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第二十二話 党是

●22.党是

 『郷に従え』党本部の選挙対策室の壁には、立候補者10名の名前が書かれたボードが掲げられていた。既に林原征志朗と柿沢美咲の上には赤いバラが付けられていた。対策室のデスクには、林原、ベルガー、ケリーが座っており、木本、春奈、田沢が各選挙区からの速報を逐一知らせていた。

 「倉田愛美、当選確実です。田中信高、当選確実です」

田沢が元気よく伝えていた。

「石川隆太、及ばず落選です」

春奈は残念そうにしていた。

「林原さんは、また国会議員との二足のわらじになるので忙しくなりますよ」

「え、ベルガーさん、今年はベルガーさんが党首なんですけど」

「あ、そうでした。党の方は私がまとめますから、国会議員を頑張ってください」

ベルガーは軽く頭を掻いていた。

「ベルガー党首、矢部翔一氏、当選しました」

ケリーがベルガーに向かって言って微笑んでいた。

「細野すみれ、残念ながら落選です」

木本が小さめの声で伝えていた。

「あと、3人か、どうなるだろう。AIやSNSの効果があったのかな」

林原はボードを眺めていた。

「梶川 漣氏、有村一三氏、及びませんでした」

田沢が言い放っていた。

「吉村雅代、当選確実です」

林原は連絡を受けたスマホをゆっくりとデスクに置いていた。ボード上の名前6ヶ所に赤いバラが付けられていた。

「党首、副党首、これで衆議院には6人を送り出すことができます」

林原はベルガーとケリーに向かって言っていた。

「これも幹事長のおかげではないですか」

ベルガーは林原を役職で呼んで応えていた。3人で握手しようとしたが、林原が木本、春奈、田沢を呼んで、6人で手をつなぎ、手を挙げて喜んでいた。 

 

 2階にある選挙対策室の窓から下を見ると、党本部のエントランス付近にテレビ局や新聞などのマスコミが、押しかけていた。

「ベルガーさん、党首として対応をお願いしますよ」

「林原さん、ズルいなぁ、ちょうど良いタイミングで交代となりましたね。わかりました。引き受けましょう」

ベルガーはドンと胸を叩いて、階段を降りて行った。

 この日から、テレビやネットに党の顔として出演するベルガー。流暢な日本語を駆使して、郷に従えと説く姿が評判になった。便乗した国会の売店では『ベルガーちゃんサブレ』が売られたりもしていた。


 数日後、与党自公党との協議に幹事長として出席する林原。衆議院本館の一室に呼ばれていた。

「我々は郷に入れば郷に従えのスタンスを取っていますので、日本に相応しい憲法がしかるべきだと思っています」

「具体的にどこの改正に協力してくれるのですかな」

自公党の重鎮の長原は威厳に満ちた顔であった。

「とにかく他国が恣意的に掲げた文言の改正には賛成ですから、特に憲法9条の改正は自公党と一致するところです」

「それは良かった。憲法改正の国民投票に弾みがつきますな。他にも一致することがあるのでしたら、連立を組むことも可能ですが、どうでしょう」

「ありがたいお話ですが、連立はまだ早い気がします。また一致する点でも無条件に賛成というわけにも行きませんので、政策協力という形が望ましいと思います」

林原は長原の老獪さに根っからの政治屋の重みを感じていた。

「まぁ、良いでしょう。いずれにしましても、自公党長年の憲法改正にこぎ着けられるのですから」

長原は立ち上がり林原に握手してきた。


 衆院選後、二回目の国会が明日に迫っていた。『郷に従え』党本部も何となく慌ただしくなっていた。

「ベルガーさん、いよいよです。憲法改正の是非を問う国民投票をどのようにやるかを詰める時が来ました。我々は6人しかいませんが、少数与党には頼みの綱の一つとして存在感が発揮できます」

