5、基準はオーク
(*- -)(*_ _)ペコリ
メリーエ商会で良い買い物ができた俺たちはリットお目当ての市場散策を始めた。
最低限の買い物は済んだので後はスープの材料と掘り出し物が無いかの確認になる。
野菜に関しては、元々商会と酒場の関係でコネがあるので心配はいらない。
「リット、何見たいの?」
「うーん……」
キョロキョロと辺りを見渡すがお目当ての物はなさそうだ。
「じゃあ先に掘り出し物ないか探していい?」
「うん」
いつも懇意にしている商会で買うより値段が安い物がないか良品はないかをチェックする。
先に商会に所属する商人が買い叩いた後フリーの行商人などが近隣の村々を巡って野菜などを集めるため、そんな頻度で掘り出し物に巡り合うことはほとんどないだろう。
だが、小銅貨一枚の値段の差でも命に直結するため、この日課は外せない。
「おー! アイル!」
急に声を掛けられてびっくりする。
「びっくりした。カイエかよ」
「何だよ、俺じゃ悪いかよ」
「そうだな。綺麗なお姉さんの方が良かったよ」
人通りの真ん中で応酬し合う。
彼は酒場のお客さんで、冒険者パーティー『リブレルの夜明け』に所属する少年だ。
俺は勝手に友達だと思っている。
「リットもおはよう」
「ん」
リットはそこまでカイエのことが好きじゃないようで、カイエと話しているといつも所在なさげである。
「いやー良かったよ」
チャラい高校生のような彼は、トレードマークの癖毛をクリクリしながら聞いて欲しそうにする。
「何が?」
やはり聞いて欲しいようで、俺が聞き返すとすぐさま喋り出す。
「実はな~? 俺たちついにオークを倒せたんだよ!」
「へ~」
オークって二足歩行の猪だよな。
「『へ~』ってなんだよ! オークめっちゃ強いんだからな? あいつらパワーえげつなくてさ」
と、オークについて語り出したカイエ。
「知ってるよ」
「あぁ、オーク倒せて一人前だからな。軌道に乗れば生活がかなり楽になるはずさ! リーダーも『赤獅子亭で飲む』って言ってたぞ!」
それは耳寄り情報だ。
『赤獅子亭』の夜営業は冒険者向けなので、大変ありがたい。
「じゃあ美味いもん作らないとな。てか、カイエは何で朝市にいるんだ? 飲むなら明日休みだろ?」
カイエの口振りからしてオークとはギリギリの戦いだったはずだ。それなら今日は休みだろうし、明日も酔いを残したままオークと戦うことはしないだろう。
「あー、そうだそうだ。新人が入ったんだよ新人。めっちゃ可愛い女の子でさ、その子のために朝から働いてるってわけよ」
「へ~、可愛い子は珍しいね」
冒険者になる女性は少なくないが、やはり可愛い子だと話が違う。
「そうなんだよ。俺らの掟で『できるだけ別の村の子と結婚する』ってのがあるんだ。だからたまに見かけない子に声掛けてるんだけど、大当たりも大当たりでさ。その子、なんと魔法も使えるんだよ」
「おー。それはラッキーだね」
この世界には『魔法』が存在するのだが、それが使えるのは一部の人に限られている。
カイエが騒ぐのも納得である。
「新人だしまだ誰の女でもないんだろ?」
「おいおいおいおい、まさか狙おうってか? 止めてくれよ、俺が声掛けたんだぜ。おいリット、何か言ってやれって」
気配を殺していたリットに話しを振る。
「カイエ邪魔」
「ぐっ……! 何でだよ!」
「掘り出し物無くなっちゃうよ」
リットの至極真っ当な発言で本来の目的を思い出したが、一分一秒を争う朝市ではもう掘り出し物は見つからないだろう。
「どんまい。もう良いもん残ってないっしょ」
「カイエ邪魔」
「じゃ、俺は防具見に行くから。また夜なー?」
この二人、仲が良いのか悪いのか分からないな。
結局この後市場で買い物せず、いつもお世話になってる商会で野菜を買い揃えて帰途につくのであった。
(*- -)(*_ _)ペコリ