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悪魔の道具は今日も真摯に絶望させる  作者: 紫苑
4章 悪魔の道具は今日も真摯に呪いを解く
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5話 不死鳥の助言と悪魔の利用法

 翌日、私はヴェンディミアに来ていた。


 トレーラントに相談する日記は書いたけれど、私が彼の助言を聞く方法がないからね。

 機密文書館へ行くことは記したから、もしかしたらそこで接触できるかもしれないと思ったんだ。

 それに、機密文書館にはもとから興味があった。ヴェンディミアで侯爵位のついでのようにもらった第八枢機卿の地位を生かすにはいい機会だ。


 私がここへ来ることはヴェッキオ枢機卿に伝えてある。昨日と違って、特に隠す理由はないからね。

 ヴェンディミアで祈りを捧げたいのだと言ったら喜んで許可をくれたよ。

 ここへ来る前に神殿で祈りを捧げてきたから、嘘にはならないはずだ。


 機密文書館は思っていたより広くて薄暗くてひんやりとしていて、私にとっては最高の環境だった。

 ここに君を連れてきて、一緒に本を読めたらどんなにいいだろう。

 そんなことを考えながら、本棚を眺める。


「天使召喚の儀……これが、前に見つけてくれた本だね」


 以前、トレーラントに頼んで探してもらった『天使召喚の儀』もあったよ。

 分厚い本(君ならきっと「角で人を殴ったら殺せそう」と言うと思う)で、中身も難解だった。

 古代ヴェンディミア語で書いてある上に魔術書独特の比喩表現も多いから、読むには時間がかかる。

 時間を掛ければ解読できるだろうけど、一晩でここに書いてある素材を用意して儀式の方法を簡潔にまとめるのは私には無理だね……。


「天使を呼ぶなら、第一天使はやめておいた方がよいぞ。あれは性格が悪い」


 トレーラントの優秀さに改めて感心しながら――彼に知られたらきっと「何をいまさら」と言われそうだけど――本をめくっていると、急に肩が重くなった。

 耳元で囁かれたものだから思わず悲鳴を上げてしまったよ。

 幸い、周囲には誰もいなかったから聞かれずに済んだけれど……。


「すまぬ。驚かせてしまったようだな。

 猫に追われ……いや、散歩の途中でそなたの魔力を感じた故、様子を見に来たのだ」


 私の肩に乗っていたのは、灰色のふわふわとした鳥……もとい不死鳥だった。

 本に集中していて、魔力にも気配にも気が付かなかったよ。

 すまなそうにしている不死鳥に大丈夫だと伝えたあと、先ほど気になったことを尋ねてみる。


「天使と知り合いなのですか?」

「長いこと生きておる故、この世界のほとんどの種族と面識があるぞ。

 天使は基本的に天界から降りて来ぬから、言葉を交わしたのはだいぶ昔になるがな。

 召喚はあまり勧めぬが、強いてあげるなら……」

「ご心配なく。探し物ついでに読んでいただけですから」


 そう言うと、不死鳥は「そうか。ならばよい」と言って翼を羽ばたかせた。

 柔らかな羽毛が頬をかすめて、少しくすぐったい。


「時に、何を探しておるのだ?

 以前にも言ったが我は様々な知識を持っておる。

 前回のことがある故、絶対に答えられるとは言えぬが相談には乗れるぞ」

「そうですね……」


 確かに、長く生きている不死鳥ならあの肉の呪いについて何か知っているかもしれない。

 不死鳥なら相談しても魔法王との制約を破ることにならないしね。

 これだけの本の中から目当ての知識を得るにも時間がかかりそうだし、話してみようかな。


「――それはおそらく、不死と再生の魔法を掛けられておるのだろう。

 肉が料理のために切り取られてもその存在が無くならぬよう。永遠に生き続けるように」


 魔法王から受けた相談の内容を伝えると、不死鳥はあっさりと答えを出してくれた。

 再生の魔法は私も知っている。その名の通り、失った部位を再生させる魔法だ。治癒魔法の一種だね。

 不死の魔法は聞いたことがないけれど、言葉の響きから想像するに私に掛けられているのと似たような効果があるのだろう。

 私の考えが正しければこの二つの魔法は最悪の組み合わせだと思うのだけど、あの肉は本当になにをしたのだろう。


「我の想像でしかないが、きっと悪魔の怒りを買ったのだろうな」

「悪魔の?」

「不死も再生も複雑な魔法。その効力を千年以上も維持させられる存在といえば悪魔くらいだ。

 魔法を掛けた時期から想定するに新しい悪魔ではあるまい。古く、力のある悪魔だろう」

「魔法を解く方法はあるのでしょうか」


 不死鳥の想像が正しければ、あの肉に掛けられているのはただでさえ強大な力を持つ悪魔の中でも特に実力のある悪魔が掛けた魔法ということになる。私や魔法王では、まず手出しができないはずだ。

