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四十代目勇者ケイン=ズパーシャが最強になるまで  作者: M.P.HOPE
旅立ち 世界の真実と魔王ゴア
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第20話 剣を握るは誰のために

 朝日がダンテドリ島に差し込んできてから数分が経過した。

 島全体を灰にしてしまわんばかりの勢いで燃え盛る業火の中、炎王カウダーは異変に気が付いた。

 これだけの炎の中で活動できる生物はいない。

 既にゴアがよこしたあの人間も燃えカスになっているはずだ。

 だが、人間が死んで放たれるはずの瘴気が全くこちらに流れて来ない。

 死んでいないということなのか、それとも自分の目を盗んでどこかに逃げたのか。

 まさかと思い、島中に放った炎を念でかき消して辺りを見渡す。

 案の定、先程まで倒れていたはずの人間が、影も形もなくなっている。


「野郎……逃げたか?」


「逃げてなんか……ないさ」


 階段の下から声が聞こえ、そちらにカウダーは顔を向けた。

 ふらつきながら、ゆっくりと、しかし目の輝きを失うことなく、ケインは再び階段を上り、そしてカウダーの目の前で剣を構えた。

 息は乱れに乱れ、全身のところどころに負った火傷を回復させる魔力も残ってはいない。

 しかし、火傷自体はカウダーが炎を降らせる前と比べてさほど増えた様子はない。

 そんなケインの様子を、カウダーはせせら笑った。


「ヒヒャッ。なるほどな、最初に降ってきた炎を残ってた魔力で防いで、あとは塔の中に籠ってやり過ごしたワケか。そンで俺がそれを解除したから出てきたと。その根性は見上げたモンだが、魔力使い果たして俺に勝てるとでも思ってンのかよ?あぁ?」


「……このままでお前に勝てると思うほど、俺もお気楽じゃないよ」


 そう言うなりケインは、剣の鞘に栓をするように巻いてあったバンパパイヤの服をほどき、そのまま鞘に口をつけ、中に入っているものをゴクゴク喉を鳴らしながら飲み始めた。

 初めは何をしているか理解できなかったカウダーだったが、中に入っているものの正体に気付くと、声を高くしてまた笑った。


「ヒヒャッヒヒハハハハハハ!!!てめえそいつは、バンパパイヤの血だろう!?えぇ?ヒヒャハハハハ!!奴の血を大事に鞘ン中仕舞ってたのかよ!そりゃあケッサクだぜオイ!!」


 カウダーの嘲笑には耳を貸さず、ケインはバンパパイヤの血を一心不乱に飲み干した。

 元々炎の化身と呼ばれるカウダーを相手取るにあたり、魔力を回復させる手段を持っておくべきだと用意しておいた血だったが、渇き切った喉と舌には敵が目の前にいるのを忘れてしまいかねないほどに、それは美味だった。

 ケインが魔力を回復させている間、カウダーはじっと待っていた。

 殺す最高のタイミングで殺し損ねたことは、カウダーの誇りを著しく傷つけた。

 それを挽回するための手段としてカウダーが選んだのは、完全に回復したケインを嬲ることだった。

 鞘からケインが口を離したと同時に、カウダーはケインの腹に強烈な蹴りを見舞った。


「ごぶっ!!!!」


 胃に溜まったバンパパイヤの血を少量吐き出しながらケインは飛ばされ、転がっていく。

 自分の血ではないが、まるで内臓を傷つけて吐血したかのような感覚に陥り、鈍い痛みに身悶えていると、カウダーの不機嫌そうな声が聞こえてきた。


「回復ご苦労さン。もう他に回復の手段なンざ残っちゃいねえだろうし、残ってたとしてももう二度とさせねえがな。これからじっくりたっぷりてめえを……火炙ってやるよォ!!!」


