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愛憎の花  作者: 日向 燈
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記憶の模索

 強面リーゼントの顔しか思い出せないことに驚き固まる。それ以前の記憶が抜け落ちているのだった。


「天内君? どうしたの?」


 痛くて声を出すと思っていた看護師が無言の俺を見て心配そうに顔を覗いてくる。

 可愛い顔がすぐそこまで近づいて来ているがそんなことは今気にすることではなくなっていた。

 自分の記憶を思い出そうと必死に頭の中を駆け巡るも思い出せるのは一番古くて医者がドアを開けてくる音だった。

 思い出していく中で引っかかったのは医者の流れるような診断結果にあった言葉だ。

 ――いわゆる記憶喪失だね。


 あんな適当な感じだったのに言っていることが合っているのがなぜかイラっとするがいまはおいておこう。


「お姉さん、俺の私物ってある?」


 ふいに自分の物を見れば思い出せるのではないかと思い尋ねる。


「え、えーと……天内君の物はこの部屋にないんだよね。急に運ばれてきたし、君自身何も持っていなかったから」


 その言葉を聞いてどうしようもなくなった。


「あ、でもスマートフォンならあった気が……確か先生がそこの棚にしまっていたような」


 看護師はそう言いながら俺のベッドの横にある棚から画面のひび割れたスマートフォンを取り出した。


「これ天内君のものであってる?」


「多分……」


 正直、見せられたところでそれが自身の物かなんて判断はつかなかった。

 電源をつけようとするが画面は一生暗くなったままだった。どうやら充電がないらしい。


「あら、やっぱり充電きれてたか。待ってね、いま充電コード持ってくるから」


 そういって一度去ろうと振り向いて歩きはじめる背中を見て急に怖くなってきた。

 スマホの中身を見ても何も思い出せなかったら。さっきまで部屋を見渡していたがこの病室には何もない。

 備え付けの壁掛けのテレビにスマホの入っていた棚。それ以外に物はなかった。誰かが来た時に座る椅子さえも。


「ちょっと待って。 充電大丈夫だから。多分親が来るんでそん時に頼むので、えーとさゆり……さん」


 さっきふと見えた名札の名前で彼女を呼び止める。

 急に名前を呼ばれたためか、少し驚いたような顔でこちらを向いていた。

 何かを言いたそうにしているが特に何も言わず

「わかったわ。夜ご飯の時間になったらご飯持ってくるからそれまでは安静にね。何かあったらナースコールで呼んでね、すぐ来るから。じゃあ、またあとでね」


 綺麗な笑顔でそういう彼女は静かにドアを閉めて部屋を後にする。


 一人となった部屋で静かに自分の過去を振り返ろうとするが思い出せるわけがなかった。自分の名前も思い出せないのだから。

 この部屋はどうやら結構いい部屋なのだろうドアが閉まると外の音が聞こえてこない。孤独を感じるくらいに静寂が部屋を包み込んでいる。

 顔を窓側に向けて気づいた、枕の横にテレビのリモコンが置かれている。まぁつけたところで画面を見ることは叶わないが。

 だがテレビの音で何かを思い出せるのではと思いテレビを適当につけてみる。


 ――次のニュースです、先月発見された18歳の男子生徒が自殺であったと捜査関係者への取材から分かりました。原因は学校内でのいじめではないかと警察は捜査を進めているそうです。


 ――本日、御門(みかど)財閥総裁の就任式が午後六時より行われるようです。会場は豪華客船を貸し切り関係者のみを招いて行われ、就任は長男の龍一郎氏ではないかと思われます。今回の就任式は元聡一郎総裁の持病が悪化したため急遽行われるようです。


 自殺の報道に金持ちの無駄に豪華なパーティーの報道。どれも自分には関係のないものでしかない。

 ――病院以前の記憶を無くしている自分もある意味自殺したようなものだよな。

 そう考えると思い出せないことなどどうでもよくなってきてしまった。

 無理なものは無理だ、おそらく親が来るだろう。親の顔も思い出せないが見れば何かしら思い出せるだろうし今はゆっくり寝よう。

 そう思いテレビを消して布団にうずくまる、この行動は現実逃避なのかも知れないが仕方ない。

 起きれば誰かしらいるだろうしその時にわからないことは聞けばいいんだ。

 どうにかなると思いながらも先の見えない明日に漠然とした不安を抱きながら眠りにつく。


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