落とせないだろう。軍事的な脅威になるが、反共産党勢力だから救われるな」

「どうします。大雁塔に行きますか」

「行きたいが、車列から離脱できるか」

「なんとかします」

市原はそう言うと、ミニバンを右の車線をへと移動させようとした。

「急病です。右に行かせてください」

協力する助手席の田沢が道を空けるようにスマホ片手に叫んでいた。周りの車はしぶしぶだが、道を空けてくれていた。田沢の大声とクラクション、急ブレーキを繰り返しながらミニバンはインターチェンジの出口分岐路の路側帯に寄せて行き停車させた。

 「あそこにある高架脚のメンテナンス用ハシゴを下りて行こう」

林原はミニバンを下りると道路の端を見ていた。田沢ら他のクルーたちも最低限の取材機材を持って林原の後に続いた。


 林原たちは、大雁塔を目指して街中を歩いていくが、近づくにつれて人口密度が高くなる感じであった。大雁塔南広場には、10万人ぐらいは居そうな黒山の人だかりになっていた。しかし大雁塔の前に大型飛行車は着地しているものの、劉玄仁らしき人物は見当たらなかった。

 林原は周りの人々をかき分けて大雁塔に向かっていた。林原たちは広場を半分以上進んだ所で爆発音がし、集った人々が騒然とした。ちょうど林原たちの近くの若者のグループが景気づけに爆竹を鳴らしていた。すぐに警察の監視ドローンが飛来し、林原たちの上空でホバリングした。

「そこで、何をしている」

ドローンから警官の声がしていた。

「デモを盛り上げています。ヘイヘイ」

「自由万歳」

若者たちは陽気に騒いでいた。林原の周囲はこの若者たちが踊り出し、何かのイベント会場のようになっていた。人々が押し合いへし合い入り乱れ、林原たちは翻弄されて動けなくなっていた。

 数分経っても盛り上がりは収まらないどころか、より盛り上がってきた。すると今度は空飛ぶバイクが飛来し林原たちの上空でホバリングした。小型ジェットエンジンが2基付いたSF映画に出てきそうなフォルムのバイクに跨った男が、ヘルメットのシールド開けて下を見ている。

「…林原さんじゃないですか」

男はバイクのスピーカーを介して中国語で言っているものの、林原のスマホが自動的に訳していた。

「そのスマホが反応するということは、過去に登録している人物じゃないっすか」

「そうだな。だとすると…劉志強か」

林原は上を仰ぎ見ていた。人だかりにぽっかりと隙間が空き、空飛ぶバイクは砂埃を舞い上げながら下りてきた。

 「林原さん、久しぶりです」 

男はヘルメットを脱いでいた。

「あなたは、劉志強さんですか」

林原はスマホの対話相手表示が劉志強となっているのを確認していた。

「はい、そうですよ。なんでこんな所にいるんですか」

「このデモに興味がありまして、取材に来ました」

「総理は辞めたのですか」

「そんなところです」

「共産党の旗色が悪くなったので、オヤジと共にこれを始めました」

「あぁ、この長征ですね」

「長征。そんなつもりではなかったですが」

「いや、これに参加している人民は現代版長征と言ってますよ」

「まぁ取材なら、とにかくオヤジに会ってください」

劉志強はバイクの後部座席に林原を座らせようとしていた。


 バイクが垂直上昇する。

「オヤジさんの会社は環境に配慮したEVばかりでなく、燃焼させるエンジンものも作っていたのか」

後部座席の林原は初めての乗車感覚に魅了されていた。

「このバイクは水素ジェットエンジンなので排気は水蒸気ですよ」

劉志強は平然と言っていた。

「そうなのか。日本の企業とコラボしたいな」

林原は共産党でない中国の企業なら欧米ばかりでなく提携も必要だと感じた。


 空飛ぶバイクは大雁塔の最上階の窓に横付けしてホバリングしていた。林原は最上階に入って行った。中には古式ゆかしい造りの朱塗りのテーブルと玉座のような椅子が置かれていた。劉玄仁は玉座のような椅子に座り、林原の方を凝視していた。側近たちも誰だと言う顔で林原を見ていた。

「オヤジ、この人が林原さんで、取材に来たそうです」

劉志強は林原の隣に立っていた。

「ん、そうなのか。息子が以前お世話になったようだが、」

「林原征志郎と申します。外は物凄い熱気ですよ。この長征デモについていろいろとお聞かせください」

「長征デモとな。共産党に反旗を翻しているのに面白いことを言うな。まぁ、ここに来て座りたまえ」

「ここの参加者たちは現代版の長征とも言ってます」

「そうか」

劉玄仁は軽く微笑んでいるが目は厳しいままであった。

 「劉さん、このデモを始めたきっかけは何ですか」

林原は手短に切り出した。

「長沙市の役人が工場移転を免れるように便宜をはかるから賄賂を寄こせと言ったのでその通りにしたのだが、結局、省の役人が来て、工場移転を余儀なくされてしまった」

「賄賂は拒まず、払ってしまったのですか」

「世の中はカネで動くからな。それなのに役人は便宜を図らなかった。こんなことがまかり通るのはおかしいので、デモによる抗議をしたのだ」

「根本的に賄賂がまかり通るのもどうかと思いますが」

「それはあんたら日本の理屈だろう。とにかく経済を上手く回らせない共産党政府の横暴を改めさせるための運動でもある」

「志強さんの仕打ちも酷かったようですからね」

「あれは利用されただけだからな。しかしこのデモがこんなに盛り上がるとは思っても見なかった。共産党のエリートでもないわしが、こんなに人民を率いることができるとは驚きだ」

