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四十代目勇者ケイン=ズパーシャが最強になるまで  作者: M.P.HOPE
旅立ち 世界の真実と魔王ゴア
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第10話 世界の真実と黒き禁断

「……え?」


 全く予想していなかった答えに、ケインは言葉を失う。

 ブンはケインにオレンジを投げ渡しながら言った。


「それ食べながら聞きな。俺が育てたんだ。さっきの黒い果実と違って、無害だぜ」


 ケインはオレンジを剥き、ゆっくりと噛みしめるように食べ始める。

 混乱した頭で口を挟むことがないようにというブンの配慮だろう、ケインはそう考えた。

 スカーは話を続ける。


「そう、初代勇者であるドーズ様は、200年前に魔王ゴアを倒したんだ。だが、レイブ村ではドーズ様は魔王に敗れたことになっている」


「何故そうなったか?それはドーズ様自身が、そう仕向けたためだ」


 ブンとスカーが、交互に説明を始めた。

 ケインはオレンジを食べながら、黙ってそれを聞く。


「魔王ゴアが倒れ、残された脅威は地上に未だ蔓延る魔獣どもだけとなった。世界に平和が戻るまであと少し。誰もがそう信じた、そのはずだった」


「だけど、魔王が死んだことを信じない人間がいた。魔王を倒した張本人である、ドーズ様自身だ。戦いには勝ったが、あれくらいで魔王が死ぬわけがない。どこかに逃げ隠れたのだと考え、行方を追った」


「だが見つからなかった。ドーズ様は考えた。魔王が今現れない理由、それは、今は敵わない存在、勇者がいるから隠れているだけで、いつか必ず復活を遂げようと目論んでいるからに違いない、と」


「その『いつか』はいつだ?そう考えたとき、それはきっと、自分が死んだ後、魔王にとっての脅威がなくなった後だと、ドーズ様は確信した」


「ドーズ様はレイブ村には帰らず、魔王の行方を追い続けると共に、各地に残った魔獣を狩ることに決めた。そして妻であり、自分の子を身籠ったサヤ様に、レイブ村に移住し、そこで自分が死んだと伝えるように、そして村から新たなる勇者を輩出させ続けるように言った。自分の子だろうと、才能があれば無関係に輩出するように、とな」


「それが『勇者の掟』の始まりだ。それから200年も復活なんてしていない、既に存在しない魔王を倒すという、最初から不可能な使命を、俺たち勇者は背負わされたんだ」


「そしてこの、俺たちの腕に巻かれているミサンガ。こいつも200年前、魔王を倒した後にドーズ様が作ったものだ。とてつもない魔力が込められている」


「何本も、何本もあるこれをサヤ様に渡して、掟で決まった勇者が旅から無事に帰れるようにと、祈りを込めて着けるようにと言ったんだ」


「だが実際着けてみてケイン、君はどうだった?村の方角がわからなくなったり、地図を見失ったりしなかったか?偶然でも故意でも、切れるはずの場面で切れない、そんなことはなかったか?それがミサンガの力だ。魔王を倒すまで、決して切れることがないんだ」


「このミサンガは無事に帰るためのお呪いじゃない。不可能な使命を果たすまで勇者を帰れなくするための呪いなんだ」


「何故そんなものを作ったのか、それは推測するしかないが、恐らく村から出た勇者が、実は魔王がいないということに気付いて村に帰り、そのことを村人に知らせないようにするためだろう」


「魔王は必ず復活するものなのに、それに備えず誰も旅に出ないなんて事態になってはいけない、という考えだったんだろうな。それはドーズ様の妄想でしかなかったというのに」


「ドーズ様が目論んだ通り、ちょうど200年前、二代目勇者が腕に勇者の証を巻いて旅に出た。そして5年毎にそれを繰り返し続けた」


「200年前に二代目が現れ、そして5年毎に勇者は輩出され続けたのなら、ケイン、おまえは本来、四十一代目勇者であるはずなんだがな」


「そこはわからん。一度だけ勇者が輩出できなかった時期があったのかもしれん。まあいずれにしても、そのいなかったのかもしれん時期を除いて、とにかく勇者は5年毎に誕生し、旅に出たのだ」


