13-1『Fin de lanza』
大変遅れてしまいすいません。着々と一先ずの終りに近付いています。
宜しくお願いします
ホテルの一室にて、シナトラはジェイムズの報告を聞いていた。
「連邦警察に動きがあった。米軍も動くぞ」
「米軍も? 」
「ああ。それ以上に詳しい情報は無いが、恐らく本気で来てるな。ただ......」
ジェイムズはそこまで口に出し、急に言い澱んだ様子になる。
「何よ」
「適合者の噂を聞かない。あのバケモノ共無しでもやれるって自信があるのか......」
「ふぅん......」
『適合者』はロシア、ドイツ、日本に1人ずつ。世界で計3人しか居ない。だが、3人共驚異的な力を持っており、『門』出現後の世界に於いて、核に勝る抑止力となっていた。
だが、世界の警察として振る舞っていたアメリカ合衆国に適合者は居ない。新たな時代での抑止力を持たないアメリカの影響力は、年々弱まっていた。
第二次世界大戦や冷戦での確執もあり、アメリカは上記3カ国を頼る事に消極的、というよりはプライドが許さないと言った方が正しかった。
「まあそうよねぇ......。自分の国の下でどんちゃん騒ぎが起こってるのに、見下してた国の力なんて借りれないでしょ」
「今日動く筈だが......ディエゴが気付かないワケねえ。もしかすれば夕方にでも......」
そこまで言った時、少し遠くから爆発音が聞こえる。窓から外を見ると、煙が何本か上がっているのが見える。
「ほらな! 言わんこっちゃ無い! 」
ジェイムズが叫び、振り返る時にはシナトラはスマートフォンを手に取っていた。
「フリード、足止めを」
『人使いが荒いな』
「その様子だと既に勘付いていたか、準備は済ませている様だけれど? 役に立たなければ話したご褒美も無しよ」
(ご褒美ィ? )
ジェイムズはその単語に一瞬首を傾げたが、この女の思わせぶりな態度や回りくどい言い方を考えると、聞き流す方が気楽だった。
『それは困るね。フフフ、では出るとするか。直ぐに来い、警察やらなんやらの邪魔も入るだろうしな』
「そのつもりよ。精々死なない様に頑張って」
『当たり前だ。それより、俺の注文はちゃんと聞いてくれるつもりなのか? 』
シナトラはこれまでに無いぐらい、深呼吸ばりに息を吸い込んで深い溜息をつく。
「子供ねえ」
『良いじゃないか。......楽しみにしておくよ』
電話は切れたようだ。シナトラはスマートフォンをスリープモードにし、ドレスのポケットに入れる。
そして、先ほどから視線を向けて来るジェイムズの方に振り返る。
「何かしら? 」
「......何でも。行くんだろ? 」
「そうね。アガレスに頼んでた物の配置も完了しているし、荒らされない内に行くわ」
「頼んでた物? 」
その話を聞かされていなかったジェイムズはおうむ返しに質問する。
「ンフフ、ひ・み・つ。楽しみにしておいて? 」
唇に人差し指を当ててわざとらしくそう言ったシナトラはホテルの部屋を後にする。一瞬見惚れてしまったジェイムズは、遅れてその後を追う様に部屋を出る。
☆
時間は少し遡る。
連邦警察先導のもと、メキシコ陸軍と米陸軍の合同チームが目標であるポイントへ向かっていた。
武装した装甲車両が列を成して公道を突き進んで行く。物々しい雰囲気の中、一台の車両の中にジョシューとライアンも居た。
揺れる車内は緊迫した空気が漂っており、とても談笑出来るような雰囲気では無かった。
「なあライアン。この防弾チョッキ、役に立つかな? 」
