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第40話 友達のために

()()()()


 違う場所で同じものを見て、ケインとエーサイは言った。

 オーロの様子を見て、である。

 エーサイの言葉に反応を示したヨリミツは聞き返す。


「何?エーサイよ、何がおかしい?」


「あの海賊オーロ……ギガライコー最大の攻撃、『ヤサカニノブラスター』をまともに受けて、()()()()()()()のです?」


「……ん?」


 言われて初めて、ヨリミツもオーロが生きているということそのものに対して違和感を抱くことができた。

 確かにギガライコーの攻撃によって、オーロは重傷を負っている。

 だが、それでも、意識をはっきりと保ったまま、生きている。

 遥か彼方で巻き添えを喰らった山々が跡形もなく消滅しているのに、それらよりもずっと近くで直撃を受けたオーロが、生きている。

 それがまずおかしいことに気付けたのが、ケインとエーサイの二人だけだったのだ。

 特にケインは、オーロが魔力で防御するような素振りさえ見ていなかった。

 エーサイと違って魔力を用いていればそれらによる攻防を見ることができるケインにとっては、それさえなく生きているオーロは脅威に他ならない。

 しかし、あくまで最初に違和感を持った二人しかその問題について深くは考えず、それはヨリミツも例外ではなかった。


「ふん、なんということはない。人より頑丈なだけに過ぎぬ。不死身の海賊を謳っておるが、真に不死身な者など存在せぬわ。あと一撃でも再び『ヤサカニノブラスター』を喰らわせようものなら、確実に奴の息の根は止まる!!これは疑いようのない事実だ!!」


 自信に溢れたヨリミツの言葉を否定できる者は誰もいない。

 ただ一人、オーロを除いては。


「おっと、この海賊キャプテン・オーロがこんなザマじゃあカッコつかねえな。『キッス』」


 余裕を見せびらかすように、右手の魔力で全身の傷を癒していく。

 左腕の黒い布が焼き切れていることに気付き、船室に用意されている予備を魔力で操って巻き直すと、コンリード・バートン号を反転させてから言う。


「海賊の心得、『勝てねえと踏んだらさっさと逃げろ。手に入らねえお宝に命を張るな』だ。とんずらこかせてもらうぜ」


 言葉通りに、コンリード・バートン号はギガライコーから遠ざかろうとする。

 それは即ちヨリミツの、ヒノデ国の勝利を意味していたが、ヨリミツが納得のいく完全なる勝利ではない。

 海賊オーロの死こそが、この戦いで最も重要なことだからだ。


「逃ィがさんぞ海賊オーロ!!!ギガライコーの神速を振り切れるものか!!!」


 ギガライコーは巨大刀を振り回して迫る。

 その一振りだけで万物を両断させられるであろう苛烈な攻撃を避けながら、オーロを乗せて船は進む。

 オーロはあえて敵に追いつかせたように、ケインには見えた。

 何かを観察しているかのように、それが何であるかはわからないが。

 一方でヨリミツも隙を窺い、無理な攻撃を極力避けていた。

 オーロの隙ではない。

 オーロと共にショーザンを葬り去るための隙だ。


「ケイン、急いでこの国を出よう。あれにはとても敵わない。マキシマムサンストーンことはもう手遅れだと諦めるしかないよ」


 ギガライコーが遠ざかるのを見ながらシマシマが急かす。

 確かにシマシマが言う通り、マキシマムサンストーンは既にギガライコーというまさに究極の兵器に利用され、最早諦めるしかない。

 ショーザンに関しても、ライガとシーノは下唇を噛みながらも己の心を制御し、この場は諦めようと努めている。

 それでも、ケインはどうしてもヒノデ国から離れる気にはなれなかった。

 何故この国に留まろうとするのか、ケイン自身わからない。

 理由を己に問おうとした時、ギガライコーからヨリミツの声が聞こえた。


「ショーザン!ザクロ!そこの旅行客どもを殺せい!!!海賊も逃がすわけにいかんが、そやつらも生かしておくと後々厄介なことになるかもしれぬ!!決して逃がすな!!!」


「はいはい」


 ヨリミツが言い終わる前から、ショーザンとザクロはケインたちへと向かっていた。

 それを察知し、ケインとシマシマは炎で、ライガとシーノは拳圧で迎撃したが、二人の剣士はまるで無意味と言わんばかりにそれらを跳ね除け、ショーザンはケインに、ザクロはライガとシーノに接近していた。


