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シルフィの転落事件からおよそ1年が過ぎた。
あの日からしばらく間、シルフィはセシルにくっついて行動していたがシルフィ父からの嫌がらせや排除しようという動きは結局みられなかった。
それどころか、口をきいてもらえないことが余程効いたのか本人直々に謝罪すら行われた。
対外的に見るのなら彼に謝る要素は存在していないのだが、仲直りのためならば頭を下げるくらい安いものだ、という判断だった。
勿論、見ていたのはシルフィと当事者のみであり、そんな醜態を他に晒すことはしなかった。
ちなみにシルフィは頭を下げる自分の父を見て非常に渋い顔をしていた。
娘と話したいがためにそこまでするか…と。
そんなそんなどうでもいいこともあった日々の中、シルフィの日課で行っていた勉強には進捗があった。
まず、文字の読み書きに関していえばほぼ、完了していた。
前世では、漢字だひらがな(特に漢字)だと覚える文字数が多かった。それこそ、徐々に難しい漢字など忘れていっている程だ。
それに対してこの国、この世界の文字はそこまで多くない。ほとんどひらがなで構成されているような状態で、余程専門的な意味を持つ文字でもない限りは読めるし意味もわかるようになっていた。
今では専門書でもない限り、セシルのサポートなしでも1人で読書ができる程だった。
ちなみに計算に関しては数字の形さえ覚えてしまえば方法は変わらなかったためすぐマスターできた。
今では四則演算もバッチリだ。
そして魔法の方は基礎は完了。身体強化をマスターして他の魔法を学ぶことを始めていた。
今ではまだ牽制程度の物だが攻撃するための魔法を取得できていた。
だが、そこから問題がで始めた。
シルフィ父だった。
身体強化なら反応しなかった彼が、本格的に攻撃魔法を覚えようとすると妨害を始めたのだ。勿論露骨な嫌がらせを行なっているわけではないがシルフィに教えているメンバーに苦言を呈するようになった。
やれ、それは必要なことなのか。
やれ、危なくないのか。
やれ、怪我しないか。
やれ、必要なくないか。
シルフィの適正属性は全属性。万能型とも器用貧乏とも呼ばれる適正内容だった。
適正属性は通常であれば無属性1つ、多くても2〜3種類しかない。それ以上はほとんど存在せず、一気に全属性までとぶ。
そのため稀ではあるが出現例が無いものではないので特に特別感はなかった。
はじめ喜んだシルフィは喜び損だった。
シュンである。
ちなみに魔力はこの世界の人は皆持っているが、大半の者は魔法が使えない。魔力はあってもそれを使いこなせないからだ。
シルフィのように練習すれば、簡単な魔法を使ったり魔道具に魔力を注ぐ程度なら10人に1人以上。
しかし、魔法使いとして攻撃や回復などちゃんとした魔法を使えるのは1000人に1〜2人程なんだそうな。
適正属性は多い程極めるまでの期間が長くなるため人一倍練習する必要がある。
そのため適正属性が多い方がいいのか少ない方がいいのかは判断が分かれていた。
そしてシルフィも全ての属性に適正があるかわりに、どの属性にも高い適正はなかった。極めようとすれば人一倍練習するしかないのだ。
そのため、この行動はシルフィにとっては非常に鬱陶しいものとなった。
魔法も反復練習。練度は使わなければ伸びないのだ。それを邪魔されれば不貞腐れてしまう。
結局シルフィ父はまた口をきいてもらえなくなった。
それにダメージを受けて塞ぎ込んでいる内にシレっと攻撃魔法を練習しているこの頃である。
ここは屋敷内にある執務室兼応接室。
広い部屋の中には、豪華ではあるがしっかりと実用的に作られた机と椅子。
応接用に執務用とは別の机やソファーなども置かれている。
そんな部屋には2人の人物がお茶を嗜んでいた。
銀髪に翡翠色の瞳をもつ幼女と金髪に碧眼を持つ齢20過ぎに見える優男。シルフィとシルフィ父だった。
ここには2人ともセシルから呼ばれて待機している状態だった。
シルフィだけならまだしもメイドに呼ばれて待たされる主人とはこれいかに。弱みでも握られているのかもしれない。
特に何も聞かされていないシルフィはしばらく前から何か知っているらしい様子のシルフィ父に質問を続けていたが
「すぐにわかるから」
と宥められるばかりで何も教えてもらえていなかった。
結局やることもないため足をぷらぷらしている。未だに低い椅子でも足が地面に届かないのだ。
シルフィは口をへのじに曲げた。そんな彼女はまだ3歳、当たり前だった。
そのまましばらく時間が過ぎると1人の人物が部屋へと入ってくる。セシルだ。
見た目はシルフィ父と同じ頃の20代半ば程。茶色の髪を背中で纏め、背筋をスッと伸ばしている。
見た目はまさに仕事のできるメイドさんだ。
残念ながら本性はドジっ子属性のあるメイドさんだ!