ジョシューは辛抱出来ず、出発直後から思っていた不安を吐露する。
「立つさ。ま、あのデカブツが来たら逃げるしか無いがな。あの15mm機関砲に当たればお陀仏だ」
「やっぱりか! 頼むッ、大人しく捕まってくれ! 」
「俺達は直接戦闘に参加する訳じゃ無いから、よっぽど運が悪くない限り大丈夫さ。機械の人形は軍とCIAに任せて、俺達は麻薬の取り押さえをしてればーー」
瞬間、音が消えた。
「......⁉︎......⁉︎ハァッ! ハァッ! 」
(何だ⁉︎ 何が起こった⁉︎ )
視界が逆さまになっている事に気付く。直後、走行車両ごとひっくり返されている事を理解した。
「っ、つつ......」
「ライアン! 生きてるか⁉︎ 」
「! ジョシューか⁉︎ ッ! 」
外から爆音と叫び声とが混ざった轟音が聞こえる。
「外に出るぞジョシュー! 」
「あ、ああ! ま、待ってくれ! ......オイ! アンタも早、く......」
運転手の肩を掴むが、首がへし折れて既に絶命しているのが分かった。
「くっ......! 出よう! 」
車から必死に這い出てみると、外では既に戦闘が始まっていた。
唖然としていると、顔の直ぐ横を銃弾が掠める。
「クソッ‼︎ クソォッ‼︎ 」
弾が飛んで来た方向、離れた雑居ビルの屋上から銃を構えていた男に向けて2発撃つ。
1発目は外れたが、2発目が男の胸を貫く。男はよろけた拍子に足を踏み外し、真っ逆さまに地面に激突した。
「伏せろっ! 」
「一体何が......」
街の真っ只中で繰り広げられる銃撃戦の中、ジョシューは状況を把握しようと、隠れていた車の陰から一際激しい戦闘音のする方向を見る。
「なっ、何だよ、コレは......⁉︎ 」
ジョシューはその戦闘を見て絶句した。ディエゴの駆る機械人形による猛攻を、2人の男女が凌ぎ、互角に渡り合っていた。
「何だありゃ? ん......アレは、フリードか! 」
「何だって⁉︎ アレが、あの⁉︎ 」
機械の剛腕に取り付けられたヒートブレードを、鎧を着た青年は手に持った長剣で弾き返す。
その側に居た長髪の女性は身の丈に合っていない大剣を持ち、隙を見せた所に一撃を叩き込んでいる。
一見フリードと大剣を持った女性が有利に見えたが、ディエゴの乗る武装外骨格『ケリドウェン』の装甲は大して傷付いていない。
「アレは......どっちが勝つんだ......? 」
「わからんな。ただ、こうも互角だとフリード側が不利じゃないか? 女の方も頑張ってるが、先は長くないだろうな......。クソ、話が違う......」
そんな、と言葉が漏れる。どっちが勝ってもこんな有様じゃ抵抗も出来ずに皆殺しだ。ディエゴ逮捕とケリドウェンの拿捕は失敗。その上死傷者多数。作戦は大失敗だ。
「どうする......⁉︎ どうすれば......! あだっ⁉︎ 」
ジョシューが何か手が無いか周囲を見渡したその時、何かに吹き飛ばされ後ろに転がって行く。
「あたた......うおっ⁉︎ 」
慌てて起き上がると、先程まで居た場所に燃えた軽自動車が落ちて来る。
「久しぶりね、ジョシュー捜査官」
「ク、クイーン⁉︎ 何だって此処に......」
尻餅を付いたジョシューの目の前には、やたらと縁のあるハイエルフの少女が立っていた。
「勿論、アレを殺る為よね」
「あのデカブツをか⁉︎ どうやって? 」
「切り札は持っておくものよ? ポーカーでも、戦争でもね。それじゃ......」
シナトラは小悪魔的な微笑みの後、徐に拳銃を取り出してケリドウェンを撃つ。