「やーあケインさん」


「くぅっ!!」


 気さくな挨拶と共に浴びせられる、容赦のない斬撃。

 既にシマシマはククを乗せ上空に逃げていたが、それに気付く余裕も離れるよう合図する余裕もなく、ケインは斬撃を防ぐことしかできない。

 いや、()()()()()()()()()()

 つい数日前まで、全く本気ではないショーザンに、ケインは手も足も出ていなかった。

 それが、今は本来の逆手持ちでの斬撃を、多少手は緩めているとはいえ、防いでいる。

 ショーザンにはそれがたまらなく嬉しかった。

 閉じられた瞼の奥が、太陽よりも眩しく輝く。


「殺し合える……あんたと、ようやく殺し合える。今この時にだって強くなっていく、あんたと……!!けど……!」


 ショーザンの意識は、ザクロたちにも向いていた。

 ライガとシーノ、二人は先程と同様に距離を置きながらの戦法を取ろうとしたが、戦いを楽しもうとしないザクロには通用するものではなかった。

 ザクロは着実に二人を追い詰め、刀を一回一回無駄なく、全ての動作が二人の死に繋がるように動く。

 僅かな時間で己の戦法を確立させたザクロはショーザンにとって喜ばしいものでもあったが、同時にライガとシーノを自分が殺せないことに、そして一番の大物である海賊オーロもヨリミツに取られてしまうことに苛立っていた。

 苛立っていたのはケインも同じ。

 ここに来る前に、ショーザンを倒すことを決意していた。

 初めはそれがこの国に自分を留まらせる要因なのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 目の前にいる仲間の仇でさえ、今自分がここにいる理由ではない。

 ならば何故この国に拘るのか、それがわからずに苛立っていた。


「そんなイライラしてちゃあ、剣に影響出ちまいますよぉケインさん」


「……あんただって、影響出ちゃってるだろ!」


 互いに図星を指され、刀と剣は弾き合って距離を置く。

 ケインとショーザン、二人は相手が今何をしたいのかは知らない。

 だが、相手が自分と戦う時ではないと考えていることだけはわかっていた。


「え!?ケイン!!!」


 シマシマが叫んだ時には、二人は相手から離れ、それぞれ思うままの方へと向かっていた。

 ケインはギガライコーへ。

 そしてショーザンは、ザクロへと。

 ザクロは傷だらけになっているライガとシーノ、どちらにトドメを刺すか一瞬判断に迷っていたが、舌なめずりと共に考えを纏め、先にシーノへと刃を向けていた。

 シーノを庇い、ライガが覆い被さる。

 そこを二人纏めて突き刺すというのがザクロの考えで、読み通り二人を今まさに殺すところだった。

 一瞬の迷いこそが、ショーザンの邪魔を間に合わせる結果に繋がりさえしなければ。

 ライガの背に刺さるまであと数センチ、その位置でザクロの刀は、ショーザンの刀によって阻まれていた。


「……どうなさいました、父上?」


 怪訝な顔でザクロは問う。

 それに応えるショーザンの表情は、娘に向ける父親の顔そのものだった。


「今はこの人たちよりも、あっちの方が先です」


 ショーザンが指差した先にあったのは、ギガライコー。


「はい?」


 ザクロからしてみれば意味がわからない。

 ギガライコーは主君が乗っている国の切り札。

 それに対して父は何をしようとしているのか。


「このままじゃあ、私はあの海賊さんを諦めなきゃいけないし、ケインさん、それにそこのお二人さんのことも、どっちかは諦めなきゃいけないんですよぉ。だけど、あの城さえぶった斬っちまえば、私は今挙げた全員と殺し合う機会を得られるんです」


