表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき3

モーニング

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくはちじゅうろく。

 


 心地のいい風が空間を満たしていている。


 朝にはピッタリのゆったりとした音楽が優しく響く。

 この後のことを考えて変にそわそわしていた身としては、こうしてゆっくりしなさいと外から促されるような感覚はありがたい。

「……」

 今から数時間後に、ちょっとしたお話があるのだけど。

 それがあまりにも嫌すぎて、今朝は予定より早く家を出たのだ。

 本当は、いつも通り朝食を済ませてから、本来の目的の時間に間に合うように家を出ればいいかと思っていたんだけど。

「……」

 想像以上に体が言うことを聞かず、これでは時間ギリギリどころか行きたくなくなりそうだと危機感を感じたので。

 まだいうことの聞くうちに外に出てしまえば、もう諦めもつくだろうという算段で、自分で自分を外に追い出したのだ。

「……」

 とりあえず、朝食でもどこかで食べようと立ち寄ったのが、近場にあった飲食店だった。

 昔、ここはどうやらモーニングがおいしいのだと、風の噂で聞いたので、気になっていたところなのだ。飲み物をいっぱい頼んだら、無料でパンがつくらしい。だから、実質払うのはおいしいコーヒー代だけということだ。なんとお財布に優しい事……。

「……」

 注文は先程済ませたので、飲み物が来るまでの待ちの時間だ。

 私は、この時間は少し好きだったりする。

 趣味というか癖というか悪癖というか……こういうレストランとかカフェとか、たくさんの人が居るところに来ると、周りをみることがよくある。

 自分が時間をつぶせるものを持ってきている時はべつだが、今日はそんなつもりもなかったので何も持ってきていないのだ。

 だから―でもないが、そろりと、周囲を見渡してみる。

「……」

 まだ出勤や通学の時間ではないからか、人は割とまばらである。

 それでもなんとなくたくさんいるなぁと言う感覚はあるので、この店がそれなりに有名であることの証拠なんだろう。

「……」

 一人または二人席が店の枠に沿って並び、その中心辺りにボックス席が設置されている。

 まだ混雑するほどのモノではないせいか、客は各々が好きな席に座るように案内されている。私は店の一番端の、角の席。ここからだと割と店の全体が見える。

 そういうつもりで座ったわけでもないが、単純にここが落ち着くと言うだけだ。

「……」

 少し離れた場所にある席には、スーツを着た少々小太りの男性が一人で座っている。

 新聞を広げて、いかにもな感じだ。

 中身は食べてしまったのか、何も入っていないように見えるカゴが机の上に置かれている。

 手元辺りには、びっしりと水滴の張り付いたグラス。アイスコーヒーだろうか。案外紅茶だったりして。人が飲む物は何か分からないが、あの色はコーヒーで正解だろう。

 その男性の癖なのか、お世辞にも長いと言えない足を机の下でクロスさせて新聞を読んでいる。足が長い人で、全体的にほっそりとした人なら、格好がつくかもしれないが。あの長さでされると、いささか可愛らしく見える。かく言う私もたいして足は長くないが。

「……」

 さらにその奥には、一人でボックス席に座っている若者が目に入る。

 まだ注文したものが届いていないのか、机の上にはPCだけが置かれている。それとも食べ終わって、そのあたりは店員が下げたんだろうか。

 若者の隣にはリュックサックが無造作に置かれ、中身が少しはみ出ている。

 学生なのか、教科書らしき雑誌とノートっぽいもの。PCを入れていたらしいケースもあるようだ。さらに小さめのポーチっぽいのはガジェットケースだろうか。

 何やら真剣に打ち込んでいる。時期的にはどうだろう、期末試験とかだろうか。無駄に長いレポートを書かされたのを今でも覚えている。

「……」

 他にも、いまから出社するのであろう女性二人組や、ご老人もいる。

 奥に居るのは老夫婦だろうか。どこか楽し気な雰囲気で会話をしているようだ。

 あの人は夜勤帰りって感じがするなぁ……他の誰よりも疲労困憊しているように見える。

「お待たせいたしました。」

「―!!」

 いつの間にか店員がすぐそばに立っていた。いけない、変なことに集中してしまった。

「こちらアイスカフェオレと、モーニングのパンですね」

「ありがとうございます」

 コースターの上に置かれた飲み物は、氷が浮かび、グラスの外側には水滴が張り付いている。

 置かれたカゴの中には、食パンを半分に切ったものと、餡子とバター。

 好奇心に負けて餡子とバターを頼んだが、なるほどこれはおいしそうだ。

「ご注文以上でお揃いでしょうか」

「はい、ありがとうございます」

 ごゆっくりどうぞ、そう言い残して去っていた店員さんはすぐに別の客の注文を取りに行っていた。朝とは言え、忙しさは変わらないのだろう。

「……」

 この後のことを考えると、憂鬱で仕方ないが。

 今はモーニングに舌鼓を打って、少しでも万全な状態にしておこう。


 ―ん、餡バターおいし。







 お題:朝食・足が長い人・リュックサック

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