「囮、よろしく。お連れさんも頑張ってね」
「は⁉︎ ちょ、ちょっと待てって! 」
ジョシューは走り去って行くシナトラに気を取られていた。我に返った瞬間、ケリドウェンから放たれたロケット弾が飛来するのが見える。
「どっ、わあああああ‼︎ 」
弾け飛ぶように回避するが、衝撃波を避け切れず転がる。
「クッソ、あんのヤロウ......おっと......」
悪態をつきながら顔を上げると、聳え立つケリドウェンが日光を遮り影を作っていた。
そして当然だが搭載されたビートブレードを振り上げる。
「ああっ、クソ。死亡保険、入ってたっけなあ⁉︎ うわああああ‼︎ 」
ブレードがジョシューに振り下ろされる直前。
「ハッハァ。関節部分が、ガラ空きだ」
瞬時に間合いを詰めたフリードが剣でケリドウェンの腕を斬り飛ばす。唯一ダイレクトに攻撃の通る間接部分を斬られ、ケリドウェンは隻腕の体になる。
『フリードォォ‼︎ 』
「さあ、もう一本貰おうかな? 」
☆
シナトラとジェイムズは事前に用意させていた自動運転のトラックを探していた。
トラックは襲撃、若しくは遭遇戦になった場合は現在地点に呼び出せる様になっていた。
「それらしいのはねえな」
「GPSではここら辺を......ん? 」
交戦地帯の付近に流れ弾に当たったのか、横転したトラックがあった。
「あれだ。......っ! 」
「うおっ! うおあ⁉︎ 」
弾が空を切る風切り音に反応し、瞬時にその場から跳んで退避する。
少し遅れたがジェイムズも慌てて物陰に隠れる。
「黒人の方は殺せ! ガキは生け捕りにしろ! 」
「面倒くさいっ! 」
「俺は生け捕りにしてくれねえのか...... 」
シナトラは舌打ちしながら即座に応戦する。ジェイムズも借りているアサルトライフルで応戦する。
「シッ! 」
「あばっ、がっ」
最初に撃ってきた男の腹に1発、怯んだ隙に頭を撃ち抜く。
「危ねえんだよ‼︎ 俺も生け捕りにしやがれ‼︎ 」
「何だコイツ⁉︎ ぐえっ」
突っ立っていた青年をタックルで吹き飛ばしながら、ジェイムズは別の障害物に隠れる。
隠れてもアパートの屋上からも撃たれ、2人はあまり動けていなかった。
「ジェイムズ‼︎ 私は武器を取るから援護を‼︎ 」
「出来る限りやってみるさ‼︎ 期待はすんな‼︎ チクショウ! オラッ、こっち向きやがれ馬鹿ども‼︎ 」
「ッ‼︎ 」
ジェイムズが躍り出て乱射し始めたと同時にシナトラはトラックに向けて走り出す。
荷台の留め具を撃って壊し戸を開ける。
「ふふっ。あった......! 」
荷台に積まれていた『武器』。それは一言で言えば『槍』なのだが、穂とけら首の部分に様々な装置が付いていた。
「クソッ、そろそろヤバイか⁉︎ オォイ、クイーン、早くして......」
トラックから離れた位置で戦うジェイムズの耳に銃声が3発分、間髪なく響く。
「おっ、おお......? ぬわっ! なんだ⁉︎ 」
続けて、先程まで戦っていた男達が建物の屋上や窓から落ちて来る。
「クイーン、それで武器ってのは......それが、秘密兵器って奴か? 」
ジェイムズが振り返ると、そこには拳銃を片手に、その体に似つかわしくない槍を肩に担いだシナトラが居た。
「そ。......さぁて、終わらせに行きましょうか。粉々にしてやりましょう」
確かめる様に槍をその場で一度、横薙ぎに振り、シナトラは妖しく微笑む。
ジェイムズはその笑みに、戦いの終わりとその先の暗闇を感じ取ったが......すぐに忘れ、走るシナトラを追いかけた。




