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4、魔境の薪

(*- -)(*_ _)ペコリ

 少しは暖かくなっただろうか。

 肉類を運び終えた俺は必要品を買いに市場に来ていた。


「兄ちゃん、何買うの?」


 酒場に戻ってグランツさんに事の次第を報告していると床を掃除していたリットが市場に行きたいと駄々を捏ねたので、少々危険だが連れて来ている。


「薪とか炭とか毛布とか祭りと冬に備えて色々買うんだよ」

「へー」


 聞いてきたのに全く興味ないようである。

 商魂たくましい人々が声を張り上げて越冬に必要な物品を宣伝し煽っているところをスルスルと抜けてお目当ての店へと足を運んだ。

 俺がまず最初にやってきたのはメリーエ商会というトゥリエ屈指の大店だ。


「よ。今日も買いに来たよ」

「姉ちゃんおはよー」

「おーアイルにリットか。見てってくれよ」


 俺たちが挨拶したのはメリーエ商会で奉公している少女クリーエ。

 彼女はメリーエ商会の初代会長メリーエの孫娘である。


「今日は収穫祭に向けて色々買いに来たんだけど……」


 薪や炭などの鮮度管理が必要のない物品は商会の奥にあることが多いので、店の人に声を掛ける必要があるのだ。


「あいよ! 一旦向こうの倉庫行くといいよ!」

「あぁ、ありがとう」


 行ったり来たりしてリットとはぐれないように手を繋ぎ、クリーエが指してくれた場所へと向かう。

 クリーエの口振りからして冬に向けて大量に仕入れたんだろう。

 周囲に耳を傾けて話し声を聞いていると多くの人が越冬に向けて準備しているようだ。


「兄ちゃん、アレ……」

「ん?……あぁ」


 倉庫の前に見知った顔が見えた。


「マリユス!」


 俺が声を掛けると俺と同い年くらいの少年がパッとこちらを見て駆け寄ってくる。


「やあ! アイルにリット、元気だった?」

「もちろん。マリユスこそ最近見なかったから借金作ってどっかに売られたのかと思ったよ」

「マリユスどこに行ってたの?」


 軽くジョークを飛ばし会話を進める。

 事実最近マリユスのことを見かけてなかった。


「ひでえ! 修行してたんだよ修行!」


 そう言って倉庫をクイクイと親指で指す。


「へ~出世したの?」

「い、いやぁ? きゅ、給料は上がったから! 良いから入って!」


 軽口を叩きながらマリユスの案内で倉庫の中へと入る。


「御探し物は何ですか、お客様?」


 ニヤリと笑いながら丁寧な態度に直るマリユスだが、やはり年齢のせいで威厳はまだ無い。


「うむ。まずは薪と炭を持って来い。買ってやるぞ」


 わざと尊大な態度をして嫌な貴族を装う。


「うわー感じわるーい。リットもそう思うよねー?」


 と、リットからの返事を待たず一人方向を変えて歩き出すマリユス。

 俺たちもその後ろ姿を見失わないように追いかける。


「ほら、ここが薪で裏の奥に炭あって……。あそこに山盛りになってるのは炭袋ね。あとは……何か必要な物ある?」


 奥に広い倉庫のさらに奥にある野ざらしに近いエリアにこれでもかと薪や炭が積まれている。

 トゥリエの町は魔境と呼ばれる魔物の巣窟から遠くない場所で、計画的に森林資源を活用するためにメリーエ商会が一手に薪や炭を商っているのだ。

 たまに個人で薪や炭を売りに来る人もいるが結局品質も値段もバラバラなので、値段も良心的で品質も一定しているメリーエ商会を利用している人が多い。


「いや、とりあえず薪と炭買ってからだね。収穫祭間際になっても買える?」

「う~ん……。今日寒かったから結構売れちゃうと思う」


 寒さが命に直結する環境だとやはり保険として多めに買う人も増えるか。


「じゃあ注文するよ。この薪、一山いくら?」


 目の前にあるぎっしりと高く積まれた薪の山だ。


「へぇ、結構買う気だね。これは魔境産の大クヌギで一山銀貨十二枚だよ」


 前世で薪を買ったことがないから比較はできないな。


「う~ん、高いのか安いのか分からん」

「ははは。今回は俺が現地行って仕入れたんだ。だからいくらでも話せるよ。このクヌギの見事さは置いといても魔境産だから火持ちするよ」


 なんかよく分からないが魔境産だと火持ちするらしい。


「俺もよく分かんないけど普段使ってる薪と違うのは感じるはず!」


 友人のような付き合いをしているマリユスがここまで推すならきっと間違いはないだろう。

 しかし、普段の薪が燃える時間で必要数を計算しているから悩む。

 いや、かと言って火持ちが良いに越したことはないから……買いだろう。


「じゃあこれ買うよ。使い切れなかったら抱いて寝るよ」

「毎度! いつものように届け先は『赤獅子亭』でいいかな?」

「うん、お願い」

「よっしゃ、じゃあ番頭さんに報告してくる!」


 目をキラキラさせてテンション高めのマリユスは慌ただしく俺の横を駆け抜けてどこかに行ってしまった。


「兄ちゃん、炭は?」

「うん、覚えてるよ」


 しばらくして戻ってきたマリユスに炭のことを聞くと、炭は普段通りの物しかないということでそれを大量にお願いした。

 料理をするなら断然炭の方が火力が安定していて使いやすい。

 できれば魔境産の炭があればなと思いながらも、最後番頭さんに料金と配送の手数料を払って商会を出たのであった。

(*- -)(*_ _)ペコリ

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