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父ブリンズが休みの日の夜、リビングで寛ぐ彼のスマートフォンに電話がかかって来る。
「はい、ブリンズです。ほう.....妻と娘をモデルに? 有り難い申し出だが、私も家族も、まだこの世界に慣れていなくて.....。申し訳ないが、辞退させて頂きます」
電話は妻のマイラと娘の✕✕✕を、専属モデルとして雇いたいという申し出だった。家族を思いやるブリンズはそれを断る。
すると、電話の相手は断られるとは思っていなかったのか、電話口から聞こえてくる声が怒声に変わった。
「そう言われましても......アルマダ? 存じ上げませんね。とにかく、妻と娘は働きになんて出せませんから! それでは! ......全く。どこの世界にもああいう連中は居るものだ」
やれやれといった様子で電話切るブリンズ。一部始終を見ていた✕✕✕は心配して父に駆け寄る。
「どうしたのお父様? 怖い人? 」
「あぁ、何でもないよ✕✕✕。お仕事の電話さ」
「ふーん。ねえお父様、次のお休みに皆でお買い物に行きましょう! 」
「ああ良いとも。この前のテストの結果も良かったし、欲しい物を買ってあげよう」
「やった! 来週が楽しみだわ! 」
「✕✕✕。お父様はお仕事で疲れてるんだからそれくらいにしておけよ」
同じリビングでテレビを見ていたユービクが✕✕✕を窘める。
「あ、そうよね。ごめんなさい、お父様」
「大丈夫だよ。それより、しっかり謝れてえらいぞ」
「えへへ.....」
「さ、2人とも早めに寝なさい。明日は学校だろう? 」
「はーい! お父様おやすみなさい! 」
「おやすみ、父さん」
「うん、おやすみ」
ブリンズは子供たちが2階の部屋に戻るのを見届け、テーブルのカップに入ったコーヒーを飲み干す。
「ふむ.....どうしたものかな.....」
「あなた、どうかした? 」
「いや、なんでもないさ。それより、私達ももう寝よう」
「そうね」
何か嫌な予感のしていたブリンズだったが、気のせいだと振り払い、妻のマイラと共に寝室に向かい眠りにつく。
一家の平和な日々は、この日が最後だった。
☆
翌日、学校施設から家へ向かうまでの帰り道を✕✕✕とユービクは歩いていた。
少し歩き、家までもう少しという所で黒いサバーバンが2人の目の前、道を塞ぐように停車する。
「.....? お兄様.....」
「✕✕✕、俺の後ろに」
「う、うん.....」
肩まで伸びたピンクシルバーの髪を不安げに揺らし、✕✕✕はユービクの後ろに隠れる。
サバーバンから覆面を着けサブマシンガンで武装したスーツの男が4人、一斉に降りてくる。
「逃げろ✕✕✕ッ! 『ファイアーボー』ウワアアアァアッ!?」
「お兄様っ! いやっ、離して! 誰か! 助けっ......」
魔法を放とうとしたユービクはスタンバトンで昏倒させられてしまう。
振り向いてしまった✕✕✕は抵抗するも、睡眠薬の染み込んだハンカチを口に当てられ、ユービクと同じく気を失ってしまった。
そのまま、2人は男達によって車に連れ込まれ、何処かへ連れ去られて行った。