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第29話 戦士スコット=ゴーバーVS総司令官ヴァンピロ=ビス

 凍りついたジャンニーノにヴァンピロは手を触れ、魔力を流し込む。

 それにより完全に砕け散ったジャンニーノの姿を見て、スコットは一層闘志を燃やして歩を進め、ここでようやくヴァンピロはスコットに意識を向けた。

 猛烈な闘気を発しながら近づくスコットへの意識を外さないようにしつつ、気絶したまま横たわっているドナテロを見てオブラは言う。


「ええんでっか?ドナテロはんにトドメ刺しとかんでも」


 声をかけられたヴァンピロはスコットに視線も意識も外すことなく、それに答えた。


「構わんさ。私が戦う側で寝ていて、そのまま生き残れるはずがあるまい?」


 冷淡に告げるヴァンピロのすぐ目の前まで、スコットが迫っていた。

 腕を振り上げ、自慢の右拳をヴァンピロへ向ける。

 それを見てもなお、ヴァンピロは落ち着き払っていた。

 おもむろにヴァンピロが右足を少し上げたのを不自然に思ったケインは、その右足の裏に魔力が込められていることに気がついた。


「さて、かのグラブ最強の戦士がどれほどのものか、この目で見せてもらうとしようか。『ダダン……」


「危ない!!飛べ!!!」


 いち早く叫んだケインはククを抱えて浮遊魔法で飛び、ライガも同様にシーノを抱えると飛び上がった。

 それをやや意外に思いながら飛ぶオブラを見送ってから、ヴァンピロは右足を地に降ろし、唱えた。


「ズヴェリオ』!!!」


 スコットの拳があと米粒一つ分ほどで顔面に届くという時、それは突如として停止した。

 否、拳だけでなく、スコット自身が固まってしまっていた。

 ヴァンピロの右足から放たれた氷結魔法は、地に面していた周囲の物体ことごとくを凍りつかせてしまったのだ。

 無論、気絶していたドナテロも例外ではない。

 周囲の建物より高い位置まで飛んでいたケインの見える範囲全てが、ヴァンピロによって凍らされていた。

 国中を覆っていた大火の大部分が凍り、残りもその冷気によってかき消されていく。


「よう気づきはりましたなあ」


 上から声が聞こえ、ケインが見上げてみると、オブラが下へと降りていくところだった。

 浮遊魔法を使えないオブラは、純粋な脚力のみで跳び上がってみせていたのだ。

 一声かけただけで特に何をするでもなく、元いたヴァンピロの後方にオブラは着地した。


「あのお兄さん、力はようわかりまへんけど、目ぇはえらい肥えてはりまんな。あの人らが気づかへんようにヴァンピロ様が氷結魔法を使うギリギリまで、わしは跳ばへんかったっちゅうのに」


「カウダーを倒したのは、どうやら奴のようだな。あいつの焦げ臭さが染み付いて、残り香になっている」

 

「ほな、どえらい人っちゅうことでんがな!」


「だが所詮は本調子に戻っていなかったであろうカウダーを倒せたという程度。私には遠く及ばん。そんな奴に助言をもらってようやく躱せるようなあとの二人も、底が知れている。ましてや…」


「スコットぉぉ!!」


 上空からライガの悲痛な叫びがこだまする。

 信じがたい光景に目を覆うシーノを抱えながらすぐにでも仇を取ろうとしているライガを、同じくククを抱えながらケインが必死に静止していた。


「ふん、相当信頼されてたんだな。助言されてなお避けることも防ぐこともできなかったような男が……」


 口元を歪ませながら、ヴァンピロはスコットの頭部へと手を伸ばす。

 氷の彫刻と化したスコットにトドメを刺すためであることは誰もが理解していたが、ケインはそれでも冷静だった。

 酷寒の氷の中で、スコットの魔力が、熱く滾るのをずっと感じていたからだ。

 ヴァンピロがスコットに触れる寸前、スコットを覆っていた氷は砕け、筋骨隆々の肉体が無傷のままに姿を見せた。


「スコットぉ!!」


 安堵の声を漏らすライガに、サムズアップを向けてスコットは応えた。


「ノープロブレム。避けるまでも防ぐまでもなかっただけだ」

 