「……甚振ると火炙るがかかってんのな。そんなに面白くないぞ」


「うらァ!!」


「おごぉっ!!!」


 今度は拳がケインの胸元にぶち込まれる。

 殴っても蹴ってもケインが焼け死んでしまわないよう、カウダーは火力を抑えて攻撃を繰り返した。

 どんなに抑えようとも元が火である故に、そのことごとくがケインの肌を焦がしたが。

 踏みつけ、掴み起こし、殴り、殴り、殴り、蹴り、蹴り、蹴り、蹴り、蹴り、踏みつける。

 起き上がったところをまた殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、殴る。

 最初の蹴りが不意打ち気味だったとは言え、カウダーの連続攻撃に対しケインは余りに無抵抗に甚振られ続けた。

 だが、甚振られながらも決して諦めていないケインの目に気付いたカウダーは一度距離を置き、咳き込みながら倒れるケインをまじまじと観察しながら言った。


「てめえ…魔力も体力も回復させたワリにゃあ、不自然なくらい大人しくやられてばっかじゃねえかよ?なンかの作戦か?」


「げっほ……まあな。教えてやる義理もないけど、ちゃんと俺なりに考えてのことだよ」


 腹を擦りながらケインは立ち上がった。

 口元から垂れている血には、彼自身のものも混じってしまっていた。


「ヒヒャヒヒ。実はなンもねえってこともありそうな返答だな。だがてめえが諦めてねえのと、てめえに勝ち目がねえのは紛れもねえ事実だ。いくらやっても勝ち目がねえことくらいはてめえ自身もわかってるだろうに……なンなンだ?てめえのその目にある…『火』はよ?」


 カウダーはケインの目の奥にある輝きを見て、興味津々といった様子で続けた。


「その『火』……なンでだ?なンでそうまでして俺を倒そうとする?さっき俺の攻撃をやり過ごした時、あン時に逃げようと思えばどうにか逃げられたかもしれねえじゃねえか?なンでわざわざ殺されに戻ってきた?てめえにとって俺は、命張ってまで倒すべき敵なのか?ゴアに言われただけでその『火』は点かねえだろ?ゴアのためじゃその『火』にはなンねえだろ?てめえのその『火』の出どころは一体、どこなンだよ?」


「……だから、倒されるお前には関係ないって…」


「ヒヒャヒハハハ!それこそ世界を守るためだとか言えばそれらしいのによぉ。それ以上の何かがその『火』になってンだな?ますます興味が湧いてきたぜ。初めてだぞ、この俺がエサ……いや、()に関心持つなンてよォ。結構火炙ってやったことだし、いい加減トドメ刺してやるが、その前に見せろよ。その『火』の正体をよ」


 カウダーが右手の炎をケインにかざすと、突然ケインは胸が焼けるように熱くなり、たまらずうずくまった。

 カウダーを見ると、右手の炎は緑色に変わっていた。


「うぁっ……!つっ…!そ、その炎は……!?」


「てめえの『火』を俺の右手に映し出す。てめえはこの俺に隠しごとさえできやしねえのさ。『秘火(ヒヒ)火密暴露ブレイク・ザ・ヒークレット』」


 呪文を唱えると共に、右手の炎はまたしても色を変え、更には形を変えていく。

 緑から橙色に、そして桃色に。

 形はケインの良く知る、カウダーの記憶の片隅にも残っているものに。

 息も絶え絶えになりながらその炎を見て、ぽろりと零すようにケインは呟いた。


「クク……」


「ク……ク……?ちょっと待て、今思い出すから……クク……聞いたことはあンだよ、うン。でも誰だっけか……」


 カウダーがこれまで生きてきた中で、ククと言葉を交わした機会は一切なく、また姿を見ることも片手で数える程度だった。

 それ故に思い出すのにかなり苦労している様子だったが、ようやくピンときたらしく、手を叩いて笑いだした。


「ヒヒャッヒヒハハハハ!!ククってあいつかよ!!ゴアの片割れか!!しかもこの色はてめえ、ピンク!!恋の色だぜ!!ヒヒャッハハハハハハハ!!つまり、惚れてンだ!!ゴアの片割れに惚れてンだなてめえ!!!」


「……悪いかよ」


 気恥ずかしくなってケインは顔を背ける。

 満足そうに頷きながらカウダーはそれを目で追った。


「いやあ?悪かねえさ。魔獣にも繁殖する種類はいるし、性欲がある連中も多い。色恋とか愛情とかそういうのは別にわからねえ感情じゃねえよ。だ・け・ど・よ?その相手がよりによってゴアの片割れってのはてめえ、流石におかしくっておかしくって……ヒヒヒヒャッハハハハハハ!!」