「………………はい?」


 ショーザン本人は懇切丁寧に説明したつもりだったが、やはりザクロには理解できなかった。

 父が主君を倒そうとしているという、気が狂ったとしか思えない考えに至っていることだけは理解できたが。

 やり取りを聞いていたライガとシーノも状況にまるで理解が追いついていないのだから、生まれたばかりのザクロがそんな状態であっても誰も責められない。

 ともかく、彼らを置いてショーザンはさっさとギガライコーの方へと走って行ってしまった。

 先に走っていたケインは、ギガライコーとオーロに追いついていた。

 オーロはわざと誘うように同じ場所をぐるぐると回り、ケインに追いつかせていたのだ。

 その意図をケインは読みかねていたが、構わずギガライコーに攻め込む。


「『ボンボヤージュ』!!!!」


 火炎魔法がギガライコーの下半身、グランドシャドウホースと合体している部分に命中したが、ダメージを受けた様子はない。

 逆にヨリミツの怒りを買うだけの結果となってしまった。


「おのれぇぇショーザンは何をしておるのか!!!海賊オーロより先に死ぬが良いわ!!!!」


 ギガライコーの巨大刀がケインに迫る。

 避けるためにケインが動こうとした、その時だった。

 ショーザンがケインとギガライコーの間に割って入り、巨大刀に自らの刀を合わせて対抗した。


「何ィ!!?」


 刀と刀のぶつかり合い。

 大きさから言えば、それは勝負にさえなるはずのないものだった。

 だが、ぶつかり合った衝撃にギガライコーは仰け反り、体勢が崩れてしまっていた。

 当然ショーザンにも衝撃がかかり、大きく吹き飛ばされてしまっていたが、すぐにケインの側まで戻って来た。


「いやあ、剣の勝負では絶対に負けない自信があったんですが、流石は究極の兵器と呼ぶだけのことはある」


 ケインやオーロにではなく、今はギガライコーにだけ殺気を向けながらショーザンは言った。

 オーロが逃げないよう注意を払いつつ、ヨリミツは問う。


「ショーザンよ……何の真似だ?」


「諸々考えたんですがぁ、裏切っちゃいました。ごめんなさい」


 一切悪びれる様子もなくショーザンは笑って答えた。

 それを真横で見ていたケインには、特に驚きはなかった。

 ギガライコーの強さを認識した時から、薄々こうなる予感はしていた。

 ショーザン=アケチという男は、自分より強い相手だからといってそれに従うような男ではない。

 むしろ、それを殺しにかかってこそ、ショーザン=アケチとしての存在が保たれるのだろう、そう思っていた。

 ショーザンの裏切りを、彼の性格を知る者は誰もが予期していたのだ。

 予期できなかったのは、そのタイミング。

 計り損ねたヨリミツは、ギガライコー内部でうなだれた。


「……早くない?」


 裏切りに傷心気味のヨリミツだったが、彼がショーザンを謀殺しようとしていたこともまた事実。

 それをショーザンはまだ知らないが、結果的に彼は、自分を殺させるための大義名分をヨリミツに与えた形となった。


「ザクロ!!!ショーザンを始末せい!!!!!」


 怒号に反応し、ザクロがショーザンの前に立ちはだかる。

 ケインがザクロを横切ってギガライコーへと向かうのを見送ってから、ショーザンは娘に言う。


「ザクロ、どいてくれませんか?」


 間髪入れずに娘は返事する。


「どけません。父上がこの国を裏切った時、私は父上を殺すように命じられておりますので。父上が本当に裏切るとは、思っていませんでしたが」


 無表情のまま父と同じ構えを取って、ザクロはゆっくりと腰を落とす。

 ショーザンは目頭を押さえ、苦笑しながら脳裏にこれまで殺してきた者たちの顔を浮かべた。


「……血は繋がっていないが、父親二人、兄弟二人、そして今度は、娘。いやいやいやいや……その一線だけは越えるまいと思ってはいましたが、いざ直面すると……中々どうしてどうして……」


