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第26話 パーティ初陣

「……とまあそういうわけで、俺たちグラブの戦士は打倒ロレッタ女王を掲げ、日々己を鍛えながら戦ってるのさ」


 他人に話せてスッキリしたのか、妙に晴れやかな顔でライガは言った。

 話を聞いていたケインとゴアは、デュナミクの所業に些か引き気味ではあったが、代わりにゴアの正体と、ケインたちの目的、そして今向かっている場所について話した。

 自分たちの辛い境遇を打ち明けていた時とは一転、ライガとシーノは興味津々でそれを聞いていたが、スコットだけは興味よりも猜疑心が勝ったようで、話が終わってからもしばらくゴアを観察していた。

 やがてゴアに対してケインが最初に気付いたのと同じところを発見したスコットが口を開いた。


「君が魔王だというのは俄かには信じがたい。君からはオーラ……君たちは魔力と呼ぶのか、ともかくそれが感じられない。さっき俺の存在を気配で察知した君が並大抵の存在ではないことはわかるんだが……しかし、大昔に地上を支配しようとした、今ではもはやおとぎ話扱いの魔王ゴアが、子供の姿にまで退化し、勇者の協力を仰いで復活しようと、そして今度は地上の抑止力として君臨しようとしている……。うぅむ」


「信じられんのなら……少しだけ見せてやるか。この国で僅かだが食事できたことだしな」


 やれやれ、といった様子でゴアは右手を高く上げる。

 何をするのかケインが疑問に思ったのも束の間、ゴアの右手を禍々しい黒いモヤのようなものが包み込んだ。

 それこそがゴアの持つ、魔力そのものだった。


「『魔王ダークビーム』!!!!!」


 掛け声と共に、黒いモヤは極太の光線状になって真上に発射され、命中した雲は霧散した。

 光線が放たれた後もしばらくゴアの右手からは火花のようなものが弾け、その様子に一同は唖然としていた。

 最初に我に返ったケインが言った。


「……カウダーの技名センスはおまえ譲りか」


「何の話だ」


「いや別に。ってか、そんな技どうやって……」


「言っただろ、食事できたとな。この国に充満しておった瘴気を腹に溜め込んで、それを魔力に変換したのだ。強者から出た瘴気ではない分、僅かなものだがな。それでも、こいつらを驚かせるには十分だろう。おまえを驚かせるのにもな」


「確かにびっくりした……けど、そのためにまさか溜めた瘴気を全部使い果たしたりなんかしてないだろうな?」


「……さて、グラブの戦士どもよ」


「使い果たしたのか!ミスター無計画!!」


 ケインが言った通りゴアはまたしても魔力と瘴気を使い果たした空っぽの状態になってしまっていたが、ケインのツッコミはひとまず無視して話を進めた。


「これで多少の信憑性は出てきたのではないか?」


 自分の力を誇示するかのように胸を張って言うゴアに対し、スコットは額に汗を滲ませて返答した。


「……オーラが全くないはずだった者からあんな光線が放たれるはずはない。否が応でも信じざるを得ないな」


 スコットの後ろでは、ライガとシーノが目を輝かせていた。


「すげーよ!ビームだぜビーム!!本物見たの初めてだよ!!」


「私も!あんなの絵本でしか見たことないのに!!」


「おまえら少し黙ってろ」


 スコットからの一喝にライガとシーノはしゅんとして黙り込んだ。

 暫しの沈黙が流れた。

 沈黙の最中、5人とも次に何を言うかを決めており、しかもそれは5人とも同じことだった。

 だが、それを切り出すべきタイミングを決めかねていた。

 いつ切り出そうか迷っている内に、最初に先陣を切ったのはケインだった。


「君たち、俺たちと一緒に行かないか?」


 5人ともが考えていたこと、それは即ち皆で手を組むことだった。

 ケインとゴアの目的は、今世界に混乱をもたらしている強者を倒し、ゴアを魔王として復活させること。

 ライガとシーノ、そしてスコットの3人の目的は、デュナミクの女王ロレッタを倒すこと。

 それらが部分的に一致しているのに気づいた一同は、協力関係を結ぶべきだと思い立ったのだった。


「さっき言ったように、俺たちはこれからウェルダンシティでサラミ婆さんって人に会って協力してもらえないか頼みに行く。一人でも味方が欲しいからね。君たちが女王を倒すのにももちろん協力するけど、俺たちがやりたいことにも協力して欲しいんだ」


