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第28話 デュナミクのナンバー2

 ヒノデ国にてショーザン=アケチが一応の臣従を約束した頃。

 ケインの風魔法とグラブの戦士たちの拳圧を受け、デュナミクの侵略隊は全員が残らず吹き飛ばされたが、その内の半数は自身の浮遊魔法によって立て直した。

 立て直せずそのまま吹き飛び地面や建物に激突した兵士たちも、とりあえずは息があるらしい。


「無駄に殺すなよ。デュナミクと同類になるからな」


 スコットのこの一言で追撃は行わず、向かって来るのを待つスタンスを取った。

 出会い頭での攻撃にそのまま撤退してくれることをケインたちは望んだが、そう簡単に済む敵ではない。


「おいおい反抗してきやがったぜドナテロ副隊長!!しかも今ので半分くらい兵士たちが飛んでいっちまった!こりゃあ、生かしたまま連れてくのは難しいんじゃねえかな!」


「そのようだなジャンニーノ副隊長!だが殺すのはナンセンス、手足をもぎ取ってでもいいから連れていこう!ダルマも見世物にはなるからな!おっと、女は別の使い道があるから、キレイなままにしておきたい……」


「俺のシーノにそんな話聞かせんじゃねえよ」


 ドナテロが気付いた時には既に手遅れ、眼前にライガの顔が迫っていた。

 それがまたふっと消え、代わりに脚が迫ったかと思う間もなく、ドナテロの顔面に強烈な蹴りが見舞われ、一直線に地面へと頭から突き刺さった。

 刺さったまま足だけ痙攣しているのがかろうじて見えるドナテロにジャンニーノは激昂し、兵士たちに号令をかけた。


「女は連れ帰る!!野郎は全員ブチ殺せ!!!」


 号令に従う元気のある兵士は60人余り、残りは気絶したまま起き上がる気配がない。

 剣を抜いて斬りかかるジャンニーノ、それに応じるライガの空中での戦いをくぐって、兵士たちはククを背にして広く横並びにして立つスコットとシーノとケインに襲いかかるべく武器を構えて走った。


