ユミル★
少しずつブクマしてくれる方が増えてきまして…感無量です!\( 'ω')/
このままPVも増えて行って欲しいものです、投稿がんばらねば(=゜ω゜)ノ
てな訳でどうぞー!(っ・ω・)っ
ユミルは商家の出身だった。
可もなく不可もなく、特別儲けている家ではないにしても不自由をする程困ってもいなかった。
そんなユミルには悩みがある。
それは両親が家を不在にしていることだった。彼女の両親は領主の屋敷で働いているため帰って来ないのだ。
家は商家、貴族の家系に縁もゆかりも無い。
通常であれば貴族の屋敷で働くような身分の者ではなかった。侍女や執事、警備する騎士にしても貴族の出の者が勤めるからだ。
余程小さい領地の貧乏貴族ならばその土地に昔から住む有力な名士の家系の者が勤めている場合もあるがここは違う。
ここの領主は平民に対しても寛大だった。
能力があればたとえ出身がはっきりしない怪しい者でも忠誠を誓えば登用するのだ。
ユミルの父親が腕っ節を買われ騎士としてスカウトされ、その際にセシルも侍女として雇われた。
仕事だし、仕方ない。
ユミルは半ば諦めながら日々を過ごしていた。
そんなユミルに転機が訪れたのはシルフィの転落事件が起きてからしばらく経った頃だった。
突如帰ってきたセシルがユミルに礼儀作法を学ばせはじめたのだ。
目的は自分と同じく侍女として働かせるためだった。
それからおよそ1年かけて侍女としての教育を受けさせられた。
母親が帰ってきたと思えばこれだ。だが、それは別によかったのだ。
ユミルは別に侍女になることが嫌なわけではなかったからだ。
彼女らは商家の家系、将来については人一倍敏感だった。
ユミルはまだまだ夢見る女の子。将来働かないといけないならそりゃ、華やかな職業に就いてみたいとは思っていた。
敏感ではあってもまだまだ子供。侍女さんや、人気のパン屋さんなんかまさに理想だった。
そこに家のお店の店員が入っていない辺り…。子供だし仕方ない。
特に侍女なんかは雇い主に見染められれば貴族の妾は無理でも愛人位にはなれるかもしれないまさに夢のような職業だった。
働けるならば働いてみたかったし、望んで就ける職業でもなかった。
勿論、この段階で主となるのは領主の娘さんなことはわかっていた。
それでも、構わなかった。
しかし、母親のセシルはただユミルを教育はしてもまるで他人の子のように突き放した態度をとり成果を重視していた。
ユミルは両親が殆ど家に帰って来ないため祖父母と共に生活していた。
彼女とてまだまだ遊びたい盛りの子供である。育ててくれた祖父母ともう少し一緒に居たかったし、恩返しも出来ていない。
そして何より母親にも甘えたかった。そして甘える対象に父親は入ってなかった。
今度はユミル父シュンである。
そんな状況に不満が生まれ無いはずがなかった。ユミル父にも不満が生まれないはずもなかった。そして残念ながら相手にされなかった。男親は辛い。
ただでさえほとんど帰って来ない母親と一緒に居られる時間が出来たのだから甘えてみたいと思うのを誰が止められようか。
にも関わらず仕事の話ばかりで必要以上には接して来ない。教育も時々顔を出して少し教えるばかりで大半は他の教育者から教えられていた。
不満で学ぶのを拒否しなかっただけでもユミルは良く出来た子供である。
そんな中、半人前程度の実力が付けばすぐにでも仕事相手に引き合わされたのだから心の整理も何もかも中途半端だった。
そして顔合わせの時。
自分の仕える相手を見たユミルの心に浮かんだのは困惑と焦りだった。
もう、不満は消えてしまっていた。
シルフィは自分ではあまりわかってはいなかったが、たったの3歳の幼女であってもその容姿は抜きん出ていた。
銀色の髪はサラサラで本人はまともに手入れをしていないが、モデルも顔負けの艶があった。
見方によっては太陽の光を反射して虹色に光り、見る人を非常に幻想的に魅せた。
身長は平均よりもやや低く、手足は細いがそこに病的な要素はなく、美しく、儚い印象を周りに与えた。
それは子供のぷっくりした身体付きではなく、既に少女のそれだった。
そして顔も、本人が意識してやっている部分もあるが軽く微笑んでおり、『小さな女神様』と侍女達に呼ばれる程整っていた。
翡翠色の瞳も宝石のように綺麗であり魅了の魔眼の如く、目線を惹きつけたいと皆が思った。
既にそれは3歳の幼女の範疇から逸脱していた。
ユミルは困惑した。
お貴族様なのだから華やかで美男美女ばかりの印象があったため、心の準備はしていた。
だが、想像していた以上にシルフィは幼いながらに美しかったのだ。
本人も容姿が多少整っていることは理解しているため、将来が楽しみだと思っていた。
これが幼馴染や、血の繋がらない妹だったら…と。
ちなみに周りからは将来は傾国の美女となるだろうと半ば確信めいた評価を受けていた。
ユミルは慄いた。自分がこの人の専属の侍女でいいんだろうか?と。
そこでユミルは視線を一瞬自分に移す。
外で遊ぶことも多かったため、多少日に焼けた肌がそこにはあった。傷の類はほぼ存在していないにしても目の前の少女よりも気持ち荒れている。
これはユミルの気持ちの問題で、気のせいの類であった。ひどい被害妄想だ。
そんな気持ちになったユミルは白く、シミやキズも無い肌に触れることが酷くイケナイことのように思えた。
緊張で頭が真っ白になり、練習していた台詞をちゃんと言えたのかすら自分ではわからなくなっていた。
ご領主様から言われたことも右から左で特に覚えていない。
そんな中いつの間にか近づいて来ていたシルフィが元気に挨拶してくる。
キャーアァァァ、カワァイイィィィ!
