第41話 カラクリ城、崩落
「おうぅぅえぇえええええええっ」
「ここで待つからさっさと行け」と威勢よく啖呵を切った手前からか、はたまたこうなることを予想していたからか、ゴアはコンリード・バートン号に乗ることを渋っていたが、いざ乗ってみると直後に思い切り船酔いしてしまっていた。
「おいガキ、頼むからゲロは船の外で吐いてくれよ」
心底嫌そうな目を向けてオーロはそう言うと、シマシマから貰った魔獣の肉を食べているケインへと視線を戻した。
「あんなのさっきまでいたか?ロリボインはどこ行ったよ?」
「いやー…ちょっとややこしい話だからそれは…」
「じゃあいいや。それよりあれを倒す件だが…」
ゴアとククへの関心を、オーロはほとんど持っていなかった。
何の力も感じない、脅威になり得ない相手に関心を持つはずもなかったのである。
「わかってるとは思うがケイン、あれを正攻法で倒すのは無理だ。俺が全力出そうが何しようが、多分女王もあれには勝てねえ。だから裏技を使う」
「裏技?」
鈍っていた動きが徐々に戻るギガライコーを指差し、オーロは続ける。
「物ってやつはな、動くために何かしらの力が要るんだ。船なら風と波、剣だったら振ってくれる人間、人間は……色々要るな。とにかく、動かす力がなけりゃあ、物は動くことができねえ。だったら、あれを動かしているものは何だ?」
「……マキシマムサンストーン」
オーロが船室から持ってきていたスペアの三角帽を深く被ってにやりと笑った。
「つまり、あの宝石を奪っちまえば、ギガライコーは止まるってワケだ。あれの中に潜入して奪うだけで、それが叶うのさ。簡単だろ?」
「簡単だろって……」
ケインはギガライコーの方を見る。
コンリード・バートン号がどうにか攻撃を凌いでいるが、とても接近して中に入れるような隙があるようには思えない。
そもそも、どこから入れるというのか。
「あれでも元は城なんだぜ?入ろうと思えば入るとこがあるはずさ」
「そんな無茶苦茶な…」
「無茶苦茶だって思うんなら、このまま船でとんずらこくか?俺としちゃあ誰も同調しねえんならそっちのがいいんだが」
ケインは答えを出しかねていた。
オーロが立てた策、それをオーロ自身は信じている。
ケインたちが同調しないのならば実行しない理由は、恐らく誰かを囮にしてその隙に入れる場所を探す必要があるため。
単独でできる策ではない上、ケインがそれに便乗するならば、自分を含めて誰かが囮にならなければいけない。
成功する可能性は限りなく低く、リスクは限りなく高い。
そこまでケインは看破していたからこそ、答えられないでいたのだ。
「背中のとこにいくつか穴みたいなのが見えた。もしかしたらそこから入れるかもしれねえぜ」
ライガがケインに言った。
話している内容以上のことをライガは理解していなかったが、ケインの表情から何となくこの策に必要なことも読み取れた。
「行ってこいよ、ケイン。あれは俺とシーノでなんとかする」
シーノの手を握りながらライガは飛び出そうとする。
ケインは一旦二人を引き留めてから、自分の方へと向かせた。
「さっきも言ったけど、ここからは俺の……」
「仲間だろ?仲間のちょっとしたワガママくらい、付き合ってやるって」
「死にそうになったらすぐ逃げるから、安心して」
笑顔でそう答えるライガとシーノの目には、決意の炎が宿っていた。
死にそうになったらすぐ逃げる、その言葉の裏にある決意。
ケインが命を賭けるなら、自分たちだって賭けてやるという決意だ。
それを察して、ケインは二人の肩を強く掴んだ。
「………ありがとう!」
「ヴぅぅうおぅうええぇぇぇ」
ケインたちにとってはかなりいい雰囲気だったのだが、酔ったゴアの不快極まる声がそれを台無しにした。
ずっこけそうになりながら、ライガとシーノは船から飛び出そうと手をかける。
「なあケイン!もしククが今のゴアみたいになってもさ、それでもケインはククを可愛いって思えるのか?」
「えっ?」
「流石のケインでも、そんな状態のククには萌えられないよな?」
「……どんな時でもククは可愛いだろ!」
「へへっ」
いつも通りの軽口に満足したのか、そのままライガは飛び出した。
