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第73話 命を捨てる覚悟・生き残る覚悟

 ケインたち4人とロレッタの戦いが激しさを増していく一方で、地上ではそれぞれケインに味方する者たちも奮闘していたが、真っ先に音を上げたのはビアンコが率いる海賊たちだった。


「し……しんどい!もう限界だぜビアンコォ!!200人くらいは倒しただろ!撤退しよう!」


「バァカ言ってんじゃねえよブル!!今倒したので20人だ!声出す元気あんならとっとと構えろ!!」


 デュナミクの兵士たちに囲まれ、四方それぞれに向きながら戦うビアンコ、ロッソ、ブル、ジャロの4人は、ブルが言ったように既に限界近くまで体力魔力共に消耗していた。

 略奪行為はともかく本格的な戦闘を長年してこなかった彼らにとって、ほぼ同格に等しい敵が無数に湧いてくるこの戦いは、精神面における負担が非常に大きいものだった。

 彼らはあえて部下を連れて来てはいない。

 元より死ぬ覚悟を持ってこの場に臨んでいるのだから、心酔する船長が遺した部下をも道連れにするつもりなどはさらさらない。

 文句を言いつつも、ブルを含めて誰も撤退する気もなく、ただ迫る限界に苛立ちを隠せず、言葉を出しておかなければ気が済まないのだ。

 ビアンコもそれを承知で発破をかけ、自らを鼓舞し、一人、また一人と倒していく。

 それでも、デュナミクの兵士も何の策もなくただやられるだけの集団ではない。


「かかれーっ!!!」


 一人の号令で、四方を囲む兵士たちおよそ30人が一斉に飛びかかった。

 疲弊している海賊たちに容赦なくトドメを刺すための、極めて的確な行動と言えた。

 海賊たちの足元に不自然なヒビが入っていることを見落としていなければ。


「『土遁(ドトン)遁練(トンネル)のジュッツー』、開通(カイツー)


 地面が割れ、中から黒影を先頭に天守五影が飛び出し、デュナミクの兵士たちを返り討ちにした。

 最後尾にいた桃影が大量の武器を抱えており、それらを押しつけるようにビアンコたちへ手渡すと、さっさと次の敵と戦うために赤影と共に再び穴へと戻ってしまった。


「礼は言わねえよ、ニンジャども」


 渡された刀剣や銃の感触を確かめながらぶっきらぼうにビアンコが言うと、黒影が朗らかに返した。


「友達の友達、それも友達。ケインサンの友達なあなたたちと我々の間に、お礼なんて結構デース」


「俺ら別にあのあんちゃんと友達じゃねえけどな」


「我々も別にケイン殿と友達ではないぞ、黒影」


「エエッ!?」


 横から入ってきた青影の一言に、黒影は戸惑いを隠せなかった。


「……しっかしよぉ、よくまあこんな武器持って来れたもんだな」


 ブルが持たされた武器は、手持ちの機関砲であった。

 魔力が尽きたブルにとっては、今持っている武器がこの上なく頼もしいものに感じられた。

 ビアンコはそれを物珍しそうに見ていたが、再び兵士たちが一斉に来るのを見て、ブルへと声をかけた。


「両手でしっかり持って引き金を引け!!そいつなら一回ぶっ放すだけで10人は殺れる!!!」


 言われた通りにブルが機関砲を使うと、その機関砲はブルもロッソもジャロも予測していなかった威力で敵を蹴散らし、天守五影の面々さえも一瞬驚かせるほどの代物だった。

 明らかに今の人間の技術で作り出せる限界を超えた機関砲の正体を、ビアンコは知っていた。


「なんであんたらがこれを持ってたのかは知らねえが……」


「デュナミクの武器庫にあったんや。前の潜入任務やと目立つの避けなアカンかったから手は出せへんかったけど、今回は遠慮のう扉爆破して根こそぎパクらせてもろたで」


 緑影が答えた。


「そうか。こいつは昔、オーロ船長から『黒き禁断(ブラックスウィート)』を貰った奴の願いで作られた機関砲『皆殺しグラナータくん一号』だ」


「なんやそのクソダサい名前」


「名付けたグラナータ本人以外皆そう言ったよ。形状も威力も申し分なしで、オーロ船長からも褒められるくらいのものだったんだが、即日でグラナータに捨てられたんだよ」


「捨てた?なんでや?」


「いででででえええええええ!!!!」


 ビアンコと緑影が話す隣で、それまで黙って俯いていたブルが突如叫び出した。

 機関砲から離れた両手が紫に変色して震えている。


「と、まあこの通り負担がデカすぎてちょっと撃っただけで並の人間は手がぐちゃぐちゃになる。武器を願った人間は妙に現実味を持たせようとするからデメリットのある不完全な武器を出すケースが多いんだ」