「魔王というゴールは存在しないけど、それでも勇者たちには平和を取り戻すという使命があり、魔獣という敵がいた」


「そして各地に残っていた魔獣たちを狩り、魔獣が自然に発生する魔界とダンテドリ島以外の魔獣はほぼ全滅し、世界中の治安を回復させた。やがてはその勇者たちも、ドーズ様を含めて寿命や病で倒れたが」


「その勇者たちが魔王がいないことを知っていたのかどうかは、今となっては知る術はない」


「恐らくは知らなかったのだろうがな、俺が調べた限り、ドーズ様が他の勇者に出会ったという記録はない」


「いずれにしても、それが今から約120年ほど前までのことだ。そこから自体は急変した」


「魔獣がいなくなって、平和になった世界が一体どうなったと思う?平和を愛するはずの人間が、どうなったと思う?長い間の平和の内に生まれたのは、野心を持った俗物どもだ」


「ケイン、おまえも盗賊に出くわしたことがあるだろう?ああいう人間が、世界中で急増したのさ。平和になり、魔獣がいなくなったこの世界で天下を取ろうと、躍起になる輩がな」


「だがレイブ村にもたまに結界をすり抜けて現れていたような盗賊如きなら、さして問題ではない。問題なのは、その野心を持った者どもの中に、強大な力を持った者が現れたことだ」


「各地で争いが始まった。力を持った者同士が殺し合い、この世の覇権を握ろうとする時代が始まったんだ」


「魔王という絶対的な悪、他を寄せ付けぬ絶対的強者がいた時代よりも、現在に至るまでのこの時代こそが最悪だと言ってよいだろう。弱者はただ争いに巻き込まれ、強者も何も残さぬまま死んでいくだけの、何も生まぬ虚しい争いだけの時代だ」


「俺たちにとってより最悪なのは、その事実を、俺たちが、いや、レイブ村の人間が誰一人として知ることができなかったということだ。人間同士の争いが世界中で起きてるなんて、村にいたら考えもしなかったことだ。外にはまだ魔獣がいるんだとさえ思い込んでいるんだからな」


「それを知らぬまま旅に出た歴代の勇者たちは、各地の争いを知ると、それを止めるべく立ち向かっていった。だがそれを止められるような実力に到底達していない、達する機会のない勇者たちは、次々と犠牲になっていった。ドーズ様にとっても予期せぬことだったのだろう。ドーズ様のように勇者として旅に出る以前から桁外れの戦闘能力を有した存在が村に現れなかったこと、そしてそういった存在が、村以外の各地で現れたことはな」


「だが世界の覇権争いも、徐々に収束に向かっている。魔王ゴアにすら匹敵するほどの力を持った数人によって、各地の被害を更に拡大させ続けながらな」


「100年前に世界中の海賊団を束ねた、盗賊史上、最大最悪の犯罪者、キャプテン・オーロ。誰彼構わず無差別に殺す狂気の人斬り、どこからともなく現れる忍者と呼ばれる暗殺集団、それらを従えるヒノデ国の王、ヨリミツ=マドカ。そしてそれらをも上回る規模の勢力にまで国土を広げ、自ら前線に立って歯向かう者を皆殺しにするデュナミクの女王、ロレッタ=フォルツァート。まさに今、これらの三大勢力と呼ばれる存在が覇権をかけ、争っている。こいつらに比べれば、他の勢力など些細なものと言っても良いくらいだ」


「村という小さな場所で、これといって飛びぬけた才能があるわけでもなく、和気あいあいと競ってきた俺たちのような未熟な勇者じゃ、到底太刀打ちできっこない。しかも腕を磨こうにも、経験を積めるほどの丁度良い強さを持った魔獣なんていやしない。勇者じゃどうしようもない時代になっちまってるのさ」


