第31話 ゲキウマサラミ臨時休業
シマシマがゆっくりと飛び続けること数時間。
夕方近くになってようやく一行はウェルダンシティに到着した。
『ゲキウマサラミ』の裏庭に降り立ったシマシマは物凄く居心地悪そうにしていたが、とりあえずはそれを無視してケインたちは中へと入った。
サラミ婆さんは店先のドアの前にかけてあった『準備中』の札を『臨時休業』の札に取り換えに行った。
「おいおいサラミ婆さん!月一回の楽しみにしてたってのに、何も今日休まなくったって!」
開店を待っていたらしい中年の男がサラミ婆さんに声をかけた。
「ごめんよ!急に友人が来ちゃってね!悪いんだけどまた明日出直しとくれ!」
ケインたちに言われるまでもなく大事な話があるということを察していたサラミ婆さんは、毅然と男にそう返した。
「そんなぁ…頼むよ!今日食べられなかったらまた来月まで休みなく働くんだよ!これのために毎日せっせと働いてんだ!10万ジェジェ出すから、頼むよ!」
男はどうやらかなり過酷な労働環境にあるらしい。
流石のサラミ婆さんも同情からか語気が弱まるが、それでも返答は変えない。
「いやあ悪いねえ。どうしても外せない用事なんだ。なんならあんたんとこに弁当持ってったげてもいいからさ、今日のところは勘弁しておくれよ」
そこまで譲歩しても、男はなおも食い下がった。
5分ほど口論が続いた時、ついにサラミ婆さんはキレた。
「ウルルルルルッッッサァァァアアアアーーーーーーーーイッ!!!!!明日になりゃあいくらでもなんでも食わせてやるからアアアァ!!!今日はァァア!!!我慢して帰りなアアアアアアーーーーーーーッ!!!!!」
普段屋内で、それも営業中しか発せられない大声に、男だけでなく街を歩いていた全ての人間が尻もちをつき、寝たきりになっていた街中の老人数名が飛び起きた。
男がそそくさと帰るのを見送ってから、サラミ婆さんは店のドアを閉めた。
「さて、待たせたね……あら?」
店内で待っていたケインたちにも、サラミ婆さんの大声による影響が出ていた。
ゴアは気を失い、ライガとシーノは蛇に睨まれた蛙のように動けず、スコットは顔中に冷や汗を垂らしている。
唯一慣れている自負があったケインも、座っていた椅子から転げ落ちていた。
サラミ婆さんはカウンターに立つと、大きく手を鳴らした。
それは声に比べると余りに小さい音だったが、それでもケインたちを正気に戻すには十分なものだった。
ゴアはまだ起きなかったが。
「なにか話があったからシマシマに掴まったんだろう、ケイン?」
「あ、は、はい。ほら起きろよ」
ケインはゴアを揺さぶって起こす。
まだ眩暈がしているのか、ふらふらなゴアをカウンターの椅子に座らせると、サラミ婆さんに向き直った。
「サラミ婆さん、あの……」
「ああそうだ。あんたには渡すものがあったんだね。ちょっと待ってな」
そう言ってサラミ婆さんは厨房の奥へ何かを取りに行くと、それをケインに渡した。
ケインのバッグだった。
「シマシマの中に入れっぱなしだったからね。それと、こいつも受け取りな」
次に突き出したのは、金貨の入った巾着袋。
以前ケインが受け取るのを拒んだ、バイト代だった。
「今のあんたならこれを受け取れる強さを持ってるだろう?受け取ってくれるね?」
「……ありがとうございます」
サラミ婆さんはケインの成長を読み取っていた。
肉体的にも精神的にも以前とは比較にならない成長を遂げていたケインならば、受け取るはずだと踏んだのだ。
そして、その読み通り、今のケインにはそれを受け取れる度量が備わっていた。
もしもまた魔獣狩りをすることになったのなら、今度は必ず見合うだけの仕事をやり遂げられる自信があったのだから。
「もう済んだか?」
ゴアが不機嫌そうに二人を睨んでいた。