「テンメェこの野郎ビアンコこの野郎!!!知ってて俺にぶっ放せとか言いやがったな!!!てめえがやれよ!!!なんで俺にやらせる!!!」


「俺よりもおまえのが手は丈夫だからな。それにまだ折れてもいねえだろ?まだまだ撃てるぜ」


「シバき倒すぞてめえ!!!!!」


「あー……欠陥品やからっちゅうて捨てた武器がこの国に拾われて、せやけど使うに使われへんからとりあえず武器庫に保管されとったっちゅうわけか。他のも大体そんなんかな?」


 ロッソとジャロも、それぞれに持たされた武器に一度目を向けた後、ビアンコへ疑いの眼差しを浴びせた。

 自分たちが持つ武器にも何かしらの危険を伴う欠陥があるのではと思うと、とても使う気にはなれなかったが、答えを聞くのを敵は待ってはくれない。

 ブルの持つ機関砲『皆殺しグラナータくん一号』を相手に近づくのは愚策と判断した兵士たちは、海賊と忍者を一網打尽にしようと、離れた場所で囲って火炎魔法を次々に撃ち出した。


「まずいな。黒影、頼むぞ」


 そう言った青影は緑影と黒影を連れ、出て来た穴へと戻り、ビアンコたちが逃げ込む前に黒影はその穴を術で塞いでしまった。


「俺たちも入れてくれたっていいだろォ!!!」


 迫る火炎に恐怖したブルが嘆くのをよそに、ビアンコは冷静にロッソが持つ剣を指差して言った。


「その剣、『焔返(ほむらがえ)り』だな。これくらいの火炎魔法なら跳ね返せる」


 一瞬、ロッソもブルもジャロも希望が見えた気がしたが、肝心なことを思い出したロッソは恐る恐る尋ねた。


「……で、デメリットはなんだ?」


「持ち手が熱くなる。手の皮がめくれるくらいの火傷は確実だ」


 それを聞いた時、既に敵の炎は彼らに到達する寸前まで来ていた。

 手の火傷か、今ここで全滅か。

 選択の余地はなく、ロッソはヤケクソ気味に『焔返り』を抜いて振るった。


「ちぃいいくしょおおおおおおお!!!!!」


 額に汗を滲ませながら火炎魔法を次々に跳ね返し、反動でロッソは手に火傷を負っていく。

 火傷はどんどんと広がり、たまらず剣を右手から左手へと持ち替えようとした時、ビアンコがそれを取り上げ、代わりに火傷を負いながらも振り始めた。

 更にビアンコは左手にこれまた武器庫から緑影がくすねてきた拳銃を構え、敵の姿を捉えると迷わず撃った。

 大砲のような銃声を聞き、ロッソとブル、ジャロはその拳銃もまた、絶大な威力と引き換えに反動がある銃なのだと悟ると同時に、まだ使っていない武器をそれぞれ構えた。

 例え命に係わるほどの反動があったとしても、それを恐れる理由はひとつもないのだと彼らは再確認した。

 この戦いは命よりも大切な矜持を懸けた戦い。

 それも、自分たちだけでなく、心酔するオーロの矜持や、残してきた仲間たちの矜持でもある。

 ならば、反動をいちいち気にする必要など、初めからなかったのだ。


「いぃぃぃぃってええええええ!!!!!」


 とは言え、痛いものは痛かった。






 海賊たちと別れた後、青影たちは先に離れていた赤影と桃影と合流するために急いだ。

 二人を探すべく走っていた彼らだったが、その二人が血塗れで倒れているのが見え、足を止めた。


「貴様か……二人をやったのは」


 黒影がすぐさま二人の手当てにかかり、青影は返り血に手を染めている男を睨み付けた。

 その男は緑影が思いもしない男だった。


「ニコラ=ヴィーヴォ!!」


 赤影と桃影を一瞬で倒した参謀長ニコラは、潜入任務で調べに調べた緑影が知る限りとても戦闘に向いたタイプの人間ではない。

 眼鏡を上げる仕草がよく似合う、いかにもな頭脳派と呼ぶべきニコラでは、到底赤影と桃影を倒せるほどの戦闘能力には達していないというのが緑影の持っている情報だった。

 しかし、目の前で起きている事実を客観的に見るならば、その情報は今すぐに改めなければならないだろう。

 事情はどうあれ、ニコラは隊長格以上の実力を手に入れたのだ。


「せやけど、あんさんがそないに強なった理由くらいは知っときたいもんやな」