ユミルは内心大絶叫した。
テンパったユミルは無我夢中に挨拶したがそれは事務的だったのか、シルフィの顔には少し影が刺す。
ユミルは失敗した!と内心焦るがもう仕方ない。どこかで取り返すしかなかった。
頑張らないと!ユミルはふんすっと内心気合を入れた。
それからおよそ半年が経った。
シルフィは屋敷のテラスから心配そうに訓練場を見ていた。
「はぁっ!たっ!やー!」
視線の先には気合の入った声で訓練用の木剣を振り騎士達に混ざって模擬戦をしている少女、ユミルが居た。
そして何合か打ち合った後、ユミルは剣を弾かれてしまう。
それをトボトボ拾いながら今度は負けたペナルティで素振りを始める。
するとどうだろう、振っていた剣がすっこ抜けてまた飛んでいってしまった。
それを見て、他の騎士から注意を受けて意気消沈気味に素振りを再開するユミル。
それはここ最近、よく見るようになった光景だった。
最近、ミスが目立つようになったのだ。
シルフィはその原因……いや、キッカケを思い出す。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
パリーン
それはユミルがシルフィの愛用するカップを落とした音だった。
だが、シルフィは大して気にしていなかった。誰でもミスはあるし、子供であればその数も増えてしまう。責める気など彼女にはなかった。
シルフィも片付けようとして割ったことあったし…。
愛用とは言ってもゴテゴテした装飾のある食器の嫌いなシルフィが選んでいるシンプルなデザインの物で他にもいくつもあった。
それでも、つい声は漏れてしまう。身体に精神が引っ張られているシルフィは感情のコントロールが上手くいかないのだ。
「あぁ…」
その声は無意識だった。
ただ、それが聞こえてしまったユミルは泣きそうな顔をした。
慌ててフォローして気にしていないことを伝えてその時は事なきを得た。
割ったカップの価値にユミルはどちらにしろ泣きそうになっていたが。
それから数日が経った。
「あっ…」
ガシャンッ!
今度は皿を割った。
その時もシルフィは特に咎めなかった。むしろ割った破片で怪我をしていないか心配したほどだった。
処理した後、シルフィはセシルにとあることを相談した。
「セシル?ユミル、最近元気ないね?」
「そう…でしょうか…」
「いや、そこは親なんだから僕よりも先に気づいてよ…」
「申し訳ありません」
セシルは時々ドジをするが、それ以外は有能な侍女だった。多少、私生活や家族を疎かにはしていたが。
有能とは一体…。それでもセシルが優秀なのは事実だった。
ミスが目立ち、ぼーっとする時間が増えた。いつも不安そうな顔をしてシルフィやセシルの言動に酷く気を遣っている様子だった。
ユミルは多忙だ。
朝、シルフィが起きるより早く起きて朝食を食べると寝起きのシルフィの着替えの手伝い、そのままシルフィの日課に付き合う。
シルフィが最近教わるようになった礼儀作法を練習する間に勉学に励む。
勉学はシルフィにも必要なことだったが、独学でほとんど学んでしまったため家庭教師が匙を投げた。
教えることねぇじゃんか…と。
それも終われば戦闘訓練になる。昼頃になるとシルフィはお昼寝をしたり日向ぼっこに勤しむためだ。
夜はシルフィのお風呂に着替え、食事をしたら寝るまでの間の見張りだ。
シルフィが寝てしまえばユミルも就寝する。そしてまたシルフィよりも早く起きる。
その繰り返しだった。
ユミルは疲れている。
それがシルフィの判断だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「行こう」
お茶を飲み終えたシルフィは席を立つ。
ポケットにはハンカチに包んだクッキーを忍ばせ、セシルに用意してもらったレモン擬水を持つ。
勿論、向かった先はユミルの所だ。休憩時間になるのを見計らっていたので。
「ユミル?」
訓練場の隅で小さくなっているユミルに声をかけるとすぐに彼女は顔を上げた。
「シルフィ様⁈どうしてこんなところに」
「はい!」
シルフィはそんな疑問には答えずにレモン水とタオルを渡す。
「え?…えっと、ありがとう、ございます」
ユミルは水を飲んでタオルで汗を拭くと小さく微笑んだ。
「ありがとうございますシルフィ様。ですが、何故こんな場所へ?それに…」
そう言いながらユミルは渡された物へ視線を向けた。
「んー、僕がしたいと思ったから、やっただけだよ?ダメだった?」
