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最終話 時代が変わる、その時まで

 勇者ケインと創魔神ククの戦いが終わり、夫婦としての契りが結ばれた次の日、全世界に向けての拡声魔法が魔王ゴアによって放たれた。

 内容は、以下の通り。


「聞け、ようやく平和を取り戻したと浮かれておるのであろう能天気な人間どもよ。俺の声を聞いて誰だかわかるような者はもうこの世にはほとんどおらんだろうから、まずは自己紹介から始めてやろう。と言っても、拡声魔法を一度に世界中届けられる者などかなり限られるから、既に察しておる奴もおるかもしれんが。まあとにかく、俺は魔王ゴア。そう、貴様ら人間どもの住む地上支配をかつて目論んだ、魔王ゴアだ」


「200年も前に死んだと聞いておる者も多いだろうが、しかし、こうして、俺は存在しておる。せっかく平和になった状況で、海賊キャプテン・オーロやデュナミクの女王ロレッタがおらん状況で、魔王ゴアが存在しておる。わかるか?俺を止められる者がこの世にはおらんのだ。誰一人として、な」


「……とまあ、脅すようなことを言ったが、今の俺には地上支配などするつもりは全くない。200年も経てば心境も変わるものでな。何故わざわざこうして貴様らに声をかけたのかと言うと、これだけ伝えたかったからだ」



「お互い、不干渉でいよう」



「俺たちが地上侵攻を始めたのは元々、魔界に貴様ら人間どもが攻撃を仕掛けたのがきっかけだ。それをしないと言うのなら、俺が貴様らと敵対する理由も別に無い。何もせんから何もするな、たったそれだけの頼みだ。くだらぬ争いはお互いやめにしよう。尤も、貴様ら人間どもが懲りずに魔界に何か良からぬことを仕掛けてきたり、覇権を求めてまた争い合うようなことがあったとしたら、この魔王ゴア、今ほど穏便ではおらんから、そのつもりでな……」





 この声明が功を奏したとゴアが本気で信じられるほど、世界から大きな争いはぱたりと消えた。

 オーロやロレッタのような巨悪が消えたことももちろんだが、何より、それらを倒した者、ケイン=ズパーシャの存在が世間に明るみになったことが大きい。

 ロレッタとの戦いでケインが背負った魔力、一部をかき集めたのはブンだが、その持ち主である人々は、ケインの存在を認識していたのだ。

 ケインと視界を共有し、彼と共に戦った者たちのことも、魔王ゴアのことも知った。

 魔王ゴアが、世界を救った者たちの一人であることを、彼らは知っている。

 だからこそ、互いに不干渉でいたいという魔王ゴアの言葉が真実であることを、確信を持って他の人々にも伝えることができた。


 無暗に争えば魔王ゴアが来る。

 この警告が人々の肝に銘じられるのに、大した時間はかからなかった。




 それから3年、文化的・技術的な進歩が大して見られなくとも、個人の環境が変化するには十分な時間で、ケインの仲間たちにどのようなことが起きたのだろうか。




 ウェルダンシティが無事復興した後、『ゲキウマサラミ』は二代目店主シマシマによるリニューアルオープンが行われた。

 サラミ婆さんが切り盛りしていた頃の高級志向とは打って変わり、地元の食材を使用した大衆食堂と化した店には、シマシマの料理の腕もあって、連日多くの客が押しかけている。

 しかし、誰も言葉には出さないが、あの頭痛すら起こすほどの大声が店内に響かないことを寂しく思う客も多い。

 その証拠に、サラミ婆さんの墓には、常にシマシマの他にも誰かが手向けた花が綺麗に供えられている。



 ライガとシーノはウェルダンシティで結婚式を挙げ、1年ほど滞在した後、突如として町を飛び出た。

 いずれ子供ができて落ち着いた生活をすることになるだろうから、その前にやりたいことがあると、シーノが思いついたことであった。

 ウェルダンシティとは違い、デュナミク王国による被害から立ち直っていない国や町は、まだ数多く残っている。

 それらの復興のために動こうと、そう決心したのだ。

 現在、二人はクドモステリアの復興作業を、デュナミク王国の兵士や、デュナミク王国に捕らえられていた元奴隷の人々と共に行っている。

 まだ二人の間に子供はないが、もしできたとしても、しばらくこのような生活が続くのだろうと、ライガは魔女の森に立ち寄った際に言ったことがある。


「続けられるわけねーだろ」


 そう否定したのは、ブンとスカーであり、クラリさえも頷いていた。

 実際、彼らはクラリの子を相手に、悪戦苦闘の毎日を送っている。

 何せ、魔獣と人間のハーフというだけでなく、あの海賊キャプテン・オーロの遺伝子を色濃く継いだ子とあって、並の子供よりも遥かに手を焼くことはライガとシーノにも容易に想像できた。


「あたしは海賊ネーロ!!この世で最も恐ろしい、全世界の支配者になる女よ!!」


 育てられた子は、後にこのような口癖を持つことになるのだが、それはまた別の話。




 ヒノデ国では、天守五影がヨリミツ王に長期休暇を申し入れ、返答を待つことなく一方的にそれぞれの生活に没頭した。

 赤影は修行の旅に、青影は鍛冶職人に、緑影はタコヤキ屋を営み、黒影はバタクサ王国の潜入任務中に契りを交わしてしまった妻の元へ、桃影は長年できていなかった家族サービスを存分に。

 勿論、もしもヒノデ国に危機が訪れるようなことがあれば、いつでも天守五影として舞い戻る準備と覚悟が彼らにはある。

 そうならないよう、彼らは願うことしかできないが。


 修行に打ち込む日々を送るのは赤影だけではなく、ザクロ=アケチもである。

 ショーザンの遺伝子から人工的に作られた彼女の寿命があとどれくらいなのか、知る者は誰一人として存在しない。

 だからこそ、ザクロは残された時間の全てを、彼女自身のためだけに使う。

 父を、人斬りショーザンを超えるという、人生最大の目標のためだけに。



 キャプテン・オーロ亡き後の海賊たちは、そのほとんどが足を洗い、ヒノデ国やデュナミク王国のような大国の下で働く漁師となった。

 新鮮な魚を輸出するための大切な人材となり、海賊時代よりも稼げる者は多い。

 だが、未だにロマンを求め、海を彷徨う者もいる。

 海賊キャプテン・オーロが遺した至高の船、コンリード・バートン号もまた、彼らが探している財宝のひとつ。

 深い海の底に眠る船は、新たに主人と認められる者と出会うその日まで、決して目覚めることはないのだ。





 さて、そのコンリード・バートン号に最後に乗った人物、ケイン=ズパーシャがこの3年でどのような人生を送ったのか。

 彼はククとの婚姻の契り後間もなくレイブ村に帰郷し、母やザックらと再会し、結婚式を挙げた。

 実のところそのまま村で畑仕事でもして過ごすつもりだったのだが、僅か一週間で村を去った。

 ククの容姿が幼過ぎたことで、村人たちからの視線が少しばかり冷ややかなものに感じられたのだ。

 母やザックは引き止めようとしたが、世界を救った英雄は、それを知らない村人から向けられたロリコン疑惑によって村を追い出された。

 それから二人は各地を転々とし、定住することはなかった。

 仲間と再会したりすると、何日かは留まるのだが、またすぐに旅に出る、そんな日々を送っていた。


 そして現在。

 魔界の見える海岸で、二人は寝そべっていた。

 ククはケインの剣を鞘から出したり戻したりを繰り返している。

 つい先ほど、ケインが海から拾い上げた、ククとの戦いで紛失していた剣だ。


「それにしても、3年も海に沈んでたのに、よく錆びることなく無事でしたよねえ」


「うちの村の鍛冶職人は凄いんだ。ほら、結婚式で君の付き添いしてくれた、ティキって子」


「あー、私がケインさんの奥さんだって言った時すっごい睨んでたあの人、鍛冶屋だったんですね」


「……そう、その後俺に、ものっすごい冷たい視線送ってた、あの子」


 苦い記憶が蘇り、ケインの表情は暗く沈む。


「絶対あの人、ケインさんのこと好きだったんですよ。でなきゃあんな風に睨んだりしません」


「そうかなあ、村を出る時に剣を渡してくれたぐらいの関係だぜ?」


「絶対そうですって」


「……てか、なんでそういう話題で嬉しそうなの?」


「えー?ケインさんがモテてたんだって思うと、嬉しくありません?だってえ」


 ククは剣を脇に置くと、ケインの頭を両腕で抱きしめた。


「今は私のケインさんなんですもん」


「ウヘヘヘヘ」


「ヒヒャヒヒ。いつまでも事ある毎にイチャついてンじゃねえっての」


 声と共にケインの胸元から炎が噴き上がり、炎王カウダーとなって現れた。


「なんだよカウダー、妬いてんのか?」


「胸焼けしてンだよ、3年経っても新婚気分の抜けねえ甘々夫婦見てンのはよォ。トモダチは選ぶモンだな」


 幾度となく繰り返したやり取りには、言葉ほどの毒はない。

 妻と友人に挟まれて、ケインの顔は穏やかだった。


 しかし、それも束の間、険しい表情に切り替えたケインは後方にある町に目を向ける。

 微かな煙の臭いがした。


「事件ですか?」


 ケインの表情が険しくなった時、ククは必ずこの質問をする。


「多分、野盗が暴れてるみたいだ」


 ロレッタやオーロのような巨悪は去ったが、悪党というのは減りこそすれなくなりはしない。

 ケインはこの3年でそのことを確信し、残りの人生をそれらを退治するために使うことに決めた。


「じゃ、行ってくるよ」


「俺も行くぜケイン、ヒヒャッヒヒ」


「私は待ってます。必ず無事に、帰ってきてくださいね、ケインさん」


 いつも通りの挨拶と口づけを交わし、ケインは走った。


 今、ケインの命は、ククと共にある。

 ククの命が尽きるまで、ケインは生き続ける。

 尽きる時、それがいつかは、誰にもわからない。

 明日かもしれない。

 1万年後かもしれない。

 ならばそれまでは、人生きる世に真の平和が在るようにと、ケインは戦い続ける。


 最強でなくなる、その時まで。



 時代が変わる、その時まで。

「強い奴らを少年漫画のように戦わせたい」


単純ですが、初めにこの話を描こうと思った動機がこれでした。

強者を求めて彷徨う狂気の人斬り、世界の宝を根こそぎ奪おうと企む不死身の海賊、戦隊ヒーローのように目立ちながら巨大ロボットを操る忍者、歴代の王の魂を受け継いで戦う女王……。

しかし、どいつもこいつも強い奴らばかり。

挫折なんぞ知るかと言わんばかりのタフネスで、しかも大体悪い奴、とても主人公にはさせられない連中しかいませんでした。

程よく折れてくれる、それでもちゃんと立ち上がる、まさに勇者が必要でした。

勇者ケインを主人公にしたのはそんな想いからです。


もう少しスムーズに完結させるつもりだったのですが、遅筆なせいでこんなにかかってしまいました。ごめんなケイン!

この世界でのケインたちの活躍を描くのはここまでになりますが、いつかまた彼らに会える物語を描きたいと思っています。

その前に描きたい話がいくつもあるので、いつになるやら……。


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

M.P.HOPEの次回作にご期待ください!

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