3-1『Emergencia』
そして数日経った日、忌まわしい声と共にまたあの男が来た。
「今日も来てやったぞ...おぉ?」
アレハンドロが部屋に入って来るなり少女は彼に掴みかかる。
「何だ?待ち切れなかったか?」
「...ッ!何で...何でお父様を殺したの...!」
「...テレビか、早いな。...そうだ、脱走しようとしてたから殺した。適当に痛め付けてバラして吊るした。これでいいか?ん?」
飛び掛りそうな勢いの少女を押さえ付け、アレハンドロは彼女をベッドに押し倒す。何度こうやって組み伏せられたか。少女は抵抗するがビクともしない。
「そうカッカすんなよ。今日はちょっとしたゲームを用意してるんだ。」
「ゲ、ゲーム?」
「ああ。きっと楽しめるぜ?なんせ、俺も初めてやる事だからなあ。オラ、行くぞっ!」
「いっ!離して!」
アレハンドロは少女の腕を掴み、強引に歩かせる。連れて行かれた先は屋敷の敷地内の庭だった。
そこには大きい窪みがあり、土と小さい川があり、流木や樹木もあった。どうやらアマゾンの川を再現している様だった。
そして、小さなアマゾンには大きいワニ、それも体長4メートルのクロカイマンが2匹居た。
「ひっ...!」
「そう怯えんなよ。...オイ!兄貴の方を落とせ!」
「兄貴...まさか!?」
アレハンドロが指示を出すと、屋敷から男達に取り押さえられたユービクが姿を現した。
「お兄様っ!お兄様っ!」
「...生きてたのか!良かった!...腕の傷は...コイツらにやられたのか!?クソっ!」
「黙れガキ!」
「うぐぅっ!」
「お兄様!」
ユービクの抵抗も虚しく、暴れた彼の腹部に取り押さえていた男の膝が刺さる。
「た、頼む!妹だけは解放してくれ!俺はどうなってもいい!!」
両手を後ろで縛られていたユービクは抑えていた男の手を振り解き、アレハンドロに向かって、床に頭を擦り付けて懇願する。
「大丈夫、お前の頑張り次第でどっちも解放してやるよ。...もちろん、母ちゃんの方もな。」
「ほ、本当か!?何をすればいい!?」
「そこの池にワニが居るだろ?それを倒せば、解放してやる...。」
「そんなの...。」
『無理だ。』そう思った。
兄は魔法と剣の腕は優秀だったが、あの巨大な怪物を相手にして勝てるとは思えない。
そうだとしても選ぶ道は他に無い。
「...分かった。やってやるさ。✕✕✕、待ってろ、直ぐに終わらせて、皆で帰ろう。」
「そう来なくっちゃなあ!...オイ!」
アレハンドロの声を聞いた部下は頷き、ユービクの手錠を外してワニの居る池に彼を降ろす。
「オイ、剣を持たせてやれ。」
「ハイ、ボス。」
指示を受けた男は、用意していた安物の長剣を池に投げ落とす。
「それを使え!さあ、ゲームの始まりだぞ〜!」
「お兄様...。」
「やってやる...。うおおおお!!」
ユービクが剣を持って走り出し、それとほぼ同時にワニが獲物を視認して移動を開始する。
「いやああああッ!!」
果敢に切り掛るも、安物の長剣は鱗を少し傷付けたのみに留まり、逆に鱗と肉に刀身が食い込み、引き抜こうとした隙に弾き飛ばされてしまう。
「あぐっ...!くっそぉ...。」
剣を杖のようにして必死に立ち上がるユービク。エルフは元々身体能力は高くは無い。弓と魔法での中〜遠距離戦、森の中でのゲリラ戦等を得意とする種族。
異世界での魔物にも引けを取らない大型のクロカイマンが相手では、エルフの子供等は餌も同然だった。
「くそぉ!おらあああ!」
それでもユービクは敢然と立ち向かう。必死に剣で切りつけるが、ワニも狩られまいと抵抗する為どれも致命傷にはならなかった。
膠着状態だったその時、ユービクは状況を打開するべく動く。
「ここなら...通るだろっ!」
噛み砕こうとする口を避け、肉薄しワニの左の瞼ごと眼球を剣で切り裂く。
ワニは悶え苦しみ、痛みでのたうち回る。
「うおぉおぁぁぁぁ!!」
次にワニの頭を踏み付け、右目に剣を突き刺す。暴れるワニにしがみつき、火事場の馬鹿力で剣を更に深く突き刺す。
刀身の根元まで刺さった所で、脳を損傷したワニは糸が切れたように動かなかなった。
