森の魂
夏芽は獣の首を切りつけると、その獣は最初はもがいていたものも、徐々に動きがなくなり、やがて呼吸も止まり、死骸となってしまった。
「はあ、はあ、お、終わった」
危険な森の中の獣との戦いが終わったのである。
この森を閉鎖させた元凶の息の根を止めたのだ。
獣の死骸から剣を引き抜いて、夏芽はその場に座り込んだ。
夏芽が自分の腕を見ると、先程までまとわれていた紫色の回復オーラはいつのまにか消えていた。
ウイッテの救いの一手がなかったら自分が狩られていたかもしれない。
そう思うと、最高のタイミングで助けてくれたなあ、と胸が温かくなっていく。
いきなり体を動かしたときに残った疲労がまだ抜けずにそのままぼうっとしていると、目の前の獣の死骸の傷口から白い気体のようなものがぷわぷわと外に浮き出てきた。
その気体は完全に体外に出されると、浮いたまま夏芽の顔の前で動きを止めた。
「な、なにこれ?」
その気体を見つめていると、後ろから声が聞こえた。
「おーい!おねえちゃーん!良かったね!その悪い動物さん、倒しちゃったね!」
振り向くと、ウイッテと、その後ろには足に包帯を巻いたアキホが夏芽に抱きつきに走って向かってきた。
アキホは夏芽に後ろから首を絞めるように抱き着いた。
「良かった、、、本当に良かった。一時はどうなることかと思ったよ、、、」
アキホはそう鳴き声を漏らして言った。
夏芽の首元にも涙がつたってくる。
「私、勝ったよ。安心してね、アキホ」
そんな二人に構わずにウイッテは、気体の方に注目していた。
「ねえねえ、この白いの、何?」
ウイッテが指をさした瞬間、三人はどこからか低い声が聞こえた。
「んああああ!!!」
「な、なんだなんだ!?」
「私の着ぐるみを剝がすなんてなかなかやるな人間ども。私がせっかく憑りついた獣、なかなか気に入っていたのだがなあ」
「ま、まさか、この声は」
「ははは、気づいたか、勇者ども。私はお前が倒した獣の魂、、、ではなく、この森の命、精霊なのだ。この森を常に危険から守るために獣に憑依していたのだが、まさかこうやって殺されてしまうとはな。この獣も貧弱なものだ」
「この森の精霊?」
夏芽は白くぷわぷわと浮くものを指さしながら言う。
「そうだ。お前たちのような森に危害を加える者たちに制裁を加えてやるためにここにいるのだ」
「わ、私たちはこの森を荒らすために来たわけじゃない。雲母の秘境を目指してここを通っているだけよ。別にこの森の生き物たちを殺そうとなんて考えていない」
「ほお、、、お前たちが言いたいことは分かった。獣狩りのためにここに来たわけではなかったんだな。これは勘違い勘違い。ところで、お前たちは雲母の秘境に行きたいのか、、、」
「はい!だからこの森を抜けさせてください」
夏芽がそう言うと、森の中に沈黙が走った。
そして、魂が一瞬ボンと燃え上がり、再び声が聞こえた。
「これは、冗談や誇張ではないが、今は行かないほうがいいぞ。雲母の秘境は今、大変なことになっておる」
「た、大変なことって?」
「あそこでは今、ゴーレムが住み着いておる。これは嘘じゃない。以前の獣の姿で見たぞ。そのゴーレムの姿を。」