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第二十三話 強力な味方

●23.強力な味方

 「ケリーさん、国連でのロビー活動は順調ですか」

林原は幹事長室でスマホを耳にしていた。

「モーガンさんたちの力を借りて、少しずつというところでしょうか。それで今回電話したのは、ハロルド・ウォレス氏が国連に愛想が尽きたとSNSにつぶやいたことです」

GARB(グレート・アメリカ・リボーン)を掲げる、あのハロルド・ウォレス次期大統領候補がですか。でも良くあることではないですか」

「そこで新秩序とか組織改革について言及しているのです。モーガンさんのツテで会えるように手配したら、会ってもらえますか」

「国会が閉会中なら、それはもうもちろんです。兼ねてから新たな国際組織となる新国連という考えを温めてきましたから、有意義な話ができそうです」


 ハロルド・ウォレスの邸宅はヴァージニア州リッチモンド郊外にあった。運転席のケリーは、邸宅ゲートの手前でセキュリティー・ガード要員に許可パスを見せる。このゲートからは木々に覆われた敷地内の建物は何一つ見えなかった。

 セキュリティー・ガードが許可パスを返すとすぐに高さがある重々しい門が開いた。車は敷地内の道路を進んで行った。

 「ここはかなり広いですね」

助手席の林原は通り過ぎていく木立を眺めていた。

「東京ドーム20コ分の広さがあると聞いていますが、ウォレス氏クラスの人にとっては広くない気がします」

ケリーの運転する車は敷地内を流れる小川の橋を渡り始めていた。

 しばらく進むと芝生が敷き詰められた場所に建つコロニアル風の鉄筋コンクリートの4階建てが見えてきた。邸宅の車寄せには白手袋をしたボーイが立っていた。車のドアが開けられ、林原、ケリー、木本が下車した。


 林原たちは邸宅とは別棟の離れに案内され、そこの応接室でハロルド・ウォレスを来るのを待っていた。応接室の窓からはきれいに整備された日本庭園が見えていた。

 日本庭園を手入れしていた庭師が応接室の掃き出し窓から入ってきた。帽子を取るとウォレスであった。手短に挨拶を済ませると、ウォレスは庭の自慢話を始め、林原たちと和んできた。


 林原のスマホがかなり詳細なニュアンスまで訳せるように設定されたので、林原とウォレスはほぼさしで話ができるようになっていた。一応、秘書の木本とケリーは少し離れた所で控えていた。

 「なるほど、庭園の奥の木々で外の景色を隠して遠くの山を借景とするのですか。でもここには風情のある山は見えないし、近くの道路も建物も全く見えませんから」

ウォレスは渋い声ではしゃぐように言っていた。

「その土地にあった日本庭園があっても良いのではないですか。まさに郷に従えですから」

「あぁ、そうそう。『郷に従え』党の林原さん、本題に入りますか」

ウォレスはじっくりと林原の目を射貫くように見ていた。


 「ロシアに対する制裁しかり、北朝鮮に対する制裁しかりで、結局の所、何の役にも立ってません。それに弱腰の日本にはいろいろと口出しします」

「うむ、私としてはアメリカの立場もあるので、パレスチナ問題などは国連の言いなりにはなれない面がある。それをダブルスタンダードだと揶揄するのは我慢できん」

「ウォレスさんのお気持ちはよくわかります。それでグルーバルな視点に立った国家に限らず地域を含めた政府の連合体を作ったらどうかと思います。名付けてグローバル政府連合UGGというものをです」

「UGG…、面白いじゃないか」

「中国とロシアの代わりに日本とドイツが入った日独米英仏台印が常任理事国という組織建てにしたらどうかと」

「中露に乗っ取られた国連よりはマシだな」

「国家の連合とすると台湾が含めにくくなりますので、地域とも連合する形で政府の連合としています」

「今の国連は腐敗が激しく、あまり機能していない。世界のために退場して欲しいのは確かだ」

「私もそれは薄々感じています。改革するよりは新しい組織にする方が良い気がします」

「君もそう思うか。話が合いますな。セイシロー。セイシローって呼んで良いかな。私の事はハロルドで構わんぞ」

ウォレスは笑みを浮かべていた。

「80年以上前の古い組織を改革するより合理的ではないでしょうか」

「グローバル政府連合UGGか…、アメリカがリーダーシップを取りやすそうだな、いやこれは失礼、日本も言いたいことが言えるのではないか」

「はい。GARB(グレート・アメリカ・リボーン)にも対応しますし、それぞれが郷に従う形で尊重されます」

林原はウォレスの本音を警戒しつつも、ニコやかに応じていた。

「セイシローたちがまだ与党でないのは残念だが、いずれ首相になってくれ」

「ハロルドもまだ大統領候補ですけど」

「ハァハァ、セイシロー、よき友を得た気がするぞ。ところで君はテニスかビリヤードはするのかね」

「テニスもやりますが、ビリヤードの方が好きです」

「そうか。それではビリヤード外交と行くかね。本館の2階のビリヤード室に来てくれ」

ウォレスはすっかり打ち解けた様子であった。木本とケリーは全く出番がないので、ビリヤード室には行かず、広々としたアイランド・キッチンに行き、ウォレスの妻の作る出来立てのアップルパイを食べることになった。