「やったっ!俺はやったんだぁ!!」
ユービクは見守る妹に向かってブイサインをして勝利を噛み締める。妹顔も綻んでおり、目には嬉し涙も浮かんでいた。
だが、妹の顔が急に訴えかけるような何かに変わる。必死に叫んでいるが、極度の緊張感から解放された反動と、妹のいる場所と離れているせいで聞こえない。
動かしている口の動きから読み取ろうとする。
「何...?う...し...ろ...?」
その時、後ろに流れていた小川から別のワニが口を開けて飛び出して来る。反応は出来たが動けず、腕に噛み付かれ川に引きずり込まれる。
「うわははははは!1匹だけとは言ってねえよ!」
「お兄様ぁ!いやっ!離してよ!お兄様が!お兄様が!!」
「お前のせいでアイツは死んだ。しっかり見ろ。お前の罪をな...。」
アレハンドロは少女の髪を掴み、喰われて行く兄の惨状を見せ付ける。
「あぁ...ああぁ...。」
少女はもはや叫ぶ事も言葉を発する事も出来ず、ただ涙を流しながら、沈んでいく兄を見ている事しか出来なかった。
☆
父の死を知り、兄も殺されたその日以来、少女の感情の起伏は死に、食事もろくに取らず死んだ魚の様になっていた。
体もナイフによる傷まみれになっており、新しい傷から古い傷まで、少女のきめ細やかな肌に歪な模様を作っていた。
もちろん少女の泣き叫ぶ姿の見たいアレハンドロにとって、この状態は面白いものでは無かった。
「オイ、なんか喋ってみろよ。オイ!」
「...。」
「チッ、人形とヤッても何も面白かねえ...そうだ。」
何かを思い付いたアレハンドロはスマートフォンを取り出し、誰かに電話をかける。
「俺だ。あのビデオ、今から撮るぞ。連絡して先に金だけ振り込ませろ。...確認出来たら電話寄越せ。」
電話を切ると、ニヤリとした笑いを含んだ顔で✕✕✕の耳元で囁く。
「母ちゃんに会わせてやる。」
「...本当?」
「あぁ本当だとも。良い子にしていれば何も無い。だが...もし暴れたりしたら...母ちゃんの方から殺す。いいな?」
「わ、分かった!分かったから、お母様を殺さないで!お願い!私は...私はどうなってもいいから...殺さないで...お願い...!」
アレハンドロは縋り付くように懇願する少女を見下ろして少しの間眺めた後、腕を掴み何処かへ連れて行く。
「あっ...!」
「...さて。ついて来い。」
アレハンドロは一度スマートフォンを見て部下からのメッセージを確認し、✕✕✕の手を掴み別室に移動する。
移動した部屋は少女のいた部屋と同じ構造だった。そして、その部屋のバスルームに入ると
「✕✕✕!良かった...生きてたのね...!」
「お母様!」
母のマイラは3人の男に取り押さえられていた。動こうとすると彼女を抑える腕に力が籠るが、マイラは✕✕✕の生存に心の底から安堵していた。
「そんなになって...。貴方達ッ!私はどうなっても良いから娘を解放して!こんな事、許されるはずが無いでしょう!」
「ハハハッ!今更そんな事知るかよ。アンタにはこれからスナッフビデオの主演女優になって貰うんだからよ...出演料は1000万ドルだ!!笑いが止まらねぇよ!女を犯して殺すのを撮るだけで1000万ドルだ!!やっぱりエルフはいい金蔓になるよなぁ!...あ?」
アレハンドロは気分良さげにベラベラと喋るが、一通り喋った所で✕✕✕とマイラの視線に気付く。
「殺すって!?殺すってどういう事!お母様をどうするつもりなの!!」
「チッ、面倒くせえ。やれ。」
「若はヤらないんですか?」
「ババアは趣味じゃねえ。さっさと済ませろ。」
「分かりました。オイ!」
男はカメラを起動し、マイラを取り押さえていた男に指示を出す。男は注射器を取り出し、マイラの腕に刺し内容液を注入する。
「あぁっ...何、これ...!?体が熱い...くらくらして...う、ううぅぅぅ!!」
マイラは悶え始め、熱い吐息を漏らしながら自分の肩を抱いて崩れる。
男達はマイラを立ち上がらせて服を剥ぎ、3人で彼女を陵辱し始める。
「やめて!離して!お母様を殺さないで!」
「ほらァ、愛するお母様が死んじまうぞ〜!!ヒャッハハ!!」
