貸与
「キビキビ動け!手なんて抜けば死ぬだけだぞ!休めるやつは休め!働けるやつは働け!」
傭へ…騎士団の人達は慌ただしく現場の整理をしている。もうすぐ敵の首魁らしい魔獣達が到達するのだ周りが散らかっていればそれがどう影響するかわからない。
下手にその場から離れた位置に陣取って魔獣達が死体を食い荒らさない保証もないのだ、邪魔にならないように多少処理するしかない。魔獣の死体ならまだしも騎士達の遺体が食べられるのなんて誰もみたくないだろう。
そして僕ら冒険者達は一箇所に集まりあることで話し合っていた。こちらはこちらで少し…いや、それなりに大きな問題に直面していた。
え?騎士団の手伝いをしないのかって?僕らはこの部隊でも特に戦闘力が高いメンバーだから休むように言われてるんだよ。周りの整理してて大事なときに疲れてましたとか笑えないしね。
「さて、どうしたもんか…誰か予備持ってねぇのか?」
「いや、荷物になるから必要な物しか持ってきてないに決まってるじゃない…あぁ、撃ち過ぎて残りの本数が…。」
「あーあ、これ結構気に入ってたんだけどなぁ…。」
「無念…。」
「私は別に大丈夫だけど残りの魔力が少し心許ないわねぇ…。」
僕らが直面する問題。それは武装のことだった。武装がどうしたって?損耗し過ぎて使い物にならなくなった武器が出てきたのだ。
「武器のメンテとかちゃんとやってたの?ここまでボロボロのよく使ってたね?」
本当にボロボロになった彼らの武器はいつ壊れてもおかしくない程だった。特にお兄さんの大剣は何箇所もヒビが入っていて振りぬいたら刀身が割れて飛んできそうで怖い。
他にも獣人の青年の短剣は刃先がほぼなくなっているし槍使いのおじさまの槍も凹んでおりまともに使えなくなっていた。
「いや、ちゃんとメンテはしてたぞ?今日の戦いでキングとやりあったのが悪かったんだ。何度か盾代わりに使っちまってなぁ。あーあ、結構気に入ってたが流石に寿命だったか。」
お兄さん達が使っている武器どれもミスリルが使われているかなり業物の武器だったが三年前にも持っていた物で僕らに会うよりも前から使われていたらしい。
武器は消耗品、既に替え時だったらしいがスタンピードに参加するのに防具の新調を優先したらしく今回の報酬で新しく武器も整える予定だったらしい。それに大規模な戦いで使い慣れていない武器で戦うのは少し不安がある。満場一致だったらしいがここに来て嫌なトラブルが発生した。
「その辺の魔物が使ってた武器でも探すか?中には多少良い奴も混じってるだろうが、今から探して手に馴染むやつが見つかるか…?それ以前にキングより強いやつと戦うなら魔剣クラスのでもないと不味いよなぁ…。」
お兄さん達はうんうん唸りながらどうしようか悩んでいる。まぁ、魔獣達もそれなりの武器を持っていたやつは居たがロード相手にちゃんと通用するか聞かれれば不安、だろう。
「魔剣なんて魔獣が持ってるわけないじゃん…。それに短剣の魔剣なんてほとんど出回ってないってのに…。」
獣人の青年は頭抱えてしまっている。ついさっきまで戦おう!と意気込んでいたのがまるで嘘のようだ。
(いや、あえてあんな風に意気込んで見せて騎士達が不安に思わないようにしたんだろうな…。)
ついでに短剣系の魔剣は確かに少なかったりする、サブウエポン扱いのため需要が少ないのだ。ダンジョンドロップも普通の剣の方が多いしね。
「それより私の矢もどうにかしたいんだけど?あいつら使ってるの長弓だから私の短弓だと矢が使い辛いのよ。あんたらなら最悪素手で戦えるでしょ?」
エルフの少女は矢筒を持ち出してくるが確かに矢はほとんど入っていない。魔獣達は長弓を使っているため短弓で使う矢よりも長い物しかないのだ。騎士団も長弓を採用しているため短弓用の矢がエルフの少女には調達出来ない。
「いや、流石に俺でもロード相手に素手は無理だぜ?どうしてもやるならせめてナックルが必要だろ。」
「いや流石に冗談に決まってるじゃない。」
「そうだぜリーダー!真に受けんなよ!」
「今のはどう考えても冗談ね。」
「アホ。」
「お前ら言いたい放題だな⁈」
この人達には漫才の才能があるのかもしれない。
「ねぇ、武器があれば戦える?」
彼らの漫談は見ていて面白いが真面目な話の最中なんだから今はやめてもらいたい…。それをぶった切って話しかけるこちらの身にもなって欲しい。
「あぁ?そうだなぁ、せめて俺らが使ってたの同じレベルのがあるなら戦えるだろうな?それ以外だと少し難しいかもしれないがな…。なんだ?予備でもあんのか?」
「あるにはあるね。でもあげないからね?貸すだけだからね?結構高いんだから。」
僕は渋々ながらマジックバックを漁りいくつかの武器を取り出す。
「お兄さんは大剣じゃなくても長剣なら使える?」