「い、いえ!大変嬉しいです!ありがとうございます!」
「そかそか、よかった」
少なくとも表面上、ユミルの調子が少しよくなったことを確認するとシルフィは安堵した。そのままユミルの横に腰掛ける。
「ユミル、楽しい?」
最近、シルフィはユミルの笑顔を見ていなかった。だからこそその言葉が一番に出た。最近、何も楽しくないの?と。辛いだけ?と。
その言葉にユミルはシルフィの顔を凝視した。
そしてハッとすると、すぐ顔を晒す。
その態度が全てを物語っていた。
「ユミル、こっちおいで」
シルフィは自分の膝をぽんぽん叩いてユミルを呼んだ。
「え?ですが…」
「いいからいいから」
渋るユミルにシルフィは少し強引に彼女を引き寄せ頭を抱き寄せる。そのまま膝枕した。
「えっ、えとっ!膝が!あの!汚れますから!」
急な展開についていけずにオロオロするユミルにシルフィは優しく頭をヨシヨシしながら微笑む。
「あっ」
ユミルはそんな言葉を最後に大人しくなる。
「ユミルは偉いね」
ぽつりとシルフィが言葉を漏らす。
「いえ、私はまだまだです。ミスをよくするし、成長だって遅いです、シルフィ様を守らなくてはいけないのに」
「んー、ユミルは頑張ってると思うけどね。はい、あーん」
シルフィはポケットから用意しておいたクッキーを取り出すとユミルの口へと運ぶ。頭を固定されているユミルはされるがままにクッキーを頬張った。
しばらく頭を撫でる微かな音と息遣いだけが辺りを包む。
「シルフィ様は…何故、私のような者にも優しいんですか?」
ユミルは不安げに瞳を揺らしながらシルフィを見る。
それにシルフィは苦笑いした。
「別に僕は優しくなんてないんだけどね?僕は自分のために行動してるし、それにユミル達を付き合わせてるくらいなんだけど」
「そんなことないです。お気に入りのカップを割りました。勉学だって遠く及びません。シルフィ様のように小さくて可愛くもありません」
そんな言葉にシルフィの目尻がピクリと動く。小さいと可愛いはシルフィにはあまり嬉しい言葉ではなかった。
特に小さい。コンプレスだった。だって男の子だもの(心は)。
「そんなことないよ、ユミルだって可愛いと思うよ?」
実際、ユミルは絶世の美少女とまでは言わなくとも、巷の看板娘程度には可愛かった。
よくわからない?だいたいのニュアンスが伝わればそれでいい。
顔を覗き込んでそんなことを言うシルフィにユミルは顔を真っ赤にさせる。
「いっいえ!そんなことは…。あっ、いや!そんな!否定するわけではなくてですね、やはりシルフィ様のように聡明でもなんでもないわけで!」
そんなアタフタしだしたユミルの頭をやんわり抑えながらシルフィはゆっくり語りかける。
「僕は、ユミルが思ってるほど良い子でも聡明でもないさ。こうやってユミルが辛そうにしてたのに今の今まで何もして来なかったんだよ?
それに、こうやってお話ししてわかるよ。ユミル、君は良い子さ、僕なんかよりずっと頑張ってるよ。僕はちょっとばかりユミルよりも地頭がよくて、出来る時間が豊富なだけだよ。
僕だったらきっと逃げ出してるんじゃないかな。だから、そんなに自分を卑下しないでよ。辛いなら辛いって言えばいいんだよ。休みたいなら休んでも良いんだよ」
シルフィは頭を撫でながら語りかけ続けた。どれだけユミルが頑張っているか、そんな彼女を自分がどれだけ尊敬しているか。
ユミルはただ黙ってそんな言葉を聞いていた。
「私は、ちゃんとできていますか?」
ユミルが小さく呟いた。
「うん、ちゃんとできてるよ。少しくらい失敗してもいいんだよ」
「私は辛いと思っていいんですか?」
ユミルはどこか縋るようにシルフィの顔を見た。
「辛いものは辛いんだから仕方ないよ。それでも逃げない君は偉いさ」
「私は甘えてもいいんですか?少しくらい、休みたいって思っても?」
「そんな君のことを否定するなら、僕はそんな人を否定しよう。君は、ちゃんと頑張ってるよ」
震える手がシルフィの顔に伸びる。
そんな手にシルフィは愛おしそうに頬を寄せた。
どこからともなく嗚咽が漏れる。
泣き声が聞こえてくる。
シルフィは黙って頭を撫で続けた。
それから寝息が聞こえてきてもシルフィはその場から動かずに頭を撫で続けた。
その日、ユミルは訓練を免除された。
そしてその日以来、ユミルの訓練メニューは少しゆとりのある物に変わっていった。
みなさん、何かしら感想とか書いてくれていいんですよ…_:(´ཀ`」 ∠):