依頼 ②
※スマホの方は横に傾けることを推奨します。
帝城敷地内、屋外訓練場に到着。
親衛隊のメンバーにはあらかじめ伝えられていたようで
割と、とてつもない人数が集っていた。
「…親衛隊って、思っていたより人数多いんだな」
「それはもう、なんと言ったって『『皇帝』親衛隊』ですからね。
刺客が多いのは目に見えてわかっているので
出来るだけ同時襲撃に対応できるように人数が多くなっているんです」
「なるほどねぇ…。…ここに立てばいいのかな?」
クロは足元の訓練場の中央、平行に引かれた白線を指差す。
「はい。初めは互いに向き合って始めます」
「了解。…あ、彼らは見えるのかい?我々の動きが」
「大丈夫です! 彼ら、弱くはないので」
と、見ている者たちの中から1人の男がこちらに駆けてきた。
「隊長、全員集まりました。この方が今回の…?」
「そ。今回、特別師範として指導してくれる、ミクリネウス先生だよ」
「皇室第一親衛隊副隊長 ケヴィンと申します。
今回はどうぞ宜しくお願いします。
模擬戦をするとのことですがなぜでしょう?」
「ぁー…、あれですよ、
まずはあなた方のトップの実力を知って指導する内容を決める為です」
「隊長が貴方を殺しかねない状況になれば、すぐにでも止めますので」
「そんな心配しなくてもいいよケヴィン。この人は強いからさ」
「いくら我々を師範していただくとはいえ、隊長相手では敵いませんよ」
そう言うと、ケヴィンはクロを一瞥して去っていった。
「あぁ言っているが本気で来て構わないぞ」
「元からそのつもりですよ先生。
先生に教えてもらった頃から模擬戦はいつだって本気です」
「なら大丈夫だな」
そう言うと二人は向かい合って20mほど離れる。
セレスは自身の長剣を抜き放ち、構える。
「ん?兜は装着しないのか?」
「えぇ、どちらかといえば先生の技や動きを見ることが目的ですので。
先生こそ、武器は持たないのですか?」
クロはただ、素手のままで立っている。
「まずは素手で君の動きの観察をしようと思ってな。
もちろん途中から武器持ちにも切り替える」
「わかりました」
先程のケヴィンが声を掛ける。
「先行はセレス隊長からである。
隊長の動きを見ることのできる、またと無い機会だ。
全員しっかりと観察せよ。
では、両者構えて…」
セレスが少し腰を落とし、クロは右に半身開く。
「…始め!!」
声が掛かると同時にセレスの足が土をえぐる。
クロに方向を定め、並々ならぬ速さで走る。
先程のクロが皇帝に向かって走ったもの同じ速度。
─ なるほど。先の走りを見て、この短時間で習得したということか。
相変わらず相変わらず素晴らしい学習能力だ…
と、セレスは長剣の切先をクロに向けた。
─ ほぅ、突きまで習得したというのか…?
そしてセレスは叫ぶ。
「『《陽光剣技》 陽光一突…っ!!」
セレスの長剣が淡い神秘的な光を放つ。
空を割くかの勢いで迫るソレを、
体を左に少しずらして避け、素早く距離を取るクロ。
観衆にどよめきが広がる。
「なんだあの速さは!?」
「光の残像が残っていたぞ!?」
「あれが、間合い数十mの飛龍を一瞬のうちに倒したというあの…!!」
「隊長の技をお目にかかれるとは…!」
やんやと騒ぎ、ふっと、静寂が訪れる。
─ …………
「「「「…え、ソレを避けた……?」」」」
─ まぁ、そうなるわな。
実際、セレスの『突き』はとてつもない威力を持っていた
そう考えると当たり前の反応だな、と思ったクロはセレスの方へ向かい直す。
「なかなかに良い『突き』だった。
セレスは長剣で剣の軌道がすぐ分かってしまうから、
いきなり突っ込むのはなるべく避けようか」
「ありがとうございます、先生」
「では、再開してくれ」
「《陽光剣技》 陽光八閃…っ!!」
素早い十連撃、からの三連突きへの切り替え連撃。
クロは全てを軽く避けるが、セレスは間を与えないよう連撃を繰り返す。
「《陽光剣技》 陽光演舞っ!!」
正面全方位からの刺突。
素早く突くことで、ほとんど同時に対象へ攻撃が届くようになっている。
─ 長剣という刺突に特化したわけでもない剣で
ここまで連撃を繰り出せるのは素晴らしいな…
全てを軽く避けながらそう考えるクロ。
少し間が開いたタイミングでその手に長剣を出現させる。
セレスは一時動きを止め、問う。
「…先生から来ますか?」
その声にあるのは一種の恐怖。
それを吹き飛ばすかのようにクロは返す。
「いつも通りにしていれば大丈夫だセレス」
セレスの顔からいくらか強張りが消える。
それと同時にクロの顔から余裕さが消える。
「いくぞ」
「はい!」
セレスが返事をした次の瞬間、
クロの足元がクレーターができたかのように吹き飛び、クロの姿が消える。
「「はぁ!?」」「何処へ!?」「転移魔法か!?」
観衆の隊員達は騒ぐ。
次にクロの姿が見えた、と誰もが思った時、
クロは長剣を振りかざし、
その刃で今まさにセレスを右上から袈裟斬りしようとしていた。
「─ッ!!!」
刃を弾くのは不可能とみたセレスは
後ろへと大きく素早く飛び、剣撃をかわす。
クロの長剣は大きく空を薙ぎ、
その剣先の軌道上の先にあった地面が約30cmほど割れる。
「「はい!?」」
観衆の隊員達はまたも騒ぐ。
その『速さ』と『地面をえぐる剣撃』に対して。
クロは剣を振り切った後、そのまま大きく踏み込み、
引き下がったセレス目指して走る。
セレスは、ただ逃げるだけでは先に体力がきれる、と判断し、
迫り来るクロに対して構える。
クロは左に振り切った長剣をそのままに
左下から右上へ切り上げる。
─ガッゴォォン!!!
