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悪魔の道具は今日も真摯に絶望させる  作者: 紫苑
4章 悪魔の道具は今日も真摯に呪いを解く
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8話 国王陛下の無邪気な提案

 魔法王との取引を終えて、一週間が過ぎた。


 まずは君に謝らないといけない。君の身体を再生させるには、もう少し時間がかかりそうなんだ。

 ヒュドラの心臓と不死鳥の遺灰(これは要するに、不死鳥が再生する前の灰のことだ。すぐに用意してくれた)、それからユニコーンの角やマンドレイクのような諸々の魔法素材。

 これらを不死鳥から教わった通りに調合すれば、死体も再生する魔法薬が出来上がる……はずだった。


 素材は問題ない。ユニコーンの角もマンドレイクも金貨を積めば手に入るし、私が直接調達することも可能だからね。

 問題は、調合の難易度だ。何度も挑戦したけれど、想定通りに出来上がらない。

 不死鳥曰く、人間でこれを完成させられた人は少ないらしい。

 ハープギーリヒ侯爵が調()()()()()()()()と言った理由が分かったよ。


 もちろん、諦めはしないよ。素材はいくらでも手に入るし、私には無限の時間がある。

 調合に成功するまで、何度だって取り組むつもりだ。どうか、気長に待っていてほしい。


 王になったのに調合に勤しむ時間があるのかと思うかもしれないけれど、その点は安心してほしい。

 私の日常は以前とあまり変わっていないんだ。

 城の敷地内にある聖堂へ朝晩祈りを捧げに行くという日課は加わったけれど、それほど時間が取られるわけではないからね。

 君に話すことを頭の中で整理するいい時間でもある。


 ああ、神には祈っていないよ。元から信仰心が篤かったわけではないけれど、君がいなくなった時点でそんなものはすっかり消え去っているからね。

 神の存在を否定するわけではないけれど、祈る気にはなれなかった。

 祈ったところで願いが届く保証はないし、届いたところで叶えてくれるとも限らない。

 それなら、君が喜んでくれそうな話題を見つける方がよほどいい。


 悩みすぎて予定の時間を過ぎてしまうこともあったけれど、咎められたことはなかった。

 君に何を話そうか、何を一緒に食べようかと真剣に悩む姿が熱心に祈りを捧げていると取られているらしい。

 私は頭の中が整理できるし、民は天使から祝福を受けた王が神に祈りを捧げる姿を見てこの国の行く末に安堵できるし、ヴェンディミアは人々の信仰心が増したことを喜べる。

 うん、何から何までいいこと尽くしだね。


 もっとも、完全に昔のままではないよ。

 例えヴェンディミアが私が政に関わることを望まず、私も同様に考えていたとしても、体面というものがあるからね。

 今日開かれたアストルム王国の今後の方針を決める会議に出席するのも、私の仕事の一つだった。


「これより、アストルム王国が今後とるべき方針についての会議を始めます。

 まず、アストルム王国の現状ですが……」


 アストルムではあまり見ることのない眼鏡を掛けた青年が、時折羊皮紙に目を落としながらアストルムの現状について述べていく。

 それによると、今のアストルムは統治者のほとんどが一新されたこの状況でも混乱が少ないらしい。

 むしろ、景気がよくなっているとも言っていた。


「戴冠式で天使フェネアン様が降臨され、アストルムに祝福を与えられた話は既に広く知られています。

 各国の聖職者が巡礼に訪れると共に、冒険者や商人といった者も多く集まっているようです」


 聖職者がアストルムを訪れる理由は分かる。

 戴冠式を終えた後、アストルムの司祭を始め様々な聖職者から面会を望まれたからね。

 聖地巡礼と同じようなものです、とヴェッキオ枢機卿は言っていた。


 人が集まれば当然、消費も増える。

 聖職者とはいえ飲まず食わずで生きられるわけではないし、全ての欲を捨てたわけでもない。

 せっかく遠くまで足を伸ばしたのだからと土産を求めたり、長く滞在する際には日用品を買いそろえたりする者も多いだろう。

 商品が売れる機会を商人達が逃すはずもないから、彼らがこの国に集まる理由も分かった。

 だけど、冒険者も集まるというのは不思議だね。私には都合がいいのだけど。


「聖職者や商人はまだしも、なぜ冒険者まで?」


 私と同じように疑問を抱いた者は多くいたのか、どこからともなく声が上がった。

 眼鏡を掛けた青年が頷き、言葉を続ける。


「どうやら、冒険者の間で「王都を訪問すれば幸運が得られる」という噂が広まっているようです。

 また、一部の商人はその噂に付け込み「天使の祝福を受けた水」や「陛下が触れた聖書の切れ端」といった教会が認可していない商品を高額で販売しているとの報告がありました。

