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8-3

「どうにも引っかかりますね……、フレーリヒさんのご家族の話」

「ゲオルク王子の乱行と何か関わりがあると見るべきか」

「そんな感じです」

 エミールはネッケ准尉に紹介してもらった宿屋へ続く道を逸れ、ひょいと細い路地へ入った。アルトマイヤーも教え子の意図を理解して後を追う。

 エミールは呑気な声で、横を歩く教官に話しかけた。

「ぼく、さっき支部に何か忘れ物しましたっけ?」

 アルトマイヤーは黙ったままだ。気にせずエミールは続けた。

「あ、お茶菓子が出ませんでしたから、わざわざ持ってきてくれたのかもしれませんね」

「だとしたらどうにも物騒な菓子だ」  

 アルトマイヤーの言葉を合図に、師弟は同時に左右に身をかわした。

 二人の身体のあった場所を銃弾がかすめていく。

 敵は前後に四人。しかしこの師弟にはものの数ではなかった。

 アルトマイヤーが後ろの敵二人をあっという間に戦闘不能にし、エミールも前の二人をきっちり急所を外して仕留めた。

 アルトマイヤーは、手足を撃たれて(うめ)いている男に歩み寄り、男の胸倉を掴むでもなく淡々と尋問を始めた。

「お前達は情報部の人間ではないな。どこの手の者だ」

 男はこの質問には答えず、苦痛に顔を歪めながらせいぜいどすの効いた口調で脅迫の台詞を吐いてきた。

「……命が惜しかったら、これ以上余計なことに首を突っ込むな……、さっさとこの街から出て行け……さもないと」

「答える気は無いということだな」

 アルトマイヤーが表情一つ変えず、あっさりと銃口を男の眉間に当てる。

 男の顔が一瞬恐怖に引きつる。が、悲鳴を一歩手前で呑み込むと、覚悟を決めたのか嘲笑を浮かべて言い放った。

「この街にいる限り、あんた達もあの男も命を狙われ続けるさ。ここノイエンドルフじゃ……な」

 アルトマイヤーは黙って立ち上がると、その場を離れていった。エミールも慌てて後を追う。

「県令の部下ですね」

「フリック少佐からもう情報が漏れていたという訳だ。支部が県令の言いなりというのは本当らしい」

 いつになく早足のアルトマイヤーの横に、エミールはほとんど駆け足で並んでいた。

「フレーリヒさんのことも言ってましたね。ということはフレーリヒさんの次の標的は県令ってことですか」

 この質問にアルトマイヤーは沈黙で答えた。少しずつだが、当時の事件の構図が現れて来るようだ。フレーリヒの妹の自殺、両親の行方不明、ゲオルク王子とその学友の乱行、県令のこの街への支配力。

 それはもしかしてゲオルク王子本人の事故死とも関わっているのかも知れない。

「何にしろ素直に宿屋には向かわない方がいいですね」

 ネッケ准尉から、すでにどこの宿に案内したかという情報は行っているだろう。そこをまた襲撃されてはたまらない。

 二人は人の住まなくなった町屋に入り込み、そこの二階をしばらくの拠点と定めた。


 またいつの間にやらエミールが食料を調達してきている。

「あ、ちゃんと教官の分、甘いもの抜いてありますから」

 そう言う自分は、しっかり焼き菓子から食べ始めていた。

 長身のアルトマイヤーはともかく、この少年も小さい体でとにかくよく食べる。食べた物がいったいどこへ消えているのか不思議なほどだ。多分あの底抜けのエネルギーの塊に変換されているのだろうと、教官は妙に納得して魚の油漬けの缶詰を開けた。



 うとうととまどろんでいたエミールは、数発の銃声で跳ね起きた。

 狙われている身であるから、意識を全部眠らせたりはしていない。すぐに銃を手にして、同じように体を起こしていたアルトマイヤーの姿を確認した。

 銃声はかなり離れた場所からだった。とりあえず自分たちとは無関係らしい。しかしこの街には少なくとももう一人、命を狙われている者がいる。

「もしかしてフレーリヒさんでしょうか」

「行くぞ」

 二人は夜の街へと走り出した。

 銃声のした方向へと向かう。程なくして銃を持った男達に遭遇した。

 二人は、物陰に潜んでやり過ごす。男達の怒号が飛び交っていた。

「こちらへ逃げたぞ!」

「もっとよく探せっ!」

 男達が走り去った後、エミールはひょいと物陰から顔を出した。

「近いですね」

 アルトマイヤーはこれに答えず、手近な路地を一つ一つ入って探し始めた。エミールもそれに続く。

 アルトマイヤーの後ろを歩いていたエミールが、ある細い路地の入り口でふと立ち止まった。

「どうした」

「いえ、人の気配がした気がして」

 アルトマイヤーはエミールを押し留め、自ら先に路地へと入っていった。

 確かに微かだが荒い呼吸音が聞こえてくる。だんだんそれが近くなり、町屋の入り口へ続く階段の影に、一人の男がうずくまっているのを見つけた。

「先輩」

 アルトマイヤーは駆け寄って、つい昔の癖のまま呼びかけた。フレーリヒは気を失っているようで、返事は返ってこない。ざっと体を調べたが、特に大量に出血している箇所はなさそうだった。

「とりあえず隠れ家に運ぶ」

「はい」

 アルトマイヤーがフレーリヒを担ぎ上げ、エミールは彼が抱くように持っていた銃を携えて、夜の闇に紛れるようにその場を離れた。


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