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第38話 究極の兵器、起動

 ヒノデ国に不穏な動きアリ、その報せを受けてもデュナミク王国女王ロレッタ=フォルツァートは動かなかった。

 偵察隊の調べで、海賊とヒノデ国の全面戦争が間近に迫っていることが判明したのが、その決断に至らせた主要因である。

 現時点でデュナミク王国がわかっているヒノデ国と海賊との戦力は、総合的に見てほぼ互角。

 人斬りショーザン=アケチがヒノデ国に戻ったとしても、個人としての戦闘能力は海賊オーロが頭三つ分は飛び抜けて高く、数的な戦力はヒノデ国が圧倒している。

 その両勢力に対して、デュナミク王国が個人としても数としても明確に勝っていると確信していながらも本格的に手を下すことができない理由もまた、それぞれの勢力にあった。

 どちらかを攻め落とそうとすれば、疲弊したところをもう一方に突かれ、敗北しかねない。

 それは両勢力も同じこと、であったはずだったのだが、その二つが全面戦争に出ようとしている。

 デュナミク王国にとってはまたとない好機。

 ヒノデ国と海賊、どちらが勝つにせよ、勝った方の勢力にもそれ相応の消耗があるに違いない。

 これまで自陣が恐れていた事態に敵方が陥ろうとしているのならば、その自滅を待つ、それがロレッタの判断だった。

 待ちの姿勢に出ることこそ、ヒノデ国王ヨリミツ=マドカの思う壺だとは、知る由もない。

 全てのことが、ヨリミツの計画通りに運んでいた。

 ただひとつ、青影から報告のあった不確定要素。

 竜に乗る謎の5人組の存在。

 ヨリミツは何ら意に介することはなかったが、それこそが今度の戦いの鍵を握る存在に違いなかった。

 その鍵が目覚めたのは、まだ夜が明ける前の洞窟の中。


「朝がくるぅ!!やってくるぅ!!デンッ!デンッ!早くぅ!走らなきゃぁ!!デンッ!デンッ!朝にぃ!!追いつかれぇ!!ちゃぁうぜえぇ~~!!デレレレッ!デェン!!」


 ケインは妙なテンションで歌うククの声に起こされた。


「……おはようクク。その歌は?」


「『モーニング・クライシス』です!まだ暗いからあんまりうるさくない歌を作りましたっ!」


「へぇー……いい歌だね」


 普通にうるさい歌だねとはとても言えなかった。

 夜明け前にしては、ククの笑顔はあんまりにも眩しすぎたから。

 洞窟を出てみると、ライガとシーノは既に準備を整えていた。

 ケインとククのやり取りを聞いていたらしく、シーノは笑いを堪え、ライガは同情の目をケインに向けている。


「……好きな女のすることならなんでも肯定するって、大変なんだな」


「大変じゃないさ。あの笑顔を見られるならね」


「カッコ良くないぞ?」


 冗談もそこそこに、ケインはヒノデ国へと顔を向け、昨日まであったものがそこにないことに気付いた。


「ドームは?」


「おまっ、あんなデカい音してたのに気付かなかったのかよ!?昨日あのドーム、開いてなくなっちゃったんだよ!!」


「………開いた?」


 まだ寝起きでテンションは上がっていないが、それを聞いたことによる思考は十分働いていた。

 外敵から守るためにあったはずのドーム。

 海賊オーロが迫っていることを知りながらそれが開かれたということ、それは敵をヒノデ国内で迎え撃つという意思表示に他ならない。

 青影が言っていた究極の兵器とは、それほどまでに自信のあるものだということなのか。

 そう考えながら、ケインはライガたちと共にシマシマに乗っていた。


「ドームをどうするか考える手間が省けた、それだけさ」


 己に言い聞かせ、ヒノデ国を目指した。




 ヒノデ国内に入って数十分。

 ショーザンのような刺客が接近しづらいよう、高度を上げてマキシマムサンストーンに向かってシマシマは飛んでいたが、ケインは真下に広がる光景に奇妙な違和感を覚えていた。