「『誰の』私ですって?まったくライガってば」


 呆れるようにそう呟くシーノの頭を撫で、スコットはケインに言った。


「あの隊長格二人がせいぜいライガより少し弱い程度、こっちに来る連中はそれより遥か下。大したことなさすぎて、殺してしまわないよう気をつけるのが大変だな?」


「そのくらいの加減はできるさ」


「頼もしいな……来るぞ!」


 兵士たちはまず体格的に強そうなスコットと、その隣にいるシーノは避け、ケインに向かった。

 ケインを真っ先に殺してから、背後で三人に守られているククを奪う、短時間で数人の兵士がそう段取りを組んだ。

 その姑息な思惑は一人の兵士が剣を振り下ろすよりも先にケインに見抜かれ、低く見積もられたと怒れるケインは兵士の剣を指二本で受け止めた。


「俺ならすぐ殺れる、そう思ったかい?」


 受け止められた兵士はケインの声色から怒りと圧倒的な実力差を感じ取り、恐怖の余り涙を浮かべながら他の兵士に助けを求めるべく、目線を送った。

 触れ合っている最中の敵から目をそらす以上の戦闘における自殺行為はない。

 ケインの正拳突きを土手っ腹に喰らい、その兵士は涙をちょちょぎらせながら吹き飛んでいった。


「ケインさんすごい!!」


「でへへ」


 ククの言葉にだらしなく笑うケインだが、付け入られるような隙は一切見せない。

 後続の兵士たちはそれを見てまた標的を一時的に変える選択を取った。

 シーノへ10人がかりで一斉に飛びかかりながら一人が叫ぶ。


「多少骨を折ってしまっても構わん!!顔だけはキレイなまま残してあとはどうとでも……」


「どうとでも、できる?あんたたちが?」


 不敵な笑みでそう答えたシーノは、兵士たちの武器を巧みに手で受け流しては、体勢が崩れた相手の背に的確に蹴りを見舞った。

 派手に吹き飛びこそしなかったものの、脊髄に強烈な衝撃を受けた彼らが意識を奪われるのは必然だ。

 一瞬にして10人もの仲間が倒され、士気が落ちた兵士たちの心を完全に砕くべく、スコットも一人の兵士に近づいて肩を掴んだ。


「へ……?」


 驚きと恐怖で顔が歪む兵士に、力を緩めながらスコットは拳を振るった。

 殴られた兵士は、後ろにいた他の兵士を数人巻き込みながら吹き飛び、建物の壁面に叩きつけられるとそのまま気絶した。

 外見からは想像のつかない強さを見せたシーノに対し、外見から強いと判断できても、それを上回る強さを持っていたスコットに兵士たちは震え上がった。


「加減してもらえて良かったわね。スコットが本気で殴ったら、あんたたちなんてまるっきり消滅しちゃうんだから」


 軽い口調でのシーノの言葉は、兵士たちの心を更に揺さぶった。


「し、しょうめ……」


「次はお前だ」


 一人の兵士に指差して、スコットはそう告げる。

 それが完全なとどめとなった。

 兵士たちは走るなり浮遊魔法で飛ぶなりして、一目散に逃げ出した。

 倒れている兵士を起こして連れて行く思いやりを持ち合わせている兵士も数人いたが、ほとんどは我先にと全力で逃げた。

 その様子にも気付けず、ジャンニーノはライガにボコボコに殴られていた。


「お……おのれぇぇチンピラ風情がぁ……!!」


「誇り高い戦士をチンピラ呼ばわり。デュナミクってのは口もわりぃんだな」


「黙れ!!『ボンボヤージュ』!!!」


 ジャンニーノが放った炎魔法は、ライガの肌を僅かに焦がすことさえ叶わなかった。

 ライガたちグラブの戦士は、常に体の表面を、魔力が薄い膜のように覆って身を守っている。

 それによる防御は、並大抵の使い手では貫くことはできないのだ。

 悠然と炎魔法の中を突き進んで、ライガはまたしても敵を殴り飛ばした。

 地面に激突したジャンニーノに追撃すべく、ライガも降り立つ。

 かろうじて意識を保っているジャンニーノだが、あらゆる攻撃が通じない相手に、起き上がる意味はもうないだろう、少なくともケインはそう思った。

 まだ攻撃の一手が残っていることを知らずに。

 ジャンニーノが右手に魔力を込めるのを見たライガは、ゆっくりと歩み寄りながら冷淡に告げた。


「無駄だぜ。お前如きの魔力じゃ、俺を傷つけられやしねえ」


「ふ、ふふふふ……そうかな……?『バ・ビル・ブルル』!!!」


 それは、ケインも知らない呪文だった。

 ジャンニーノの右手から放たれたそれは、透明で、空間を僅かに歪ませながらライガに迫る。

 歪む空間を見て、それが近づくタイミングを完全に見切るライガだったが、さしたる脅威には思わず、そのまま受けきることにした。


「ライガよけろ!!!」


 咄嗟に叫んだスコットの声に反応し、ライガは紙一重でそれを避けた。

 その攻撃が後方の建物に当たると、建物は一瞬で砕け、粉塵と化して崩れ落ちた。


「あらゆる物を粉砕する振動波、それがさっきの魔法の正体だ。速さや敵本体の強さだけで見切られるような、そんな単純なものではないのだ、魔法というものはな」


 スコットの言葉に顔を赤らめつつも、ライガは敵に向き直って言った。