シーノも続けて行こうと身を乗り出ながらケインへと振り返る。
「じゃ、私たちが引き受けたからには、ちゃんと取り戻してきてよね」
「シーノも、無事でな」
「にひっ」
シーノはギガライコーの右側、ライガは左側に回り込んだ。
「いいかシーノ!あの胸から出るビームは絶対喰らっちゃダメだからな!当たったら俺らじゃ死ぬぞ!!」
「わかってるよ!!あんたこそうっかり胸元のとこ飛びこんじゃダメだからね!!」
そう言いながら、シーノはギガライコーの肩を殴ろうとする。
拳が当たる直前、ギガライコーは得意の快足で攻撃を躱し、そのままシーノたちへと振り返った。
「ヤバイ!!ビームが来る!!!」
ライガはどこか期待しつつも警戒したが、ビームは飛んでこない。
代わりに巨大刀を構えて接近し、振り回し始めた。
「貴様らごときに『ヤサカニノブラスター』を使っておれるか!!フルパワーになるまでエネルギーを充填しておかねばあの海賊も殺せぬと言うのに、二度も無駄撃ちなどできるかぁ!!!」
「なんだよ!俺たちだけじゃあ撃ってくれねえってのかよ!!」
「撃たれないだけありがたいでしょ!!」
軽口はそのままに、ライガとシーノは必死で避けながら反撃し続けた。
ギガライコーはライガたちの攻撃によろけつつも、決定的な一撃とはならない。
ライガとシーノも、まともに受ければ一撃で殺されかねない緊張感から、決して攻撃は受けないように避け続ける。
そうこうしている間に、コンリード・バートン号はギガライコーの背後へと回り込み、オーロも船から身を乗り出す。
「さてと、そろそろ俺らも行かねえと、あいつら死んじまうぜ」
言われるまでもなくケインも準備を整えていた。
ここからはケインとオーロは自力で入り口を探し当て、ギガライコー内部へ潜入しなければならない。
そして、中にあるマキシマムサンストーンを奪い、ギガライコーの動きを止める。
どちらが先に奪うかは、早い者勝ち。
つまりケインは、オーロとの競争にも勝たなければならなかった。
ゴアがシマシマに跨り、船から離れる。
「ライガたちの前に俺が酔いつぶれて死ぬわ。ゼブラと一緒に離れておるから、さっさと決めてきてくレうぷっ」
「同じ空の上だからそんな変わらないだろ…」
「ケイン」
「なんだよ」
「息子を頼んだぞ……」
去り際のゴアの言葉に、ケインはサムズアップで応えた。
振り返った直後にゴアの吐く声とシマシマの悲鳴が聞こえた気がしたが、気にせず飛び出そうと身構える。
だが、飛び出す前にどうしてもオーロに訊きたいことがあった。
「船長、どうしてあんたはあの石を欲しがっているの?」
「あん?」
オーロにとって、その問いかけは初歩中の初歩とさえ言えるものだった。
鼻で笑って見せたが、質問自体には真摯に答えた。
「俺は海賊だ。欲しいモンを欲しいと思った時に動く。そしてケイン、俺が欲しいモンはな……今俺の手の中にねえ、全てだ」
「そっか」
素っ気ない返事だが、ケインは心の底から納得していた。
この男は芯から海賊で、今までもこれからもそうなのだ。
欲のままに生き、欲を満たし切るまで死なない。
欲こそが海賊オーロを不死身のキャプテン・オーロたらしめる所以なのだと。
だからこそ、そんな相手にもマキシマムサンストーンを渡すわけにはいかない。
大事な、『友達』なのだから。
「行くぜぇ!!!!!」
「おう!!!!!」
二人は飛び出し、ギガライコーの背後に迫る。
だが、ヨリミツも黙ってそれを見過ごしていたわけではない。
ライガとシーノを弾き飛ばし、オーロたちへと振り返ろうとする。
まだオーロもケインも、入り口となり得る穴を見つけられていないタイミングだ。
「くそっ!!」
「愚か者どもめが!!!!『ヤサカニノブラスター』に今度こそ焼かれて死ねェ!!!!!」
その時、ギガライコーの反転はある一撃によって阻まれた。
ギガライコーもそれを巨大刀で防いではいたが、その一撃を放った張本人を見て、ヨリミツは戦慄した。
「ショーザン……ザクロをどうした!?」
「……これ」
複雑な表情を浮かべ、ショーザンは左手に持っていたものを見せる。
長く綺麗な黒髪。