「……面白い」


 そう返したヴァンピロの視界の端で、凍りついたドナテロが消えていた。

 それに気づく者はいても、気にする者は皆無だったが。


「『ダダンズヴェリオ・氷の聖剣(シルバーアムズ)!!』」


 ヴァンピロの右手から氷の剣が作り出され、スコットへと向けられる。

 素早く突き立てられた氷の剣は、スコットの胸元、皮膚で止まった。


「入らぬか…!」


「無駄だ」


 反撃に転じたスコットの拳をかろうじて避けたヴァンピロだが、剣で攻撃することは叶わず、容赦のないスコットの猛攻を防ぐために使うしかなかった。

 まだ凍ったままの地面に足を滑らせることなく、力任せに踏み抜きながらスコットは攻撃を続けた。

 凍った地面に降り立ったケインに、ライガは言う。


「ムッキムキの筋肉にオーラを纏って、鋼鉄の鎧を豆腐扱いする究極の肉体!たかが氷でスコットに太刀打ちなんてできやしねえぜ!」


「さっきあんなに焦ってたくせに」


「おまえだって泣きそうだっただろうが!」


 後ろで喧嘩しているライガとシーノは無視して、ケインはヴァンピロを注視していた。

 ヴァンピロが使う氷結魔法。

 技だけでなく、使い方までもがあのダンテドリ島で戦ったバンパパイヤと酷似しているように見えるのは、単なる自分のこじつけではないとケインは思っていた。

 だが、自分の推測を確認しようにも、ゴアはククと交代して眠ったまま。


「……ねえクク、氷王ロズって聞いたことある?」


「お花ならタンポポが好きです!」


「うん、ごめん、訊いた俺が間違いだった」


 念のための問答ではあったが、結局無駄に終わった。

 一方で、ヴァンピロに加勢しようとタイミングを伺っていたオブラは、突然右手の小指に違和感を覚えた。

 見ると、ほとんど肉眼では確認できないほどか細く白い糸が、彼の指に絡みついていた。


「なんや、こないな時にかけてきよって……」


 それに気を取られた一瞬、攻撃に飛び退いたヴァンピロが彼の背後で着地した。


「え?」


 オブラが気づいた時には手遅れ、スコットの拳が顔面に炸裂した。


「にょむほぎぇえええええ!!!!」


 やられ役のお手本のような断末魔を上げながら、オブラはヴァンピロに激突すると、諸共にはるか後方へと吹き飛んでいった。


「随分と間の抜けた最期だ」


「間抜けな最期はオブラだけだ。本当に間抜けだったのならな」


 建物の影から、無傷のヴァンピロが現れた。

 流石のスコットも驚きを隠せない。


「貴様、どうやって…」


「『ダダンズヴェリオ・氷の聖者(シルバーアーツ)』。貴様を最初に凍らせたあの瞬間から、氷で作り出した分身と入れ替わっていたのだ。本物の私はずっと気配を消して隠れ、分身だと悟られぬよう注意深く動かして戦っていたというわけだ」


 自慢気に語るヴァンピロ本体の手には、氷の剣はなかった。

 戦闘継続の意思はないということだ。

 背を向けたヴァンピロに、スコットは追撃しなかった。


「流石は戦士。敵を背後から撃つを良しとせぬ、か」


 ヴァンピロなりの称賛の言葉を不快そうに受け取り、スコットは言葉を投げかける。


「逃げるのか?」


「分身ではまるで相手にならぬということは、私自身が戦っても相討ちで精一杯。後ろの連中も考慮に入れたら、私の負けは確実だからな。ここは退かせてもらう」


「ま、待て!」


 そう叫んだのはケインだった。

 立ち止まったヴァンピロが、声だけを向ける。


「何か用か、勇者よ」


「お前は……『氷王ロズ』…なのか?」


 暫しの沈黙が流れた。

 聞き慣れない名を耳にしたグラブの戦士たちが困惑する中、ヴァンピロが口を開いた。


「……いいや、違う。今の私は、氷王ロズなどではない。デュナミク王国総司令官、ヴァンピロ=ビス。それが今の私だ」


「今の……」


「これ以上は答えぬ。私は首都アマビレに帰還するが、貴様らもここからすぐに出た方が良い。女王陛下直々に殺されたくなければ、デュナミク王国とは関わらず僻地で過ごすか、永遠の服従を陛下に誓うことだ。『プーカ』」


 ヴァンピロは浮遊呪文を唱え、飛び去っていった。

 姿が見えなくなると共に、氷は蒸発し、それを見届けたケインたちもクドモステリアを後にした。






「『忍法・変わり身の術』、生き残れたかもしれへんのに使うてしもてすんまへんな、ドナテロはん。堪忍やで」


 とある建物の屋上で、オブラは手を合わせていた。

 自分の身代わりになって元の形がわからないほど無惨に砕け散ってしまったドナテロへの祈りである。

 またしてもオブラの小指に白い糸が絡みつき、今度はそれに答えるべく小指を口元に近づけた。


「『忍法・意思伝糸(いしでんし)の術・応答』。どちらはんでっか?」


「3年ぶりだな緑影(りょくかげ)。こちら赤影だ」


「棟梁……どないしましたんや?」


「長きに渡る潜入工作任務ご苦労であった。我ら『天守五影』に新たな任務が言い渡される。すぐに本国へ帰還せよ」


「へえ、わかりましたけど……五つ?わしらは『天守六影』……」


「その話は後だ。それより、随分訛りがひどいが、おまえ一体……」


「…ほな、その話も後にしまひょか」


「うむ。早く戻るのだぞ」


 それを最後に、白い糸と声は消えた。

 男は立ち上がると、緑の頭巾と装束をどこからともなく取り出し、瞬時に着替えた。

 男の名はマサムネ=オグラ。

 ヒノデ国天守五影の一人、緑影である。

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