「これが俺たち親子が、今知っている世界の実情だ。いずれ三大勢力のいずれかが覇権を握る時が来るだろう。そいつが世を支配するのを、無力な俺たちはただ見守るしかない…」


 スカーは話し終えると、俯いてそのまま黙ってしまった。

 横に座っているブンも同じで、喋りながら皮を剥いていたオレンジを食べ始めると、それ以上は何も言わなくなった。

 オレンジを食べ終わったケインもまた、続けざまに頭に入ってきた情報を整理するために、黙りこくっている。

 混乱しないよう、必死で頭の中を回転させる。

 魔王がいない、そこまでは予想していた。

 だが、そこから先がまるで予測できていないものの連続だった。

 既に死んでこの世にはいない魔王、それを倒したのが他でもない、ドーズ=ズパーシャ。

 村の掟や勇者の証は、ドーズが魔王復活を警戒して作ったもので、果たせない使命を果たすために勇者は旅に出続けていた。

 歴代の勇者たちが各地で魔獣を狩り続け、平和になった世界に、その覇権を狙う者たちが現れ、今も争いが続いている。

 しかも自分が出会ったオーロやロレッタが、その筆頭。

 先程スカーはさらっと100年前にと言っていたが、オーロは一体何歳なのか。

 そして、魔獣がいなくなった後の世代の勇者たち。

 彼らもまた、自分と同じ、強くなる機会を奪われた勇者たちということは、その中に父もいるということか。

 長い沈黙が小屋の中で続いた。

 やがて、ようやく情報を整理し終えたケインが口を開いた。


「…それで、他の勇者たちはどうなったんです?あなたたちが生きている以上、全員が犠牲になったわけではないのでしょう?例えば、俺の……父さんも」


 父さんという言葉に、スカーの眉がぴくりと動いたのを、ケインは見逃さなかった。

 15年前、勇者としての旅に出た父、ガンギ=ズパーシャ。

 自分が勇者に選ばれる前から、生きているなどとは思っていなかった。

 村に戻って来ないということは、既に旅のどこかで死んだから、そう教わってきたから。

 顔さえ覚えてなどいない、記憶の片隅に、僅かに残っているだけの、父の面影。

 それでももし、まだ生きているのならば、ケインは会いたかった。

 会って何をするというわけでもないが、ただ、会いたかった。

 ケインの心中を察してか、スカーは弱々しい声で答えた。


「俺たち親子が生き残れたのは、運が良かったのと、他の勇者たちよりも、正義感に優れていたわけではなかったからだ。君の父さん、ガンギは、勇者として恥じない正義の心を持っていた」