「先に言われちまった」


 頭をかきながらライガはこぼした。

 先に言い出した者が、今後の主導権を握れるだろうという考えを持っていたからだった。


「俺たちも味方はできるだけ多く欲しい。あの女王を倒すためには、3人だけじゃあいくらなんでも戦力が足りなすぎるんだ。おまえらの目的にも協力……」


 言いかけたところで、シーノとスコットに目を向けた。


「していいのかな?魔王が復活しちゃうけど」


「いいんじゃないの?……ダメ?」


「ダメとは言わないが……」


 言葉を濁すスコットに苛立ちを募らせたライガはケインとゴアに向き直った。


「あーもうじれったい!!決められないんなら俺決めちまうぞ!!協力しよう!俺らは仲間だ!!俺はライガ=ケーチ14歳!趣味は釣りとトレーニング!よろしく!!」


「え、あ、うん。改めて、俺はケイン=ズパーシャ。あと3ヶ月くらいで18になる17歳。趣味は俺もトレーニングと……読書って言っていいのかな、今本持ってないけど」


「……じゃあ私も。シーノ=ゴッドリー、ライガより2ヶ月早い14歳。趣味は食べ歩き。よろしく」


「……仕方ない、確かに味方は多い方がいいな。スコット=ゴーバー、51歳。趣味はギャンブルと武器のコレクション。賭場もコレクションももうなくなってしまった。よろしく」


「ゴアだ。ファミリーネームなどない。魔王だと自覚してから300歳。趣味は歌うことだ」


 自己紹介をそれぞれ済ませ、早速ウェルダンシティに向かおうと支度をしようとした時だった。


「多いな」


 ゴアがそう呟き、全員がゴアが見ている方向を向いた。

 少し間があったが、そこから100人以上もの男がそれぞれに武器を携えてやってきた。


「おいドナテロ副隊長。お前さんが睨んだ通り、まだ生き残りがいやがったぜ」


「だから言っただろうジャンニーノ副隊長。さっきこの辺りから変な黒い光が出てたんだ。ひょっとしたらと思ってみれば……大当たりとまではいかなかったが、小当たりってとこかな」


 先頭にいる二人の男が、へらへらと笑いながら会話している。

 デュナミクの侵略隊、副隊長のドナテロとジャンニーノだ。

 このクドモステリアに火を放ったのもこの二人である。

 別行動をとっていた隊長のグイドから勝手に火を放ったことを咎められると恐れた二人は、少しでも多くの物資と人材がクドモステリアに残っていないかと、兵士を引き連れて探っていたのだ。

 近づいてくる兵士たちを前に、ケインたち一同は横並びに立って待ち構えた。


「今度こそ勘違いじゃないよな」


 ライガは指を鳴らしながらそう言った。


「間違いなくデュナミクだ。だが数が多い。ざっと見て100はいるぞ」


 スコットは返事と共に肩を回している。

 シーノは手が少し震えていたが、それを抑えて敵に向き直った。


「さて、そんじゃ仲間になって最初の……あれ?」


 ゴアを見ながらライガは首をかしげ、それに気付いたケインもゴアを見た。

 だが、既にゴアはククに代わっていた。


「クク!?今起きたの!?」


「え……あ、はい。ゴアくん、なんか疲れちゃったみたいで」


「おー……本当に体ごと入れ替わるんだな。どっちみちゴアは戦力外なんだろ?一緒だよケイン」


 ライガはケインの肩を軽く叩いた。

 一方のケインは、緊張で少し強張っていた。

 初めてククを守りながらの戦闘になる。

 それも大人数を相手に、しかしそれを果たさなければ、これから先彼らと仲間として共に過ごすことはできない。

 そう使命感に駆られていたケインだったが、ライガたち3人がククの前に並び立った。

 驚くケインの肩を今度は強くライガは叩いた。


「戦えない奴がいるんなら、それを皆で守るのが仲間だろ?せっかく仲間になったのに、おまえ一人に任せっきりにするわけないだろ」


「私が戦えなくなったら守ってよね。今だって敵と戦うなんての、怖いんだから」


「…………!」


 胸の辺りが熱くなるのをケインは感じた。

 共に戦う仲間の存在を心強く思った。

 そして、戦えないククを守るために戦う意志が、仲間の存在によってより強固なものとなった。

 侵略隊が一斉に走り出す。

 迎え撃つため、グラブの戦士たち3人は突きの構えをとった。

 スコットがケインに微笑みかける。


「それじゃあ、仲間になって最初の一発は皆でやるとしようか。さあ、ケインも一緒に」


「……うん!」


 彼らがどう攻撃するか、ケインはすぐに察しがついた。

 それはケインにはできないものだったため、代わりの手段として右手に魔力を込めた。


「どりゃああああ!!!」


「うらああああ!!!」


「せやああああ!!!」


「『バビュトーラ』!!!」


 グラブの戦士たちが放った拳の風圧と、ケインの風魔法が共に飛び出し、侵略隊を瞬く間に吹き飛ばした。

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