 こちらは既に対応済みですが、当分は同様の手口を使う商人が現れるでしょう」

「フェネアン様と陛下を金儲けの道具に使うなど、とんでもない輩だ」

「これは、厳しく取り締まるべきでは」


 青年の話を聞いて、会議に出席していた神官や大臣達が口々に声を上げた。

 私には少し名の知られた人間に便乗して儲けようとするお決まりの手口としか思えないのだけど、それに天使や私が利用されたことがまずかったらしい。

 この場にいるのは聖職者よりも政治家の色が強い者ばかりだ。

 けれど、もとが聖職者であるだけにやはり譲れない部分はあるのだろうね。


「天使やその祝福を受けた王を利用した商売など侮辱も同じ。厳罰に処すべきだ!」

「いやいや。ヴェンディミアならその案も通っただろうが、仮にもここはアストルム。

 取り締まりは強化するが、罰則自体は既存の法に乗っ取って与えなければ」

「それならばいっそ、新たに法を作っては……」

「ヴェンディミアの色が濃い法律を今定めては、他国からヴェンディミアがアストルムを傀儡にしていると思われかねません。まずは様子見を――」


 様々な意見が飛び交ったおかげで話はなかなかまとまりそうになかった。

 まだ議題としては一つ目だというのに、このままでは議題よりも先に会議が終わってしまいそうだ。

 進行役の青年もそれに気がついたのだろう。

 人々の声が途切れた一瞬の隙を狙って「皆さん」と声を張り上げた。


「この件については皆、様々な意見があるでしょう。

 しかし今はアストルム王国全体の方針について話す時です。

 別途時間を取りますので、ひとまずこの議題は終了とします」


 青年の言葉で、ようやく部屋が静かになった。異議を唱える者はいないようだ。

 既に予定の半分近くの時間が経っていることに気がついたのだろう。

 私は特に予定がないけれど、彼らは違うからね。


 次に議題として上ったのは、アストルムの収入に関する話だった。


 アストルムには名産品と呼べるものがほとんどない。

 国内では菓子や工芸品で有名な地もあるけれど、他国ではほとんど知られていないのが現状だ。

 エテールの魔道具は国外でも名が知られているけれど、量産が出来ないから輸出には限りがある。


 これまではそれが問題になったことはなかった。

 名産品がないからといって売れるものがないわけではないからね。

 近隣諸国との取引と税収で得た収入だけで、十分に国家を運営していくことは出来ていた。


 だけど、状況が変わった。

 今のアストルムには貴族が……土地を治める領主がほとんどいない。

 それはつまり、税を取りたてるのが難しい状況にあるということだ。

 アストルムでは、税の徴収は領主に一任されていたからね。


 今のところ、ヴェンディミアが領主代理を派遣してくれているおかげで滞りは少ない。

 ただ、彼らは恒久的にその地を統治するわけではない。あくまで代理だ。

 だから領主として据える人間の選定と教育を早急に進めているのだけど、その費用がかさんでいた。


 今のアストルムは確かに景気がいい。

 だけどそれは、新しい王が就任して天使が訪れたという話題に惹かれて人が増えているだけだ。

 一年、いや半年もすればアストルムを訪れる人は減るだろう。


 国庫にはまだ余裕がある。今までの貯蓄や貴族家を取り潰した際に接収した財産などがあるからね。

 でも、それに頼ってばかりはいられない。

 収入が変わらず支出が増えた状態では、貯蓄は減っていくばかりだ。

 少なくとも向こう十年は人の育成に金銭と時間を取られるであろうアストルムにとって、収入源の確保は早急に取り組まなければならない課題だった。

 いざとなればヴェンディミアが支援するだろうけど、あまりそれが過ぎるとアストルムを属国にしたと見られかねないからね。


「陛下が治められていたエテールでは魔道具がよく知られているそうですね。

 大々的に魔道具を宣伝してはどうでしょう。

 確かに魔道具は高価ですが、その力を欲する国も多いはずです」


 真っ先に口火を切ったのは、私よりも少し若い緑の目の青年だった。

 いきなり話題を振られて驚いてしまったことを顔に出さないよう、注意しながら口を開く。


「いい考えだとは思う。ただ、魔道具は職人の数が少ない為に量産は出来ない。

 注文があったとしても、今販売している分だけで手一杯だといわれるだろうね」


 人気のあるところは二年三年と待つのがざらだからね。

 仮に今から魔道具職人を養成したとしても、効果が出るのに十年はかかるだろう。

 将来のことを考えるといい案だけど、今収入を増やしたい彼らの意にはそぐわないはずだ。


 その後も色々と案が出たけれど、どれも決め手に欠けているようで反応はあまり芳しくなかった。

 室内の空気が次第に重くなっていく。


「どなたか、他に案のある方はいますか」


 今日だけで何度も耳にした言葉が再度繰り返される。

 だけど、今まででもう案は出尽くしたのか声が上がる気配はないようだ。


「少しいいでしょうか」


 そう言って立ち上がると周囲の視線が私に集まった。

 反応は予想していたけれど、緊張するね。手早く済ませよう。


「私はあまり政治に詳しくありませんが、十年間アストルム貴族としての勤めを果たしてきました。

 一つ、考えがあります。少しは参考になると思うのですが」

「もちろんです。ぜひお聞かせ下さい」


 飾りであるはずの私が意見を述べることに、反対の声は出なかった。少なくとも、表向きは。

 下手に扱って、天使の怒りを買うのが恐ろしいのだろう。


 祝福を受けるということは、それだけ相手に気に入られている証だからね。

 種族が違えど、気に入った相手を無碍に扱われて喜ぶものはまずいない。

 あの時天使を呼んで本当によかったよ。


「先ほど述べられたように、今のアストルムには聖職者や商人、そして冒険者が大勢訪れています。

 彼らがよりアストルムに集まってくれるよう、人工迷宮を作るというのはどうでしょうか。

 周辺に宿屋や販売所を設置すれば、景気も向上すると思うのですが」


 それに、トレーラントと人間の契約を仲介しやすくなる。

 私はとても、いい案だと思うのだけど。

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伯爵が悪魔と契約するきっかけとなった話
日陰で真実の愛を育んでいた子爵令嬢は神様に愛されていると信じていた

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マシュマロ
― 新着の感想 ―
[良い点] ウィルの提案は、国の金策にもトレーラントの契約仲介にも役立つ、一石ニ鳥の素晴らしいアイディアですね!! 今後人工迷宮を訪れる犠牲s…いやいや冒険者の方たちがたくさん来てくれるといいなと思い…
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