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麻薬エルフ   作者: 銀玉仮面
メキシコ編
21/26

11-2

遅れましたが、今回も宜しくお願いします。


 シド・アルバンテナ、種族はエルフ。年齢は522歳だと記憶している。


 私はエルフの森の一部、それもハイエルフの住まう森の周囲を警備する内の1人だった。

 生まれ故郷である集落の中では私が一番弓矢を扱えた。やりがいもあり、王族を守護出来る栄誉も授かれる仕事だった。


 だが、あの日。異界とこの世を繋ぐ門が現れてから全てが変わった。私が不時着したのはメキシコのグアナフアトだった。見慣れない建物や車に慄いていると、銃を持った者達に身柄を保護された。


 最初は私を保護した者達からどう逃げようかと考えていたのだが、同じエルフ語でこの世界の実情を説明されてからその考えは無くなった。


 この世界の言語を習得し、必要な学業や手続きをパスし、私は晴れて警察官になった。世界は違えども、戦えない人々を守る仕事。

 信頼出来る仲間をも出来た。門の出現は不幸な事故だったが、第二の人生と考えられる位充実した日々だった。


 だが、この世界は、いや。この国は巨大な闇を抱えていた。それが麻薬カルテルだった。


 ある時、少佐に昇格した私は、アルマダカルテルの幹部であるアレハンドロを捕らえた。部下と共に2年間追ってようやく逮捕に繋げる事が出来た。


 祝賀会を開き、翌朝達成感と共に出勤した私に告げられたのは信じ難い事実だった。


 アレハンドロが釈放されたのだ。当時の上司であるドロテオは、麻薬取引は証拠不十分で他の罪は軽いので釈放料を払って終わりだと言う。抗議をしたが相手にはされなかった。


 その後は地獄だった。日替わりで私以外の人間が減って行った。残された部下は怯え、こうなったのは私のせいだと、カルテルに逆らう等愚かだったと、私を罵った。

 結局、その部下がカルテルに仲間の家や場所を教えていたと分かったのは、アレハンドロを逮捕した時のチームメンバーが私だけになってからだった。......ソイツも殺されたが。


 その日私は誓った。奴等に対し逮捕など無意味なのだ。例え法を犯しても、死の裁きを下さねばならないと。

 カルテルに恨みを持つ者を部下にし、昼は普通の警官としてパトロールしカルテルのアジトの目星を付ける。

 夜は自警団として構成員を殺して回った。


 それでも幹部には中々辿り着けない。強力な情報筋と力、そして金が足りなかった。

 そこに差した一筋の光、それが彼女だった。


 元の世界では顔を見る事も叶わなかったお方、拝謁出来た喜びと共に、家族を失った彼女の悲しみを想像した私は涙を堪え切れなかった。

 私はこの方を助ける為にこの世界に来たのだと感じると同時に、カルテルに対して底知れない怒りを抱いた。


 それから、ドン・アガレスからもたらされる情報を基にカルテルへの襲撃を再開した。姫様のご活躍と、気に喰わないがフリードらの動きもあり、アルマダが徐々に弱って行くのが分かった。


 そして今日は夜になってから匿名のタレコミがあった。DEAの捜査官らと分析した結果、情報の場所が現金等の隠し場所である可能性が高い事が分かった。


 「私と部下で向かう。隠密行動になるな」


 「大佐、俺達も行かせて欲しい」


 「認められない。罠の可能性もある。君達にもしもの事があれば私の責任だけでは収まらない。分かってくれ」


 「ここは諦めろジョシュー。大佐、何かあれば直ぐに通信を」


 「分かっているさ」


 ジョシュー捜査官を説得し、部下と共にポイントへ向かう。装甲車両1台に私を含めて6人の少人数での作戦になった。


 だが、ポイントに到達したその時、私達の行く手を阻む様に貨物トラックが前に躍り出る。


 「大佐! 前方にトラック! 道を塞がれました! 」


 「罠か! バックしろ! 全員、戦闘準備をっ、うおおおッ⁉︎ 」


 バックした装甲車両のタイヤ付近にロケット弾が着弾する。爆風で車両は転がり、回転が止んだ直後に銃撃に晒される。


 「クソッ! 応戦しろ! こちらガーデン1! 敵の襲撃を受けた! 救援を! 」


 『大佐、待っていろ! 直ぐに向かう! 』


 「何分持つか......‼︎ クソォ! 」


 必死に迎撃するが、数で劣っている上に敵に四方を囲まれている。夜闇に紛れ姿が視認し難いのも不味い。 

 1人、また1人と動けなくなって行く。


 そして、シド達を更に追い詰める存在がこの場に居た。


 深い地響きと共にそれはやって来た。


 「な、なんて、事だ......」


 現れたのは6メートル程の装甲に覆われた人型の機械人形。

 CDWE《Counter/DifferentWorld/Enemy(対異世界敵性体)》用に造られた武装外骨格のプロトタイプ、通称『ケリドウェン』。


 人類を守る為に造られたそれは、今人型種族同士の醜い争いに於いて、正義の象徴である警察にとっての死神と化す。


 そして、鋼鉄の死神からシドも聞いた事のある声が発せられた。


 『シド、久しぶりだな』


 「その声は、ディ、ディエゴ・アルメイダか......! 」


 『そうだ! そして、貴様を殺す男だ! オオオアアッ‼︎ 』


 雄叫びを上げながら、死神は左腕に搭載されたヒート・ブレードで装甲車両を縦に両断する。


 「ぎゃっ! 」


 「シシルッ‼︎ 」

 