 「セイシロー、結構やるではないか。次は私が決める番だな」 

ウォレスは玉を次々に落として行った。風のようにウォレスの秘書がビリヤード室に入ってきて、スマホを渡していた。ウォレスはキューを脇に置いてスマホを耳に当てていた。

 「シムズの会社のロボットを実戦投入するから見に来ないかと言ってきた。彼に紹介することも兼ねて君も行くかね」

「シムズ氏には何回かお会いしたことがありますし、興味はあるのですが…、ロボットの実戦配備となると機密事項ではないのですか」

「気にするな。…そうか初対面でないのか。それに私の大事な友人だから、なおさら大丈夫だ」


 林原たちは邸宅のヘリポートに来たヘリコプターに乗って、ペンシルベニア州フィラデルフィアにあるフレンド・ロボット社のヘッドオフィスに行った。


 ロボット操作室には、軍関係者やフレンドロボット社の担当者などが詰めかけていた。シムズは軍関係者に技術的なことを説明し、軍関係者と和やかに話していた。

「ここから遠隔操作でベネズエラのロボットに作戦を実行させるのですか」

林原は室内に並ぶ各種のモニターやスイッチが並ぶ操作盤を見てあっ気に取られていた。

「セイシロー、そうでもない。聞くところによると、ロボットにはAIが搭載されているから、自分で判断して任務を遂行するそうだ」

「それじゃ、操作員は不測の事態が起きない限り、監視しているだけなのですか」

「いいえ、林原さん、現地には人間の兵士一人と人型ロボット3体と四足歩行型ロボットが2体が派遣され、これらで特別小隊を構成しています。ですから、ここからの遠隔操作するだけでなく、現場と双方のチームワークで作戦を遂行します」

フレンドロボット社のチーフディレクターのクラークが割って入り説明してきた。軍関係者は満足そうにロボットから送られてくる映像を見ていた。

「このような小隊は世界で初めてではないですか」

「今回は3回目の実地試験という形の現場投入になります」

クラークはちょっと自慢げであった。

「しかし、どんな作戦か知りませんが、失敗したり捕まったらどうするのですか」

「今回は親米の反政府勢力の幹部救出ですが、失敗した場合、ロボットは徹底的に人間の兵士をカバーし逃げさせ、自爆するようになっています」

「あぁ、そうなんですか」

林原は本当の最後は人間の兵士とともに自爆することもあるのではないかと感じていた。


 「ヒューマン1、動作確認オールクリア」

人型ロボットを操作するオペレーターが確認していた。ロボット操作室のモニター・ヒューマン1にはロボットの目からの映像が映し出された。

「ヒューマン2、ヒューマン3、動作確認オールクリア」

「ドック1、ドック2、動作確認オールクリア」

それぞれモニター画面に映像が映し出されていた。

「こちらテイラー准尉、ヘッドセットカメラ・オン」

テイラーの声とともにメインモニター画面に走行中の運転席からの映像が映った。

「テイラー准尉、護送車の襲撃地点までは後15分だ」

クラークが総指揮を執っていた。サブモニターにある地図上の赤い点と青い点が少しずつ近づいて行った。

 「あぁぁ、信号が赤になってしまった」

テイラー准尉のカメラ映像を見ていたウォレスはちょっと残念そうにしていた。

「ウォレスさん、問題ありません。護送車の方も、あっちの交差点で停止しています」

クラークは静かに言った。林原はだんだん緊迫感が高まるのを感じていた。


 テイラー准尉が運転するミニバンが3台で連なって走る真ん中の護送車に突っ込んで行った。いきなりわき道から頑丈なバンパーを装備したミニバンが飛び出して来たので、ひとたまりもなく激突して横倒しになりかけたが、持ちこたえて横滑りしていた。テイラー准尉は運転席から飛び出て、護送車の扉に駆け寄る。前後の警護の車から、警官たちが発砲してきた。ヒューマン1、2、3が、テイラー准尉を取り囲みながら、発砲して応戦していた。人型ロボットのボディに弾丸が当たる金属音がする。四足歩行で背中に自動小銃をつけたドック1が前方に向かい、ドック2が後方に向かって行った。激しい弾幕が張られる中、テイラーは護送車の中に入った。

 メインモニターにはテイラーが中を見回す映像が流れている。鎖でつながれ男に四角い赤枠が点灯し、その脇にカルロス・ゴンザレスと表示された。しかし男の両脇には、銃を構えた警官が二人いた。先に2発撃たれたが、防弾チョッキに当たるだけであった。丸い照準枠が警官たちを次々に捉え、発砲音と共に倒した。テイラーは、鎖を小銃で撃って切り離した。

 「こ、これは、まるでゲームのようじゃないですか」

この光景をメインモニターの映像で見ていた林原は思わず声で出てしまった。

「今後、これが標準的な戦闘になるだろう。人間の兵士は面倒な様々な手当や権利があるからな」

ウォレスは無邪気にロボット兵士や兵器を歓迎していた。

 テイラー准尉が護送車から外に出ると警官が5人倒れ、ヒューマン3とドック1が作動不能になっていた。まだ散発的に銃声がしていた。テイラー准尉のヘルメットを流れ弾がかすめて行った。

 「テイラー准尉、まもなく、救援車が着陸します。弾幕を張ってください」

オペレーターが、言うとサブモニターの地図上で緑色の点が急接近してきた。

 上下反転型のプロペラを4つけた空飛ぶ車が上空でホバリングした。ヒューマン1、2、ドック2が、やたらに発砲し出した。さらに作動不能のヒューマン3とドック1が爆発して黒煙を上げた。その隙に救援車は着陸する。テイラー准尉はゴンザレスの手を引っ張り車に乗り込み、すぐに上昇した。救援車に警官の銃弾が1発当たったがキャノピーの強化プラスチックにひび割れを作っただけで済んだ。安全な高度まで救援車が上がると、ヒューマン1、2、ドック2は、それぞれ別々の方向に猛スピードで走り去っていった。


 ロボット操作室では歓声が上がっていた。クラーク、シムズ、ウォレスたちは握手していた。林原もオぺレーターたち共に喜んでいた。林原はゲームのような戦闘体験をして、比較的安易に戦闘ができることに、便利なツールになると共に警戒感も抱いていた。


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