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倭事記~小説 古代日本~(未完)  作者: flat face
第一章 神武天皇
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二十一

 長髄彦は五瀬たちがアシア族の侵攻を防いだので、約束通り土地を分けることにした。

 しかし、その地をどこにするかは決まっておらず、五瀬も意見を求められた。

 長髄彦は五瀬がアシア族の一部を味方にしたと聞き、その手腕に油断ならぬものを覚え、望むところに住まわせることで懐柔しようとしたのだ。


 少数のお伴を連れて五瀬は大和を巡り、里を作るに相応しい土地を探した。

 五瀬たちが土地を探している間、留守を預かる者たちは、引き続き草香邑に留まり、その郊外に作った仮の里で暮らした。

 若御毛沼が五瀬のお伴から久々に仮の里へ帰ってくると、家には吾平津媛しかいなかった。


「手研耳と研耳は大久米と狩りに行ったぜ」


 五瀬たちは鉄挺てっていなどで必要な物資を近隣から仕入れていたが、狩猟や漁撈で得られた干し肉や干し魚も米などと換えていた。

 若御毛沼を出迎えた吾平津媛も、採集した果実や茸などを天日に干していたが、夫が長旅から帰宅してきたので、瓢箪の柄杓で壺から水を汲んで彼に渡した。

 それを若御毛沼が飲み干している内に、木の幹をり抜いた桶に水が張られた。


 若御毛沼が腰を下ろすと、吾平津媛が彼の足元にしゃがみ込み、その両足を刳桶くりおけの水で洗った。

 若御毛沼が視線を落とせば、吾平津媛の大きな胸が目に入った。

 若御毛沼は上半身を倒すと、吾平津媛の両胸に手を伸ばし、その先端を捏ねた。


「折角、人が甲斐甲斐しくしてんのに、馬鹿やってんじゃねえよ」


 吾平津媛の声は怒っているかのようだったが、抵抗することはなく、その大振りな粒は豆のように硬くなっていた。

 若御毛沼は前屈みになり、妻の腰を掴んで彼女を立たせた。

 若御毛沼は吾平津媛の裾をたくし上げ、太腿の間に片手を差し込むと、そこが濡れているのを確かめた。


 吾平津媛も若御毛沼の袴を脱がせ、若御毛沼が吾平津媛の温かくて柔らかな中心を串刺しにした。


「そもそも、帰ってくるのがおせえっての。どうせ五瀬が余計なことしてそれに付き合わされたんだろ。未来の王が使いっ走らされてんじゃねえ」


 吾平津媛の苦言は正鵠を得ていた。

 五瀬は再興される日向とは別に自分の国に相応しい土地を探してもいた。

 だが、長髄彦が与えようとしている土地は一つで、五瀬がそれ以上を求めているのを吾平津媛は危惧した。

 正確に言えば五瀬の企みに若御毛沼が巻き込まれるのを危ぶんだ。


「使いっ走りすら務められなくて何が王だ」


 若御毛沼の返答も吾平津媛の予想した通りだった。

 物心が付いた時から競い合ってきたからこそ吾平津媛は若御毛沼が五瀬の要求に応じようとして重ねる無理を見ていられなかった。

 確かに五瀬は遙かな先を見ていたが、それが今を生きる者たちに幸せをもたらすとは限らなかった。


 好敵手として吾平津媛は若御毛沼の真価を誰よりも知っていた。

 そうであるからこそ五瀬の要求に何でも応じ、無理をしてほしくなかった。

 若御毛沼の価値を真に知り、彼の身を本当に案じているのは己だ、と吾平津媛は自負していた。



 狩猟に出た手研耳および研耳と大久米は馬に乗り、茂みの中から跳ね出す野鹿などを射止めていった。


「舟だけじゃなくて馬も巧いんだね」


 海人となった倭人である大久米が難なく馬を操っており、それを目にした手研耳が感心して言った。


「似たようなもんだよ、舟も馬も。人を広い世界に連れてってくれて、俺はそういうのが好きなんだ。好きこそものの上手なれってな」


 大久米は弓の半ばより下を掴み、きりきりと矢を引き絞って鹿を射抜いた。

 手研耳が鉄の剣で止めを刺し、研耳が肉の味を落とさぬように血抜きの指示をした。


「広い世界が好きなら、どうして伯父さんに仕えるの?」


 血抜きが済むのを待つ間、大久米は研耳から問われた。

 研耳の伯父である五瀬は領土を得ようとしていた。

 それはこれまでの流浪と異なり、行動の範囲を限ってしまうものだった。


「ああ、確かに大将のやろうとしてることは、動けるところを狭めちまう。けどな、それで大将が開く世界は、ただ海を漂うより広いもんかも知れねえ。俺はそいつ見届けたい」


 大久米が血抜きの終わった野鹿を担ぎ上げ、三人は帰路に就いた。



 五瀬も仮の里に帰っていた。

 編んだ藁筵に身を横たえ、五瀬は厳媛と睦み合った。

 厳媛は五瀬に組み敷かれ、両腕を押さえ付けられていた。


「これでやっとお前を正式な妃に出来る」


 恥じらいながら身悶えする厳媛に五瀬が囁いた。

 大和を経巡った五瀬は、長髄彦の傘下に入っていない人々にも接触した。

 天孫族だけではなく出雲族いずもぞく土雲つちぐもも大和には居住していた。


 大和の土雲は国栖くずと呼ばれ、天孫族や出雲族と対立する関係にあった。

 五瀬の配下には筑紫の土雲もおり、彼らに国栖と交渉させた。

 国栖は同族たる土雲に心を開き、五瀬と友好的な関係を結んだ。


 そうして五瀬はその影響力を更に広げたが、それは厳媛のためでもあった。

 厳媛が襲名した日臣は、日向の王に仕えるのが本分だった。

 もし日向の王ではない者が日臣を引き抜きたければ、それに匹敵する王位が求められ、五瀬はその地位を大和での覇権によって得ようとした。


 内憂外患によって大和の情勢は流動的だった。

 状況が許せば下剋上も決して夢ではなかった。

 出雲族や国栖もいる大和を治めれば、隼人や海人もいる日向の王に引けを取らなかったし、五瀬はそれで満足する男ではなかった。


「身に余ることです……」


 厳媛は五瀬の行為が嬉しくて堪らない反面、彼の行く末が危ぶまれてならなかった。

 五瀬は余りにも目端が利きすぎた。

 いつかその足元を掬われてしまうのではないかという不安が拭いきれなかった。


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