受けとったばかりのバッグに巾着袋を仕舞いながら、ケインはゴアに話をさせるべく一歩下がる。
ゴアとサラミ婆さんは、カウンターを挟んで向かい合った。
「さて、話があるのは俺からだ、老婆よ」
「どんな話なんだい、魔王ゴア」
「へええっ!!?」
間抜け極まりない声を上げて、ゴアは椅子から転げ落ちた。
動揺するゴアを起こしてまた座らせながら、同じく動揺しつつもケインは尋ねる。
「ど、どうしてこいつが魔王ゴアだって……?」
「だって、シマシマがあんなに怯えて、シマシマをゼブラなんて呼ぶ奴なんて他にいないじゃないか。子供の姿になってるけど、弱ってるだけだろう?」
「それにしたって……」
「ドーズさんから何度も話には聞いてたからね。魔王は絶対に復活する。もし復活した時には弱っているかもしれないけれど、いずれ力をつけてこの地上を再び征服しようとするはずだ、ってね。まさか本当に復活するとは思ってなかったけどさ」
「ちょちょちょ!ちょっと待って!」
「ん?」
「ドーズさん?」
その妙に親しげな呼び方はケインの心をより揺さぶった。
これまで初代勇者ドーズ=ズパーシャを呼ぶ者は、皆『様』付けもしくは呼び捨て。
出会ったことのある者でないと、『さん』付けなどしないはずだ。
「ドーズ様のこと……知ってるの?」
「知ってるもなにも、義理の兄だからね」
「え!?」
「ドーズさんとデキ婚したサヤ=ポプランはあたしの姉さ。サラ=ポプラン、それがあたしの本名。あんたの9代前の叔母さんだよ」
「えぇぇーーーーーっ!!?」
今度はケインが驚きで倒れる番だった。
会えると思っていなかった先祖に会えるとは、しかもサラミ婆さんがそれだったとは、まさか思ってもみなかったことだ。
不意の出来事に、何故か涙まで流れた。
「なんで泣くんだい?」
「いや……なんでだろ」
「っと、話が逸れたね。逸れすぎたね」
不意にサラミ婆さんから視線を戻され、油断していたゴアは魔王としての風格をなんとか見せようと胸を張りながら言った。
「ふん、俺のことをちゃんと理解できておるのならば話が早い。老婆、俺がお前に言いたいことは三つ。一つ目は、魔獣狩りをやめろということだ」
「いや最初がそれかよ!?」
ケインのツッコミを無視して、ゴアとサラミ婆さんは睨みあう。
力では現状まるで勝ち目がないが、ゴアの鋭い眼光はサラミ婆さんに決して引けをとらない。
「魔界は俺の住処。そこを好き放題荒らされては、主たる俺としてはとても看過し得ぬ。素直に手を引いてもらおうか」
「あんたら魔獣がやってたのと同じようなことをしてたわけだからねえ、誰かにやめろって言われたらやめるつもりだったさ。しかもそれが元々の持ち主に言われたんじゃあ、しょうがないよね。わかった、全面的に魔界からは手を引くよ」
驚くほどあっさりと、サラミ婆さんはゴアからの要求を呑んだ。
それに安心したのか、ゴアはほっと息を吐いて肩をすくめる。
「でも、シマシマの中に入れた魔獣は殺したやつだからね、そいつらは全部使わせてもらうよ」
「死んだ魔獣をむざむざ捨てさせるのも何だしな。好きにすればよい」
「まああれだけあればあと5年は今のままでやってけるだろ」
「どんだけ殺しおったんだ糞老婆!!!」
「あ、そうそう。魔界からは手を引くけど、ダンテドリ島の魔獣は好きにしていいだろ?」
「あぁ!?……ああ、別に構わん。あそこだけ魔界以外で何故魔獣が生まれるのか、何故瘴気が発生するのか、俺も知らん土地だしな」
サラミ婆さんにペースをかき乱されながらも、ゴアは会話を続ける。
暴力に訴えないのは魔王としての忍耐強さか、それとも敵わないが故の諦めか。
「あそこにいた炎の怪物は何故か消えちまったみたいだしね。シマシマが言ってたよ」
「サラミ婆さんなら絶対勝てたんだけどさ、俺が顔合わせたくなかったんだよ」
そうケインに声をかけたのは、人間並の大きさに縮んで入ってきたシマシマだった。
