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第74話 グラブの戦士ライガ&シーノVS侵略隊総隊長グイド&偵察部隊長ライモンド

 逃亡しながら味方の兵士を倒し続けていたグラブの戦士二人が突如足を止めて自分たちに向き直ったことで、ようやく観念したのかとほくそ笑みながらライモンドも立ち止まり、同じく立ち止まったグイドは背中に仕込んでいた黒い棒を取り出した。

 ライガとシーノはそれにいち早く反応し、二人同時に攻撃を仕掛けた。

 ライガの右拳がライモンドに、シーノの左拳がグイドへと向かう。

 ライモンドもグイドも自分たち以上の実力を持つ強敵。

 となれば、不意打ち同然であろうとも先手必勝に出るのは至極真っ当な手段と言える。

 決して負けるわけにはいかないという強い意志で、二人は拳を振るった。

 ライモンドの口元がより一層歪むのをライガが見たのは、その時であった。


「な……に……!?」


 ライガの拳は間違いなくライモンドの顔面を捉えたが、威力を発揮することはなかった。

 ライモンドは自ら首を捻って拳を逸らし、更に首に連動させるように上半身を捻って完全に威力を殺し切った。

 跳び上がるような勢いの踏み込みで殴りかかったライガは、その勢いのままに身を投げ出され、容易くライモンドに潜り込まれてしまっていた。

 ライモンドは柔軟に体を捻った勢いを利用し、腹部へと掌打を叩き込んだ。


「かっ……!!」


 息を詰まらせながらライガは空中へ吹き飛ばされていく。


「ライガ!!」


 音でライガの状況を察したシーノだったが、声をかけるのが精いっぱいでとても助けに行く余裕はない。

 シーノの渾身の一撃もまた、グイドの取り出した棒に阻まれて不発に終わっていた。

 いくら力を込めて押しても、棒はぴくりとも動かない。


「ふっふっふっふっふっ……」


 グイドが不敵な笑い声をあげるにつれて、棒はより長く、グイドの背丈よりも長くなっていく。


「なんなのこれ……ただの棒じゃ……」


「ただの棒とでも……思ったか!!」


 振り払う動作に押されて後退したシーノは、棒の先端が大きく膨らんでいくのを見た。

 長く伸びた棒、大きく膨らんだ先端、それはまさしく巨大なハンマーであった。


「俺は侵略隊の総隊長。完全制圧した国を更地にするため、作り出した武器がこの魔力で膨らむ『ジェノハンマー』だ」


 グイドはジェノハンマーを振り、振った勢いでそのまま回転、更にそれを繰り返して回転速度を高めていく。

 周囲に強風を巻き起こしながらの高速回転は、やがてシーノに近づく隙を与えないほどの速度となった。


「くっ……!」


「どうした?粉々に砕かれるのが恐ろしくてとても近寄れんか?」


 挑発的な言葉を浴びせるグイドに、シーノは何故目を回さないのかと疑問を投げかけるのを堪えて反撃の機会を窺った。

 確かにグイドの回転速度は凄まじいものがあるが、その回転はあくまでハンマーを振り回すことで引き起こされるものであり、ハンマーが攻防の要、心臓そのものである。

 それを横に振り回すことで回転しているだけで、頭上や足元は無防備そのもの。

 ましてや、高速回転の最中では視界はほぼゼロに等しいはず。

 敵が如何に動こうとも、それに気付けるはずがないのだ。


「よしっ!」


 思い立ったシーノは即座に行動に移った。

 グイドの足元を崩すため、低く身を屈めてのスライディングを仕掛けたのだ。

 バランスを失い、回転が止まったグイドへ渾身の連撃を見舞う。

 一瞬で考えた完璧な作戦、のはずだった。


「え」


 グイドの足元に届くかに思われた時、掬い上げるような動作でハンマーが迫るのにシーノは気付いた。

 ハンマーへと自ら飛び込んでしまう寸前に地面を思い切り蹴ることで後退には成功したものの、グイドはそのまま逃がすまいと高速回転したまま再びハンマーを横に振って迫った。