「私は今までのいきさつは資料で知りましたが、ドイツでは憲法、つまり基本法ですが、戦後何回も改正してきましたから、かなり奇異に感じてました」

「そうでしょうね。これが日本なんですよ」

林原は若干ため息交じりであった。

「テレビのワイドショーでは、この国会での憲法改正国民投票のことを各局で取り上げていますけど、ちょっと見てみますか」

ベルガーが党首室のテレビをつけた。

 「9条があったからこそ、日本は今まで戦争に巻き込まれなかったのに、改正とはどういうつもりですかね」

ワイドショーの女性コメンテーターが金切声を上げていた

「私はもはや時代遅れの憲法に縛られている場合ではないと思います」

民間の政策研究所長のコメンテーターが、冷静に述べていた。

 「この局は極端な逆張りをして視聴率を稼ごうとしている感はありませんね」

林原はテレビのリモコンを手にしてチャンネルを変えていた。

「私が先日出た、討論番組では、我々を極右政党と罵っていた論客がいましたよ」

ベルガーは軽く笑っていた。

「それって、誰でしたっけ、」

「元モデルのカスミとかいう女性でしたが、あんな何もわかっていない人物を討論番組に出すとは、番組も知れたものです」

ベルガーが言っていると急ぎ足のケリーが週刊・俊文を持って入ってきた。

「これ見てください。自公党の長原氏が支援団体の情報をもとにインサイダー取引が発覚とあります」

ケリーの言葉はスマホを介しているが、憤りの感情がこもっている感じがあった。

「…本当かな。こんな大事な時期に…」

ベルガーは週刊誌をペラペラとめくっていた。

「与党は当初は庇うだろうが、いずれ庇い切れず長原氏の議員辞職に発展するな。憲法改正どころじゃない。これだからいつまで経ったも議論が進まない。誰かが画策しているとしか思えない」

林原は吐き捨てるように言っていた。その後、国会では長原氏の議員辞職のことで与野党が揉めて、憲法改正など、誰も考えなくなっていた。


 「ベルガーさんを引っ張り出して、外国人参政権を認めようとしている連中を、このワイドショー出演でギャフンと言わせてください」

林原はオンエアが始まる寸前までベルガーの席の横にいた。

「もちろんです。そんなことに利用されるなんて心外ですから」

「まもなく本番です。林原さん、はけてください」

番組のディレクターが呼びかけてきた。


 「私はグルーバル政党としての党首であり、日本の政治に参加するつもりは全くありません。日本での政治活動は林原氏に一任していますから」

「そうなんですか。でも、あなたは人気がありますし、外国人の参政権を認めようとしている動きもあるのですがどうですか」

司会者は番組の意図する筋書きに沿って聞いてきた。

「郷に従えの立場からすると言語道断だと思っています。日本の政治は日本国籍で愛国心がある人に任せるべきです。投票したり、ましてや立候補など国を乗っ取るつもりなのかと勘繰りたくなります」

ベルガーがキッパリと言い放つと、左派系のコメンテーターはあ然として黙ってしまった。

「国政を担う国会議員ですから、君が代が暗唱でき、初登院する際は日章旗にキスをしたり、主権の及ぶ範囲を明確に言えるようにすると良いでしょう。こうすることで少なくとも反日的な考えの人にとってはかなり屈辱的になるので、排除しやすくなります」

「あのぉベルガーさん、ちょっときつい感じですね」

司会者はベルガーの言葉をソフトにしてもらおうとしていた。

「ドイツでは外国人や移民の流入で、かなり政治に混乱が見られます。日本にはそのようになって欲しくないと…」

「あのぉ、ベルガーさん、ドイツのことはまたこの次の機会に、お願いします」

司会者はうっすらと汗をかいて番組を進行させていた。生放送の番組はテレビ局の意図するものが全面的にぶち壊れてしまったので、気まずい雰囲気のまま終了していた。


 『郷に従え』党の会議室で国会議員5人の前に立つ林原。

「皆さんには、意に反することに利用されたり、失言などの不祥事には充分注意してもらいたい。特にカネや異性、名誉などで誘ってくる者には全て疑いの目が必要です」

林原の言葉にそれぞれが深くうなづいていた。

「我々は他の議員とは一線を画した存在でありたいものです」

今回当選した中で一番若い矢部が応えていた。

「現在の日本の政治には大計も信念もない。議員は出世や利権、当選のことしか頭にないのでしょう。マスコミは東アジアの反日勢力と呼応する面が非常に強い。これでは良くなるわけがない」

「林原さん、何か決め手となる策はありますでしょうか」

今回当選した一番年上の吉村が静かに言ってきた。

「決め手になるかどうかわかりませんが、日本を再度発展させるためには、国内の力ではどうすることもできないでしょう。変革するには国外の力が必要かもしれません」

林原は5人の驚く顔を眺めていた。

「国外というと、郷に従えとは反する気がしますけど」

「日本をリスペクトした国外の力です。日本の政治的なしきたりが陳腐なものになっている場合、このような荒療治が必要と言えます。米中G7、国連、国際団体に改革を迫られたとすれば、日本の政治家は従うはずです」

「時には外国の言いなりになることも必要なのですか」

今回当選した地方ラジオDJ歴が長い田中はちょっと不服そうであった。

「そこはちょっと違います。この米中G7などに『郷に従え』党の影響を強め、その意向を反映させるのです。郷の内にある我々の主張を代弁させるだけです。こうすることで利権にしがみつく官僚などが説得でき、日本はより良い方向に導けるはずです」

「そう言うことでしたか」

田中は目から鱗が落ちるといった表情であった。

「もっとも国連や国際団体は理不尽な要求を突きつけるのが常ですから、そこを変えるのは難関でしょうが、そこから始めるしかないようてす」

林原は遠い目をしていた。

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