七
難斗米たちとの謁見を終えると、卑弥呼は男弟ともども彼女の宮居に戻った。
謁見の間と卑弥呼の宮居は別々の建物だったが、白木の橋が架けられていた。
卑弥呼の宮居は女の花園で、巫女と侍女が千人ほどおり、男は男弟と男巫の頭しか出入りできなかった。
その男巫の頭が侍女たちと数人がかりで海の幸や山の幸などの夕餉を運んできた。
卑弥呼と男弟は膳を平らげながら、男巫の頭から報告を受け、彼に指示を与えた。
邪馬台国は歩き巫女たちや男巫たちを内外に放ち、工作活動に従事させていた。
魏へ使者を送ると卑弥呼が判断したのも、密偵たる巫覡たちの情報に基づいていた。
巫女たちの学問と巫覡たちの諜報は邪馬台国の台頭に大いに貢献した。
知識の豊富な邪馬台国は他国の問題にも助言しており、影響力を高めることにより女王国の結束を強めていった。
それを推し進めたのが姫巫女たる卑弥呼で、彼女は女王国の各国に監督官を派遣し、彼らの統率者を伊都国に常駐させた。
経済の面でも邪馬台国の役人に諸国の市を監視させ、鉄などの流通を掌握することに努めた。
卑弥呼は難斗米のような人材を各国から受け入れた。
その諸王も女王国という大きな組織に自国の人間を参画させられることの益ゆえに、邪馬台国の政策に強くは反発しなかった。
「お母様ぁ、叔父様ぁ!」
老いた侍女に手を引かれ、やってきた童女が卑弥呼と男弟に声を掛けた。
「勉強が終わったのか?」
牡蠣を味わっていた卑弥呼が童女に笑顔を見せ、彼女を膝の上に乗せると、報告を終えていた男巫の頭は、部屋から出ていった。
「はい、今日は先生と漢語だけでお話ししてました」
「台与は姉様に似て本当に勉強熱心だねえ」
童女は卑弥呼の娘である台与だった。
◆
台与が寝入るのを待ち、卑弥呼と男弟は宮居の奥にある寝所に入った。
暗い室内を、灯火の明かりが柔らかに照らし、褥は天井から下がった絹の幕に囲われていた。
幕の内では男弟が卑弥呼のしなやかな肌に体を覆い被せていた。
白い薄絹一枚だけを身に着けた卑弥呼は、下肢を押し広げて男弟を迎え入れていた。
彼女は実弟のものを突き入れられ、両眉の間を狭めて口を開き、白い歯を見せながら喜悦に喘いだ。
卑弥呼の両腕は男弟の首に巻き付けられていた。
男弟が卑弥呼を突き上げると、卑弥呼は男弟の背に爪を立てて体を仰け反らせた。
快美な感覚が体中を突き抜け、男弟は実姉の中で欲情を吐き出した。
卑弥呼は下肢を震わせ、眼を固く閉ざし、山犬のように大きく開いた口から獣じみた叫び声を漏らした。
男弟は卑弥呼の豊かな胸乳に顔を埋めたまま大きく息を吐いた。
卑弥呼は苦痛に似た歓喜の表情を浮かべながら、男弟に腕をからげていた。
卑弥呼と男弟は父母を同じくする実の姉弟だったが、しばしば床を共にし、同朋姦の歓喜に身悶えしていた。
二人はそれぞれ女王国の女王、邪馬台国の王になっていたが、順風満帆に即位できたわけではなかった。
寧ろ父王が死に、母親も亡くした姉弟は、身寄りのいないまま王位を巡る政争の渦中に放り込まれた。
二人は身を寄せ合っていなければ、気が狂ってしまいそうで、それが彼らの心を歪ませていった。
徐福の流れを汲んでいる邪馬台国の王族は、倭人を開化する天命を負う特別な一族だ。
そのような信念を固めた卑弥呼は、教団の巫女たちを味方に付け、持ち前の知性で大人たちと渡り合い、女王国の発展まで成し遂げた。
しかし、卑弥呼の自負心は彼女の支えとなった一方で肉親しか同等な人間と見なせなくさせ、唯一の血縁である男弟への執着を招いた。
男弟も元から卑弥呼を尊敬していたが、その想いを病的なまでに昂じさせていった。
姉弟が男女の仲となるのに時間は掛からなかった。
台与は卑弥呼と男弟の娘だった。
もっとも、彼女は表向き卑弥呼の養女とされており、台与は豊の訛りで、豊国にいた遠い親戚と説明された。
倭人の社会は父と母の系譜をどちらも重んじる両系だったので、父母のどちらかが違えば、他人として媾合と結婚が出来た。
しかし、両親が同じ兄妹ないし姉弟は身内での媾合および結婚として反対された。
そこで、卑弥呼と男弟は結婚せず、姉弟の媾合は奥の宮における寝所で行われた。
奥の宮は女王国で真の女王たる天照が祀られ、卑弥呼および男弟と巫女たちしか出入りできなかった。
妊娠した卑弥呼はそこに籠もって台与を出産した。
巫女たちは卑弥呼と男弟の秘密を守るのに吝かではなかった。
卑弥呼は巫女たちの教団を支援してくれる姫巫女だったので、出来る限り便宜を図った。
たとえ徐福の祖国たる漢土で同胞戯けが禽獣の行為と非難されていようとも。
◆
卑弥呼が褥の上でからかうように言った。
「そう言えば卑弥弓呼は要求に私との結婚も挙げていたかな」
表向き卑弥呼は未婚だった。
それゆえ、卑弥弓呼が狗奴国と女王国の同盟する条件に卑弥呼との政略結婚を挙げるのも、不自然な話ではなかった。
しかし、男弟にはとても受け入れられなかった。
卑弥呼に煽られた男弟は、慌てて彼女に抱き付き、必死に腰を振った。
「駄目! そんなこと、認めない!! 姉様はずっと僕と一緒なんだ!!!」
そのような男弟を可愛く思い、卑弥呼は彼の頭を撫でた。
無論、卑弥弓呼に嫁ぐつもりなどなど更々なく、卑弥呼がその話題を持ち出したのは、男弟の心を確かめたかったからだった。
邪馬台国の王として男弟は卑弥呼のために何でもやった。
彼は姉ほど才能に恵まれていなかったが、それでも、彼女の助言に基づき、財政や軍事の問題を解決していた。
そのような弟の努力が嬉しくて仕方なく、卑弥呼にとって男弟は公私の両面でなくてはならない存在だった。
「そうだ! お前を手放すものか!! 何があろうとも私のところにいろ!!!」
それから、また卑弥呼と男弟は身も心も一つにして睦み合った。