「お待たせして申し訳ありません、少々準備に手間取ってしまいましたが、無事整いました」
「いや、問題ないから頭をお上げ。指定された時刻よりも速いくらいさ」
セシルは入ってきたドアの前から動かず最初に謝罪をするが、時間的には指定された時間には早かった。
そんなセシルにシルフィ父が声をかける。
そしてシルフィはまた口をへのじに曲げた。
言いたいことを先に言われてしまったためだ。言うことなくなったのでただ見てるだけになる。
最近のシルフィはご機嫌斜めだった。
シルフィ父からの妨害にも慣れはじめ、いくつかの攻撃魔法を教わりはじめたものの、まだまだ完璧とは言い難い出来だった。
そのためシルフィは早く練習したかった。
元々それほど勉強熱心ではなかっただけに本人も何故そこまで焦っているのか疑問に思っていたりする。
今まで順調だっただけに躓いたのが気に食わなかったのだろう。成果が出ないのでどうにも達成感が湧かないのだ。
勿論それは贅沢と呼というものだ。他の者達からすればむしろでき過ぎなくらいだった。
「ありがとうございます。では、入ってきなさい!」
シルフィ父からの許しを得たセシルは顔を上げてドアの外へと呼びかける。
するとそこから1人の少女が顔を出した。その少女はどこかセシルに似ていた。
大きく愛らしい桃色の瞳は真面目にキリッと引き締められ、栗色の髪はポニーテールに纏められ背中へと流れている。
緊張した様子で白黒のメイド服に身を包む少女はまさにちびっ子メイドさんといった様子だった。
歳はシルフィよりも上だろう。7〜8歳といったところだろうか、彼女と比べるとかなり背が高い。
シルフィはキョトンとしながら少女を見る。
シルフィからすれば入って来た少女に侍女が務まるのか疑問だったからだ。良くて見習いといった程度だろう。
小首傾げていると少女は2人の前まで歩み出るとぺこりと頭を下げた。緊張のせいか顔を赤くしている。
「この子は私の娘であるユミルです。本日よりシルフィお嬢様専属の見習近衛侍女として働かさせていただきます」
「ユ、ユミルです!精一杯ご奉仕させていただきます!親子共々よろしくお願いします!」
ユミルは緊張気味に捲し立てるように挨拶した。
シルフィはご奉仕と言う少し卑猥な響きに一瞬思考を持っていかれる。だがすぐに振り払った。
目の前の少女の言葉でそんな思考になるとかどんだけ穢れてるんだよ、て話だ。侍女の制服を着ていたのがイケない。
それにしてもこの少女は近衛侍女になるらしい。それもシルフィ専属!
シルフィは非常にウキウキした。
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ここで近衛侍女についての説明をしておこう。
近衛侍女とは主人の側で侍女のフリしている護衛のような存在だ。
その上判別し辛いように訓練されており、平時は普通に侍女として活動している。
普通の侍女としてのスキルも完璧、有事の際に戦闘もこなせる。
まさにスーパーメイド。一部の男達の夢の存在。
『俺の最強のメイドさん!』というやつだった。
有事の際なんてこともなかったため、シルフィも最初は区別がつかなかった。
近衛侍女は服の装備品の中に武器を吊すベルトがあり長物は無理だが短剣やショートメイスのような物をスカートの内側に隠している。
チラッと見たことのあるシルフィは見たときはビックリしたものである。ちなみにセシル以外きも何名か見たこともある。
何故スカートの内側にあるのを見たことがあるのかは言えば、色々あるのだ!