 剣狂は目を開け、娘に向けてはならない眼差しを送った。


「そそる!!!!!」





 ショーザン、ザクロ親子から離れ、ケインはオーロとは別の場所でギガライコーの対抗策を練りながら攻撃を繰り返していた。

 ギガライコーはケインには構うことなく、オーロにだけ巨大刀を振っていたが、やがてしびれを切らしたか、ついに左腕でケインを殴りつけにかかった。


「うおぉぉわ!!」


 慌てて跳び退き、今度は腕が届かない距離を保ちながらの攻撃を試みる。

 ヨリミツはそれに苛立ちを募らせたが、オーロから離れるわけにはいかない。


「『ヤサカニノブラスター』を使えば…!!」


「いけません。海賊オーロのための切り札を、あのような木っ端に使ってしまっては。それにまだエネルギーが十分に溜まってはおりません」


「だがあの小僧をこのまま捨て置くわけには……!」


「遠距離用の武器はまだあります。それを使うのです!」


 エーサイの進言を容れ、ヨリミツはギガライコーの肩に装備された巨大シャチホコを投げつけた。


「『シャチホコ・ブーメラン』!!!!」


 シャチホコが衝撃波を発生させながらケインへと向かう。

 とても避けられるような速度ではないそれに、ケインがただ立ち尽くしている時だった。


「うらぁ!!!」


「てやぁ!!!」


 ライガとシーノが割って入り、シャチホコを殴りつけた。

 猛烈な轟音を響かせながら、シャチホコは持ち主へと返っていく。


「な!?」


 常人であるヨリミツが反応できるわけもなく、ギガライコーはシャチホコと激突して大きくバランスを崩してしまった。


「オマケだぜ!!『ドラゴンスーパーフレイム』!!!」


 上空からダメ押しの火炎攻撃を与え、シマシマはケインたちの下へと降りてきた。


「みんな……!」


「いぃぃぃぃっててててて……あの金ぴかの魚、硬すぎんだろ!!」


「折れてない!?ねえ、ライガ!私の手ぇ、折れてない!?」


 涙目で殴った手を擦りながら喚くライガとシーノに苦笑いしつつ、ケインはククの無事を一応確認する。

 激しい戦闘で巻き上がった埃でククは少し汚れていたが、怪我一つ負ってはいなかった。


「大丈夫かい、クク?悪いけど、もう少しだけ辛坊してね」


「私は大丈夫ですっ!それよりケインさん………あれ?なんか光って……」


 その言葉にケインが振り返ると、ギガライコーの胸部が赤く輝いている。

 怒りに燃えるヨリミツが、最大攻撃をケインたちに向けたのだ。


「まだエネルギー充填率は半分にも達しておりませんが……!」


「構うかぁ!!!あのようなコバエども、それで十分よ!!!!!喰らえ!!!!『ヤサカニノブラスター』!!!!!」


 熱線が放たれ、ケインたちへ迫る。


「危なぁぁぁああああああい!!!!!」


 ケインの叫びも虚しく、一行は激しい光と熱線に包まれ、ククは目を覆った。

 それは一瞬の出来事だったが、何の力も持たないククには何分も経ったかのように感じられた。

 ククは、不思議と痛みも熱さも感じなかった。

 先程空飛ぶ船に乗っていた男が焼かれるのを見て、この攻撃の威力を知っていたからこそ、不思議で仕方なかった。

 ククが目を開けると、そこにはいつもと変わらない笑顔のケインがいた。

 ただひとつ、違うのは、ケインの全身が夥しいほどの火傷を負っていたことだった。


「だい……じょう………ぶ、かい……クク?」


 先程と全く同じ問いかけ。

 声は先程と全く異なり、ひどく弱っていた。

 弱っていたのはケインだけではない。

 ライガもシーノも、ククを乗せているシマシマも、あちこちに火傷を負っている。

 それでも、ケインほどではない。

 そこから導き出される、今しがた何が起きたかについての答え。

 いかにククでもそれはわかった。

 ケインが、己の魔力を全開にして、皆を守ったのだ。

 特に、ククにだけは、何も危害が及ばないように。


「ケイン……さん……」


 ケインの口から血が流れ落ちる。

 オーロのように無防備でなかったとはいえ、攻撃の出力がオーロの時の半分だったとはいえ、全身に受けたダメージは甚大で、まともに立っているだけで奇跡とさえ呼べた。

 自分だけが一切何もなく、庇ったケインがそんな状態にあるという事実を受け止め切れず、ククは叫ぶ。


「ケインさん!!!ケインさん!!!」


 今にもケインが死んでしまうのではないか、そうよぎる度にククの目から涙が溢れてきた。

 ククを安心させるために抱きしめようかとケインが思い立ったその時、ゴアがククと交代して出てきた。


「あのまま取り乱しておっても良くない気がしたからな。生きとるか、ケイン?」


「ちっ」


「なんの舌打ちだ、色ボケ勇者が」


 冗談を交わしつつも、ケインの肉体は本来そんな余裕などないほどに弱り切っている。