「なあライガ、家、見てないか?」


「家?なんのことだ?」


「ヒノデ国に入ってからこっち、一軒でも建物らしいものを見たか?」


 草木といった自然はそのままだが、国内だと言うのに民家や何らかの施設らしき物体が一切見られない。

 ケインより視力で優るライガとシーノはそう言われて初めてその珍妙さに気が付いた。

 試しに見やすい位置まで高度を下げてみると、人影さえ全くない。


「でも、ついさっきまであったみたいですよね?」


 ククはそう指摘したが、確かに最初からそこになかったような感じではない。

 建物があった形跡が、そこかしこに見える。

 今の今まであったものが、忽然と姿を消してしまったような、そんな印象を受ける。

 だが、それが一体どういうことを意味しているのか、ケインには見当もつかない。

 もうすぐ夜が明ける。

 なるべく早くマキシマムサンストーンの正確な位置を掴むため、シマシマが速度をククが耐えられる程度まで上げようとした時だった。


「ガハハハハハ!!!ケイン!!やっぱりお前さんも来てたか!!!」


 遥か後方から声がかかり、ケインたちは振り向く。

 拡声魔法で海賊キャプテン・オーロが呼びかけたものだった。

 オーロを乗せた空飛ぶ海賊船コンリード・バートン号は、優雅に、力強く、そして速く飛び、あっという間にシマシマの横に並んだ。


「何の用があってここに来たのかは知らねえが、今の内に引き上げた方が身のためだぜ」


 オーロの目は殺気が籠っているが、それは決してケインたちに向けられたものではない。

 ケインもそれを察して、不必要なほどには敵意を向けようとはしなかった。

 だが、そこで退くようなことも、決してしないが。


「船長、あんたはどうしてここらに建物がないか、わかる?」


 あえてオーロの言葉を聞いていないような素振りで、ケインは質問を投げかける。

 その程度で逆鱗に触れるような男ではないことを知っているからだ。

 期待通り、オーロは心に余裕を保ったまま答えた。


「破壊による被害を無駄に出さねえためだろうさ。もっと正確に言うなら、俺に殺されねえためだな」


 そう言った直後、コンリード・バートン号はシマシマを突き放すように速度を上げた。

 無意味な慣れ合いを避けるためか、それとも戦いに気持ちを昂らせたか。

 いずれにしても、オーロをそのまま行かせるわけにもいかない。

 マキシマムサンストーンがヒノデ国にあることをオーロが知っているのかは定かではないが、もしまだ知らないのだとしたら、それを悟られることなく取り戻さなければならないだろう。

 ククを魔力で防御しつつ、ケインはシマシマに叫んだ。


「オーロから離されるな!ちょっとの間ならククも大丈夫だ!」


 言われるまま、シマシマも速度を上げる。

 シマシマとコンリード・バートン号は、ぴったりと横に並んだまま飛び続け、オーロはそれに対して手出しはしなかった。

 オーロを利用してショーザンや他のヒノデ国の連中をやり過ごすには、ここはなんとしても離されるわけにはいかない、ケインは必死でククを庇ってシマシマが遠慮せず飛べるよう努めた。

 ケインの息が上がってきた頃、ようやく建物が一つ見えてきた。

 ヒノデ国の象徴、ヨリミツ城の大天守である。

 後方には未だ閉じられたままのドームの南側半分も見える。


「ケイン、あそこだ」


 シマシマは速度を落とし、ケインに魔力を回復させるために魔獣の肉を取り出しながら言った。

 コンリード・バートン号から離れ、渡された魔獣の肉を食べながらケインは聞き返す。


「あそこにあるのか?アレが」


「間違いない、あの中にあるよ。あいつらがそう簡単には渡しちゃくれないだろうけどね」


 ヨリミツ城の前に立つ二人。

 ショーザン=アケチとその娘ザクロが、オーロを待ち構えていた。

 ケインに気付いたようで、ショーザンは手を振ったが、ケインたちはそれを無視した。

 ここで挑発に乗ってはならない、ライガもシーノも、冷静だった。

 オーロは指の関節を鳴らしつつ、出迎えに挨拶する。


「よう、人斬り。そっちの綺麗なお嬢さんを紹介してもらえるかな?」


 ショーザンは笑顔で一礼すると、ザクロの肩に手を置いて応えた。


「色々ワケありなんですが、一応は私の娘になる子です。ザクロといいます。以後お見知りおきを」


「以後があればな」


 戦闘態勢に入ろうとしているオーロの後方にケインたちは下がる。

 オーロがショーザンたちと戦うのなら、その隙を突いて城に潜入しようかとケインが策を練っている時、思惑を破るかの如く城から声が聞こえた。


「ぬははははははは!!!久しぶりだな海賊オーロよ!!」


 オーロは顔をそちらに向ける。

 だが、声の主は姿を見せず、城に仕掛けられた拡声器によって発せられたものだった。


「王様よぉ、俺の仲間を随分()ってくれたわけだが、その詫びもなくそんなとこから声かけるってことは、そりゃあいよいよ本格的に戦争おっぱじめようってことだよな?」


「だからこそ地底深くに民を隠したのだ。貴様やデュナミクのような大戦力と、この国で戦火を交える時に備え、作らせた地底街にな。地底ならば、ここで誰がどれだけ暴れようとも、被害は及ばぬ」


 それこそが前日からヒノデ国が行っていた準備のひとつ。

 長い年月をかけて作り上げた地下街に、建物ごと国民を避難させた。

 避難民の中には、機械(カラクリ)の鎧で戦う数百万の兵士も含まれている。

 デュナミク王国との戦いに備え、海賊相手の無駄な消耗を抑えるために、兵士をも避難させたのだ。

 自分はあくまでも前座に過ぎない、ヨリミツの思惑を見透かし、オーロは一層殺気と怒気を強める。

 既に勝利を確信しているヨリミツには、それがたまらなく心地よかった。


「ぬふふふ…良いぞ、良いぞその殺意に満ちた眼差し。ドームで我が国を守る以前は、貴様はよくこの国を荒らし、略奪の限りを尽くしおったものだが、その度に何度私は貴様を殺してやろうと思ったことか!そのための力を何度欲したことか!!それがいよいよ!!今日!!!果たされる!!!!!」