 避け切れないと判断し、両腕を交差させてシーノは防御の体勢を取る。


「ぐくくぅぅっ!!!」


 両腕に激痛が走り、骨が砕ける音が聞こえた。

 悲鳴を上げながらシーノは弾き飛ばされ、グイドはハンマーが当たった反動によって回転が止まった。

 シーノは砕けた骨が皮膚を破って血を噴出させるのを他人事のように眺めた。

 ライガやスコットと組手をした時でも、防御した際にこれほどの怪我を負ったことはなかった。

 つまりグイドのハンマーは、スコットの拳をも上回る威力を持つということになる。

 それがシーノにはどうしても納得がいかなかった。


「デュナミクなんて所詮女王のワンマン……スコットと同じくらい強い奴が何人もいるわけないのに、どうして……」


 言いながら既にシーノの怪我はほとんど癒えていた。

 自己治癒力を最大限まで高めた状態だと、この程度の怪我であればグラブの戦士はたちまち治してしまうことを、グイドも知っていた。


「流石はグラブ最後の戦士たち。だが死ぬのがほんの僅か先延ばしになるだけだ。それに貴様、疑問に思うのはそれだけで良いのか?」


「げ、聞こえてた」


「何故足元を狙う攻撃がばれたのか、そこをわかっておかねば勝ち目などないのではないか?」


「そんなの、疑問に思うことないでしょ」


 完全に癒えた両腕を広げながらシーノは続ける。


「目は使えないんだから、代わりに耳にオーラ集中させてたんでしょ?ハンマーが風を切る音を注意深く聞いてたら、私がどう動くのかなんて手に取るようにわかるはずよね?」


「そこまで理解できているのなら!!」


 グイドは再度ハンマーを振り、回転を始めた。


「迂闊に近づくような真似はせぬはずだが!?」


「あんたがそこまでの使い手だなんて思わなかっただけよ!!!」


 回転しながら接近するグイドに、シーノは拳の風圧をぶつけて対抗する。

 しかし、グイドはまともに風圧を受けても止まらない。

 圧倒的な攻防力を前に、シーノは自分一人では到底勝ち目がないことを悟った。






 一方で、ライモンドとの数度にわたる攻防を繰り返したライガは、口元から垂れる血を拭い、相手の動きを観察していた。

 全身を捻って攻撃に必要な予備動作を最短距離で済ませるライモンドの動き。

 蛇を思わせるその独特な動きは、ライガも良く知るものだった。


「てめえ……その技……!!」


「コレクションは男のロマン。花でも切手でも武器でも、集めるってのはその行為自体が心を豊かにしてくれるッスよねェ。俺の場合は……拳法ッスけど」


 ライモンドはライガにぶつけるでもなく、独特な動きを模範演武のように見せつける。


「特にこれは俺のオキニなんッスよ。無駄な動きなようでその実、超洗練された攻防一体の超絶拳法。ただ真っ直ぐに突く従来の拳法の型とは違って、全身の捻り、蛇みてーなうねりで最大限の威力を引き出す。しかも生まれ持った体の柔軟さがなけりゃ極められねえってのがまたイイ。『蛇繰拳(じゃそうけん)』、徹底的に拷問して教えさせた甲斐があったってモンッスよ」


 にたにたと笑いながら話すライモンドは、目の前にいる男から放たれる歯軋りの音に眉をひそめた。

 しかし、ライガの心中にある不快感は、ライモンドが今感じたそれの比ではない。


「薄汚ぇ口で……その拳法のことを喋んな……!!」


 ライガの全身を纏うオーラが、爆発的に高まった。


「薄汚ぇ手で……!!親父の拳法を使うなァァァッ!!!!!」


「へっ!!だったらこいつはどうッスかァ!!『バビュトーラ・全身バージョン』!!!」


 ライモンドの全身から風魔法が吹き出し、ライガがオーラを纏うように薄く鋭い風の膜となって包み込んだ。


「てめーらのお仲間、ケインなんたらいう奴だけが全身から魔法繰り出せるわけじゃねえんスよ!!どースか!?この体を纏う風の刃!!蛇の鱗……どころじゃねえ。そう、まさしく龍の鱗!『蛇操拳』は今、ライモンド=イロニコの手によって、『龍鱗拳(りゅうりんけん)』にランクアップしたんッスよぉ!!!」


 父の拳法を好き勝手にアレンジされ、ライガの怒りはますます高まる一方だった。


「蛇はどこまでいっても蛇のまんまだ!!龍に進化するわけねえだろうがァ!!!」


 闇雲に突撃するライガを見て、ライモンドは嘲笑した。

 一度は沈静化したに見えた怒りが跳ね返ったように爆発し、策もなくただ向かってくるだけならば、最早シーノ共々敵ではない。

 既に勝利は自分たちのものだと、ライモンドは確信したのだった。

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