「……けて…………」



 だが、そんな半死半生の体だったからこそ、ケインにだけ聞こえるものがあった。


「……すけて……助けて………助けてくれ……ケイン……!」


 その幻聴は、他の誰の耳にも聞こえない声だった。

 この時、ケインはようやくこの国に留まらせていた何かを認識した。


「ケイン、その体のままだと本当に死ぬぞ。ゼブラも言うておったが、マキシマムサンストーンのことは一旦諦めろ。ここは回復に専念して…」


 ゴアの言葉に耳を貸さず、ケインはギガライコーへと向き直り、力の限りに叫ぶ。



「絶対助けてやる!!!!!おまえをそんなとこに、いつまでもいさせやしない!!!!待ってろ!!!!!カウダー!!!!!」



 喉が破け、血を噴き出しながらのその言葉に、ゴアとシマシマは驚きを隠せなかった。

 ライガとシーノは自分たちの回復力で既に火傷を治し、ケインの前に立ち塞がった。


「カウダーって誰のことか知らねえけど、もうやめようケイン。俺たちも我慢するから」


「私たち、ケインにまで死んでほしくない。シマシマちゃんから食べ物もらって、回復しよう?」


「みんなは逃げてくれ。ここからは俺のワガママだ」


 低く唸るような声で、二人を押し退けながらケインは言った。

 その余りの力のなさに、ライガとシーノはよりケインの身を案じたが、強く触れた衝撃で死にかねないケインの体をどう扱えば良いものか判断に困っていた。

 ゴアがシマシマから降り、ケインに尋ねる。


「何故だ。何故そこまでしようとする。何故カウダーのために命を賭けようとするんだ」


「あいつは……」


 その時、ケインの体からとうに底を突いていたはずの魔力が溢れ出てきた。

 魔力はケインの傷を癒し、みるみる力を蘇らせていく。


「あいつは、カウダーは、確かに殺し合った敵だった。あいつは俺を『エサ』と見なしてたし、俺もあいつを強くなるための踏み台くらいにしか見てなかった。だけど……」


 そこまで言った時点で、ケインの傷はほとんど癒えていた。

 何故ケインに魔力が戻ったか、ライガとシーノ、そしてシマシマにはわからない。

 だが、ゴアにはわかっていた。

 大切な誰かのために戦う時に起きる、人間の奇跡。

 その誰かというのが、ゴアにとって信じられないものだったのだが。


「あいつが死ぬほんの少しの間だけ、俺とあいつは喋り合ったんだ。本当に少しだけだったけど、あいつと過ごしたあの時間、あの時間だけはあいつと俺は……『友達』だったんだ!!!」


 ケインの目に輝きが戻っていた。

 その体を纏う闘気、そして魔力は、先程までとは別人のように違う。

 死に直面して、勇者はまたひとつ、大きく成長を遂げていた。


「そう。俺は『マキシマムサンストーン』を取り戻しに来たんじゃない。炎王カウダーという大切な『友達』を助けに来たんだ!!!!俺の大切な『友達』を、あんな機械に閉じ込めたままになんか、絶対にさせない!!!!!」


「……あいつの父親として、友達になってくれた礼を言っておかねばならんかな」


 顔を背けて呟いたゴアの目には涙が浮かんでいた。

 傷がなくなったケインの肩を、遠慮なくライガが力強く掴む。


「よくわかんねえけど、友達を助けるってんなら、仲間としちゃあ付き合うしかねえよな?」


「ま、死なない程度にだけどね」


「ライガ……シーノ……!」


 口から魔獣の肉をケインに渡し、シマシマも続く。


「あんな奴のどこがいいんだか。言っとくけど、俺の方があいつとの付き合い長いんだぞ?よく友達になんかなろうと思うよな?」


「シマシマ……!」


 ゴアは涙を拭き、ケインの尻を叩いた。


「俺だけ逃げても仕方あるまい。ここで待っててやるから、さっさと馬鹿息子取り戻して来い」


「ゴア!!」


 一方、無理な攻撃の反動からか、ギガライコーは動きが鈍っていた。

 容易に巨大刀をやり過ごして、オーロを乗せたコンリード・バートン号がケインたちへと近づいてきた。


「えらく息巻いてたが、どうやらお前さん、まだまだ諦めちゃいねえようだな」


「当たり前だろ!」


 ケインとオーロは、互いに目の奥にある輝きを見る。

 一方は己の大切なもののために輝く赤、もう一方は満たされない欲を埋めるために輝く金色。

 もう自分では出せない輝きを疎ましく思いながらも、オーロはにやついた笑みで言う。


「あのギガライコーを倒す策、思いついちまったんだ」


「えっ!?」


「正直宝石一個のためにやるのは俺は気が引けるんだが、お前さんという競争相手がいるってんなら……教えてやってもいいぜ」


 ギガライコーが迫り来る中、ケイン一行はコンリード・バートン号に乗り込んだ。

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