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8、夜営業

(*- -)(*_ _)ペコリ

 日が暮れ始める頃、俺は酒場の隣にある空き地に長机と椅子を運び出すために外に出る。


「やっとかい」

「あぁ、カイエか。入っていいよ」


 カイエ以外にもちらほらと開店前から待っていたようで、俺たちの会話を聞いてゆったりと入口に集まってきた。


「よっしゃ。グランツさーん! 俺エール!」


 調子の良いカイエはスッと潜り込みように入店し、早速注文している。


「よう、アイル。俺たちも邪魔するぜ」

「お~! ディーグさん、お久しぶりです」


 ディーグさんは『愉快な酒場』という冒険者パーティーのリーダーで、カイエの所属する『リブレルの夜明け』とはライバルであり、この町の二大巨頭でもある中堅冒険者だ。


「今日は涼しいからスープ売れたろ?」

「はい。でもまだまだありますよー。ゆっくりしていってください」


 ディーグさん一行がぞろぞろと酒場に入っていく。


「ようアイル! 今日も外の席使わせてもらうぜ~」


 次にやってきたのは大工ギルドの面々だ。


「マクレルさん、今日寒いけど大丈夫ですか?」

「いや、問題ねえと思うが……」


 他の人にも確認するが、みんな気持ちは同じのようだ。

 魔境から大量の木材が流入してくるトゥリエでは大工の存在が欠かせない職業であるため、彼らの収入も高い。

 つまり酒場の上客である。

 冒険者より給料も安定しているので、売り上げのベースとなる貴重な存在なのだ。


「それより、ほら貸しな」


 そう言って仲間の一人が重い長机を抱えて空き地に向かう。

 他の面々も早く飲みたいのか、店の中に入って外に設置するための長机や椅子を運び出す。


「ありがとうございます、すぐ蝋燭に火点けますね。ご注文はいつも通りで?」

「おう、頼むぞー」


 十人ちょっとの大工さんたちが口々に返答しながら席を作って座り始める。

 もう他にお客さんがいないことを確認しグランツさんに人数分の三倍のエールを頼み、入ってすぐのところの台に置いてあった蝋燭と吊り下げ燭台を持って外の席に向かう。


「すいません、ありがとうございます」


 すでに席を作り終えていた大工ギルドの御一行は雑談を始めていた。


「なに、仕事終わりで疲れてるから早く座りたかっただけさ。それよりも酒だな」

「お酒もすぐ出るんでもうちょっと待ってください」


 俺は店と倉庫の壁に燭台を設置していき、それに蝋燭をぶっ刺していく。


「グランツさん! 外の蝋燭に火お願いします!」


 蝋燭をぶっ刺し終えた俺は店内で酒の提供をしていたグランツさんに声を掛ける。


「あいよー」


 グランツさんは両手いっぱいに木のジョッキを持って外の席までやってくる。


「はい、お待ちどうさん。とりあえずエール八つね」


 長机に置かれたエールを取り合う大工さんたちを尻目に、グランツさんは集中し始める。

 そして指先を蝋燭に向けると、次々に火が灯り始めるのだ。


「「「お~~!!」」」


 エールの取り合いをしていた大工さんたちもグランツさんの魔法に感嘆の声を挙げる。


「よし。じゃあアイル、店に戻って酒注いでくれ」

「はい」


 俺とグランツさんは大工さんたちの急かす声を背景に店へと戻る。


「おいアイル! 聞いてくれよ!!」


 店に戻ってすぐカイエに声を掛けられる。


「何だよ。まさかガストンさんたち来ないってことないよなぁ?」


 ガストンさんは『リブレルの夜明け』のリーダーである。


「ちげえよ! そんなことより聞いてくれって!」


 俺たちからすれば売り上げに関わる大事なことなんだけどな。


「じゃあ何だよ。エールに下の毛でも入ってたか?」


 俺がそういうと他の席で飲んでたディーグさんたちが笑い出す。


「ちげえよ! あれ見ろって!!」


 カイエが指した方を見る。


「あれ? セリス……?」


 俺の声が聞こえたのか、カウンター席の椅子に座った茶色の大きな物体が動き出す。


「やっほアイル」


 それはやっぱり、水の魔法使いセリスであった。


「いつの間に来たんだよ。てかセリスお酒飲めないだろ?」


 そうなのだ。

 彼女の下戸はみんなが知っている公の事実なのだ。


「用事があってお昼に来たんだけど寝てるっていうからさ」

「用事?俺に?」


 さすがに人生二度目の俺はドギマギすることはないが、これがそこらへんにいる普通の思春期の男の子ならヤバイだろうな。

 目の前まで来たセリスの真剣な眼差しを受けて、否応なしに人生の転機を迎えるような予感を感じるのであった。

(*- -)(*_ _)ペコリ

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