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7、開店準備中

(*- -)(*_ _)ペコリ

 料理屋としての昼営業が終わり、俺とリットは今までお昼寝していた。

 昼営業のたった二時間程度とはいえ早朝からの疲労が溜まっていたので、その後の仮眠はとても気持ちの良いものだった。


「よし、起きたな」


 グランツさんの方を見ると、今朝俺が買ったであろう大量の野菜を運んでいた。

 見るからに持ち上げるだけでも大変そうな木箱を易々と運んでいる姿を見て毎度ながら絶句する。


「アイル、悪いが今朝買ったもんの納品手伝ってくれ」


 酒場のすぐ隣には馬車を止められる駐車場のような空き地があり、今も商会員が薪やら炭やらを山のように盛っているのが開いた窓から見える。


「了解っす……」


 正直気乗りはしない。

 いくら寝たからと言って体力も全快するわけでもないし、グランツさんのような怪力が目覚めるわけでもないからだ。

 内心嫌々ながらも荷物が積まれた隣の空き地に向かう。


「よう、さっきぶり」

「んあぁ、アイルか……」


 疲労困憊といった状態のマリユスが汗だくになりながら馬車の荷台から商品を降ろしていた。


「あぁ、薪と炭はすぐそこの蔵に入れといてね」


 俺が指した場所は、酒場から空き地を挟んで向こう側にある普段から倉庫として使われている建物だ。

 酒場より堅固な造りなので、すぐ使われる生もの以外はそこに貯蔵されている。


「……いやだ」


 マリユスは恨めしそうに俺を見る。

 商会員の仕事は荷物を荷台から降ろすまでだ。

 しかしマリユスのような見習い奉公人は、卸先から駄賃をいくらか貰うことによって荷物運びを手伝ってくれる場合がある。


「何でだよ。こんな量俺一人じゃ無理だぞ」

「そりゃこっちのセリフだ! もう荷物降ろすだけで腕もパンパンだし腰も痛いわ!」


 荷台を見れば大半が降ろし終えているようだ。


「頼むよマリユス……。銅貨一枚出すから」

「一枚!? 少ねえよ!?」

「なら大銅貨一枚」

「くっ……。い、いや、駄目だ。俺昼飯もまだなんだよ。『赤獅子亭』で飯食ってお釣りが返ってくるくらいは貰わないと割に合わねえ……」


 うちの安い飯代だと大銅貨一枚くらいからで、手元に残したいなら三枚か。

 住み込みで働いている俺だが、実はお金に余裕がある。

 当初は夜営業のための仕込みや接客などをすることで養ってもらっていたが、昼営業を行うことになって賃金が大幅にアップしたのだ。

 今や、昼営業にかかる材料費や光熱費などの経費を除いた分の稼ぎが俺の稼ぎになっているのだ。

 これはもうグランツさんの人柄によるもので、感謝しかない。


「そういやマリユス一人? 御者のジローは?」


 ジローは日本人の名前のようだが歴としたカルリエ人である。


「あいつ重たい炭降ろしたら『あとはできるだろ?』って、水売りのセリスちゃん追いかけて行っちゃったよ」

「あぁ~……」


 水売りという言葉にあまりピンとはこないのは水資源の豊富な日本で暮らしていたからだろうか。

 この水売りというのは、水属性に適性を持つ魔法使いが精製する綺麗な水を販売する人または団体のことである。

 何でも、高位の魔法使いになると下水を水と不純物に分けて飲料水を得ることができるというから驚きだ。


「マリユス、大銅貨四枚出すわ」

「乗ったぜ!」


 水売りのセリスといえばこの近隣ではとても有名な美少女で、それに加えて珍しい魔法使い。しかも、食いはぐれる心配がないと言われている水属性持ち。

 彼女と何とか仲良くなりたいと思う男たちは多いのだ。


「ジローの野郎なんかに駄賃出したくねえからな」

「だな。あいつ帰ってきたらアイルにたんまり貰ったって自慢してやるわ!」


 俺は懐からマイ革袋を取り出して、大銅貨四枚数えてマリユスに渡す。


「よし、毎度。じゃあやっとくよ」

「頼むわ。水飲みたかったら出すから」

「助かるわ!」


 作業を再開するマリユスを尻目に、俺は残っていた野菜類の小箱を持って酒場に戻る。


「おぉ、アイル。マリユスに駄賃渡したんだろ?」

「はい。薪と炭は重いんで奮発しました」


 グランツさんは小間使いや見習いなどに駄賃を払うことを推奨していて、それは貧困を助ける善い行いだと教わった。


「そうか。……じゃあ次は特製スープ頼む。俺じゃ調整もできないからな」

「分かりました」


 一応グランツさんには火加減のことは細かく注文しており、低火力で取った端麗スープと高火力で煮出したとろみのある白濁したスープの二種類がある。

 これらは朝から煮出して作られ、昼夜の客層ごとによって好みが分かれている。

 あと一応他にも野菜出汁のスープもあるが、これは基本的に決まった野菜を煮込むだけなので誰かが気付いて野菜と水を継ぎ足している。


「どれどれ……」


 端麗系も白濁系も問題ない。


「グランツさん、肉焼き始めますね」

「そうだな。今日はたくさん焼かないといけないからな」


 心なしかグランツさんも気合が入っているようで、今店にある分だけではお酒が足らないと判断して倉庫の方へと向かう。

 夜の営業で俺は大きく稼げるわけではないが、それでも一店員として繁盛を願うのは当然のことだろう。

 今朝のカイエの言葉を今一度思い出し、俺も気合を入れ直すのであった。

(*- -)(*_ _)ペコリ

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