その意味を理解したヨリミツは激怒した。
「おのれぇぇぇぇ!!!私の大事な戦力を次から次へと手にかけおってぇえええええ!!!」
「落ち着いてくださいヨリミツ王。金と時間は要しますが、人工生命体ならばまたいくらでも作り出せます。今はそれより……」
そう話している間こそが、ケインとオーロ最大の好機だった。
「あった!!!」
ケインが叫ぶより早く、オーロは入り口へと飛び込んでいた。
だが、ケインが見つけた入り口はオーロが入ったものとは別にあり、ケインにとってはオーロと別の入り口に入るのは好都合だった。
同じ入り口では、ケインとオーロは正面から争わなければならなくなってしまう。
この局面で敵をなるべく減らしておきたいという心情は、オーロも同じだった。
侵入者をギガライコーはすぐに感知し、内部の操縦者二名に知らせる。
自慢のギガライコーに敗北が迫っているかもしれないという焦りに取り乱すヨリミツを落ち着かせ、エーサイはギガライコー内部用マイクで指示を飛ばす。
このギガライコーの中にいる、数少ない戦闘員に向けて。
「『天守五影』!!侵入者が太陽の宝石に向かっている!!!至急阻止せよ!!!」
そう告げると同時に、ある装置のボタンを押す。
それを見たヨリミツは珍しくエーサイに対して声を荒げた。
「おい!!それはこの操縦室を除くギガライコー内部全体の『高加熱装置』!!そんなことをすれば天守五影までも……!!」
「だからどうだと言うのです!天守五影と言えども海賊オーロに対しては時間稼ぎがせいぜいでしょう!彼らが時間を稼いでいる間に奴らが焼け死ぬほどの高熱を出させれば、太陽の宝石は守れるのです!!ギガライコーを守れるのですよ!!!それと比べれば、天守五影がどうなろうと小さな犠牲に過ぎますまい!!!」
エーサイに圧倒され、ヨリミツは押し黙った。
ギガライコーこそが最も重要な戦力であり、それを守るためならばどんな犠牲も厭わない。
そのエーサイの考えを正しいと判断したからでもあった。
そんなことは知る由もなく、外ではライガ、シーノ、ショーザンがギガライコーと戦い、内部ではケインが緑影と黒影と桃影、オーロが赤影と青影を相手取っていた。
高加熱装置を作動させた影響で、ヤサカニノブラスターはその間使えない。
それはライガたちには好都合だったが、一方でケインたちに危険が迫っていた。
「出て行きナサーイ!!」
「うっせえカタコトニンジャ!!」
跳び箱のように黒影の頭を越え、他の二人も追いつけないほど速くケインは走る。
オーロもケインも、無用な戦闘は極力避けるようにしてただひたすらにマキシマムサンストーンへと走った。
天守五影の誰もが、その走りに驚愕していた。
ギガライコー内部は迷路のように入り組んでいる。
それにもかかわらず二人は一切迷いなく、無駄もなくマキシマムサンストーンの下へと近づいていたのだ。
ケインは友への想いから。
オーロは宝への欲望から。
それぞれの想いは異なっていたが、マキシマムサンストーンを取り戻そうという根本は同じ。
二人への天守五影の対抗策は、内部に張り巡らされたカラクリを用いてのショートカットだった。
五人とも、内部の構造と仕掛けは当然熟知している。
床、壁、天井にある回転扉。
特定のスイッチを押さなければ作動しない隠し通路。
それらを駆使して二人に追いつき、再度交戦する。
何度も繰り返す内に、最初に違和感に気付いたのは桃影だった。
「……なんか、熱くないか?」
高加熱装置についても、五人はもちろん知っている。
桃影があえてそういう言い方をしたのは、まさかここにきて自分たちがヨリミツに捨てられたのではないかという思いを取り払いたいからだった。
温度は急激に高まり、湯気さえ上がってきている。
「Ah……確かーニ。オクラはドーダイ?」
「オグラやけど。いやめっちゃ熱いやろこれ!!!どないなってんねん!!!!」
「AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」
いつも通りなやり取りを交わす緑影と黒影。
彼らは自分たちの置かれた状況が理解できていないのかと桃影は一瞬思ったが、すぐにそうではないことに気付く。