 悪魔はこの世界で最も力のある存在と言われているからね。


「ちと難しいが、我なら可能だ」


 私の予想とは裏腹に、不死鳥はそう言って胸を張った。


「我は不死鳥だ。再生に関して、我の右に出るものはおらぬ。たとえ悪魔でもな。

 ……だが、出来ればやりたくないし、そなたにも関わってほしくはない」

「なぜでしょうか」

「それだけ高度な魔法を掛けるということは、遊び半分ではなかろう。

 何かしら理由があったはずだ。下手に魔法を解けば目を付けられるやもしれぬ。

 我の想定が合っておれば、魔法を掛けた悪魔はなかなか執念深いからの」


 なるほど。確かにその通りだね。

 ただでさえ、偽の悪魔を作ったことで目を付けられている状態だ。

 この上さらに悪魔に恨まれても、いいことは何もない。


 魔法王と違って、どうしても肉の魔法を解かなければ理由は私にはない。

 ただ、彼に恩を売って君の身体を再生できる手段を得たいだけだ。

 危険を冒す理由は……。


「……その肉を使えば、エミールの身体を再生できるのでしょうか」

「可能かもしれぬが、やめた方がよいぞ。

 料理として食されておるということは、切り取られた側は再生せぬということ。

 おそらく、脳のある部位のみ再生するようになっておるのだろう。

 そなたの親友の首を取り付けても、肉の一部として認識されるだけだ」


 なるほど。つまり、肉の人格(といえるものが、まだ残っているかはわからないけれど)が君の身体を乗っ取る可能性が高いわけだね。

 再生と聞いて少し期待したのだけど、やはりそう簡単にはいかないか。

 そう思っていると、私の肩に乗った不死鳥が何かを思い出したように小さく翼をはためかせた。


「おお、そうだ。そなたの目的を果たすのなら、もっとよいものがあるぞ。ヒュドラの心臓だ。

 あれと我の遺灰、それからいくつかの材料を調合すれば強力な再生薬になる」

「ヒュドラ、ですか……」


 ヒュドラというのは、首が複数ある蛇のことだ。

 強い再生能力があるとされていて、地域によっては守り神として崇められているらしい。

 私も詳しくは知らない。いわゆる伝承上の生物。おとぎ話の存在だからね。

 不死鳥が言うからにはどこかしらに住んでいるのだろうけど、探すのに時間がかかりそうだ。


「心配はいらぬ。心当たりはあるからな。

 五百年ほど前に一人の騎士がヒュドラを倒し、死体を王に献上した。

 サラマンダーが加護を与えた騎士での。その功績をさんざん自慢された故、よく覚えておる。

 死体となっても再生能力は残っておるから、おそらく当時のまま保管されておるはずだ。

 騎士の所属は確か……エアトベーレだったかの」

「では、どちらにしても肉の問題は解決しないといけませんね」


 伝承の生物であるヒュドラの死体は貴重だ。何の引き換えもなしに貰うことは出来ないだろう。

 肉の問題を解決することと引き換えにすれば交渉の余地もありそうだけど、それをすると悪魔から目を付けられる可能性が高い。


 肉に魔法をかけた悪魔は、ハープギーリヒ侯爵並みに強大な力を持っていると思った方がいい。

 もし怒りを買えば私だけでなく不死鳥にまで危害が及ぶ可能性があるし、私と契約しているトレーラントの存在が露見する事にもなりかねない。それは避けたかった。

 肉を殺せなくともいいから、魔法王も悪魔も納得させられる方法はないだろうか。


 ……思ったのだけど、魔法を掛けた悪魔がハープギーリヒ侯爵だった、なんてことはないよね。

 侯爵は人間と契約する悪魔の中で最も魔力が高いそうだし、肉は元人間だ。条件には当てはまる。

 仮に侯爵自身は当事者でなかったとしても、魔法を掛けた悪魔と知り合いの可能性は十分ある。


 ……それなら、私の目的を達成できるかもしれない。


「魔法を解いたふりをしてその肉を悪魔に返したら、悪魔は怒るでしょうか」

「どうかの。エアトベーレに肉を置いておく意味は我が見るになさそうだ。

 本当に魔法を解かなければ怒りに触れる可能性は低そうだが、我は悪魔ではないからの」

「では、悪魔自身に聞いてみることにします」


 ハープギーリヒ侯爵は以前「侯爵としてなら相談に乗る」と言っていたからね。

 教皇をなだめられるほど親しい彼に、私の悩みを聞いてもらおうと思う。

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伯爵が悪魔と契約するきっかけとなった話
日陰で真実の愛を育んでいた子爵令嬢は神様に愛されていると信じていた

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マシュマロ
― 新着の感想 ―
[良い点] 〉「では、悪魔自身に聞いてみることにします」 伯爵らしいセリフですよね。 相談していいと言われても、仮に悪魔と知らずとも、自分より強い味方(?)な相手にひょいひょい近づく胆力が凄い。 それ…
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