 腹を抱えて笑うカウダーに対し、ケインは下唇を噛みしめていた。

 剣を握りしめる力が強くなっていく。

 だが、ククに恋心を抱いているのを笑われていることについては、ケインは自分でも意外なほど怒りの感情を持たなかった。

 魔王の片割れを好きになるのが、命を懸けられるほどに好きだというのが、この上なくおかしいということは、ケイン自身が心の奥底で重々理解していたからだ。

 知れば誰もが笑うだろうと覚悟していたからだ。

 わざわざ敵にそれを暴かれるとは思っていなかったので、流石に恥ずかしく思ったし、そこについては怒りを抱いたが。

 ケインはカウダーへ顔を向き直す。

 剣をバンパパイヤの血でべたついた鞘にぎこちなく収めると、両手に魔力を強く込めた。

 それに気付いたカウダーもまた、呼応するように両手の炎の火力を高める。


「笑われて怒ったか!!そンな程度でさっきまで使わなかった魔力を使うってこたぁてめえ、大した作戦なンか持ってなかったな!?」


「……正解」


 作戦らしい作戦など持っていなかった。

 カウダーが油断したところで一気に魔力を使って勝負をかける、その程度しか考えていなかったケインは、この時ようやく頭を必死で回転させ、打開策を模索していた。


「人間なンかがこの炎王カウダー様に勝てるわけがねえンだ!!しかも魔王の片割れに惚れる馬鹿なンかがな!!!その手に込めてる魔力は風魔法か!?だが俺が今高めてる火はよぉ!!」


