13-2
忙しくて更新が滞ってます......終わりまで行くつもりなのでもう少しお付き合い下さいな。
「ああクソッ‼︎ せっかく助かってもこのままじゃ死んじまう! 」
「静かにして下さい! うるさいと優先的に狙われますよ⁉︎ 」
シナトラが『荷物』を取りに行って後、ジョシューとフリード達は一時的に協力していた。
今はケリドウェンから放たれる弾丸をフリードが弾き、それがジョシューの近くに飛んで来るので絶賛叫んでいる最中である。
たまたま同じ障害物に隠れたアリスはジョシューの喚きに辟易していた。
「こんなんで静かにしてられるかよ‼︎ アンタ、アレは倒せないのか⁉︎ 」
「無理ですね! 私の防御力じゃ弾丸を防ぎ切れないし、そもそも関節部分以外は剣がほぼ通らないんです! 私より強いフリードが苦戦してるんですから、私に期待しないで! 」
「そ、そうなのか。なんかすまん」
自棄になったジョシューに対し、アリスも自棄で返す。予想外の素直な返しにジョシューは反射的に謝罪する。
「分かれば良いんです。取り敢えず、今はクイーンを待つしか無さそうです」
「クイーンの奴、秘密兵器が有るとか言ってたが、本当なのか? 」
「私は何も知りません......って、アレは、クイーン......? 」
アリスの視線の先は、フリードとケリドウェンが交戦中の場所に近いアパートの屋上に向いていた。
屋上には大きい槍のような物を持ったシナトラが佇んでいた。
そして
「んなっ⁉︎ お、落ちてどうするつもり......」
「ま、まさか......」
槍を下に向けて構え、シナトラはケリドウェンの直上から襲い掛かる。
槍はそのままケリドウェンに吸い込まれ......
『ぬぅわッ』
「防がれた! 後ろが見えているの? 」
ケリドウェンはその場で水平に180°半回転し、アームを乱雑に振り回し槍ごとシナトラを弾き飛ばした。
シナトラは空中で受け身を取り、猫の様に横転した車に着地する。
「フリード! 」
「分かっている。フッ‼︎ 」
フリードの突きはケリドウェンの胴体に当たるが、小さい傷が付いたのみだった。
『逃げるな‼︎ 』
機関砲から放たれる弾丸をフリードは数発剣で防ぎ、車で残りを凌ぎ建物の陰に退避する。
(何故あの時気付かれた......? ディエゴは戦闘に慣れているとは思えないし、機械を操っていて『気配』に気付けるとはとても......)
シナトラは先程の奇襲の失敗を思い出しながら、ケリドウェンのボディを観察する。
(あの時、かなり余裕で防がれた。となると、サブカメラが何処かにあるのね)
シナトラの予想は当たっており、ケリドウェンや後の強化外骨格と呼ばれる物には、背後からの攻撃を防ぐ為メインカメラとは別でサブカメラが搭載されていた。
だが、それが簡単にバレてしまっては製作者の意図にそぐわない。あらゆる戦場を想定していた兵器の為、サブカメラは巧妙に隠されていた。
「取り敢えず、それっぽいのを片っ端から撃つしかないか。アリス‼︎ 囮! 」
「ええっ⁉︎ わ、分かりましたけど! 」
アリスはフリードを追うケリドウェンの正面に立つ。
ケリドウェンはシナトラの居た方からゆっくりと振り返り、一歩踏み出しアリスの前に仁王立ちする。
「いや、やっぱり無理です無理! 大き過ぎっーーー......」
ケリドウェンが腕を振り上げたその時、甲高い金属音が鳴り響き、ケリドウェンは大きくタタラを踏む。
「えっ? 何が起こって......通信? 誰? 」
助かった事実に驚いたままその場で立っていると、アリスの耳に装備されていたイヤホンから声が聞こえる。
『アリス、待たせたな。だが、敵の目の前で棒立ちして良いと教えた覚えは無いぞ』
「師匠⁉︎ 何で......」
『狙撃ポイントを絞るのに手間取った。サブカメラは1つ潰した。そら、もう1つ......! 』
再び甲高い金属音が鳴り、ケリドウェンの装甲の一部が剥がれ、何かの部品が落下する。
(あの距離からサブカメラを器用に狙撃するなんて、なるほど、熟練の傭兵ってのは嘘じゃ無さそうね)
『ガウェイン』は400m以上離れたビルの一室から、正確にケリドウェンのカメラに銃弾を叩き込んだのだ。
「良くやった。そぉらッ‼︎ 」
背後からの攻撃を感知する術を失ったディエゴは、ケリドウェンの背部装甲にフリードの斬撃を真面に受けてしまう。
『ぐおっ! おのれッ......! 』
「そうそう、そう来なくっちゃな」
『......ッ! させるかッ‼︎ ......居ない⁉︎ ああっ! 』
フリードの方に向き直ったディエゴの目には、不敵な笑みを浮かべ、ケリドウェンの背後に目を遣る彼が映る。
慌てて機関砲を撃ちながら腕を振るうが、後ろには誰も居ない。何かに気付いたディエゴは空を見上げる。
「ハァイ、お元気? 」
『うっ......⁉︎ 』
飛び上がっていたシナトラは、落下エネルギーをそのまま槍に乗せ、ケリドウェンの上部からコックピット目掛けて突き刺す。
『ク、ソ......地獄に、落ちろ......‼︎ 』
「Adios......para siempre.(さようなら、永遠に)」
突き刺した槍の持ち手部分にあるスイッチを押す。
『何処から......間違えたんだ......何を』
ケリドウェンのコックピットは内側から爆散し、装甲や細かい部品が周囲に飛び散る。
ディエゴにトドメを刺し、戦場だった公道とその周辺は途端に静かになった。
だが、それも近付いて来るサイレンに掻き消される。
「それじゃ、撤収ね。ジョシュー、後は頼んだわ」
「えっ、いや、どうも出来んだろ、俺には......」
シナトラの合図を皮切りに、フリード達もその場から撤収する。残されたジョシューは、ケリドウェンの残骸を見て、報告書に書く言い訳を考えていた。
☆
「うわあ、こりゃ酷い。ミンチよりズタズタです。誰か分かりませんよ」
「アルマダのボスだって話だ。DNA情報さえあれば、控えてる物と比べて判断出来る。適当に回収しておいてくれ」
現場に到着した警察と米軍の応援がケリドウェンの残骸と、その周辺の後片付けを行なっていた。
それをベンチに座って見詰めるジョシュー。
(これでアルマダはいよちよアレハンドロの手に渡る。そして、ここからがクイーンの狙ってた所になる。だが、この妙な胸騒ぎは何だろう......嵐が来るのは分かっているのに、な)
そして、缶コーヒーを啜りながら、救護班から貰った氷嚢で頭の傷を冷やすのだった。
☆
そして、夜。
ホテルのスイートルームにシナトラは居た。鏡に向かい、薄いピンクの口紅を優しく塗り、上唇と下唇を合わせよく馴染ませる。
化粧品はそれ以外使わない。既に完成されている容姿には必要無い物だった。
香水の入った小瓶から一雫を人差し指に取り、両耳の後ろに塗る。石鹸の様な淡い香りに、フローラルな花の香りを足した清楚さを醸し出す香り。
赤いレース生地に黒のフリルがあしらわれたベビードールに身を包み、身支度を整えた彼女は、ベッドに腰掛けて来客を待っていた。
月明かりの差し込む部屋、幻想的とも言える美しさを醸し出す彼女の部屋に、ドアをノックする音が鳴る。
......獲物だ。