 警察官の1人がヒート・ブレードに巻き込まれ、半身を真っ二つにされてしまう。


 『死ねッ! 』


 右腕のガトリング砲が火を吹き、シドを除く警察官は全て殺された。


 シドは最後の抵抗をしようと拳銃を取り出すが、視覚外からの銃弾を手に受けて落としてしまう。


 「ぐぅぅ......! 」


 仰向けに倒れ荒い呼吸を繰り返すシドの前に、死神から降りたディエゴ・アルメイダが立つ。


 「俺を見ろ、シド」


 「ハァ......ハァ......勝ったつもりか? 臆病者め」


 「お前を殺し、あのハイエルフのガキも殺してやるッ......! 」


 「クックックッ......フハハハッハッハッハッ‼︎ 」


 夜の空を仰ぐシドはディエゴの怒りの様相を見て唐突に笑い始める。


 「何が可笑しい⁉︎ 」


 「ハッハッハッ‼︎ 家族でも殺されたのか? ディエゴ! 良いじゃないかそれぐらい! 貴様が奪って来た命に比べれば、取るに足らん事だろうがッ!! 」


 「黙れェッ‼︎ 」


 「ぐわッ‼︎ ......フフフフフ、ざまあみろ、クソ野郎。ククク......」


 シドは怒り狂ったディエゴに右脚の大腿部を撃たれるが笑うのを止めなかった。


 「殺す」


 「......地獄に、落ち」


 死の直前まで挑発をしていたシドだったが、最後まで言い切る事無く、額を撃ち抜かれる。


 「......行くぞ」


 ディエゴと部下達は一斉にその場を離れて行く。

 その場に残されたのは、死体と夜を照らす様に燃え盛る車の残骸のみだった。


 ☆


 俺達が駆けつけた時には、全てが終わっていた。燃え盛る車両の残骸と、辺りに散乱した凄惨な死体。

 

 「クソォ......! こんな事になるなんて......! あの時、無理にでも止めておけば......こんな事にはッ......」


 ジョシューは自分の無力さに打ちひしがれ、シドの遺体を前に、膝から崩れ落ちる。


 「お前が悲しんでも仕方ない。シドは前々から目を付けられてた。逆に、今まで良く生きていたとさえ言える」


 「だからって、こんなの......納得出来ないだろ......」


 「......大佐は、自ら非公式の自警団を率いてカルテルの構成員を殺していた。それに、捜査情報を何者かに流した痕跡も。意図的にパトロールをしなかった地域もあった。彼は、俺達以外の誰かと繋がっていたんだ。それが誰かはもう分からないが......」


 ライアンから明かされる真実にジョシューは困惑するが、先日の少女の姿が頭を過ぎる。


 「あの子か......⁉︎ 」


 「あの子? 何か知ってるのか? 」


 思わず口に出してしまったが、ジョシューもあの少女との繋がりがある為、おいそれと喋る訳にはいかない。


 「い、いや、行方不明の女の子関係してるのかもなと思って」


 「かも知れないな。......ん? これは......! 」

  

 同行していた警官からタブレットを受け取り、その画面を見たライアンの顔が驚愕に染まる。

  

 「おいジョシュー、これを見てみろ」


 あまりの惨状に困惑していたジョシューに、ライアンはタブレットに映された映像を見せる。


 上空から撮影された映像の様だが、そこに巨大な影が映っていた。


 「救援要請を受けて飛ばした偵察用ドローンの映像だ。エラい事になってるぞ」


 「このデカイのは何だ? コイツが装甲車をぶった切ったのか? 」


 「ああ。異世界から来る大型の魔物や、石のデカイやつ、ゴーレムだったか。それ用に造られた強化外骨格ってヤツだ」


 「そんな物を何故カルテルが持ってる⁉︎ 」


 「何処かデカイ所と繋がってるって事だな。これに関してはCIAが既に調査を開始しているらしい。大事になって来たな」


 ライアンは肩を竦め冗談めかしてそう言うが、2人の想像以上に事態は深刻化していた。

 

 ☆


 翌日、メキシコシティの葬儀場で1人の男の葬儀が行われていた。

 

 墓石の前に兵士が5人横一列に並んでおり、ライフルを手に乗せ肩に立て掛けてある。

 神父が聖書を片手に何かを読み上げている。それが終わると、将校らしき人物が何かを述べた後、空包が一斉に鳴り響く。


 それを気付かれない様に、墓地の外縁から見る人物が2人。シナトラとジェイムズである。


 「......シドは、ディエゴの妻と息子の居場所を知っていた。恐らく......」


 「彼がフリードにそれを教えたという訳ね。私がクリストバルを殺した時に死体を送り付ける事で、私が全ての犯人だと、ディエゴに思い込ませる......」


 「それで誰が得をするんだ? 」


 「フリードに決まってるわ。私がアレに助けを乞う状況を作りたがってる。でも......」


 シナトラは人差し指を顎にあて、小悪魔的な笑みを浮かべる。


 「わたしを手篭めにするつもりでしょうけど......。掌でタンゴを踊って差し上げましょうかしら。ンフフ」


 「だが、シドを殺したあのデカイのはどうするつもりだ? 」


 「あら、私にはゴールドウィンの財力と、優秀な錬金術師が居るの。手は、もう打ってある」


 「相変わらず準備が良いことで」

 

 墓地を離れるシナトラの後をついて行きながら、ジェイムズは1人呟く。


 シナトラは先に助手席に座っており、墓地の方、シドの墓がある方向をじっと見つめていた。


 「シド、次は地獄で会いましょう」


 左手の指先で投げキッスを送る。


 喜ぶ者はもう居らず、エンジン音が静かな墓地に虚しく響き渡って行く。

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