 カウダーは両手を後ろに引いた。

 炎が更に強まり、先程カウダーが放ったものよりも数倍の熱量を持っていた。


「さっきみてえなそよ風じゃあ止まンねえぞォオオオオオオオ!!!!!」


「その火…」


「あン!?」


 ケインは両手の魔力を更に強めながら言う。

 彼の冷静極まった頭の中には、これから倒すべき強敵や、ゴアやサラミ婆さんの顔が順番に浮かんでいた。

 その端々に、ククの顔があった。

 彼女のためならば、カウダーが今放つ熱さえも跳ね除けられる自信があった。

 策が、見つかった。


「炎王なんて言ってるけどさ、世の中にはお前よりも熱い炎を出せる人間がいる」


「あぁン!!?」


「お前の火の輪よりも斬れる刀を持つ人間もいるし、お前よりも強い力でブン殴る腕を持つ人間もいるし、お前よりも豪快に笑う人間だっている」


「何が言いてぇンだよ、てめえ!?」


「お前よりも強い人間なんて、この世にはいくらでもいるってことさ」


 互いに魔力を最大限に高める。

 その影響か、塔が震動し、轟音が響き渡る。


「……ヒヒャヒヒヒヒハハ!!!最期の負け惜しみにしちゃあそれなりに聞けたぜ!!この後は喉も炭になって断末魔も上げられねえだろうしよ!!!」


「お前よりも強い人間……俺がその一人だ!!!!!」


「死ぬまでほざいてろ!!!!『秘緋燈(ヒヒヒ)最も偉大なる滅火主屠グレイテスト・メヒスト』!!!!!」


 カウダーの両手から、炎が渦を巻いて放たれる。

 ケインは両手首を合わせ、突き出しながら叫んだ。


「『ボンボヤージュ』!!!!!」


 炎の上級魔法が放たれた。

 炎と炎が激突し、中央で火柱が豪快に立ち昇る。


「この俺に炎の撃ち合いを挑むか!!!勝負は見えてるぜ!!?」


「言ったろ!!お前よりも熱い炎を出せる人間だっているってな!!!」


 火柱はより高く上がり、僅かでも均衡が崩れれば一方を飲み込んでしまわんばかりの勢いで燃え盛る。

 互いに炎を放出し続け、決して譲らない。

 どれだけそうしていただろうか。

 やがてその均衡が崩れた。

 炎での撃ち合いを制したのは、ケインだった。


「うぉおおおああああ!!」


 ケインとカウダー、二人が放った炎が、容赦なくその一方、カウダー一人に襲い掛かる。

 しかし、撃ち合いに負けたことには内心驚きはあったが、カウダーはそれを悠然と両手を広げて浴びた。

 炎は勢いのままに、カウダーの中へと吸収されていく。


「てめえ……俺に炎は効かねえことも忘れちまうくらい馬鹿だったンだな。てめえの魔力、ぜえンぶ俺のモンになっちまったぜ?」


 息を切らしながらケインはそれを見つめる。

 炎が全てカウダーの中に収まった時、ケインは放った魔力がまだカウダーの魔力として変換されず、彼の中に残っていることを感知した。

 そして、笑った。


「確かに、魔王の片割れに惚れるなんて、俺は馬鹿なのかもな。だけど、あんな可愛い娘を忘れるお前よりは、記憶力は良いはずだぞ」


「またわけのわかンねえ……」


「『リスペル・バーリービーボ』」


 ケインがそう唱えた瞬間、カウダーの体内に吸収された炎は雷に変化し、全身へと一気に広がった。


「ぐわぁぁああッ!!!?て、めえ……!!!」


 体の自由を奪われたカウダーは、焦りの表情を浮かべながらケインを睨む。

 ケインが再利用呪文を使えることなど、カウダーは予想もしていなかった。

 火炎魔法も効かず、雷撃魔法も届く前に弾かれてしまい、ダメージを与えられる炎の部位を自在に変えられるカウダーへの対抗策として、ケインが必死で絞り出したのがこの再利用呪文だった。

 雷撃魔法で動きを止め、剣でトドメを刺す。

 退魔指南書に書かれた初心に則った、しかし魔獣が用いる呪文を応用した奇策だった。

 すぐさま剣を抜き間合いを詰める。

 だがカウダーも必死の形相で全身に力を込めて迎え撃つ。


「ナメンなよコラァ!!!『器』の形は固定されちまっても、てめえごときの雷撃魔法で完全に止まっちまう炎王カウダーじゃねえぞ!!!」


 振り下ろされた剣を、渾身の力で殴って打ち上げる。

 剣が手元から離れた瞬間、ケインは全身から魔力を一気に放出した。


「ウアアアアアアアアアア!!!!」


「てめえ……まだそンな……!!どっから……」


「恋とか愛とかわからなくはないって言ったな!?お前はやっぱりわかってないんだよ!愛する人のために戦う人間の強さを!!!」


 言いながらケインは顔が熱くなるのを感じたが、カウダーの放つ熱のせいだと思い込むことにした。

 両手の拳により一層魔力を込め、カウダーに殴りかかる。

 カウダーもまた、両手の炎を燃え上がらせて殴る。


「ぬぁああありゃああああああああ!!!!!」


「くたばりやがれえええ!!!『秘緋燈(ヒヒヒ)火t's焼焼焼焼焼ヒッツショウタアアアアイム』!!!!!」


 互いに相手の拳を浴びながら一心不乱に殴る、ただそれだけだった。

 どちらも致命傷には至らなかった。

 魔力で体を覆っていたケインは、殴られても火傷を負うことはなく、カウダーもダメージはあったが、痛みの原因はほとんど雷撃魔法にあり、逆にそのせいで感覚が麻痺しているのか、殴られた箇所に痛みはなかった。