「小さくなれるんだ?」
「ペラくなる2Dドラゴンの上位種だからね俺は。形を変えられるってのはこういうことさ」
「そんな消極的手段をとるようなこと、昔はなかったのになあ、ゼブラよ?」
ゴアの冷たく重々しい声に押しつぶされそうなほどビクつくシマシマを庇うように、ケインは割って入った。
「か、顔合わせたくないってことはさ、やっぱ仲悪かったの?カウダーと」
「う、うん。ていうかカウダーと仲いい魔獣なんて誰もいなかったし……ってそうそう!カウダー倒したの、ケインなんだろ?」
「うん」
「やっぱり!すげーじゃん!あいつ多分今の俺よりも弱いけどさ、それでも上級魔獣なんかよりも全然強かったはずなのに!今も力をびんびん感じるけど、めっちゃ強くなったんだなあケイン!」
髭でケインをくすぐるようにしながら嬉しそうにシマシマは言う。
その様子を不貞腐れた顔で見るゴアに、サラミ婆さんは言った。
「で、二つ目はなんだい?」
「ん……これは俺だけでなくケインからの頼みでもあることだ。海賊オーロやデュナミクの女王ロレッタを倒すために俺たちと……」
「嫌だね、断る」
突き放すような言い方だった。
それに腹を立てたゴアが、立ち上がって詰め寄る。
「俺を復活させるのが嫌だから協力したくないということか?俺がまだ魔王として君臨しておった頃からの人間ならば、確かにそう思うだろうな?しかしだ、今の世界を知ってなおもそんな理由で拒むのは……」
「そんな理由じゃないさ。あたしはこの町を出られないんだよ」
「はあ?」
そう訊き返したのはゴアだけでなくケインもだった。
「ふざけるなよ老婆。魔獣狩りで何度もこの町と往復しておるのだろうが?今更そんな言い訳が通用するとでも思うのか?」
「ふざけてなんかいないさ。あたしがこの町から離れられるのはね、丸半日。12時間だけなんだよ」
「……あの結界のことか?」
ゴアとケインには心当たりがあった。
ウェルダンシティに着く直前、町を囲うようにして魔力の壁のようなものが張られていたのを見ていたのだ。
「気付いていたのかい。あれはね、人間が悪意を持ってこの町に入ることができないようにあたしが張ったものさ。あたしがこの町から出ても12時間は持続するけどね、それが過ぎると消えちまう代物なのさ」
「その結界って……」
「そうさケイン。ドーズさんがあたしに教えてくれた結界術だよ。あたしは覚えが悪いから、あの人が死んじまってからもずっと特訓してようやく使えるようになったものだけどね」
「なるほどな。町が心配だから離れられません、海賊やデュナミクがよそを荒らそうが、町が無事ならそれでいいです、そういうことか。老婆、お前自分がどれだけ強いか理解しておりながら、その力に対して随分と無責任なのだな?」
ゴアは皮肉を吐きながら、意地の悪い笑みでサラミ婆さんを見る。
サラミ婆さんは自嘲気味に笑いながら答えた。
「バンパパイヤの血が一匹分飲み干すだけで10年寿命が延びるような代物でなけりゃあ、あたしはとうにくたばってたさ。そんな過去の遺物というより厄介なあたしを頼るんじゃないよ、仮にも魔王と勇者がさ」
「だが、現にお前はまだここにおるではないか。その力を支配欲に向けぬのはドーズ同様の忌々しい正義の心の持ち主だと俺には思えるが、それにしては他を守ろうという意志が……」
「ばっちゃん、いる?」
店のドアをノックして、一人の青年が入ってきた。
大きな紙箱を抱えている。
「ゾーラじゃないかい、どうしたのさ」
「臨時休業の札は見えたんだけど、中で話し声が聞こえたからさ。はい、これいつもの」
そう言って青年は紙箱をサラミ婆さんに渡した。
中には野菜がぎっしりと詰まっていて、腹を空かせているケインとゴアはそれを見て生唾を飲み込んだ。
「いつもいつもあんた……買うって言ってるじゃないかい」