「……けどよ、そんな小憎らしい真似してくれたって、もうこいつには手は残されてないだろ!さっきの技だって、相当な負担があったみたいだしよ!」


 ライガがそう言った通り、ジャンニーノの右手は皮がめくれ上がり、焼け焦げている。

 万策尽きたジャンニーノだが、それでも殺意を込めた視線をライガに向け、息を荒くしている。


「俺たちは偉大なるデュナミクの兵士なんだ……!てめえら殺してやる……右手が使えなくても、左手で今度こそ粉々に……!!」


「愚か者が」


 真後ろから突然声がかかり、ジャンニーノは振り返る。

 ケインたちも、声が聞こえるまでその気配には気づかなかった。

 そこには、白いタキシードを着た男と、緑色のダボついた服を着た男が立っていた。

 さっきの声の主はタキシードの服の男で、ジャンニーノはその男を見た途端に全身を震え上がらせた。


「な、な……なん、で、こんなとこに……」


 ちょうどその時、気絶から目覚めたドナテロが地面から顔を出した。


「ぶへぇあ!……てめえ!!さっきはよくも……!!」


 ドナテロもまた、タキシードの男が目に入った途端に、驚きと恐怖のあまり体を硬直させた。


「て、てめ、あんた……あな、たは………総司令官閣下!!!」


 タキシードの男、名はヴァンピロという。

 デュナミクの総司令官とは、侵略隊を含めた全隊の指揮権を持つ者で、その権限は女王ロレッタから全てを握らされている。

 つまりは、デュナミクの兵士の中では最も偉く、かつロレッタに次ぐ地位を持つ男なのだ。

 ヴァンピロはドナテロとジャンニーノ、二人の侵略隊副隊長に冷ややかな目線を向けて声をかける。


「何故ここにいるか、まずはそれを言おうか。偵察隊がダンテドリ島でカウダーの奴を見失ったと報告があったので、私と副官のオブラとで確認に向かったのだ。本当にカウダーも、マキシマムサンストーンも、影も形もなかったことを確認してから、そういえば侵略隊がワタワラとスキマッカウ、そしてここクドモステリアを落としたと報告があったことを思い出し、確認に来たというわけだ」


「そないなわけですわ、ジャンニーノはん」


 緑色の服の男、副官オブラが、古いアマビレ訛りでそう続けた。


「さて、こうして実際にクドモステリアに来たわけだが…どういうことだ?豊富な資源を目的に侵略していたはずなのに、まさか国ごと焼き払うとは」


「あの、そ、それは……こここ!こいつら!!こいつらがやりやがったんです!デュナミクをこれ以上大きくさせないようにと、卑怯にもこいつら!!」


 ジャンニーノは苦し紛れにそう言い訳した。

 ヴァンピロはその目を見てすぐに嘘だと見抜いたが、それでも一応続けた。


「なるほど、それはわかった。では、こいつらを殺そうとしたのは何故だ?」


「え!?な、何故って」


「二人は知らんが、そこの三人はグラブの戦士だろう。貴様ら、そんなことにも気がつかなかったのか?それとも、グラブの戦士は生かして連れてくるようにとの女王陛下の御沙汰があったのを忘れたのか?」


「ぐ、ぐら……」


 今一度どうにかうまく言い逃れようとするジャンニーノを、ヴァンピロは右手を突き出して制した。


「いや、もう何も言わずとも良い。グイドの負担を減らそうと、侵略隊の指揮権を持った副隊長を増やした私が間違いだった。腐った枝葉は、大樹には不要。さっき逃げ出した兵士たちもな」


「あきまへんで、ジャンニーノはん、ドナテロはん。あないに兵士たちを逃げさせてしもうたら。手間取りましたんやで、ホンマに」


 オブラは血の滴った両手を彼らに見せた。

 ジャンニーノとドナテロ、二人の目に涙が浮かんだ。


「貴様らの命では『腕』も成長せんだろう、ここで片付けるのが最善と心得た。死に貴賎なしとは女王陛下のお考えだが、それは私の考えとは異なるものだ。生者に勝る死者なし。人としての価値が既に死んでいる貴様らに、生者と同等の権利はない」


「た、たすけ……」


「『ヴェール』」


 ヴァンピロの呪文によって放たれた氷結魔法で、ジャンニーノの全身は瞬く間に凍りつき、それを見たドナテロは恐怖で失神した。

 ケインは驚きで目を見開いた。

 氷結魔法は、ドーズ=ズパーシャの遺した対魔指南書にも載ってはいたが、あくまで魔獣ヴァンパパイヤが使うものとして。

 人間が使う魔法としては載っていない。

 ケイン自身、氷結魔法を使おうと、ダンテドリ島で見たヴァンパパイヤに倣ってやってみたが、使えそうな気配さえなかったのだ。

 そんなケインの想いをよそに、スコットがヴァンピロに近づく。


「俺がやる」


「スコット=ゴーバー…面白い、相手をしよう」


 そう返すヴァンピロだったが、彼の視線の先にあるのはスコットではなかった。

 魔王ゴアの片割れ、少女クク。

 何故彼女を見つめるのか、その理由を、ヴァンピロ自身知らなかった。

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