決して覗こうとしたのではない!見えてしまっただけなのだ!
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シルフィ父は一言二言ユミルに声をかけるが、残念ながら本人はガチガチ、てんぱって上手く言葉を返せていなかった。
ただ可哀想な程アワアワしている。
そんなユミルをセシルは仕方なさそうに見ていた。そんな調子ではこの先やってられないため慣れて欲しかったのだろう。
そこに寄ってくる幼女が1人。シルフィだ。
テクテク近づいていくとシルフィ父と話していたユミルが気づく。
「ユミル!これからよろしくね!僕シルフィ!」
にぱっ!と笑いながら2人の会話をぶった斬るようにシルフィが元気よく挨拶する。
口調は完全に気を抜いている時の話し方だ。何故なら半ばヤケだった。
さっきから挨拶含めて一切話せていなかったので。
彼女は僕の専属だぞ!と意思表示だった。ついでにシルフィ父相手は辛そうだったので。
そんなシルフィに困惑気味のユミルはおずおず挨拶。
「よ、よろしくお願いします。まだ訓練があるのでずっとは共にいられませんが、精一杯やらせていただきます。シルフィ様」
そんな言葉にシルフィは少し距離を感じた。彼女はもっとユミルとお近づきになりたかった。
深い意味はない。ないったらない。
シルフィはイマイチこの世界の子供との付き合い方がわからない。第一印象からだと元気な挨拶をしたが効果はなかったようだ。
シルフィは少しショボンとした。
その後シルフィ父は退室。
彼はユミルとの顔合わせと正式採用の了解のために来ていた。用が済んだらはい、さよなら。だ。あれでわりと忙しいのだ。
「ユミルは侍女としての訓練は積んでいますので残りの近衛としての訓練があります。この子は光属性に適正があるので有事の際にもお役に立てるかと」
「へー?」
改めて、シルフィ父が居なくなると互いに顔合わせをする。
改めてユミルを見ると既にキリッとした目は優しげな物に変わっている。邪魔者が居なくなって少し落ち着いたようだ。
「ユミル、今何歳?」
「へ?はい!今は8歳になりました!」
急な質問に一拍遅れるも元気に答えた。調子が徐々に戻ってきたらしい。
シルフィがじっと見ると少し日に焼けた肌をまた赤くして視線は大航海へと出かけてしまう。
忙しなくあっちへざっぱん、こっちへざっぱん。今にも沈んでしまいそう。
そんな様子に可笑しそうに微笑みながら、2人は自己紹介を進めていった。
時々補足を入れるセシルは転落事件のことが尾を引いているのか特に光魔法を推し始める。光属性は回復、支援に強いため護衛としても有用な能力でもあった。
勿論、シルフィもそれを気にして身体強化を発動させても派手に動かないようにはしていた。
主にどこかの戦闘民族の如く、強化状態を維持して日常生活を送っていた。制御力を底上げしていたのだ。
時々ティーカップや本がご臨終するので結構必死に制御していたりする。この世界の食器や本はめちゃめちゃ高いのだ。
壊す度に涙目になっていた。
特にドアノブなどは壊すと扉を破壊する必要が出てくるのでセシルの協力が不可欠だった。
それでもシルフィは訓練はやめない。
これをやっていないと魔力を減らせないからだ。
魔力は日々使い続けることで少しずつ増える。目に見えて増えてはいかないが何日も何週間も使い続けることで体感できる程度には増加していた。
そして強化を終えると入念に運動する。魔力も大事だがやはり健康も大事だった。
「んーしばらくは切って生活した方がいいかな?あんまり上がらなくなってきたし」
「そうですねユミルが驚きますし、しばらくは普通にしていただければ」
そんな2人の会話にユミルはオロオロした。会話に入っていけなかったからだ。
とりあえず、魔術の練習は中止にしてユミルとの距離を縮めるのに時間を使うことにした。
シルフィはユミルと仲良くなりたかった。
何故なら彼女はシルフィの結婚回避のための協力者になってくれるかもしれないからだ。
これがシルフィと一生を歩むパートナーとなる少女との出会だった。