「それは劉玄仁さんの人間的な魅力があるからではないでしょうか」

林原は軽く煽てて見て反応を見ていた。

「引き返せないところまで来てしまった気がする」

「この先、どうするつもりですか」

「正直言ってわからないのだ。これが天命かどうかもな」

「私も当初は軽い気持ちで郷に従え党を立ち上げたのですが、周囲に乗せられ徐々に大きくなるに従い、本格的に世界を変えたいと言う気持ちになり、今に至っています。あなたと同じにここまで来るとは思っていませんでした」

「わしの気持ちがわかるのか」

劉玄仁は林原を見る目に親しみが宿ったようだった。

「はい」

「オヤジ、林原さんと今後についてざっくばらんに話したらどうだ」

志強が割って入ってきた。

「…側近の助言で芝居がかった演出しようと大雁塔に入ったは良いが、この先どうしたら良いか思案していた所に林原さんが現れた。これも天命かな」

「天命かどうかはわかりませんが、ここまで来たらこのデモは長征になぞらえられているので、最終地点は延安にしたらどうでしょうか。それなりの意味を持たせることができます」

「延安まで行けるかな」

「行けますよ。1億1千万台の乗り物によるデモ行進を誰も止められませんから」

「その発表は多少大袈裟だったと思うがな」

「1千万台の誤差があっても1億台はあります。それで延安に着いたら、ヨーロッパ連合のような中華連合構想をSNSなどぶち上げたらどうですか。これは台湾や香港の人が理想としている中華社会です」

「共産党の支配ではないのか」

「自由や民主主義、多様性などがあり一党支配ではなく、様々な党が合法的に存在し議会を構成します」

「これなら欧米も仲間として受け入れやすくなります」

「EUのような中華連合か…」

劉玄仁はイメージがまだ描けていない感じであった。

「連合を構成するそれぞれの独立国は国内のルールに従い、他をリスペクトする。そして人の行き来は自由にする。これなら台湾の人もチベットの人も納得できるのではないでしょうか」

「こんな大それたことは一人ではできないだろう」

「これに賛同している中華の民は大勢いますし、既に各地で活動しています。共産党の旗色が悪くなった今がチャンスとも言えます」

「それは日本や欧米が中国を解体するための手法ではないのか」

劉玄仁は渋い顔をしていた。

「元々この発想は台湾のものでして、武力に寄らない穏健な祖国統一の一つの案でした。解体とは違います。これにより各地域の独立を抑え込む経費はなくなり、その分を経済活動に回せるので経済は上向くはずです。その上、人や物資の行き来、通貨は今まで通りです」