「あぁ、元々は普通の剣使ってたからな、使えるぜ?どちらかと言えば大剣の方がしっくりくるけどな。」
僕はバックから取り出した魔攻のロングソードをお兄さんに渡す。
「これは魔攻のロングソードだよ、一応魔剣の一種だからお兄さん達が言ってた最低限はどうにかクリア出来るかな?お兄さんは魔法も使えるって言うしそれがあれ、てちょっと!」
お兄さんは剣を受け取ると、というかぶん取ると何度か素振りをしたり構えてみたりと動かすとこちらを振り返る。
「なかなか良いなこれ!大剣じゃねぇから少し勝手が違うが魔剣なら言うことなしだ!」
お兄さんは目を輝かせており財宝見つけた少年のようなはしゃぎっぷりだ。それにしても彼ら程の腕前なら魔剣を買う程度の収入はあると思うんだが…。
「ほら、そうやってはしゃぐのは良いけど壊したり無くしたり盗んだりしないようにね。あんた食費にほとんど金使っちゃうんだか弁償とか出来ないわよ?」
「わかってるよ、お前は俺のかーちゃんか?」
ローブのお姉さんが注意するとお兄さんは渋々剣をしまって腰にさす。
(それにしても報酬のほとんど食費ってどんたけ良い物食べてるんだろ…。)
「サンキューなこれで俺はなんとか戦えると思う、なんとかこれでロードを抑えられるといいんだが…。
」
どうやらお兄さんはこれでお終いだと思っているようだ。確かに魔剣はそれなりに値段が高い、僕だってそう多くを保有しているわけじゃないがこれだけではない。
「あ、獣人の兄さんにはこれね。」
僕は腰にさしていた硬魔剣を渡す。
「お?ありがと…てこれも魔剣…?何本持ってんだよ…。」
「それは硬魔剣って言ってね、あんまり切れ味は良くないけど耐久力は折り紙付きだから。」
「おう、俺はアタッカーなわけじゃないからな、そこまで気にしなくていいよ。恩に着る。」
獣人の青年も硬魔剣を弄びながら具合を確かめ、嬉しそうに耳をピコピコさせている。
「それに槍のおじさまにはこれだ。」
続いて渡したのは僕の槍の予備だ。空間短槍とは違うが聖槍という大仰な名前が付いているが光属性の魔法の効力を上げる能力のある魔槍だ。
「大事に使わせてもらう。」
おじさまは今までで一番長く話した。これで一番なんだから普段無口過ぎる。どことなく嬉しそうな雰囲気があるしきっと口下手なんだろう。
「後衛の人達にはこれだ。」
そして最後にエルフの少女とローブのお姉さんに渡すのはマジックアクセサリーだ。勿論これも貸すだけだ。そのまま購入してもらっても構わないが。
渡したのは魔法攻撃を強化する指輪やネックレスだ。エルフの少女には「エアロブースト」と言われる物質を加速させる魔法を発動出来る腕輪を渡した。実は指輪型のもあるが渡すと何か面倒くさそうな予感がしたためこちらを選んだ。
「あら綺麗ありがとう。それに魔法の力も感じる…魔力強化の効果かしら?」
「うん正解!力作だから使ってみてね!欲しいなら売ってあげてもいいよ?」
僕がローブのお姉さんに声をかけると
「すっごく良いわね!これは買いよ、買い!シルフィちゃんこんなの作れるの⁈魔力だけじゃないのね!凄いわ!これならむしろ私が養われる側かしら⁈ベットでお待ちしてたらいいのかしら⁈」
エルフの少女は僕の貸したアクセサリーをみて大興奮している。
「それにこれって王都でも最近流行り出したアクセサリーよね⁈シルフィちゃんが作ってたなんて!これもきっと神様のお導きってやつね!やっぱり結婚しましょう?愛妾とかでも気にしないわよ!エルフは性にも種族にも立場にも寛容だから!」
「いや、もう相手はもう考えてるから勘弁してよ…。ごめんなさい。」
「あら?振られちゃった!でも一回位じゃめげないからね!エルフは狙った獲物は逃さない者よ!」
エルフの少女は僕に嫌がられても全く堪えた様子がない。美少女だしもしユミルが居なければ誘いに乗ったかもしれないがブリザードのような冷たい視線を向けられているため拒否するしかない。ユミルさんマジ怖い…。
「お前さんなんでこんなに持ってんだよ…助かるからいいんだけどよ…。とりあえずこれで俺達は戦えるよ、ありがとうな。」
お兄さんはそう言ってヒーローでも見るような目で見てくる。
「僕も役に立てて嬉しいよ?でもあくまで貸すだけだからね?ちゃんと返してね?」
「わかってるよ!この戦いが終わったらむしろ利子つけて返してやるよ!」
「利子ってなにさ。」
「………なんか考えとく!」
最後は少し締まらなかったがこれで僕らの戦う準備は完了した。エルフの少女の矢は無理矢理長弓用の物を短くして代用した。
僕らの装備の貸し出しから少し経つと地平線の彼方から土煙を上げながら迫ってくる軍勢を発見した。
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