依頼 ①
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手紙を受け取って数日後、帝城内玉座の間にて。
玉座に皇帝が座り、
皇帝の右脇に完全装備の護衛の騎士、左脇に宰相が立ち、
その手前の二,三段ほどの階段下に置かれた机に、皇帝の真正面にクロ、
その両脇に3人ずつ各大臣がいる形で座る。
左右の壁際には騎士が4人ずつ、等間隔に立っている。
宰相と召喚に関する形式的な応答を済まして本題に入る。
「さて、今回そなたを召喚した理由は軍事部門の面と技術部門の面の二つがある」
皇帝がそう言うと、1人の大臣が椅子から立ち上がる。
黒地に白と金の糸で刺繍の施された軍服を身に着け、
赤めの茶髪をオールバックにした、三十代ほどの見た目の男。
「軍部大臣を務めるグリム・テラ=ヴェールと申す。
皇帝陛下より軍部総大将の官位を賜っている。
ミクリネウス殿には我々、軍部に属する者に稽古をつけて欲しい」
ー これまたずいぶんと大層な『頼み事』だな…
「なぜ俺に? そもそも何故、稽古をつけるのです?」
「うむ。最近軍部で働いている者達には
この都以外の街から来るものも多くなってきたのだが、どうやら、
自分の才能や自信に頼りきって日頃の訓練や鍛錬を怠っている者がいるらしい。
軍事部門の機関にそういう者がいては軍部としての威厳が損なわれてしまう。
なので、講師を呼んで指南してもらおうという話だ」
「それは分かりました…。では何故、俺なんでしょう?
冒険者ギルドに依頼して、現役の冒険者に指導してもらうのが宜しいのでは?」
グリム軍部大臣は心底疲れたといった様子でこう返してきた。
「それも考えたが、件の者達は皆、
軍部の基準で見ればまだまだだが、
冒険者の基準に当てはめると中の上ほどの実力があり、
それを指導するとなると高位の冒険者を雇う必要があってな…」
「…そういった高位の冒険者は高位であるが故に雇いの賃金が
どれほど吹っかけられるかわかったものじゃない、そう判断したんですね」
大臣は頷く。
「いかにも。なので冒険者ではない者で兵らを指導できる程の強者。
皇帝陛下は、まさしく貴殿が相応しい、と」
「なるほど、それで…。しかし、本当に良いのですか?
俺なんぞが軍事関係に首を突っ込むなど…」
その問いに答えたのは皇帝。
「そなたなら、なんの問題もあるまいよ。
下手な高位騎士でもそなた相手では敵うまいて」
「それは過大評価なのではないでしょうか…?」
「はっはっは。『過大』なことがあるものか。
そなたの実力はもはや我々の判断では『過大』の域なぞとうに超えておるわ。
皇帝として、というより人として言うが、
そなたの場合、実力をもう少し知られるべきであると儂は思う」
ー こうも言われると断るのは無理か…
「…わかりました。やりましょう。ただ、全ての攻撃・防御の方法について
俺が教えることはできないのでこの後冒険者ギルドに寄るついでに、
何人か助手として連れて来るのは構いませんか?」
「なるほど、了解した。詳細や日程の方はまた後日にお伝えする」
そう言ってグリム軍部大臣は従者と思われる者に書類を渡した。
「では、次に技術部門について、技巧大臣」
「はっ」
そう返事をして、軍部大臣と変わるように立ち上がったのは、
大臣にしては少しだけ、庶民のような着古した雰囲気の漂う服に、
金の刺繍の軽く入った白衣を纏い、丸眼鏡をかけ、
白髪混じりの銀髪と少しの髭、初老のような見た目をした男。
「技巧大臣を務めている、ヨハン・サッチモントと申します。
以後、見知り置きを。
…ミクリネウス殿というと、あの『生命輪廻転生論』を書かれた…?」
「アレをご存知ですか。確かに,五年ほど前に俺が唱えた論ですが」
「おぉ、やはりそうでしたか…!あの転生理論はとても興味深く覚えたのですよ」
「それはそれは、どうもありがとうございます。あ、で本題の方は…?」
「あぁそうでしたな。
実は現在、『魔術機関式稼働兵器』、通称『魔導兵』という
魔法道具などに組み込まれる魔術機関を用いた
装甲兵を開発しているのですが、その技術指導にあたっていただけないかと…」
「確かに魔術機関や魔術回路には通じていますが…。
それだけなら俺以外にも適任者はいるでしょう?何故、俺に?」
「あぁいや、ミクリネウス殿に指導して頂きたいのは
機関や回路ではなく、『動力源』に関してです。
どうしても現在の動力源としている、
魔物の核ですと機関と回路に異常をきたし、上手く稼働しないのです。
これについて貴殿の力を貸して頂きたい」
「ほぅ…動力源、ですか…。
実物を見なくてはいけませんね。わかりました。
先のグリム軍部大臣のご依頼と兼ねてそちらにも伺いましょう」
「ありがとうございます」
そう言ってヨハン技巧大臣は頭を下げて続けた。
「場所を先に申しておきますと、『神聖魔術研究機関所属教会』です。
所在地はご存知ですかな?」
