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   二



「……で、父さま、陛下にいったいどんなご不興を買った訳?」

 キーファ王子の『学園』での警護官に、国王がエミールを指名した。と、ヴォルフが息子エミールに告げたときの、息子の第一声がこれであった。

 もちろんヴォルフは、事の経緯も、自分から息子を推薦したこともまだ何も話していない。本来なら大変な名誉であるはずの話に対しての反応がこれだ。さすがに父は頭を抱えて溜息をつく。

「……不興って、ねえ……。何でまた君はそんなことを」

 両手を挙げ、肩をすくめた息子は、父の台詞を最後まで言わせず、さらに畳み掛けるように続ける。

「だってぼく、まだ陛下のイジメにあうようなことした覚え、何もないもの。だったら父さまが何かやらかしたとしか考えられないじゃない」

「何かって何をだい?」

「たとえば陛下の分までお菓子食べちゃったとか」

「……それは一回、いや二回くらいやったかも……、じゃなくてだね」

 一見ふざけた親子漫才をヴォルフは強引に断ち切ると、腕を組み口をとがらせて自分を見つめている息子に尋ねた。

「……要するに君は、本来ならあり得ない人事だと、そう言いたいのかな?」

「陛下が正気なら、ね。ぼくや……ぼくはまだ子どもだからそんなものないに等しいけど、父さまやメルダースの名前を(おとし)めようとする人事としか考えられないでしょ」

「正気って……ねえ……」

 思わずかけていたソファーにのめり込んでしまったヴォルフである。

 肩の上で揃えられた、自分と同じ少しくせのある淡い茶の髪と、落っこちそうに大きな水色の瞳。同年代の子たちに比べずいぶんと小柄なこともあって、よく実年齢より下の少女と間違えられるが、キーファ王子と同年の十一歳で、れっきとした少年である。幼年学校の制服のセーラー服と大きめに結んだリボンがよく似合っていて、親馬鹿な分を差し引いても、十二分に、いやもう国一番に可愛らしい(ここまでくると、どこら辺が親馬鹿を差し引いているか、という感じだが)。

 しかし、その口から飛び出てくるのは、少女のように甲高い声での大人顔負けの状況分析・皮肉付き、である。いつもは屈託なく、明朗快活の見本のような少年だが、一旦毒舌に転じると(とど)まるところを知らないのがたまにきずだ。

 首都にあるメルダース家の別宅の書斎。やっとの思いでソファーからはい上がったこの家の主人は、飾り棚の上に置かれた亡き妻の写真を手に取り、抱きしめてしみじみと語りかけた。

「ああ愛するヒルダ。僕たちはどこで息子の育て方を間違えてしまったんだろうねえ……。幼い頃はあ~んなにシャイで素直で可愛かったのに…、いや今も見た目だけはこ~んなに可愛いのに……」

「主語を間違えてるよ、父さま。母さまはぼくを産んでからほとんど寝たり起きたりの生活だったんだから、育て方を間違えたっていうなら、責任は父さま一人でしょ」

 ばっさりと切り捨てられ、哀れな父親は妻の遺影を抱いて撃沈した。息子はといえば涼しい顔をして、父親の前にちょこんと腰掛け、大量の砂糖入りホットミルクを口にしている。育て方はともかく、味覚はしっかり父親譲りだ。

 その父は、もう起きあがる気力も無くなったのか、行儀悪くソファーに寝転がったまま息子をたしなめた。愛妻の遺影もしっかり抱きしめたままである。

「とりあえず陛下は正気……、もといご本心からなされた人選だよ」

「だってそれ、どう考えたって変でしょ。『学園』に留学する王子の警護官ってゆったら……」


 まず年齢。先例としてだいたい三歳から五歳年長、士官学校を卒業するか、中途で退学したものが任官しているはずだ。同時期に『学園』に入学するのだから、警護官といってもあまり年長の者では相応しくない。だからといってエミールのように同年齢などということは、任務の性質上あり得ない。普通なら十一歳では、銃を持ったこともないという子どもが大半なのだから。

 それから身分。仮にも王家の人間を間近で警護するのだから、近衛兵と同じく貴族、それも相当高い身分のものから選ばれる。メルダース家の人間は軍での地位こそ皆高く上級将校も多数輩出しているが、実は家自体は貴族ではない。軍での功績に対し恩賞として与えられる『一代限』の爵位に準ずるものであって、たとえばヴォルフは准将として伯爵と同列に扱われているが、その息子であるエミールの身分は貴族ではなく、今はただの一市民なのだ。

 そして『学園』留学の際警護官になるものは、王子のご学友として出世を約束されたようなものである。当然、その競争率も並大抵のものではない。おそらく上流貴族社会では、水面下でシレツな自分の息子の売り込み合戦や、足の引っ張り合いが行われていたことだろう。

 …結論、そんなこんなで自分などにお呼びがかかるワケがない。だから、国王の指名が本当であれば、役立たずの子どもを警護官にして大失態を犯させ、一族郎党処分する理由にするか、警護官の肩書きを目の色を変えて狙っている上級貴族の連中の(ねた)みを一身に受けさせ、一家揃って闇に消されるのを待つかのどちらかが目的としか考えられない。以上、証明終了。


「どう?どこかぼく間違えてる?」

「いや、満点だ。……表面的にはね」

「表面的?じゃ、裏があったりするワケ?」

「裏というか……、そうだね、陛下も人の親だってことだよ」

 起きあがって息子と同じくらい砂糖を入れたカフェオレに手を伸ばす。そして怪訝(けげん)そうに説明を求める息子に、陛下との会話を再現してみせた。


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