「そう言わずに受け取ってよ。ばっちゃんにはこれだけじゃあ返せない恩があるんだからさ。邪魔しちゃってごめんよ。それじゃあ、また」
青年はすぐに立ち去った。
ケインは以前、サラミ婆さんから聞いたことがある。
店の匂いを嗅ぎつけてやってきた孤児をそのまま引き取って、15歳まで世話をしていると。
あの青年もその一人だろうとすぐに察しがついた。
「立派な農家に育ってくれたのは嬉しいんだけどね、中々買わせてくれないのさ。まいったよ本当に」
嬉しそうなサラミ婆さんの笑顔に、ケインも気持ちが和らいだ。
複雑な表情を浮かべるゴアにサラミ婆さんは視線と話題を戻した。
「強さに対して無責任だとあんたは言ったね。確かにそうかもしれない。でも、この強さの責任を果たすには、あたしにはちょっと大切なものが増えすぎちまった。守るものが増えすぎちまった。増えすぎちまったもんは、しょうがないんだよ」
この店の上の階にいる子供たちだけではない。
町のいたるところに、サラミ婆さんが育てた子が暮らしている。
「しょうがない、か」
ゴアは目を閉じて考え込む。
人間の気持ちというものを、考え込む。
海賊とデュナミクを同時に相手取れるシチュエーションがあろうはずもない。
ましてやそれに勝てるわけもない。
必ずどちらか一方とだけ戦うことになる。
それを倒せたとして、もう一方がこの町を襲ったならば、サラミ婆さんが戦う意味そのものが失われる。
その時、サラミ婆さんはそれを許容できるのか。
自分自身に置き換えた時、自分はそれを許容できるのか。
「……しょうがないな」
サラミ婆さんを連れて行くことはできない。
それが答えだった。
ケインも同じ気持ちだった。
両者が諦めてくれたことを察したサラミ婆さんは、胸をなでおろしつつ言った。
「で、三つ目は?」
「ゼブラを返せ。こいつは元々俺の従者だ」
「げえっ!?」
急に振られてよほどショックだったのか、シマシマはますます縮んでとうとう手のひらサイズにまでなってしまった。
サラミ婆さんは腕を組んで考える。
細身とはいえ常軌を逸した長身でそのポーズをされると威圧感が凄まじいなとケインは思った。
しばらく考えていたが、不意にきょとんとした顔で言った。
「それはシマシマの考え次第じゃないかい?」
「お前自身は良いのか?」
「いいも悪いも、元々の主人が返せと言ってるんだからあたしが拒んだってしょうがないじゃないか」
「しょーがなくないよサラミさん!!」
声を張り上げて抗議するシマシマだったが、ゴアに睨まれるとまた縮んだ。
「そもそもなんでシマシマはあんたにそこまで怯えるんだい?」
「罪悪感だろう。こいつは俺がドーズに負けた日に、いの一番に逃げ負った大戦犯だからな」
「戦犯じゃないですって!俺とクラリとゴア様で纏めてかかっても、捻り潰されるだけだったでしょう!?ってか、クラリ!!あいつも逃げたじゃないっすか!!」
「口調砕けとるなァ、ゼブラ。昔はもう少し畏まっとったのに。よほど馴染んだのだなあ人の世界に?なぁ?」
シマシマはまた縮み、ついにケインの小指ほどになった。
これ以上縮むと探せなくなりかねないので、ケインはシマシマを手に乗せた。
「まあ、シマシマ。おまえはあたしにとって大事な家族の一員だけどね。やらかしたことへの禊を済ませるくらいのことはしなきゃいけないんじゃないかい?元は忠誠を誓っていたわけだしさ」
優しく重圧をかけてくるサラミ婆さんに、シマシマは俯くしかなかった。
シマシマを気の毒に思ったケインは、シマシマを優しく撫でながら言った。
「シマシマ、無理にゴアに一生を捧げなくったっていいんだ。ちょっと俺たちに協力してくれれば、それでゴアもわかってくれるさ」
「いいや、俺はゼブラを死ぬまでこき使うぞ。逃げた責任はそれだけ重いということを身をもって…」