 まるでその言葉を待っていたかのように、朝日が顔を出し、ヨリミツ城を照らす。

 直後、オーロやケインたちの背後で何かが爆発し、驚いた一同はそちらに顔を向けた。

 爆風の中、5人の男が飛び出した。


「とおぅ!!」


「せやぁっ!」


「そいや!!」


「え…えいやっ!」


「Fire!!!」


 空中で一回転し、ショーザンらの目の前で着地、再びオーロたちへと振り返る。

 何かの仕掛けに気付いたショーザンは、ザクロを連れてその場を離れた。

 5人の男たちは、それぞれにポーズを決めながら名乗りを上げた。


「棟梁赤影!!コタロウ=コーガ!!」


「青影!!ブソン=ヤナギ!!」


「緑影!!マサムネ=オグラ!!」


「も、桃影!サトル=ハチヤ!」


「ブラァックシャドウ!!!タケシ=ウットゥーギ!!!」


「日昇るところ影があり!天を守るは地這う影!!5人揃って!!!」


「天守五影!!!!!」


 5人一斉にポーズを決めた瞬間、背後に仕掛けられた爆弾が爆発した。

 彼らが一晩寝ずに考えた、戦闘前に相応しい名乗り、それが完遂されたのだった。

 黙って見ていたケインとライガ、そしてオーロやショーザンまでも、思わず拍手していた。

 男としての心を掴む何かが、それに秘められていた。


「ご……ご苦労、天守五影。だが今しばらくは下がっておれ」


 拡声器からの呆れたようなヨリミツの声に、確かな手ごたえを感じつつ天守五影は従った。


「あれ?そういやデュナミクの方々が来てませんねぇ?ちょっかいかけに行ってたはずでしょう?」


 ショーザンが口にした疑問は一切答えることなく、ヨリミツは続ける。


「ショーザンも、今は大人しくしておることだ。まずは、究極の兵器の威力を、この海賊オーロで試す!!」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、オーロも再度闘志を露わにする。

 先程の名乗りで冷まされた反動か、より勢いを増しているかのようだ。


「究極の兵器、ねえ。いっちょまえな名前付けてっけど、俺は海賊だぜ?そいつが本当にすげえ代物なら、ただ俺に略奪される対象でしかねえって、わかってんのかよ?」


「ぬはははは!!これは貴様などに奪えるようなものではない!!!規模が違うのだ!!!!」


 その時、ヨリミツ城が揺れ動き始めた。

 城内のある一室にて、ヨリミツと共にいるエーサイ=ドマが、計器を確認しながら王へと告げる。


「天守五影の力は借りなくてよろしいのですか?」


「構わん!!まずはこいつの力だけで試してみるのだ!どれほどのものか、存分に見ておきたい!!」


「畏まりました。では……」


 エーサイに促されるまま、ヨリミツは究極の兵器起動のレバーを引いた。


「このヨリミツ城には!!様々な機械(カラクリ)が仕掛けられておる!!だから海賊!!かつて貴様が何度ここに攻め込もうと、この城だけは落とせなんだ!!!」


 ヨリミツ城が形を大きく変え、動き出す。

 その衝撃だけで周囲に地鳴りが起き、大地に亀裂が走る。

 近くにいれば危険が及ぶことを察し、ショーザン親子や天守五影はその場から離れた。


「私は思った!!!この難攻不落の機械城(カラクリじょう)、それが守るだけでなく、攻めるために用いることが出来ればと!!!だが、それには動力が必要だった!!ただの動力ではない!!!この巨城を動かすほどの、莫大な動力が!!!」


 城の原型が徐々になくなっていく。

 城と呼ぶよりは、最早それは―――――


「きょ……じん……?」


 呆気に取られていたケインがそう呟く。


「竜に乗った旅行客諸君!!間が悪かったな!!!諸君らが持っておったという太陽の宝石は、ヨリミツ城が自立し、可動するための動力源となったのだ!!!!見よ!!!!!」


 ヨリミツ城は二本の脚で立ち、太く長い二本の腕、その根元たる肩には金色に輝く巨大シャチホコが、頭部はそれ自体に意味があるかは定かではないが兜のような装飾が備わっている。

 やはり男心を掴む何かがあるのか、ケインやライガ、オーロは妙な高揚感に駆られていた。


「一騎当億!!!天下無双!!!!機械武神(カラクリブシン)『ギガライコー』!!!!!降臨ンンンンンッ!!!!!」


 ついに起動した究極の兵器、ギガライコー。

 兜の奥にある目が朝日を反射し、ぎらりと輝いた。

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