「やめてよぉ!!やめて!...このっ、離して!!うぐっ!?あ、が...!」
「ヘッ。...お前ら、次だ!」
手足を激しく動かして抵抗するも、アレハンドロの拘束は解けず、ヘッドロックをされて惨状を見せ付けられる。
マイラへの陵辱は終わったが、既に満身創痍だった。そんな状態でも、マイラは娘へ必死に手を伸ばす。
「ゴホッ...ハァ...貴女は生きて...お願い...。」
「お母様ぁ...こんなの、駄目だよ...。」
「愛して...るっ」
✕✕✕も母の手を取ろうとするが、マイラは男達に担がれ、浴槽に投げ込まれる。浴槽に入っていたのは水では無く濃硫酸だった。
濃硫酸は容赦無くマイラの体を溶かして行く。浴槽から出ようともがく彼女を、男の1人が銃のストックで殴り脱出を妨害する。
「うああああああああああ!!やめて!!やめてよ!!お願いだからぁ!!」
「アッハハハハハッッッ!その顔が見たかったんだよ!」
「ぅぅぅ...!!殺してやる!殺してやるッ!!お前だけはッ!お前だけはァァァァ!!」
「やってみろよ、あ?...終わらせろ。」
「はい!」
アレハンドロの言う事を汲み取ったカメラの男は、銃を持つ男に視線で指示を出す。指示を受けた男はアサルトライフルを構え、未だにもがいているマイラに向け、弾倉が空になるまで撃ち続ける。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
けたたましい銃声が止んだ後、浴槽からはもがく音も消え、聞こえるのは肉が溶けていく音だけだった。
「ぅ...ぁ...。」
「呆けてんな。お前にはまだやってもらう事があんだよ。来いッ!!」
アレハンドロは涙を流して座りこむ✕✕✕の腕を掴み、強引に部屋まで連れて行く。着いですぐ少女をベッドに放り投げる。
「お前...殺してやる...!!絶対に...ッ!」
「おお怖い怖い。さて...そろそろ、お薬の時間だぜ...。」
臀部のポケットに入れていたケースから赤黒い液体の入った注射器を取り出す。
「これはな、お前の世界に生えてる『マンドラゴラ』と『シヴル草根』ってのを入れた新しい薬でな。その試作品だ。」
マンドラゴラ...地球人類から見た異世界に存在する希少な植物。組み合わせ次第で万能薬に近くなるそれは、同時に強い幻覚作用と、大脳が損傷した場合のバックアップ部分を強制的に覚醒させる効果も持っていた。
そして、シヴル草の根はそれ自体の摂取は人体に影響は無いが、他の薬品と組み合わせる事で、その効果を増幅させる力がある。
「勿論、メタンフェタミンの効果も増幅される!快楽は今までの物とは比べ物にならない!スゲェだろ?」
「......私も殺すの?」
「まさか!成長の遅いエルフをそうそう手放す訳ないだろ?ヤクをキメてヤるのは最高だ...壊れちまうかもしれねえが、その時はその時ってな。」
「...いっそ...死んだ方が楽ね。」
「ハッ、言ってろ。腕出せ。」
アレハンドロは俯く✕✕✕の二の腕を強引に掴み寄せ注射針を腕に近付ける。✕✕✕の腕は恐怖で震えていたが、針が刺さる直前、アレハンドロの耳元に口を近付け、静かに妖しく、艶のある声でそっと囁く。
「...地獄に落ちろ、クソ野郎。」
「...イイね...やっぱりお前に目を付けておいて正解だった...。さあ、存分に狂ってくれ!!」
「っくッ...。」
針が刺さり、赤黒い液体が少女の体に侵入して行く。薬液は血管の中を駆け巡り、脳へと殺到する。
「ッギぃ...!ぁぁぁぁぁッ!うぅぅぅぅ...苦しぃ...ッ!アァアッ!ハァ ハァ...ウウッ!?」
「...?不味い...希釈し忘れか。ま、死ぬ時は剥製にでもっと...ん?親父の奴、間の悪い。」
ベッドの上でのたうち回る少女を見下ろしながら、スマートフォン上のメッセージを確認し、部屋の外の見張りに指示を出す。
「おい、俺は出る。1時間後位に様子を見て、死んでたら保存処理。生きてたらそのままで良い。いいな?」
「了解。」
扉が閉められたが、少女は依然として全身をムカデの様に走り回る激痛と、中枢神経に入り込んだメタンフェタミンとマンドラゴラによる幻覚の中に居た。