「あんまりシマシマを苦しませるようならあたしがあんたを殺すよ、魔王ゴア」
これまでにないドスの効いた、重く静かな声だった。
ケインもゴアも、それには思わず心臓を握られたように固まってしまった。
やがて、ケインの腕くらいまで大きくなったシマシマはカウンターに降りると、口を開いた。
「ゴア様、あなたを置いてさっさと逃げてしまった責任は取ります。あなたが元の御姿に戻られるまで、お傍に置かせてください」
それで正気を取り戻したゴアは、何事もなかったかのような振る舞いで鼻を鳴らした。
「ふん、やっとその気になりおったか。喜べケイン、老婆は仲間にできんかったが、ゼブラは力だけなら心強いぞ」
「うん!よろしくね、シマシマ!」
ケインは手で、シマシマは髭で、握手を交わした。
「いやいや、俺の下へ戻るのだから、ゼブラと呼ぶべきだろう」
「いいじゃんシマシマで。そっちのがとっつきやすいし」
「ゼブラだと言っとろうが!俺が名付けたわけではないが、それがこいつの元々の名だぞ!」
「ハアアァァァイハイッ!!!そんなのはどうでもいいから、なんか食べて行きなよあんたたち!!!」
いつものサラミ婆さんの大声に、ケインとゴアは言い争うのも馬鹿馬鹿しくなった。
サラミ婆さんから貰った巾着袋には10万ジェジェは入っている。
最初から飯を食わせてくれるつもりで渡したのだろう、ケインはそう思った。
「あっちの連中はもう始めてることだしね!!」
振り返ると、ライガが何やら鍋をつついている。
鍋の中に入っているのは、蟹のような魔獣だった。
「うんめえぇぇ!!なにこの……なにこの!!」
「語彙なさすぎでしょライガ!これはね……カニ?カニってこういうのなの?」
「スプリントクラブ、別名ガチバシリガニという魔獣だ。俺も退魔指南書でしか読んだことがないが、一度でいいから食べてみたいと思っていたものだ。それにこの魚。うぅん……美味い。魔獣は美味だと退魔指南書には書いていたが、それにしても……」
幸せそうな顔でライガたちは口いっぱいに頬張っている。
「サラミ婆さん、あれは……?」
「スプリントクラブ鍋、フグファイター添え」
「いつ頼んでいつ作っていつ出したんだ……。因みにいくら?」
「12万ジェジェ」
「はあ……」
サラミ婆さんから貰ったバイト代は丸々消えた。
元々手に入ると思っていなかった金なので大して惜しいとも思わず、ケインもライガたちに混ざってスプリントクラブ鍋を堪能することにした。
それを恨めしそうに見つめていたのは、そのスプリントクラブの主たるゴアだった。
「あんたは、何か食べないのかい?」
「……魔獣を使わない料理なんかあるのか?」
「普段はないけど……とりあえず今ある食材で作れるのは、ライスボールと野菜炒めだね」
「……じゃあそれで」
「かああああああああしこまりましぃぃぃった!!!因みに8ジェジェね!!!」
「あいつらは12万の鍋、俺はたった8ジェジェの握り飯と炒め物か。魔王の俺が。……はあ」
「おおおおぉぉぉまちィィイイイイ!!!」
「うんんんっまっ」
落胆しつつも、サラミ婆さんの料理はゴアに久々の幸福感をもたらした。
それぞれが料理に舌鼓を打っていると、シマシマがケインに言った。
「で、ケインはこの後どこか目的地とかあるの?もう海賊とかデュナミクとかに殴り込み?」
「あー、そこまで考えてなかったな……流石に今のまま殴り込みかけても勝てる気しないし」
「ゴア様結構考えない人なんだからさ、ケインがちゃんと考えないと駄目だよ。あれ?そういや、ずっと気配ないけど、ケインもゴア様も持ってないの?」
「何を?」
「マキシマムサンストーン」
ケインとゴアの食べる手が止まった。
「忘れとった」
この時ようやく二人は思い出した。
炎王カウダーの心臓、マキシマムサンストーンが手元にないということを。