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愛憎の花  作者: 日向 燈
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新たな手掛かり

 ――1人だけ遠い?

 

 そんなことを最後に言っていた気がする。部屋が静かなのは病院が静かだからとかではなく自分の部屋がただ遠いせいなのだろうか。

 何故自分がそんな部屋にいるのだろう。特に変な病気にかかっているわけではない。ここにいるのは松笠さんの話から交通事故に巻き込まれたからなのだろう。

 本当に遠かったとしても1人で歩けない自分にとっては関係のない話だ。気になりはするが。

 

 そんなことを考えていると急に棚から聞き覚えのある音が聞こえてきた。音の方を向くと暗く沈黙を貫いていたスマートフォンが光り小さく揺れていた。

 画面には大きく11:00と表示されておりどうやら時間を知らせるアラームが鳴り響いているようだ。

 アラームを止めようと思いスマートフォンに手を伸ばすと同時に自分の記憶を取り戻す手がかりを探してスマートフォンを充電していたことを思い出す。

 

 スマホを取るとロックは顔認証で開いた。表示された画面に映るものは数少なくどれもいじられていないアプリばかりであった。

 画面を下にスワイプすると4件の不在着信が入っていた。

 

 「天竺 葵……?」


 不在着信の履歴に書かれている名前がふと口から洩れる。かけてきた相手の名前だとは思うが誰なのか全然ピンとこなかった。その下の通知を見ようと画面に触るが間違って不在着信の相手へと電話をかけてしまった。

 ――やっべ切らなきゃ。

 そう思い急いで切ろうとするが画面に触れる寸前で指が動きを止める。もしかしたらこの人は仲のいい相手なのかもしれない。電話に出てくれたら自分の事を思い出せるかもと楽観的な期待をし、そのままにしてみる。

 少し緊張をしてしまっているのだろうか、心臓の鼓動がいつもより少し強く存在感を主張してくる。しかし出たところでなんて言えばいいのだろうか、――交通事故に巻き込まれて記憶失っちゃったから自分の事教えてくれない?

 そんなことを急に言われて相手は困惑しないだろうか、そもそも相手は仲のいい人なのかはわからないのに。そんなことを思っていると。


 「おかけになった番号は現在使われておりません」


 冷たい機械音が静かな部屋へと響き渡る。相手が電話に出なかったことを少し安堵している反面、もしかしたら相手と話して何かを思い出せるのかもしれないと期待していたため少しやるせない気持ちになってしまう。

 他の通話履歴を見てみるが今の相手以外に名前を書かれた連絡先はなく定期的にかかってくる連絡先が数件あるくらいであった。他の番号にもかけてみようかと思ったが名前がない。それに電話をかけた相手が以前の自分と親密な関係にあるという確証はない為、ためらってしまった。


 仕方なく電話をかけるのを諦め、他に何かないか探してみるとメッセージのやり取りが見つかった。

 メッセージをやり取りしている相手は1人しかいなかったし、ここでも出てきたのは先ほどの不在着信の相手である天竺葵だった。メッセージを見てみるとおそらく仲が良かったのだろう、頻繁に連絡を取っており内容は遊ぶ約束や他愛のない会話ばかりである。


 新しいやり取りから目を通す。


 9月13日17時。

 

 ――おーい。

 ――まだ寝てるのか?

 ――怒ってないから連絡くらいくれよ、心配だろ?


 9月13日18時半。

 ――もしかして家にいないのか?心配で家の前来てるんだけど電気ついてないし。

 ――おーい。

 ――花もう濡れちゃってるよ軽く。

 ――不在着信。

 ――不在着信。

 ――不在着信。


 ここで彼とのメッセージは途絶えておりこれが最後のやり取りになっていた。

 彼とは喧嘩をしてしまったのだろうか。相手からのメッセージはあるものの自分からは何も返信はしていなかった。

 このメッセージの少し前へとさかのぼってみる。


 9月10日20時。


 ――紫露さ、花好きだって言ってただろ?


 ――うん、どうしたの?


 ――いや、それがお前の話を姉さんにしたらさ、姉さんがお前に花でもあげろってさ。


 ――え、そんな。悪いよそんなわざわざ。


 ――そもそも男が男に花を渡すなんて気色悪いよな~。

 ――でも姉さんが友達なんだからってきかなくてさ~。今度遊ぶとき持っていくからさ。


 ――確かに男同士でって変だね。

 ――でも嬉しいよ。ありがとう!


 ――感謝は俺じゃなくて姉さんに言ってくれ~。

 ――じゃあ3日後の遊ぶ日に持っていくな。


 ――うん! ところで花はなにくれるの?


 ――それは当日のお楽しみってことで。


 このやり取りは約1か月前のものだった。つまりやり取りがされていたのは自分が事故に遭う前ってことなのだろうか。

 遊ぶって言ってるし遊びに行く途中で事故に遭ったのか、それとも2人で巻き込まれたのだろうか。でも二人で巻き込まれていたのなら一緒に巻き込まれた相手が部屋に訪ねてこないことなどあるのだろうか。おそらくないだろう事故に遭ったのは自分1人なのだろう。

 次に小百合さんが来た時にでも自分の事故の事でも聞いてみよう。そう思い他に特にめぼしいものがないのでメッセージの画面を消し、通話履歴に戻ると1件だけ留守番電話が入っていることに気が付いた。

 相手はやっぱり葵って人だった。さっきのやり取りから男ってことはわかったがそれ以外はわからない。

 ――というか俺って友達この子しかいねーのかよ。それにメッセージの俺なんかなよなよしいなぁ。なんかイジメられてそう。

 よくわからないつっかかりを胸に抱えたまま留守番電話を再生する。


 ――9月13日12時。


 ――あーもしもし、紫露?

 約束の時間過ぎてるけどどうした? もしかしてまた熱でもだしたのか?

 お前は本当に雨の降る日はダメだよな~。

 熱出して寝込んでいるだけなら後で電話よこせよ~。


 これで留守番電話は切れていた。声の主は恐らくだが葵という青年なのだろう、電話番号が一致している。

 約束の時間になっても待ち合わせ場所に来ない自分を心配してくれている。

 何故だかわからないがこの声を聴くととても心が落ち着く。理由なんてわからないが。

 

 結局何も重要なことは思い出せずにスマートフォンを棚の上に戻し少し窓から見える遠くの鉄塔を眺めているとまたドアがノックされた。

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