 殴り合いはほんの一瞬に過ぎなかったが、二人にはそれが永遠とも思えるほど長い時間だった。

 長い、長い、全てを出し尽くす殴り合いだった。

 その殴り合いを制したのは、カウダーだった。

 カウダーの右拳がケインの頬に炸裂し、ケインは空高く打ち上げられた。

 打ち込まれた頬が焦げるのを見て、カウダーは勝利を確信した。

 魔力で防御していたはずの体が火傷を負ったことの意味を理解したからだ。


「やったぞ!!ついに魔力が底を突いたらしいな!!!今度こそトドメを……」


「ああ!俺の中の魔力は尽きたさ!!()()()()()()()()()()()()()!!!」


「な……!!?」


「『リスペル・バーリービーボ』!!!!!」


 ケインは殴り合いの最中、殴る度に魔力をカウダーに送り付けていた。

 雷撃魔法による痺れは、カウダーにそのことを気付かせなかった。

 そして、再度唱えた再利用呪文によって、完全にカウダーの動きは止められた。


「あ……が……!!」


 カウダーは指一本動かせない。

 熱量を高めることさえもできない。

 ケインは空中で剣をキャッチし、重力のままに体ごと振り下ろす。

 全ての力と、思いを込めて。


「ああああぁああぁぁあああああ!!!!!」


 剣は真っ直ぐにカウダーの肩から股までを斬り裂き、地面にぶつかるとその衝撃で主人を投げ飛ばした。

 投げ出されたケインはすぐさま起き上がり、剣を拾って構えた。

 首以外の右半身を全て切り落とされ倒れるカウダーに、ケインは言った。


「…どうする?本当にお前がヒーリングを使えて、回復してきたとしても、俺はまだ戦えるぞ?」


 カウダーはケインに顔を向けた。

 ケインはもう魔力が尽き、戦える体ではない、そのはずだった。

 それでも戦う意志がその目にあった。

『火』が、宿っていた。


「ヒヒッ。いや、なンか久々に暴れたら疲れちまった。もういいや」


 力なくカウダーがそう言うと、糸が切れたようにケインは仰向けに倒れた。


「か……勝ったぁぁぁぁぁ……!」


 自分よりも力ないその声に、カウダーは笑った。

 全身の炎がみるみる弱まる。

 カウダーに残された時間は僅かだった。


「なあ、てめえ名前なンつーンだよ?」


 その僅かな時間の使い道を、カウダーは敵との雑談に充てた。

 最初はカウダーからの、自分がちゃんと全盛期の力なら負けなかったという負け惜しみから始まり、そこから急速に距離は縮まっていった。

 ケインは驚きつつもその雑談を不快には思わず、むしろ楽しく思った。

 話題は尽きなかった。

 ゴアが今どんな姿でいるのか、他の強い人間とはどんな連中なのか、ククは実際どういう性格で、どうしてケインは好きになったのか。

 話している間のカウダーは、憑き物が落ちたように爽やかに、無邪気に笑っていた。

 30分ほどそうしていると、カウダーの炎はもう首を残すのみとなっていた。

 もう本当に時間がないことを悟ると、カウダーは静かに語り始めた。


「なあケイン。ゴアが生み出した魔獣ってのはよ、実は俺だけなンだ」


「……そうなのか?魔獣は全部ゴアが生み出すものじゃ…」


「上級以下の魔獣は瘴気の中で自然に発生するし、他の最上級魔獣やゴアは、昔に創魔神とかいうのが生み出したンだとよ。ゴアが言ってた。俺をどうやって生み出したのかを教えてくれた時にな」


「おまえはどうやって生み出されたんだ?それに他の最上級魔獣がいるのにどうして…」


「この島の火山にある石から、ゴアの魔力を使って俺は生まれたンだ。なンで作ったのかは、気まぐれだとさ。だから俺、あいつにとっちゃ一人息子になるらしいンだよ」


 カウダーの顔から火の粉が舞う。

 顔がみるみる小さくなるのを見て、ケインもいよいよだと悟った。


「出来の悪い息子だよなあ。ついさっきまで本気で殺しに行くつもりだったし。でも今こうなっちまうとなンか、殺すよりもよぉ、会いてえよ。すげえ会いてえンだよ」


 火の粉がより多く舞うのを、ケインは涙のように思えた。


「ゴアもゴアだよな。確かに俺も殺すつもりだったけど、俺のことマジに殺す気でケインよこしやがるし。一緒に会いに来てくれたっていいじゃねえかよ」


 最後に一瞬だけカウダーの炎は強くなったが、すぐに弱まった。

 小さく、小さく、燃え尽きる直前に放った一言を、注意深くケインは聞いた。


「……ったくよぉ、クソ親父が……」


 風が吹き、炎は完全にかき消えた。

 立ち上がったケインがカウダーの首があった所を見ると、金色に光る半透明の石が転がっていた。


「これが、カウダーの……」


 おそるおそるそれに手を伸ばした時だった。


「そいつはお前さんには必要ねえもんだろ?」


 上から声が聞こえた。

 ケインが驚いて見上げると、見覚えのある船が浮かび、見覚えのある男が船首に立っていた。


「また会えるとは思ってなかったぜ、ケイン」


 左腕の黒い布を握りしめながら、キャプテン・オーロがそう言った。

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