「…え?あ、はい。問題ありません…」
ー 見事に用事が被ったな。研究に協力するついでに行けるとは
ヨハン技巧大臣が座ったのを見計らい、皇帝が口を開く。
「急用で依頼したいことなどがある者はおるか?」
「いえ、ありません」「こちらも」「私めもありませぬ」「他方に同じく」
「では、これにて会議は終了する。
ミクリネウス殿はこの場に残り、大臣らは退室せよ」
「「御意に」」
そうして会議はお開きとなった。
ー 大臣らの退室後
玉座の間には皇帝とクロと皇帝横の護衛騎士のみになり、
皇帝グランは、
「お久しぶりです、クロ先生」
と、切り出した。
「久しぶりだね、皇帝グラン。
いや、『剣聖のグラン』と呼ぶべきかな?」
「やめて下さいよ。二つ名で呼ぶのは…。
そっちで僕のことを呼ぶ人もうほとんどいませんよ?」
「そうかい? ともかく、俺が敬語を使わないのは問題だろう。
まぁ、教えを請うた人に敬語を使われるのはそりゃ変に思うだろうが、
君は『皇帝』なんだからさ」
皇帝グラン・シルファード=アダミゼム。
クロが教師となる以前、冒険者をしていた頃の教え子の1人である。
前皇帝の末子、第五皇子であり、即位する可能性が低いことと、
彼自身の広いこの世界を見て回りたいという思いから、
国民に皇族であることを隠しながら十六歳の頃から冒険者をしていた。
その中でクロと出会い、師弟関係となった。
二つ名『剣聖のグラン』にあるように『剣聖』の域にまで達した弟子である。
「先生は全然変わりませんね。老いが全く見えない」
「見た目と口調にそれが出ていないだけで、歳を取ってはいるぞ」
「そうなんですか?ここに先生が入ってきた時に、
僕はてっきり、先生は歳を取らない化け物なのか、と思いましたよ」
「化け物言うな」
「ふふふ。あ、ところで先程の依頼、本当に引き受けて貰えるんですか?」
「もちろん。大臣達はあぁ言っているが、
実際のところ、あの内容は全部お前の考えだろう?
自分からじゃ言えないから言わせてるだけで
元を正せば『お前の依頼』というわけだからな。弟子の頼みは聞かなくては」
「本当にありがとうございます先生」
「いいってことよ。……ところでだな」
次の瞬間、
ガッギィィィイ゛イ゛ィィィィーーン゛!!!
凄まじい音と共に
皇帝に向けられた細剣の剣先が止められる。
止めたのは皇帝…の傍の護衛騎士。
手に持つ長剣で細剣の進行が阻まれている。
細剣を握るのはクロ。
― しばしの沈黙。
クロは細剣をどこかへとしまい、口を開く。
「見事だ。鍛錬は怠っていない様子だな?
剣先を少しずらしたはずなんだが、それも目で捉えて止めたか」
完全装備の騎士は長剣を鞘にしまい、
「おっしゃる通り、鍛錬は怠っていないはずなのですが、
少し腕が痺れますね。剣が折れるかと思いましたよ…」
そう言いながら騎士はその兜を取る。
現れたのは、
整った顔立ちに、後ろでまとめた太陽のように眩しく輝く金髪、
その眩さに反するような淡い空色の瞳をした美女。
「お久しぶりです、クロ先生。」
そう言って彼女は礼をする。
皇室近衛兵隊隊長 セレス・ミキシリオン。彼女もまた、クロの教え子である。
クロは皇国の人々を守りたいという彼女の、剣技の才を見出して指導し、
学園を卒業したのちに冒険者として三年間実践を積ませた。
その結果、なんと騎士団の入団試験に主席で合格した実力を持つ。
現在は近衛兵として『太陽の剣』もしくは、『太陽の騎士』として知られる。
皇帝グランはなるほどといった様子でセレスに話しかける。
「あぁそうか、君もクロ先生の生徒だったか。
素晴らしい反応速度だったと思うよ」
「良かったな、セレス。かの剣聖様から褒められたぞ」
まんざらでもない様子のセレス。
「あ、先生、この後訓練場に来てはくれませんか?
私と軽く模擬戦をしてほしいのですが」
「この後…次の用事まで時間はあるからいいが、なぜ模擬戦?」
「さっきの『突き』を受けた時、久々に先生と戦ってみたく思ったのと、
親衛隊のメンバーはみんな、私を到達点にしていて
もっともっと上がいることを知らないので
先生との戦いを見学して気持ちを改め、さらに上を目指してほしいのです」
「なるほどね…。じゃ、グラン君、
そういうことだから行ってくるよ」
「えぇ、彼らにどうぞお手柔らかにお願いしますね」
皇帝には第二親衛隊から護衛がつくらしいので
セレス含め第一親衛隊のメンバーは
模擬戦を観戦できる、ということだそうだ。
そうしてクロとセレスは玉座の間を退出して訓練場へと向かった──
登場キャラクター 詳細
○皇帝 グラン・シルファード=アダミゼム
Lv:115
年齢:45
種族:人間
職業:第五十一代目グランセリデ帝国皇帝,英雄,剣聖,冒険者(剣士),
竜殺し,
スキル:
特殊スキル:
サブスキル〔最大lv.15〕:
○セレス・ミキシリオン
Lv:
年齢:
種族:
職業:
スキル:
特殊スキル:
サブスキル〔最大lv.15〕: