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第91話 最終決戦 勇者ケイン=ズパーシャVS創魔神クク

 魔界から放たれし世界中まで轟くほどの爆音と共に、ケインはその姿を消した。

 正確には、ククの平手打ちによって魔界の遥か外まで吹き飛ばされてしまったのだが、魔界に住む中級・上級魔獣たちの目にはあたかもそのように見えていただけである。

 彼らにとっては笑い話で済むことだが、飛ばされたケイン本人には笑っている場合ではなかった。


「が…………か…………!!」


 飛ばされる勢いが強すぎて碌に声も発せず、目まぐるしく変わる景色を追い切れないまま止まることができない。

 姿勢を制御しようにも、無理に抵抗すれば首の骨がそのままへし折れてしまいそうなので、勢いを殺すことに専念する以外何もできずにいた。

 かろうじて自分が飛んでいるのが地面に近いか否かぐらいは肌で感じられたので、激突して見知らぬ誰かに被害が及ばないように計算しつつ、徐々に勢いが弱まるのを待った。

 首の骨がみしみしと軋み始めた頃、ようやく制御できる程度まで勢いは弱まり、空中で体勢を立て直すことができた。


「いぃ……ってえ……!ビンタ一発で死ぬとこだった……」


 首に軽い治癒魔法を当てつつそう言いながらケインは辺りを見回したが、ククも魔界も影も形も見当たらない。

 今居る場所は海の上。

 だが世界に数あるどの海なのかがわからずにいると、懐にあるマキシマムサンストーンから声がした。


「ヒヒャッヒヒヒヒ。随分派手にブッ飛ばされちまったなァケイン。手ェ貸してやってもいいぜ?」


 カウダーの軽口をこれほどありがたく思ったことはなかった。

 ただ、それは手を貸して欲しいからではない。


「ありがとう……一緒に居てくれるなら、それで十分だ」


 友が傍についていてくれる、それだけでケインは力が漲るのを実感していた。

 懐中のカウダーにもそれは伝わったようで、声以外に干渉しようとはしなかった。


「ヒヒッ。ああ、ひとつだけ頼ンどくことがあるンだが……」


「なんだ?」


「親父のこと……助けてやってくれや」


 カウダーの言う親父とは、即ち魔王ゴア。

 ケインとしても、ゴアをどうにかしようという気持ちは同じである。

 マキシマムサンストーンを服越しに握りしめ、二人は言葉を交わした。


「……頼ンだぜ、トモダチ」


「任せろ、友達」


 ケインには今自分がどこにいるのかはわからなかったが、ククが、魔界がどこにあるのかはわかっていた。

 遠く離れた場所には違いないが、例え世界の果てであってもククを探し当てられる自信が、今のケインにはあるのだ。

 真下の海を見つめ、カウダーに言った。


「こっちからのが近い気がする」


「あァ?何言って……」


「行くぞ!!!」


「ちょ」


 止める間もなく、ケインは海へ飛び込んだ。





 一方、ククは魔力で全身を覆ったまま、ケインが来るのを待っていた。

 たかが平手打ち一発であのケインが死ぬはずがない、すぐにでもこちらへ向かって来るに違いないと確信し、あわよくば今の攻撃によって自身を敵だと認定してくれていればと期待もしていた。

 魔獣たちは主人が帰還したことを知り挨拶をしたいと思っていたが、彼女が放った一撃の破壊力と未だ纏う魔力の凄まじさに戦慄し、近づくこともその場を去ることもできずにいた。

 やがて、彼らも動かざるを得ない状況に陥った。

 魔界全体が再び揺れ始めたのだ。

 揺れの正体がククの放つ魔力ではないことは誰の目にも明らかであった。

 地中深くから、何物かが、とてつもない力で浮上しようとしている。

 魔界を揺らすだけに留まらず、ついには魔獣たちが避難せざるを得ない事態にまで発展した。

 岩盤を突き破り、城を砕き割るように真っ直ぐ、創魔神めがけやって来る『それ』に恐れをなした魔獣たちは、魔界そのものを見捨てる覚悟で海へと飛び込んで行った。

 ただ一人逃げずに残ったククはその正体へと語りかける。


「遅いですよ、ケインさん」


「お待たせ」


 声と共に、城の階下からケインが飛び出して来た。

 ククに劣らぬほどの魔力を全身に漲らせて。


「私やゴアを救う……と意気込んでいるようですけど、その様子ですと、とりあえず戦いはするんですよね?」


「まあ、そうなるね」


 右手には剣を持ち、左手はいつでも発射できるように全身に纏う以上の魔力を込めている。

 ククが良く知る、勇者ケイン=ズパーシャ得意の戦闘態勢だ。


「君を説得するには、まず君の力を鎮めなきゃいけないんじゃないかって思ったんだ。俺が君を殺さず、君も俺を殺せない、そういう状況にもっていくのが第一だって」


「そうするだろうとは思いましたよ。ですけど……ね?」


 ククは全身の魔力を全開にし、ケインを威圧する。

 呼応してケインも同様に魔力を解放させ、ククのそれとぶつける。

 互いの力は、拮抗してはいなかった。

 明らかにククはケインよりもひと回り上の魔力量を誇っていた。


「私にあなたを殺させないっていうのは、ちょっと無理があるんじゃないですか?」


「無理かどうかはこれからわかるさ」


「ええ……わからせてあげます……よっ!!!」


 ククの右手から魔力が黒い渦を巻き、稲妻を走らせながら光線となって放たれた。


「『魔神ダークネスビーム』!!!!」


「やっぱそういう技名かよ!!」


 ツッコミを入れつつも、ケインは剣を盾の代わりにして光線を受ける。


「ぎぎ……!!」


 魔力量の差は出力の差。

 受け切れずにケインは徐々に魔界の外へ再び押しやられていく。

 剣が光線によって折られてしまう前に、全身を回転させることで光線を受け流した。

 腕の痺れを振りほどきながらケインは反撃の態勢を取る。


「『テテレポ』!!」


 唱えた瞬間移動魔法により、ケインはククの真上へと転移する、はずだった。

 同時にククも瞬間移動魔法を唱えていなければ。


「お見通しですよ」


「げっ!?」


 ククが転移した先は、今しがたケインが光線を受けていた場所だった。

 そして、再びククの手には魔力の渦が巻いていた。

 しかも、今度は両手に。


「『魔神・ダブルデスブラスター』!!!」


 両手から放たれた光線を、ケインは防御を考えず、浮上することで回避した。

 そのまま急降下し、両足による蹴りを浴びせにかかる。


「えいっ」


 渾身の力で蹴りにかかったケインだが、光線を撃ち終えたククの両手は、難なくそれを掴んで止めた。


「え、ちょ、待っ……!」


「これでもう避けたり止めたりできませんよね?」


 またしてもククの両手で魔力が渦を巻き、光線となって容赦なく放たれた。


「ぐあああああっ!!!」


 黒い光線がケインを包んでククから遠ざかる。

 光線に身を焼かれるケインを見て、ククの脳裏にはヒノデ国でのことが浮かんでいた。

 自分を庇い、ヒノデ国究極の兵器ギガライコーによってケインの身が焼かれた、あの時のことを。

 あの時、ケインが自分を助けなければ。



 ヒノデ国だけではない。

 ケインが自分を助けたことは何度でもあった。

 その全てに対し、ククは思わずにいられない。

 あの時、ケインが自分を助けなければ、彼を今ほど好きにならないまま死ねたのに、と。


「『勇気ある者の(ブレイバアアアア)……!!!」


 ククを現実に引き戻したのは、そのケインの声だった。

 いつの間にか光線から逃れ、火傷も完治させている。

 先程よりも全身の魔力を高め、一直線に突進してきていた。


一撃(ストラアアアアアイク)』!!!」


 何故ケインの力が増しているのか、ククは当然理解している。

 ケインは彼自身ではなく、他者のために戦うことで、本来以上の力を発揮する。

 特に、戦う相手のためにと発揮される力は、その最たるものである。

 即ち、愛こそがケインの力の根源なのだ。

 であるならば、戦う相手が最愛のククである今以上に力を発揮する時はない。

 更には、先日のロレッタとの戦いも今のケインに齎すものがあった。

 仲間たちから受け取った魔力は、あの戦いを制した直後に既に消失している。

 だが、無理に魔力を詰め込んだことで、彼の『器』は広げられたままとなっていた。

 その『器』に注がれる『愛』がある限り、あの時の彼にも迫る、或いは超えるほどの力が、とめどなく溢れるのだ。


「ええ……それでいいんですよ、ケインさん」


 彼の勇姿を目に焼き付けながら、ククは両手を広げ、全身の魔力を弱めて攻撃を待ち受けた。

 このままケインに刺し貫かれ、全てを終わらせる、そのつもりだった。




「……そういうのはナシにしようぜ、クク」




 だが、それをケインが許すはずもなかった。

 剣の先端がククの喉元まで迫っていたが、寸止めの直後、背の鞘へと納められた。

 直後、ククは再び魔力を開放させ、またしても平手打ちを見舞った。


「せっかく今ので!!終わるところだったのに!!」


 今度の攻撃は最初のように上手くはいかなかった。

 容易くケインは躱し、代わりにククの両足を閃光の如き足払いによって崩しにかかる。


「わっ」


 互いに空中だが、足払いによる体勢の崩れは地上よりも効果的で、ククは咄嗟に浮遊魔法で制御することもできずにその場で回転してしまった。


「わわわ……!」


 その様子に失笑しながら、ケインにはククの弱点が見えていた。

 現状でも、ククの力はケインよりも上である。

 使える魔法の種類も、恐らくはククの方が多いだろう。

 瞬間移動魔法のような黒魔女クラリ独自の魔法をも容易く扱えるのがその証拠だ。

 にもかかわらずククが手玉に取られるのは、極めて単純な理由によるもの。

 ククには実戦経験がない。

 他者を殺したことはあっても、他者と戦ったことがないのだ。

 故に動きも単調になりがちで、且つ無駄が多い。

 攻撃するのに適した動きというものをわかっていない。

 先程ケインと同時に瞬間移動魔法を使用した際も、ケインがククの立場ならば、相手の動きを予測できたのなら、その背後、しかもゼロ距離へと移動する。

 わざわざ離れた位置から光線ばかり出そうとは思わない。

 圧倒的な魔力量があり多数の魔法を操れたとしても、正しく扱う判断力と、それを養うほどの経験値がないというのが、ククの明確な弱点であった。

 それならば、ケインにとっては無力化させることも不可能ではない。

 未だ空中制御もできない魔神の手を取り、抑え込もうとした、その時だった。


「え?」


「は!?」


 ククの動きが止まると同時に、ケインの両手が何者かの手に掴まれていた。

 何者か。

 それは、ククの背後から手を伸ばしていた。

 人間のものではない、すらりと長い、黒い手。

 ケインとククには見覚えがある。

 突然現れた仲間に対し、ケインは笑みを湛えて応じた。


「よう……!」


「ゴ……ア……!?」


「俺のおらん所で楽しそうだな、二人とも」


 ククの全身を覆うように、魔王ゴアが立っていた。

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