「自由な経済活動ができるわけか」

「政体的には、連合議会があり大統領がいても良いでしょう。共産党がやりかけた武力統一を平和的にできたりします」

「CEO、中国の歴史に劉玄仁の名が刻まれることもありますよ」

側近の一人が微笑んでいた。

「うたかたの経済発展を揺るぎないものにすれば、劉郭林汽車集団は宇宙にも市場を拡大できるな」

劉玄仁は志強を見てからしっかりと前を見据えていた。


 大雁塔からミニバンに戻った林原。

「劉玄仁と言う人物はどうでしたか」

市原は林原が後部座席に座るとすぐに聞いてきた。

「わかり合えた気がするし、中国史に名を残す男になるように説得しておいたよ」

「林原さん、凄いっすね」

「それで次の行先はどこですか」

市原はミニバンの電源をオンにしていた。

「延安だ。しかし車列が動き出すにはまだ時間がかかるぞ。1億台はの大移動だからな」

林原が窓の外を見ると、道路上ではまだ麻雀卓を囲んでいる家族連れがいた。


 長征デモの車列は1日かけて延安に入った。林原は特別に劉親子や一番の側近が乗る大型EV車に乗車が許されていた。

「共産党の革命の聖地にこのデモがやって来られるとは、なんとも時代の変化を象徴することになりますな」

劉玄仁は噛み締めるように言っていた。

「今まで様子を見ていた人民たちも、これで一気にあなた方に味方するでしょう」

「延安の街も私の知っている頃に比べて、だいぶ近代化されていますな。電柱一つありませんから」

劉玄仁は大通りの歩道にある共同溝のメンテナンス口やマンホールを見ていた。メンテナンス用の出入り口は広めで作業用の車両も通過できそうであった。

「自動化された車両やロボットでメンテナンスをするのでしょう。こんなのは日本にはないですよ」

林原は整備されている大通りを羨ましそうに見ていた。

「オヤジ、あれを見てくれ。聖地なのにこのざまだよ」

劉志強は歩道の共産党打倒!の幟旗を目にしていた。

「ここは延安だろう。変わるものだな」

劉玄仁は感心していた。

「しかし劉さん、革命の聖地にやすやすと入られて、あなたに演説などされたら面目丸潰れになりますから注意は必要です」

林原は浮かれかけている劉親子に釘をさすつもりだったが、自分も気が緩みかけていた。

「だから延安市内は飛行車でなく地上車に乗り換えたけど、この感じだと、杞憂に終わりそうですよ」

劉志強は笑みがこぼれていた。


 劉親子が乗る大型EV車が文化公園のそばの大通りにさしかかった所、突然爆発が起こった。車列前方の車両が吹き飛び宙を舞っていた。落下してきた車が下の車に激突しさら爆発炎上していた。それとほぼ同時に共同溝のメンテナンス用の出入り口が開き、装甲車やロボット兵士が現れた。ミサイルが飛来し、空飛ぶ車も4台撃墜されていた。炎と悲鳴で辺りは騒然とした。

 「劉さん、私の進言がまずかったぁ、」

林原は真っ青な顔になっていた。

「あなたに責任はない。私たちも同意したではないか。これも天命」

劉玄仁は穏やかに言っていた。

「それでも延安は革命の聖地です。彼らが躍起になって潰しにかかるのは目に見えてました」

林原はロボット兵士に守られながら自動小銃を構えた人間の兵士が、大型EV車に近づいて来るのを成す術もなく見ていた。林原は言葉の行き違いが命取りになりかねないと思い、スマホの通訳機能を初対面でも対応できるようにしておいた。声色や口調はジャストフィットしたものにはならないが、誤解が生じない訳語になる。


 襲撃部隊長は大型EV車に入ると、まず劉玄仁と劉志強の顔に顔識別センサー端末を向ける。端末は即座に反応し本人確認が完了した。

「劉玄仁、劉志強を国家反逆罪、国家転覆罪、共産党侮辱罪など以下108の重大犯罪の首謀者として拘束する」

部隊長が言うと、部下たちが劉親子に手錠をかけていた。林原のスマホはAIの判断で一般的な男性の強圧的な声で訳していた。

 続いて林原や側近たちも顔識別センサー端末を向けられていた。しかし林原の顔は中国人としては認識されなかった。部隊長は林原のスマホを見てから、モードを何回か切り替えてセンサーを向けていた。

「おぉ、これはこれは日本人の林原征志郎ではありませんか。反中国言動が目に余り入国禁止となっていたはずですが、こんな所に居たとは運が尽きましたか。かつての抗日拠点の延安で憎き日本人を拘束できるとは運命的だ。さてどうしたものか。その場で射殺するには、あまりにもったい」

部隊長は陰険な顔をして、林原に手錠をかけていた。

 15分程で中国軍のZ20中型汎用ヘリコプター4機が現場に着陸した。

林原は劉親子、一番の側近と同じヘリコプターに乗せられた。田沢たちは欧米のマスコミ関係者とともに拘束され別のヘリコプターに乗せられていた。トップを失ったデモの参加者たちは、統率を失い混乱し始めていた。

 中国人の雇われ運転手を装った張と郭は、拘束を免れていた。

「このデモの連中は放っと置けば、延安の街に繰り出して暴徒と化すだろう。そうなってはデモ参加者のイメージを悪くするからなんとかしないと」

張はヘリコプター4機が飛び去って行くのを見えなくなるまで見送っていた。

「我々百団が今まで大陸でしてきたが無になりかねませんね」

郭は無念そうにしていた。

「とにかく留まっているよりも動こう」

「しかしどこに向かいますか」

「ヘリコプターの行先はどこだろう」

「あ、それなら市原さんのスマホのGPSで追跡できます」

「そうか…これだと、とりあえず山西省の方向だな」

張は自分のスマホで検索していた。

「太原ですよ。あそこなら人民高級法廷がありますから」

「郭、頭が冴えているじゃないか」

張は日本にいる頼に顔向けができると感じていた。


 「こうなったら、我々で劉親子を解放させるためにヘリコプターを追いましょう」

張はミニバンの屋根に上り叫んでいると、近くのデモ参加者がスマホのカメラを向けてライブ配信し始めた。

「しかし行先はわかるのですか」

カメラを向けている男が言った。

「連れ去られた者にはGPS発信信号があります。これによるとだふん人民高級法廷のある太原です」

「不当な裁判を許してはなりません」

郭は煽る様に言っていた。

「皆さん、ここで止まっているわけには行きません。劉親子を解放するために太原に行きましょう」

張が言うと、デモ参加者の車列から所々で歓声が上がっていた。これでデモ参加者たちが暴徒と化すのは防げた。


第六十話に出てくる大型飛行車を描いてみました。ワールドキングダムの登場アイテム図鑑として、noteにアップしています。

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