旅館にて
外は真っ暗で、月が辺りを照らしていた。
午前3時くらいだろうか。
アキホと夏芽は、ニコニコして夏芽の剣とレイピアを担いで少し離れた木造の旅館の前まで来た。
そこは、いかにも歴史ある旅館という風格が漂っており、夏芽の前世の記憶がくすぐられる。
「どうだ~?私一推しの旅館は、泊まりたくなってきたか~?」
アキホは夏芽の耳元で語りかける。
耳に息があたって夏芽の脳は、ふわりととろける。
「しゅ、すごい」
「だろだろ!よし、そうと決まれば早速泊まるぞー。ここの女将とは仲が良いからお代は無しでいいぞー!」
「こんな時間から……本当に大丈夫なの?」
「心配すんなって~。私を信じろよ!」
ノリノリで木の扉を開き、中を見ると、正面に女将さんが正座をして二人が入ってくるのを出迎えてくれた。
女将さんは、決して若いとは言えないが、真っ白の透き通った肌、潤いのある唇、そして、タレ目の大きな瞳で、華やかな着物に身を包んだ美人だった。
「ようこそいらっしゃいました。アキホ樣。さあさあ、靴を脱いでお入り下さい」
女将は、優しい笑顔でそう言うと、正座をしたまま端へと避けた。
「てんきゅー。女将さん。今日も美人だねー!ふっふー」
酔っ払ったおっさんのように大きな声でドスドスと足音を立てて中に入って行った。
女将さんは、そんなアキホに礼をして、夏芽の方を見て、手で中に入るように促した。
夏芽は、入口で女将さんに一礼してから
旅館の中に入った。
「アキホ様のお部屋は、この廊下を進んだ先の梅の間になっております。ごゆっくりお過ごしください」
女将さんは、そう告げて、二人の靴を靴箱の中に直しにいった。
スー。
梅の間と書かれた部屋の襖を開けると、そこには、いかにも「和」な雰囲気を漂わせている畳の部屋があった。
そして、その部屋に長机と、座布団が敷かれていて、床の間には桃の花が供えられていた。
アキホは、その畳の上でべったりと寝転んでいた。
アキホが持っていた剣とレイピアは、適当に床に並べられていた。
「お、きたか……むにゃむにゃ……朝ご飯までねよーぜぇ…すぅ…」
寝ているアキホを見て、夏芽も早く眠りたいと思い、そのまま畳の上にダイブした。
新しい畳の匂いが鼻をくすぐってくる。
夏芽は一瞬で眠りについてしまった。
チュンチュンチュン。
外の小鳥のさえずりで、夏芽は目を覚ました。
時計を見ると、朝の8時を指していた。
夏芽が、背伸びをしてみると、大きな乳がボヨンボヨンと揺れた。
深夜よりも背が高い気がした。
横を見ると、当然、アキホはいびきをかいて寝ていた。
夏芽は、トイレに行こうと思い、部屋の外へ出た。
襖を開けると、廊下には誰もいなかった。
ただ、玄関の近くの部屋から、食事を作っている音が聞こえてくる。
夏芽は、ぼんやりと部屋の外へ出てきたために、トイレの場所が分からなかったので、その食事を作っている所で場所を聞こうと、その部屋のドアをドンドンと叩いた。
すると、その中から女将さんが微笑みを浮かべて出てきた。
「どうなさいましたか?お手洗いでしたら、一度玄関の外へ出て頂いて、右手に曲がっていただきますとありますので、そこをお使い下さい」
流石、察しがいいなあ……。
そう思いながら、靴箱から靴を取り出して旅館から出ると、そこは、青空が広がり、自然に囲まれていて、昨日の豪邸の通りとは全く違う美しい田舎の光景だった。
「すごい!空気がおいしい!」
夏芽は、一人で興奮しながら、女将さんに言われた通りに右に曲がった。
すると、木造に「便所」という札が建てられた小屋を見つけた。
ドアも全てボロボロの木でできていて、今にも壊れそうなくらいである。
夏芽は、誰も入っていないと思い、そのボロボロのドアノブをつかんで回した。
しかし、夏芽が便所の中を覗くと、そこに髪の短い幼女が座っていた。