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魔物使いと竜の谷  作者: mahiru
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魔物使いと竜の谷 承章4

承章  4


 世界は円でできている。巨大な水溜りの上に丸い輪が浮いており、水溜りは「海」と呼ばれ、丸い輪は「大陸」と言った。大陸では人間たちの生活が営まれていた。これが「世界」だった。

 大陸にはいくつもの国が点在していた。起伏に富んだ大地には山があり川がある。森林があり湖がある。北側は鋭角な山々の連なりに万年雪の寒冷、南は緑豊かな熱帯地域で、国々はより豊かな土地と支配を求め幾度かの戦争を繰り返した。そして今現在は大小合わせ約三十の国が存在している。殆どは和平を結び表立った戦はないものの、南側では落ち着かない場所もある。元々北側からの侵略に蹂躙された南地域は近年独立した小国が多く、そのため現在でも小競り合いが絶えないのが現状だった。

 大陸の真ん中にあいた大きな湖は広すぎて殆ど海とさえ呼べるもので「内海」言われていた。その内海には一際高い山々に囲まれた小さな島が一つ浮いている。そこへは誰も行くことはできなかった。曰く、そこは人の世界ではない、神――竜の島と言われていた。

「そんなとこに行くの?」

 ドレイクはアイーシャの顔を思いっきり蔑んだ目で見やる。

「ちゃんと聞いてたのか、エディの話。そこには行かれねえっつってんだろ」

「聞いてたわよ。まわりくどい言い方するからわかんないんでしょ」

「回りくどかねえだろ、お前の頭がお粗末なんだな」

「がさつよりましだと思うわ」

 つんっとアイーシャはそっぽを向く。なんだってこいつはいちいち人を馬鹿にするようなことを言うのだろう。

「なんか、仲良し兄妹みたい」

「はあ」

 シュリが言うのに、二人は異口同音にまったく同じ反応を示した。

「こんなアホが妹なわけがねえ。俺と血が繋がってたらもっと聡明でナイスバディだ」

「失礼な。こっちだってあんたみたいな無神経サル男が兄だなんて冗談じゃないわよ」

 確かに髪の色は同じような白金色だ。おまけに色の白い肌も、濃い瞳の色もアイーシャとドレイクではよく似ている。

「でもさ、せっかくなんだから仲良くしたらいいのに」

「シュリ。あんたの頭の中ってどんだけ平和思考なわけ。どこをどうしたらこの愚か者とあたしが仲良くできる要素を見いだせるっていうのよ。世の中には絶対って言葉があって、あたしとこいつが仲良くするなんて、絶っっっ対に無理だから」

「アイーシャ、ずっと兄弟がほしいっていってたじゃんか。村の子たち見ていいなって」

「なんでそんな幼少期の願望を引っ張り出してくるわけ」

 アイーシャが憮然とする。

「それならエディをお兄さんにするわよ。その方がよっぽど心安らかだわ」

 引き合いに出されたエディは眉を上げた。

「私は兄より恋人の方がいいな」

 こっちはこっちで違う問題発言を口にする。

「美人というよりも可愛らしい感じがとても私の好みだ」

 柔らかな笑みを浮かべたエディがアイーシャの肩に手を回した。

「どうだろう、アイーシャ。私のこと、本気で考えてみないかい?」

「またそんな冗談。やめてよ」

「結構本気なんだけどね」

 言葉と同様こちらとしてはどこまで真面目に捉えていいのかわからず対応に困ってしまう。エディの整った顔を見つめたまま顔が火照るのがわかった。

「ほらほら、お子様には刺激が強いらしいぞ。離れろ離れろ」

 ドレイクがにやにやしながら言うのに、頭の芯が冷静さ(?)を取り戻した。

「がさつな眼鏡を通すと恥じらいも歪んで見えてしまうのね、貧しい人」

「恥じらいってのは女がするもんだろ?」

「女ですけど、立派な!」

 アイーシャが顎を反らす。

「ああ、悪い。俺、胸のない女は女としてカウントしないことしてるんだ」

「あんた。今の発言で世界の女半分は敵に回したわよ」

「いいよ、別に。元々数に入ってねえんだから」

「――な」

 絶句するアイーシャに顔を寄せて、ドレイクはにやりと笑う。

「まあ、お前はせいぜいエディに大きくしてもらうんだな」

 アイーシャの中で何かが切れた。腰の剣に手をかける。

「エディ、あんたの知り合い、最っっっっつ低よ 今すぐぶっ殺す」

「おお、怖!」

「待ちなさいよ、この女の敵」

 ひらりと飛び退いたドレイクを追おうとした肩を、エディがまあまあと叩いた。

「何を暢気に笑ってんの? あんたも辱めを受けたようなもんよ」

「ドレイクの口が悪いのはいつものことだし、なんだか結構アイーシャを気に入ってるみたいだから許してあげてくれないかな」

 今までの状況を見て、どこをどうしたら気に入ってるなどという血迷った発言が出るのかが理解できない。

「気に入らない女性とは殆ど話さない。というか、自分からは話しかけないね」

「これまではそうかもしれないけど、あたしに対しては違うわ」

 あれは女だと思っていないのだ。気に入る気に入らないもない。もし一万歩くらい譲って気に入ったのだとしよう。だがそれは単なるおもちゃとしてしか考えられない。

「んもおおおっ――シュリ!」

「うにゃ」

 傍らで羽ばたく鋼の魔物に向かい物凄い速さで手を伸ばす。唐突な攻撃に反応できなかったシュリはあっさり掴まった。

「元はと言えばあんたが変なこと言うから、あたしが侮辱されたんじゃない!」

「らんれおれりあらるろ、ひろりろあいーら」

「何言ってるかわかんないわよっ!」

 それは勿論アイーシャがシュリの両方の頬を引っ張っているからであり、シュリのせいではない。理不尽極まりない話だ。しかしそんなことはお構いなしに気の済むまでいじめると、ようやくシュリを解放した。

「……大変だね、シュリ」

 よろよろと空中を漂うのをエディが見上げる。小さな手で両頬を押さえたシュリはいつものことだからと力なく答えた。

「抗えばよいのに。簡単だろう?」

 エディの言葉はアイーシャの耳にも届いた。当のシュリの表情を見たかったがあえて聞こえないフリをして回答を待った。

「守護魔は魔物使いに逆らったりしないよ?」

 ごく普通のシュリの声。それに対して特に追及もしないエディ。

 だがアイーシャは心の内で驚いていた。あまりに平静すぎる答えがどうにもらしくない。

 何の変哲もない会話だ。魔物なら人間より強いのではないのかとエディはただそう言っているだけだろう。そしてシュリもまた使い魔としての当たり前の答えを返しただけ。今の会話に何か含みのあるものと考えるのは、今の自分の心理のせいかもしれない。

だが、シュリは否定も肯定もしなかった。それがなぜかアイーシャには「できるけどしないよ」と言っているように聞こえた。



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