11話 癖の強いご先祖様
「――ほう。これが新しい肉体か。悪くないな」
赤褐色の髪のゴーレム、もとい私の先祖はそう言って笑った。
久しぶりに作成したから成功するか不安だったけれど、どうやら腕は落ちていないようだ。
トレーラントと話し合った翌日、私は早速先祖の思考と人格を宿したゴーレムの作成に着手した。
迷宮の完成よりも前に、計画の要である魔道具の作成を少しでも進めておきたかったからだ。
ゴーレムはエテールにいるときに散々作ったからね。死体を調達する時間も含めて半日もあれば完成したよ。
他のゴーレムと違うのは使用している魔石に思考と人格が宿っていることと、耐久性かな。
屋敷に配置していたゴーレムのように戦わせるつもりはないけれど、不測の事態が起きることもある。
核である魔石が壊れたり、誰かに回収されたりしたら事だから、今回作成したゴーレムには保護魔法を大量にかけておいた。
あとは同じだ。私を主だと認識させておいたから、他のゴーレム同様に指示に従ってくれるはず。
……理論上は、だけどね。
「具合はどうかな。なるべく、肖像画に描かれていた容姿と似た人間を探したのだけど」
「ああ、問題ない。お前がこのゴーレムの作成者か。なかなかいい腕をしているじゃないか。
それに、死体をゴーレムに使うなんていかれた発想もいい。
俺以外にそんな発想をするやつがいるとは思わなかった」
私の問いかけに、先祖は朗らかな笑みを浮かべて答えてくれた。今のところ、敵意はなさそうだね。
金色の瞳が私をじっと見つめて、やがて納得がいったかのように頷く。
「その魔力、アーチェディアの直系だな。何代目だ」
「十三代目だよ」
「そうか。思っていたより早かったな。
あの下郎の子孫ともなれば、しぶとく生き続けるもんだとばかり思っていた。
王家は何が原因で滅んだ? 流行病か? 戦争か? あるいは革命でも起きたか?」
こちらを見上げた先祖の目は、先ほどまでとは打って変わってぎらぎらと輝いていた。
私としては本題に入りたいのだけど、今の様子ではそれは難しそうだ。
悪魔と契約してまで見届けたかった結末をついに見られるのだから、その理由が気になるのも仕方ないのかもしれない。
私も、君が蘇った直後に冷静でいられる自信はないからね。
特に隠すことではないし、長くかかる話でもない。話すとしようか。
陛下が処刑されることとその理由を話し終えると、先祖は何かを堪える素振りで俯いた。
厚みのある肩が小さく震え出し、くつくつと押し殺した声が漏れだす。
やがて、彼は声をあげて笑い始めた。
「傑作だ! 素晴らしい! 彼女に罪を着せて処刑した屑共の末路としては相応しいじゃないか!
お前、ウィルフリートだったか? よくやった、感謝する!」
よほど王家への恨みが深かったのだろう。彼はそれから数分間、ずっと笑い続けていた。
私は何か嬉しいことがあってもああして声をあげて笑うことは出来ないから、少し羨ましいよ。
そう言ったら、隣で毛繕いをしていたトレーラントに尻尾で叩かれてしまったけどね。
しばらくすると、彼はようやく声を収めた。作り物の身体であるためか呼吸は全く乱れていない。
ただ、目尻に浮かぶ涙が先ほどまで笑い続けていたことを示していた。
私の足元に胡坐をかいて座り込んだ男がこちらを見上げる。
「それで、お前は俺に何を望むんだ」
その声は、直前まで子供のようにはしゃいで笑い転げていた人と同一人物とは思えないほど落ち着いていた。どことなく威厳を感じるのは気のせいではないだろう。
ゴーレムの素材として使った死体はごく普通の罪人だったはずだから、きっと彼自身が生前に身に着けていたものなのだろうね。
形のいい唇が微かに弧を描き、私の返事を待たずに開かれる。
「俺をわざわざゴーレムに埋め込んだってことは、なにか作らせたい魔道具があるんだろう?