「じゃあ…」


「ガンギは既に亡くなっている。だが、争いの犠牲になったわけではない。この森で、これを食べて死んだのだ」


 そう言うと、先程ケインが小屋の近くで見つけた黒い果実をポケットから取り出した。

 またしてもケインにとって予想だにしない答えだった。

 スカーの様子から、初めから生きている希望はあまり持たないでいられた。

 だが、戦死したのではなく、この果実を食べて死んだ。

 ならば、この果実は一体…。

 突然、やり取りを聞いていたフードの女、クラリが立ち上がって、スカーから果実を取り上げると、ケインに向かって言った。


「あなたの父親がこれのせいで死んだことは悪いとは思うわ。でも、だからといってこれを恨まないで頂戴。これそのものに罪はないのだから」


 そう言いながら女はフードを上げる。

 黒いフードの下には、より真っ黒な髪の上に、猫の耳のようなものが生えている。

 中級魔獣、ニアヒューマンの特徴だった。

 それを目で捉えた瞬間、ケインは立ち上がっていた。


「ニアヒューマン!?やっぱりこの森の魔女ってのはこいつのことだったのか!!」


 剣を構えて叫ぶケインを、クラリは鋭く睨む。

 瞬間、ケインの体は、まるで石になったかのように動かなくなった。

 表情を除き、指一本さえ、その場から動かすことができない。

 ブンとスカーは、他人事のように目を背けていた。

 女は静かに口を開く。


「ええ、私はニアヒューマン。そこの二人に見張られながら、この森に住む魔獣よ。でも、そこらの中級魔獣のニアヒューマンとは少しばかり生まれ持った魔力の強さと量と質が違うの。あなたたち人間の中から、とりわけ優秀なのが生まれたりするのと同じようにね」


 そう言ってケインから視線を外し、再び元の場所に戻って座る。

 ケインは未だに体の自由がきかず、自分の意思とは無関係に剣を鞘に収めていた。

 魔獣に操られているという屈辱感に唇を噛んでいるケインをよそに、クラリは話し始めた。


「あなた、ここに来る途中、盗賊に会っているわね?この森に眠るお宝を狙って来た盗賊たちに。彼らが狙っていたお宝というのはね、この果実のことなのよ」


「なんだって…?」


「一度入ったら抜け出せないような森に入ってでも、食べたら死ぬかもしれない物を食べてでも、そういった危険を冒してでも手に入れたい魅力が、この果実にはあるの」


「魅力だって?それに死ぬかもしれないって、絶対に死ぬわけじゃないのか?」


 ケインは自分でも驚くほど冷静に尋ねていた。

 実のところ、ケインの頭の中は決して冷静ではなかった。

 ただ一度に流れ込んできた怒涛の情報量に、感情を制御し切れず、軽い混乱状態にあっただけなのだ。

 たまたま今は、その混乱の波が、冷静に寄っているだけだった。

 クラリはその様子に少しだけ笑みを浮かべ、勇者の疑問に答えた。


「これは絶対に叶えたい願いを持つ人間がひと口でも口にすると、その願いを一つ叶えてくれる、黒魔女クラリの最高傑作。『黒き禁断(ブラックスウィート)』よ」


「……お前が名付けたのか?」


「ネーミングはどうでもいいわ。とにかく、これは願いを叶える魔法の果実なの」


「でもさっきブンさんは食べたら死ぬって…それに父さんは、それを食べて実際死んだんだろう!?」


「ええ。中途半端な気持ちのまま食べたり、願いがその心に対してあまりに大きすぎると、願いを叶えることはできずに、この果実に殺されるわ」


 クラリは暫し『黒き禁断』を見つめていたが、やがてそれをローブの中に仕舞うと、水晶玉に視線を戻した。

 ケインは体の自由が戻っていることに気付いたが、クラリに今襲い掛かっても敵わない、むしろ今はそんなことをしている場合ではないと悟り、元の椅子に座ると、今度はブンに向かって言った。


「ブンさんたちはこの魔女と、何故一緒にいるんですか」


 ブンもスカーも、何も答えない。

 代わってクラリが答える。


「12年ほど前のことかしら。スカーがこの小屋まで迷い込んできて、あなたのように、ただお腹を空かせたからという理由で果実を口にしようとしたの。何も知らないようだったから、教えてあげたわ。そしたら居座っちゃってね。何度か追い出したんだけど、ちょっと外のことを調べたらすぐ戻ってきちゃって。まあ戻って来る度に凄く怯えた様子だったから無理に追い出すと可哀想になっちゃうし、人間の反応って面白いから住まわせてあげてたら、4年前に今度はその息子が迷い込んじゃって。偉そうにさっきまであなたに語ってたけどね、この人たち、もう2年前には外を怖がるあまり、とうとう全く出ていかなくなっちゃったのよ」


