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愛憎の花  作者: 日向 燈
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少しの違和感


「待っ……」


 ドアを閉めかけた時、彼女を引き留めようと急に声を発したため、口にくわえていたアイスがベッドの上へと落ちていった。


 声を出した時にはすでにドアは閉まり切っており、開きそうな素振りは一切なく声が彼女に届くことはなかった。


 落ちたアイスを拾い上げるが、アイスは軽く溶けていたせいか、ベッドに付いていた埃まで拾い上げてしまい。埃の付いたアイスをまた口にくわえる気にはなれなかった為、そのままベッド近くのごみ箱へ投げ捨てる。


 彼女が最後に残していった言葉。――また明日ね紫・露・君・。


 その言葉は間違いなく自分へ向けられた言葉であった。名前だ。自分の名前を彼女は呼んでくれていた。


「天内紫露……か」


 思いもよらずに彼女は今求めているものを残していってくれた。だが、名前を言われてもピンとくるものは自分の中にはなかった。


 彼女につぶやかれたその名前を自分の名前だと確信するにはどこかしっくりとこない。思い出したというよりか、彼女に呼ばれた名前を自分の名前だと思い込もうとしている感覚に近い。


 名前を思い出したときにそれと付随して何か他の事も思い出せると思ったが何も思い出せず進捗は何も得られなかった。


「まぁ、なにもわからない寝起きに比べたらましな方か」


 思考はポジティブにしていこう。急いで思い出しったっていいことばかりじゃないのかもしれないし。そう自分に言い聞かせながらその場でうなずい納得した気分になる。


 それにしても病院はつまらないところだ、現代っ子の自分は今どきのテレビなんて見ていないからつけたところで退屈だ。今の自分には充電の切れたスマートフォンが1台のみ……。


「そー言えば、充電コード……」


 彼女は充電コードを持ってくると言っていたのを思い出した。しかし彼女が来た時に持っていたのは歯磨き道具に晩御飯のみ、彼女の手元には充電コードのようなものは一切なかった。


 ――明日またお願いすればいいかぁ。そんなこと思いながら窓の外を眺める。欠けた月はいびつな楕円を描いても静かにこちらを照らしていた。それにさっきは見えなかった空以外の景色が今度は見られるようになっていた。


「さゆりさん。せめてベッドは戻していってくれ」


 彼女はドジなのか起こしたベッドをそのままにして部屋を出て行ってしまった為、起きたままになってしまった。外の景色をより見られるようになったと考えるなら良いが寝るときはこのままの体制で寝なくてはならいのか。さすがに明日起きたら腰が固まってしまうし眠気なんて来るわけないだろ。


 そんなことを思いながら部屋を見わたすと、棚の引き出しを開けていないことに気が付いた。

何かありますように。そんなことを思いながら開けてみると、引き出しの中から白いコードが姿を現す。


「さゆりさん……ベッド戻さなかったことは水に流すよ」


 コードを手に取りスマートフォンに差し込みコンセントを探すためにゆっくりとあたりを見渡す。

目についたコンセントはドアのすぐそばにあるコンセントのみであった。さすがにそこまで行くだけの元気も度胸も持ち合わせていないため、見なかったことにしてあたりを見渡す。

 

「世の中はどうしてこんなにも残酷なんだ」


 どこを見渡してもコンセントが見つからない。ナースコールを押して誰かを呼ぼうかと一瞬考えたが、こんなことで夜に押すのは申し訳ないと思い、ボタンを押そうとした指は動きを止めた。


 もう何もできることもないし寝てやろうと思っても、さっきまで寝てしまっていたため、眠気なんて遥か彼方に飛んでしまった。

 目をつぶれば眠気が来るかなと思い瞳を閉じる。少し呆けていると急に脳にもやがかかったような感覚に襲われる。

 

 「本当に来たの……」

 

 なんてつぶやいてるうちに意識は静かに深くそこへと沈んでいった。

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