天守五影だけに限らず、ヒノデ国の王に仕える者の死とは、王のための死であり、国のための死。
故にその死はこの上なき名誉であり、ヨリミツが死を望むのならば、ありがたく受け入れることこそが最後に与えられた使命なのだ。
それを天守五影は特に骨の髄まで刻み込まれており、緑影と黒影は、ただ己の使命を全うしようとしているに過ぎないのだと桃影は悟った。
なまじ半端に偉かった時期のある桃影は忘れていたことだった。
王に死ねと言われたら死ぬ、それが従者の務めであるということを。
ならば今ここですべき務めとは、じたばたと死へ抗うのではなく、ただ愚鈍にケインとオーロを止めることだった。
「うぁぁっちい!!」
内部の熱は外にも影響を及ぼし、最早ライガとシーノは熱過ぎて触れることすらできずにいた。
刀を持っているショーザンだけが、ギガライコーに対抗して斬り合いを続けていた。
オーロもケインも、余りの熱さに目がかすんできていたが、構わずにひた走る。
マキシマムサンストーンを求める精神力が、天守五影や熱さによる妨害をも乗り越えていた。
ついに動力室にたどり着いたと確信したオーロが扉を蹴破る。
別の場所で、ケインも扉を開ける。
ケインが開けた扉の向こうでは赤影が氣を放ちながら座禅を組んでいた。
「ふふ、ふふふふ……我々の勝利だな。『擬態の術』。貴殿が氣で気配を読むと青影から聞いていたのでな。太陽の宝石と似た氣を放って、先回りしておいたのだ。海賊オーロの方にも、青影が同じことをしているはずだ」
ふらふらとケインは中へ入り、へたり込む。
膝が床に触れただけで火傷するほどに、内部全体の熱量は高まっていた。
「残念だったな!あと数秒で高加熱装置は『ヤサカニノブラスター』と同等の熱量まで高まり、貴殿は拙者らと共に死ぬ!!これで終わりだ!!!」
「いいや、ここで良かったんだ。友達がこの下にいるってことは最初からわかってた。俺の読み通りなら、ちょっと抜けたとこのあるオーロは、最後の最後にヘマをやらかすはずだから……」
「何を言って…」
瞬間、ケインは姿を消した。
熱さの影響で視力が低下していた赤影にはそう見えたが、実際には回転するカラクリ床で真下に降りただけだとすぐに気付いた。
「しまったぁ!!!!!」
丁度その時、オーロは動力室に設置されたマキシマムサンストーンに手を伸ばしていたところだった。
青影の仕掛けた擬態の罠にはかからずに真っ直ぐやってきたオーロは、勝利を確信してマキシマムサンストーンを手に取った。
今自分がいる場所よりも、遥かにマキシマムサンストーンが熱くなっているとは、全く考えずに。
「う゛ぁぁぁああああっぢいいいいいっ!!!!!」
ギガライコーは動きを止めた。
内部で何が起きているのか知る由もないショーザンは、その隙を突いてギガライコーの胴体部を真っ二つに斬り裂く。
それは丁度、オーロがいて、ケインが降りていく、動力室と同じ高さの部分だった。
斬り開かれた空間の中で、熱さに思わずオーロが放り上げてしまったマキシマムサンストーンに、ケインが手をかざす。
そして、呪文を唱えた。
「『アディオ』!!」
マキシマムサンストーンはケインの魔力に包まれ、ショーザンに斬られた隙間を縫って外に出ると、瞬く間にヒノデ国の遥か彼方へと飛び去った。
ショーザンに斬り裂かれ、動力源を失ったギガライコーに、形を留めていられるわけもない。
もはや城としても機能できないガラクタと化したそれは、二人の操縦者と五人の従者、そして二人の侵入者を収容したまま、音を立てて崩れだした。
ショーザンによって作られた出口に最も近い位置にいたケインとオーロが先に脱出し、次に赤影を除く天守五影が脱出した。
「ケイン!!」
「やったね、ケイン!!」
「すげーよケイン!!」
「クラリの術を使ったか、考えたなケイン」
仲間が口々にケインを称賛しながら迎える。
ケインは仲間たちと笑い合い、皆の無事を喜んだ。
「ケイン、あの宝石どこに飛ばしたんだよ?」
「あんたにだけは教えないよ」
オーロにはそう返事したが、実際ケイン自身もちゃんと目的の場所に飛ばせたのかどうか、イマイチ自信がなかった。