「私がいくら努力しようとも、これほどの力は手に入らんさ。女王陛下の『ご加護』と……そしてェェェ!!」


 ニコラは胸元から小さな袋を取り出した。

 袋から僅かに漂う臭いで、緑影はその正体を突き止め、青ざめた。


「禁止されとる麻薬!!?そんなもん使うたらあんさん……!!」


「知ったことかぁ!!とっくに二袋は開けちまってる!!女王陛下が頼りにするヴァンピロ総司令官閣下サマがいらっしゃるなら、俺の頭なんざちぃっとも要らねえんだよォオオオオ!!!」


 ニコラがそう叫ぶなり袋ごと麻薬を飲み込むと、彼の全身は痙攣しながら異常な量の魔力を放出させ始めた。

 皮膚が漏れ出す魔力に耐え切れず、ひび割れを起こしている。

 充血して真っ赤になった眼からは瞳孔が消え失せ、理知的だった彼の面影は今やどこにもない。


「ブギギギ……!!ブッ殺し殺し殺すコロココロココココココカァァァッカカカカカ!!!!」


「……えらい溜め込んどったんやな。同情はせえへんけど、介錯はしたりまっせ」


 緑影が意気込む隣では、青影は手裏剣を構え、黒影は既に赤影と桃影の治療を半分以上終えていた。


「治せそうか、黒影?」


 そう尋ねて黒影の顔を見た青影は、一瞬驚愕した。

 黒影の表情は今まで青影も見たことがないほど、怒りに満ち溢れていたのだ。


「……治しマース。すぐに元気になって、皆であいつを倒しまショ……倒しましょう。あいつ……」


「黒影?」


「許さねえ……俺の大切な仲間傷つける奴ぁ……!!絶対許さねえからな!!」


「おまえやっぱあの喋り方キャラ作っとったんかい!!!!!」






 この時点で、デュナミク側の残存戦力はおよそ950人。

 ケイン側に戦闘不能に陥った者は未だ一人もいない中で500人を超える討伐数を稼げているというのは、デュナミク側の隊長格はまだ倒せていないことを考慮しても、ケインたちの圧倒的優勢と言えるだろう。

 中でも目覚ましい戦果を挙げているのがライガとシーノであり、ライモンドとグイドの追跡から逃れつつ、敵をそれぞれ200人以上も倒していた。

 しかし、雑兵を倒せば倒すほどに、避けていた問題に直面する時が近づいているということにライガとシーノは気付いていた。

 ライモンドとグイドの二人、これまでならば身体能力だけで言えば確実にライガとシーノの方が上を行くはずの二人が、雑兵という名の遮蔽物が減るごとに踏み込みの鋭さを増し、ライガとシーノよりも素早く追いつこうとしている。

 速さではデュナミクの誰にも負けない自信があったライガとシーノにとって、これは異常事態とも言える。

 間もなく追いつかれるというところで、ライガは覚悟を決めた。

 敵二人への怒りと憎しみを再び心の内で燃やしながら、シーノへと言葉をかける。


「シーノ、言っておきたいことがある」


「絶対やだ」


 シーノはライガが何を言おうとしているのか、声色から予想していた。

 今言っておかなければならないことだと思ったからこそライガは言おうとしていたのだが、それ自体がシーノには我慢ならないことだった。

 追いつかれる前にライガとシーノは敵の方へと振り返り、瞬時に迎撃の体勢を整えた。


「今聞くなんて絶対やだ!!全部終わって、みんなでお祝いしてからじゃないと聞いてあげないから!!」


 こうなった時のシーノが誰よりも強情であることをライガは良く知っている。

 そうだと彼女が決めたのなら、それに従わなければならない。

 つまりは、この戦いには必ず勝たなければならない。

 自分を含め、誰一人欠けることなく。

 両の拳に力を込め、眼は敵を見据え、腹の底から声を吐き出した。


「ああ、そん時全部言ってやる!!だからこいつら絶対ブッ倒すぞ!!!」


「うん!!!」


 怒りも、憎しみも、隣にいる最愛の人への情も、ライガとシーノは闘志へと変えた。

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