 二人はきまり悪そうに俯いたままだった。

 ケインはそんな二人を哀れに思ったが、とても声をかけてやる気にはなれなかった。

 再び魔女に向き直り、疑問をぶつけた。


「何故、そんなものを作ったんだ?お前にも叶えたい願いがあったのか?」


「…ニアヒューマンの寿命は知ってる?退魔指南書にはそんなこと書いていないようだけど、平均して100年程度よ。あなたたち人間より少し長い程度。これは魔獣にとってはね、物凄く短いの。瘴気を吸わなくても、魔力が衰えるだけで死なないというのがニアヒューマンの長所だけど、この寿命問題はどうしようもなくてね」


「つまり、お前が願ったのは…」


「そう、不老不死。勇者ドーズの魔の手からこの森まで逃れて、寿命が尽きる前にどうにかと思いながら、必死でこれを作ったわ。魔界の外に出たせいで、元々あった膨大な魔力もどんどん衰えていったし。それでも、ドーズがいなくなる直前くらいかしらね、これを完成させたの」


「そんな願いさえ叶うというのか……。でも一つわからないことがある。何故お前は」


「私の願いは一つだけで十分だったけどね、いざ本当に不老不死になっちゃったら退屈になるに違いないと思って、あえてたくさん果実を作ったわ。他の人間が何を願うかを見たかったのよ。だから願いを叶えるための、いくらでも増やせる媒体として果実を選んだ。森に生えてる樹に魔法をかけ、そこから果実を作らせる。この森はそれにうってつけだったわ」


 ケインの質問を、心を先読みして、魔女は答える。

 それに少し不快感を覚えるケインだったが、魔女クラリはさして気にする様子はなく、そのまま続ける。


「叶えるための対価は、その者が、叶えたい願いに対して持つ想いの強さ、ただそれだけ。想いが十分でないのなら、こうなる」


 そう言いながら右腕の袖を捲る。

 ケインは息をのんだ。

 クラリの見た目は、瑞々しい若い女性そのものだ。

 それなのに、彼女が袖を捲った右腕の上腕部分だけが、まるで血と肉を丸々失ったかのように痩せ細っていたのだ。

 ケインが声を出すより前に、クラリは答える。


「あまりに大きい願いを叶えようとした代償がこれよ。十分でない想いの分だけ払わせるかのように、果実は肉体の一部分を奪ってしまう。ここに来るほとんどの人間は、大金を望んで果実を口にするわ。想いが足りなさ過ぎて、肉体を全て果実に奪われ、殺されちゃうけどね」


「つまり……父さんは」


「あなたの父は、今から9年前に、果実の噂を聞きつけてここに来たわ。彼が願ったのは、力。混乱し続ける世界にどうしても立ち向かいたかったのね。誰にも負けない力を願って、果実を食べた。途端に彼は、服すら残さず消えてしまったわ。残ったものはこれだけ」


 クラリは水晶玉を持ってケインに見せた。

 水晶玉には、少し齧られた跡のある『黒き禁断』と、勇者の証が映っていた。

 それを見た途端、ケインの目から涙が溢れてきた。

 先程まで混乱し切っていた頭に、映像として突き付けられた、父の死という確かな現実。

 彼が涙するのを堪える理由はどこにもなかった。

 小屋の前で倒れた時とは、全く違う涙だった。

 生きているとは思っていなかった。

 それでも、生きていて欲しかった。

 嗚咽も漏れ、呼吸が乱れる。

 旅に出て初めて、ケインは勇者ではなく、ただの青年となっていた。

 水晶玉を置き、ケインの背中をさすりながら、クラリは言った。


「この私でさえ、五体満足に願いを叶えることはできなかったのよ。代償を払ってでも願いを叶えられた人間だって、両手で数えるほどもいない。何の代償も支払わずに願いを叶えられるなんて…あなたも会ったでしょう?」


 少し落ち着きを取り戻してきたケインが次に聞いたのは、聞き覚えのある名前だった。


「どこにでも行ける最高の船を願ったキャプテン・オーロと、国に危険が迫ったらすぐに帰れるマントを願ったロレッタ=フォルツァート、あの二人ぐらいのものね」

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