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愛憎の花  作者: 日向 燈
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奇妙で異質なもの

「なんだこれ……」

 

 目を通したカルテは異質なものであった。素人目からしても間違いなくおかしいものでしかなかった。

 書かれていたものは少なく空欄や塗りつぶされた跡など不可解でしかない。なにか見られたくないものを隠すかのようであった。

 名前、生年月日、身長に体重、怪我の内容。これらは書かれていたが他の内容は未記入や消されたりしている、いったいなぜなのだろうか。

 少し気味が悪く見るのをやめ、元あった位置に戻した。


 「どうせ藪医者の奴が適当に書いて消してとかしたんだろうな。うん、そういうことにしよう。」


 一人ぼやいているとノックする音が聞こえ、ドアが開き食事と着替えを持ってきた小百合さんが部屋へと入ってきた。


 「お待たせ~」

 彼女の運んできたご飯は昨晩とは変わらず、見た目が質素なものであった。年頃の男が好むような品目はなく正直どれも微妙でだ。


 「ちゃんと全部食べてね。昨日のアイスみたいにもったいないことしたら怒るから」


 やはりまだ軽く根に持ってるのだろうか、少しきつめの表情でこちらを見ながら言い、てきぱきとご飯を食べられるように用意をし始めてくれた。


 「あ……はい、すいません」


 思わずしたを向き、静かな声で彼女に謝る。

 もう残したりしないように気を付けようと心に固く誓う。


 「いただきます」


 そう言って静かに食べ始めると横目に映る彼女が椅子の上に着替えを置き、置いて行ったカルテを回収する。


 「あ、紫露君。ご飯食べ終わったら呼んでね、ナースコール押しやすいようにここに置いておくね」


 言いながら彼女はベッドの柵にかかっていたナースコールを取り押しやすいように腰の位置においてくれた。


 「――? あ、わかりました……」


 何故ナースコールを押さなきゃいけないのかが理解が出来なかったため少し疑問そうな声を出してしまった。

 食べ終わった食器を下げに返ってくるのだろうか。 そう考えるともう出て行ってしまうことになるので少し悲しい気持ちになる。


 「ほら、アイスで服汚れちゃってるでしょ? 着替えなきゃだけどその体の状態じゃ無理だろうし手伝いに来るからさ」


 その彼女の言葉に魅力を感じる。――可愛い人に着替えを手伝ってもらえるなんてご褒美以外のなにものでもない。


 「それはおね……」


 「あ、でも私が来るとは限らないからちゃんと初対面の看護師の人きたら挨拶してね」


 お願いをしようと思った瞬間にこんなことを言われ言葉が詰まる。

 小百合さんがしてくれるのはご褒美でしかないがよくわからないおばちゃん看護師に着替えは手伝われたくない。


 「いや! 大丈夫です! 一人で着替えられるので!」


 食いつくように断りの返事をする。


 「そう? 多分無理だと思うけど……まあ置いてはおくから辛かったらちゃんと押してよ?」


 そう言うと、椅子に置いてあったカルテを拾い、窓を開けて換気をしてくれた。

 窓を開けた彼女は外の新鮮な空気を吸い、気持ちよさそうに伸びをした。


 「いやー病院の臭いっていまだになれないんだよねぇ、ほらなんか独特なにおいするじゃん?」


 そう言うと彼女は身を軽く乗り出し、外の空気をめいいっぱい吸い込んだ。

 少しして彼女は満足気な顔をしてこちらを振り返る。

 

 「じゃあ、今なにかして欲しいこととかあったりする?」



 「今は特にないで……あ、スマートフォン。充電してもらえたりしませんか? コードは見つけたんですけど肝心のコンセントがなくて……」


 何もないといいかけたところでスマートフォンが視界の隅で日差しを反射したことで充電器がなくて充電できていないということを思い出した。


 「全然いいけど、コンセントなら紫露君の頭のところにあるよ?」


 「え」


 そう言って彼女はスマートフォンとコードを繋ぐと頭の方へと腕を伸ばした。

 するとスマホの液晶が光り、充電が始まった。

 見つけられなかった自分が少し恥ずかしいが、体が痛くて後ろを向く余裕なんてないので仕方がないことにしておこう。


 「助かります」


 「ほかに困ったこととかなかった?」


 そういいながら彼女は窓をほんの少しだけ開けたままにしてドアの方へと歩いていく。


 「ほかは特に……」


 彼女の問いに答えるよりも窓を開けたことによって風に乗って流れてきたアロマの臭いが鼻に入り、少し惚けてしまい何も思いつかなかった。


 「うん、大丈夫そうだね。 他に何か思いついたらボタン押して呼んでよ、私が必ず来られるってわけではないけど」


 「わかりました」


 「それじゃあ行くね」


 他にもやることがたくさんあるのだろうか、颯爽と部屋を出て行ってしまった。


 彼女がいなくなり、ご飯を黙々と食べているとふと奇妙なカルテの事を思い出した。

 初めて見たものだからカルテがそのくらい書いているのが普通なのかなんてわかるわけがない。

 だが素人目で見てもあれは奇妙というか異質なものでないかと思う。まるで知られたくないような。思い出されては困るような。

 彼女がいなくなった部屋でカルテの事を聞けばよかったなんて思う反面、勝手に覗いているのがばれるのは嫌だなと思い聞かなくて正解だったかなとも思い、どうしたらよかったのか悩みながらご飯を食べていると気づけばご飯を平らげていた。


 ご飯を平らげ、持ってきてもらった着替えに着替え用と思い着替えを膝の上からとった時にふと気づいた。

 ――これ、机邪魔過ぎない? 机の位置が悪く膝を曲げられない。

 そもそも片足折れているくせに着替えなんて出来るわけがない。

 そう思い諦めてナースコールを押したその時、ドアが静かにノックされた。

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