その不安を取り除こうとしたのか、シマシマがケインに耳打ちする。
「ちゃんとケインが思ってる通りの所に行ってるよ。でも早く取りに行かないと、誰かに持ってかれちゃうかもね」
その後天守五影の方へと視線を向けたが、互いに見つめるその目に、もう敵意はない。
むしろ赤影がいないことに気付いたケインの声色は、彼の身を案じてさえいた。
「あれ?あの赤いニンジャ、俺たちの近くにいたはずなのに……」
その時、城が完全に原型を失う寸前、ヨリミツとエーサイを背負い、赤影が姿を現した。
忍者の棟梁は、部下四人を脱出させた後、操縦室で絶望していた主君を助け出しに行っていたのだった。
本来ならば四人の部下を連れて助けに行くべきところだが、部下の救助を優先したのは、赤影の私心が働いたものだったのだろうか。
「私の……私の城が……ギガライコーが……」
うわごとのように呟くヨリミツを下ろし、赤影は優しく言葉をかける。
「ヨリミツ王、城ならばいくらでも建て直せます。拙者ら天守五影がいくらでも力になります故、そう肩を落としなさるな」
むしろギガライコーを失ったショックは、エーサイの方が大きいと言えた。
彼が立てた作戦も、デュナミクや海賊を滅ぼすという計画も、全て台無しになってしまったからだ。
そんなことはお構いなしに、ショーザンはエーサイへと近づく。
天守五影は警戒したが、ヨリミツに対してではなくエーサイに対してだと気付くと、すぐに警戒を解いた。
王の命令がなければ、エーサイの命は守護する対象ではない。
「あんたの作った兵器、確かに強かった。私が本気で戦い続けても勝てなかっただろうくらいに。それに敬意を表して、あんたを殺しがいのある敵と認めましょう」
「待て!!ショーザン、待て!!!」
ヨリミツの懇願もショーザンの耳には入らない。
「んじゃあ……さようなら!!」
振り下ろされた刀は、エーサイの首には届かなかった。
その寸でのところで、ケインの剣に止められていたのだ。
まるでそうされるのを待っていたかのような笑みを浮かべながら、ショーザンは問う。
「どうしましたぁ、ケインさん?」
「その人がギガライコーや、あのやたら強い鎧を作った技術者だろ?だったら、殺させない」
「どうしてです?あんたには関係のない人でしょう?」
「その人がいなくなったら、この国は多分立て直せないだろう。あんたに裏切られ、あんたの娘を喪って、究極の兵器ギガライコーまでなくなった。そうなったこの国を、一体誰がオーロやデュナミクから守るんだ」
「いやあ……娘は実は殺ってないんですがね」
「へ?」
ショーザンが顔を向けた先を見ると、ザクロが立っていた。
服が乱れ、長かった黒髪を半分まで斬られてしまっているが、体には刀傷を一切受けていない。
ショーザンは生まれて初めて、強者と立ち合い、それに勝利しながら、殺さなかったのだ。
「ケインさんが言った通り、兵器がなくなった後で海賊さんやデュナミクから守る戦力がなくなっちまうと思って、娘は生かしとくことにしました。あんた同様、まだ強くなる気がしたってのもありますしね。まあでも………」
ショーザンは薄く目を開け、ケインを見る。
ケインの目は、闘志にぎらぎらと輝いていた。
実のところ、ケインは既にエーサイのことはほとんどどうでも良かった。
ギガライコーを倒した後、この国でケインのやるべきこと。
それを成すための口実を作りたかっただけだった。
知ってか知らずか、ショーザンは笑った。
向けられた殺気と闘志がお眼鏡にかなう強さを備えているのなら、拒む理由はどこにもなかった。
「殺ろうよ、ショーさん」
「殺りましょう、ケインさん」
二人の闘志に中てられて、オーロが拍手する。
「ガッハハハハハ!!ここ来る時は皆殺しにするつもりだったんだが、どうやら締めくくりに相応しいイベントがあるみたいじゃねえか。だったら今日のとこは、それを見届けて終わりにしてやってもいいぜ。見せてくれよ、お前さんたちの死闘ってやつをよ」
ケイン=ズパーシャとショーザン=アケチ。
ケインが最初に戦った相手との因縁に、ついに終止符が打たれようとしていた。