「ぐぎぃぃぃぃぃッ!あッ、がッ...あっ...!」
大脳は異常に活性化し、普段は感じる事の無いものも感じ取れる。電波、部屋の外の声や音、自分の中の魔力まで。
目の前で見えるはずの無い小さな星や大きな星が激しく点滅する。
更に飛躍し、脳のニューロン1つ1つまでも感じ取れる様になる。この激痛と嫌悪感、吐き気と憎悪さえ無ければ、アレハンドロの考え通りこの薬で少女はオーガズムを迎えていただろう。
だが、ただでさえ劇薬と言って差し支えないマンドラゴラとメタンフェタミンによる大脳への刺激を、シヴル草の根が何倍にも増幅していた。
脳全体に流れ込むありとあらゆる信号の津波に、脳のリミッターは外れ、身体能力は体の耐久性を無視して何倍も強化された。
未だ謎の多い『魔力』と呼ばれる生命エネルギーさえも、脳は使い方を完全に掌握した。
少女の体は更に激しく跳ねる。痛みの信号を出す神経回路はオーバーヒートを起こし、痛みがあるのか無いのか、少女自身にも分からない状態だった。
骨や筋力の強化には生命エネルギー、すなわち魔力を注ぎ込む。もはや改造人間と言っても過言では無い状態。
「ああああああああぁぁぁッ!!!ィッあっ、はひっ!っァ、っィ、あッあぁ...!」
脳からデタラメに送られていた激痛の信号が消えた矢先、今度は急激な身体強化による成長痛が押し寄せる。
長い時間をかけて成長するエルフの体。リミッターが外れているとは言え、何百年にも分散されるはずの成長痛は、絶叫が内側から消えるほどの物だった。
普通なら人格諸共、大脳辺縁系があらゆる信号で破壊され植物状態になっていてもおかしくは無かった。寧ろ、それが正常とさえ言える。
だが、少女は未だ生きており、驚くべき事に人格も保っていた。
「...ころしてやる...殺してやる...!殺す...ッ!!皆殺しにしてやる...!!あッ、ガァ...ハァ...ハァ...。」
少女は憎悪と決意だけで人格と理性を繋ぎ止めていた。その体は既に満身創痍と言っていい程に傷付いていた。余りの激痛と体の急激な変化に、体中にある塞がったはずの切り傷が開き血が滲んでいた。
「ハァ...ハァ...確か、見張りは...1時間位で、来るんだっけ...。今は...。」
先程までの地獄の罪人の様な叫びが嘘のような冷静さで、少女は現状把握とその打開の為に思考を巡らせる。
TVに映るニュース番組の時刻表を見ると、見張りが様子を見に来るまで後少しと言う所まで時間が迫っていた。
(チャンスはそこしか無い...。)
油断を誘う為、ベッドにうつ伏せになって気絶している様に装う。少しして、外側から鍵が開けられ、見張りの男が入って来た事を確認する。
男は銃を構えながらゆっくりと部屋に入り、ベッドで倒れている少女を視認した。
「死んだか?いや、脈を確認して医療キットに記録残さねえと...俺が殺されちまうな。えっと、キットは...。」
男がポケットやボディアーマーのポケットに視線を移した瞬間、飛び上がり男の首に跨る。
「なっ...。」
左手で包むように男の額を掴み、右手で顎を掴む。そのまま力を込めて捻り首を折る。絶命した男は静かにベッドに倒れ伏す。
罪悪感は思った程無かった。幼い時に父に弓を教えて貰い、それで動物を射殺した事があったなと思い出した程度だった。
「銃は、と。」
男の持っていたアサルトライフルと予備のマガジンを回収する。銃を手に取った時、使い方や構造等の情報が一瞬で脳に入って来る。
意識が飛びかけたが、なんとか抑えた時、ふと自分の服装がワンピースだけという事に気付く。
(一応着替えはあったと思うけど...アイツ、ズボンは着させなかったわね...呆れる。)
テーブルに置かれた下着を身に付け、クローゼットから取り出したソックスを履き、連れてこられた時のシューズに再び足を通す。男からボディアーマーを奪取し、それに拳銃とマガジンを雑に仕舞う。
「逃げるついでに一通り殺すか...。」
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