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12 . 僕は透明人間さ

「ちょっと失礼」


 白いモヤの男はそう言うと、ベッドに横たわる肉体から足を引き抜くようにして立ち上がった。


 ピンタックの入った優雅なチュニックブラウスを腰のあたりでベルトで留めている。下にはシンプルな形のショースを合わせていた。長身のゲロルトと並んでも引けをとらないほど背が高い。


「これは驚いた」


 白狼がそう(つぶや)くので、キャタリーは自分が夢や幻を見ているわけではないのだとわかった。


「おや、そちらの方は人狼ですね。これは気づかず申し訳ない。

 はじめまして、若き魔女のお嬢さん、そして聡明な狼の方、私はウィリアム・フラと申します。訳あってこのような姿でのご挨拶となること、ご容赦ください」


 そう言ってうやうやしく礼をする。


「それじゃあなたが、ゲロルトの言っていた恩人? でもこの姿は」

 もう死んでいるんじゃないか、と口にだすのはさすがに気が引けた。


「一応、肉体の方もまだ生きていますよ。だいぶ痩せましたが」


 笑いながらウィリアムが答える。


「なにせ、飲まず食わずなもので。そのうち今と同じくらい体が軽くなったりして」


「笑い事なのかしら」


 キャタリーは戸惑う。


「ずいぶん愉快な人柄のようだな」


 白狼は面白がっているようだ。


 ギュンターがいぶかしむように声を上げた。


「おい、さっきから何を二人でしゃべってるんだ?」


 キャタリーと白狼は振り返った。

 ちょうどそこへ、ゲロルトがランプを持って上がってくる。


「ん? なんだ?」


「こいつら、二人で何もないところに向かって喋ってんだよ。気味が悪いぜ」


 ギュンターががゲロルトに説明する。


「寂しいことに、彼らには私の姿が見えないのですよ」


 ウィリアムがそう言って、ギュンターとゲロルトの間に立ち、二人の肩に腕を回した。

 二人はそれに気づく様子もなく、自分たちを見つめるキャタリーと白狼を見つめ返している。


「あなたたちの真ん中に、ウィリアムって名乗る男性の幽霊が立ってるの」


 キャタリーが説明してやる。


「ふたりの肩に手を乗せているわ」


「はぁ?」


 ギュンターが眉を寄せて自分の肩を確認する。


「何も見えねぇぞ」


「あなたたちには姿が見えないようだ、ですって」


「適当言ってんじゃねぇだろうな」


 ギュンターが反発する。


「彼はあいかわらず意思疎通が粗雑でいけないですね。失礼ですみません」


 ウィリアムが頭を下げる。


「あなたは意思疎通が粗雑で失礼だって。謝ってるわ」


 キャタリーが伝言する。


 ゲロルトはランプ皿を棚の上に置くと、ベッドで眠るウィリアムに歩み寄った。


「特に変わった様子はないが。本当にウィルがそこにいるのか?」


「ゲロルトはああ見えて歌がとても上手いんですよ。夜中にこっそり抜け出して、よく歌っているんです」


 ウィリアムがニコニコしながら暴露する。


「ゲロルトは実は歌が上手で、夜中にこっそり歌ってるって。そうなんだ?」


「なんでそれを!」


「お前、そんなことしてたのか」


 ギュンターが呆れて問いかける。


「いや、違う! というかウィルにだってばれてないと思って……」


「この状態になってから知ったんですよ。ふふ。便利でしょう」


 ウィリアムは相変わらず嬉しそうだ。


「それなら種明かししない方が良かったんじゃないかしら」


 キャタリーは思わず指摘した。


 なんとなく深刻な空気がやわらいだところで、床に座って成り行きを見守っていた白狼が、ウィリアムを見上げて切り出した。


「それで、一体なにがあってそんな姿になったのかな?」


 ウィリアムは白狼のそばへひざまづくと、微笑みを崩さないまま真剣な口調で話しはじめた。

 彼の語った経緯はこうだ。



 ひと月ほど前、越冬の蓄えを求めて森の奥深くへ入ったところ、霧に包まれて出口がわからなくなった。


 ぼんやりと青白く光る花の中を歩き回るうちに、自分よりふた回りも大きな影のような女ーー黒い魔女に出くわした。襲いかかられるのを必死で避け、やみくもに逃げ回るうちに意識を失ったらしい。


 森のはずれで倒れていたところをギュンターとゲロルトが発見し、体を回収してくれた。


 しかしそれ以来、昼間は眠り続け、日が落ちている間だけ幽体となって動き回る今の状態になった。




「彼らには私の姿は見えず、この状態では物に触れることすらできないので困りました。

 この基地の屋上からは、時々、東に煙が上るのが見えます。もし白い魔女が住んでいるのならば、私のこれもなんとかできるのではないかと思いました。それが、あなた方がここへ呼ばれた理由です」


 そう言うとウィリアムは再び立ち上がって、ギュンターとゲロルトの間へ移動した。


「でも、あなたはゲロルトたちと話すこともできなかったんでしょう?」キャタリーは疑問を口にする。「どうやってそれを二人に伝えたの?」


「いやあ。毎日枕元に立って、ひと晩中ささやいた甲斐がありましたよ。十日ほどで二人とも動いてくれました」


 茶目っ気たっぷりにそう言うと、ふと真剣な表情になって聞いた。


「それで、どうでしょうか。私は何とかなりますか?」


 白狼はウィリアムに向けた視線を外さず、重い口を開いた。


お読みいただきありがとうございます。

魔女という用語について、設定がごちゃついて混乱を招きそうでしたので、「黒い魔女」「白い魔女」という分類で書き分けることにしました。過去話も何箇所か修正を入れております。

更新ごとにお読みいただいている方にとっては、突然知らないワードとエンカウントすることになってしまい、大変申し訳ございません。章のおわりまでのプロットは完成しているので、今後はこのようなことは発生しない、はず……です。

すでに一度腹は切ってしまっているので、今回は首でも並べておきますね。

ご自由にお取りください。


さて。次回の更新は9月17日となります。

引き続きよろしくおねがいいたします。

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