響く硬質な音。
セレスがクロの剣撃を弾いたのだ。
ただし、先のクロの剣撃が地面をえぐった通り、
クロの剣撃は重く、なおかつ鋭い。
セレスはソレを弾いた衝撃で後ろへすっ飛ぶ。
「─シッ!」
短く息を吐き、宙を舞っているセレス目掛け飛ぶクロ。
クロの「突き」が決まると思われたその時、
セレスの剣が発光し、ソレを掲げて宙で身体を捻り、
「『《陽光剣技》…」
大きく一回りすることで大きな光の輪が創られ、
もう一つの太陽ができたかと疑うほどに眩く輝いた。
「な、なんだアレ?!」「アレは見た事がない!」
隊員達も初見だったようでどよめきがあがる。
だが、クロは構わずセレスへと迫り、
セレスは叫ぶ。
「『陽光煉火 炎環一閃』ッ!!」
光の輪が剣に収束し、セレスの剣の刃と髪の毛先が
紅とも朱とも黄ともつかない色に眩く輝き、
それを真っ直ぐクロへと振り下ろす。
─ ッゴオォォォオォォォンッ!
剣先と刃の接触。
剣技に身体強化の効果があるのか、
先程クロの剣撃に弾かれたセレスが今は拮抗している。
─ ギギィィギギギギュギュギュグガギギギ…
金属同士の音とは思えない音が響く。
どういう原理なのか、互いに地面へと落ちない。
と、
─ メギィッ!!
セレスの剣の刃がクロの剣先にめり込む。
発光すると同時に発熱もしていたらしいセレスの剣は
クロの剣を徐々に溶かしていたのだ。
─ メギィギギギギギギ…
と、どんどんとセレスの剣が進む。
クロは構わず突き続ける。
そして、クロの剣はとうと耐えられなかったか、
─ グァギギィーーンッ!!
と、砕け散る。
セレスは剣を振り切らず、
そのまま剣を突き上げ─
─その先に砕けた剣の持ち主はいなかった。
「……え?」
思わず声のこぼれたセレス。
と、振り向こうとした時、
背後から大きな衝撃を受ける。
「キャッ!?」
戦う姿とは打って変わって女性らしい悲鳴をあげるセレス。
と同時に惑ってもいた。
─ これは……水? なんで? …あ
惑うがあまり、受け身を取り忘れ地面へ激突したセレス。
そのまま静かになってしまった。
「ちょ、おおーい!?セレス!?大丈夫か!?」
今までで一番の速さで駆け寄るクロ。
はっとした様子で副隊長ケヴィンが声をかける。
「しょっ、勝負ありィッ!!」
こうしてクロとセレスの模擬戦が終わった…──
───
気絶させたのは俺だから、と
セレスを担いで背中に背負って医療室へ向かうクロ。
『んむぅ…』と後ろから声が聞こえて
「すまなかったな。大丈夫か?」
と、クロは声をかける。
「大丈夫ですよ〜。
まだちょっとぼんやりしますけど…」
「本当にすまなかった」
「別に良いですよ〜 。
私が受け身を取れなかっただけなので…」
「あぁ、そうなのか?
俺はてっきり威力の加減を間違えたのかと…」
「何故水魔法を使ったんです?」
「最後の剣技、『光』を作り出すことによって神聖力を引き出し、
それを身体強化や武具強化の力として使ったところまでは良かった。
ただ、それと同時に『光を発する』という事は
『熱を伴う』という事。魔法も技術も同じ。
自分で気付かなかったか?」
「実は初めて使いましたので…」
「そうなのか!? …そういえば隊員達も驚いてたな。
今後技を考える時にはこういう事にも
気を付けろよ?」
「はい…」
「まぁ、技自体は素晴らしかった。
発熱自体はどうしようもないから、
あとはどう熱を処理するか、が問題で…」
そこまで言って、ふと立ち止まるクロ。
「あー、セレス?」
「はい? なんですか?」
「申し訳ないんだが、医療室ってどこかな…?
城に来るのも久しぶりだったし、
城も広すぎてどこかわからなくなっちまった…」
─ その後、
医療室へたどり着くまでに結局30分以上かかり、
ようやくたどり着いた頃には
セレスは完全に復活していたのだった…