お前の支配から抜け出すことなど容易だが、王家を滅ぼしてくれた礼だ。
アストルム一の魔道具師と謳われた男がお望み通りの品を作ってやる」
「それでは、さっそくお願いしようかな」
どうやら彼は、自身がゴーレムになった状態でも私の支配下から抜け出せる技術を持ち合わせているらしい。
ゴーレムは魔道具の一種だからね。私の腕では、優秀な魔道具職人である彼を従わせるのは難しいだろうと予想はしていたよ。
反乱されたところで鎮圧するのは容易だけど、従わせられなければ魔道具を作らせるのは難しい。
彼の申し出は私にとってありがたかった。
別段遠慮する必要はないので私が望む魔道具の仕様を伝えて、彼の反応を待つ。
「一定の条件下で発動する転移装置で、他の魔道具師や魔術師には仕掛けが分からないようにしたいか。難しい条件ではないな。
本格的な着手はこの時代の技術を学んでからになるが、今もいくつか案が浮かんている。問題はない」
最悪の展開は彼に「そんな魔道具は作れない」と言われてしまうことだったけれど、それは避けられたようだ。
癖のある髪を豪快に掻き上げた彼が「ただし」と言葉を付け加える。
「金と時間はかかるぞ。案は浮かんでも、実現させるには苦労するんだ。
一昼夜で完成するとは思うなよ」
「エテール領主として、それは理解しているよ。
素材と道具と環境はこちらで用意してある。必要なものがあれば遠慮なく言って欲しい。
迷宮が完成するのは半年から一年後と言われているから、そのくらいを目途にしてほしいな」
「分かった。想像以上のものを作り上げて見せるから、期待しておけ」
そう言って、彼は器用に片目を閉じた。私にはできない芸当だ。
君もあの仕草が上手だったから、蘇ったらコツを教えてほしいな。
使う機会はあまりないと思うけれど。
しばらく話し合った結果、彼には城内にある隠し部屋で働いてもらうことになった。
身体として使っているのは死刑囚の死体だからね。外に出して素性がばれたら大変だ。
壁や床には防音と防振の魔法をかけてあるし、私が王になった後に増設した部屋だから場所を知るのは私だけ。彼の存在は隠し通せると思う。
「じゃあ、俺は用意してくれた部屋とやらに行くぞ。足りない道具や素材があったら言わせてもらう」
「頼んだよ……ああ、そうだ。一つ聞いてもいいかな」
「どうした。仕様の追加か」
立ち上がった彼を呼び止めると、金色の目が私を見下ろした。
ゴーレムとして目覚めた彼に、これだけは聞いておこうと思っていたんだ。
「君はアーチェディア伯爵家六代目当主、ジークフリート・フォン・アーチェディアで間違いないかな」
すぐに返事は返ってこなかった。
やがて、ため息をついた男が首を振る。
「――いいや。
俺はジークフリートの思考と人格を有しているだけで、あいつ自身じゃない。
王家に恨みは抱いているし当時の感情も思い出せるが、それだけだ」
それは以前スロウスが語っていた通りであり、私も半ば予想していた事実だった。
残念だな。彼が本当にジークフリートだったなら、君を蘇らせる手段として使えると思ったのだけど。
錘で君を蘇らせることが絶対に可能だと断言できなくなってしまった以上、失敗した時に備えて次の手は確保しておきたかった。
私を眺めていた男が、淡々とした様子で言葉をつづける。
「だが、俺はジークフリートの意思を継いでいる。
あの男を「保存」することは出来なかったが「再現」は出来た。目的を果たすにはこれで十分だ。
それで、王の処刑はいつになる」
「まだ日時は決まっていないけれど、あまり先ではないはずだよ。
もう少し待っていてくれないかな」
「もちろんだ。待つことには慣れてる」
こちらを見つめた彼は、悪戯っぽく笑って片手を差し出した。
意味を図りかねて動こうとしない私に焦れたのか、いささか強引に右手を掴まれる。
死体特有の冷たい手が、私の手をしっかりと握った。
「協力の証さ。よろしく頼むぜ、ご主人様」
彼は本当に私の先祖なのかな。
あまりに父や私と性格が違いすぎて、少し不安になってきたよ……。




