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麻薬エルフ   作者: 銀玉仮面
メキシコ編
16/26

9-1『Alianza de asesinatos』

遅れました。宜しくお願いします。


「......見失ったと? 」


「申し訳ございません、若」


「チッ、情報屋は買収したサツの名前も知ってる、絶対に殺せッ!! 分かってるとは思うが......エルフのガキの方は生け捕りだ......良いな? 」


「わ、分かりました」


今日襲撃された別荘とはまた別の場所で、アレハンドロは部下の報告を受けていた。部下が自室から出た後、椅子に座りながら浅い溜息をつく。


「クソ、絶対に逃がさねえ......必ず捕まえてやる」


アレハンドロがここまで1人の少女に執着するのには訳がある。

彼は元々、幼い女性に対して性的な興奮を抱く人間では無かった。だが、それはあくまで『幼ない女性』に限った場合の事。女に対しては、人一倍貪欲な男だった。

それこそ、気に入った女はあらゆる手を使って籠絡しようとするぐらいには。


彼が21歳、8年前のある日。悪友と外に出た際に、自分の半分位の歳の少女とすれ違った。気付けば、彼はその少女に声をかけていた。


そして、少女を欲望のままに汚した時、彼は言い様の無い征服感と快楽に包まれていた。相手の事など考えない、暴力的な行為。

夜に関して彼はまだ紳士的と言えたが、この日を境に、彼の好み(・・)は180°変わった。


金にものを言わせて貧乏人の娘を買った事もあるし、部下に誘拐させて乱暴した事もあったが、直ぐに飽きてしまった。

健気で無垢でも俗世に染まった同じ人間だし、そんな事を何年かやっている内に嫌気が差して来た。


だが、そんな彼に転機が訪れる。少女からすれば訪れてしまった(・・・・)、だが。

学校からの帰りだろう子供達が道を歩いていた。その中に1人、一際目を引く美しい少女が居た。長く尖った特徴的な耳と、ハイエルフの女性にしか現れないピンクシルバーの髪。


(ほ、欲しいッ......! )


声を掛けようとした時、残った理性が体を止める。エルフの価値を考えれば当然と言えた。エルフはその美しさと寿命の長さから、美の象徴とされていた。


ハイエルフには王族の血が流れている。難民であろうと、彼ら彼女らは、国賓の様な扱いを受けている。それに手を出せば世論は許さないだろうし、何より同じ物を狙う裏の勢力に殺されかねない。


結果的に、一線を超えてしまって今に至るのだが......。


少女との時間は短いが濃ゆい物だった。


真珠の様に艶やかで、絹のような柔肌。少女らしい可愛らしさと美しさ、そして気高さも備えた相貌。

それを味わってから、アレハンドロはどの女を抱いても満足出来ない体になっていた。


彼は既に様々な勢力を敵に回している上、少女によって多大な損失も出していたが、そんな物は最早どうでも良かった。

それだけあの少女の存在が、彼の中で大きくなっていた。


少なくとも、見飽きた札束の山よりは。


「ここまで尻尾が掴みにくいとなると、後ろ盾は相当デカイな......待てよ、ベレトは確か......『ゴールドウィン』と......」


ゴールドウィングループは北米とヨーロッパを中心に銀行や不動産業、金融業を営む巨大多国籍企業だ。社長のカラミティ・ゴールドウィンは異世界出身という噂もあるが、分かっているのは特徴的な牛の頭蓋骨を付けているという所だけ。


いくらメキシコ一大勢力の麻薬カルテルと言えど、フォーブス誌に乗る多国籍企業を敵に回すのは自殺行為と言えるだろう。

だが、このメキシコから撤退させる事は出来る。拠点を片っ端から襲撃すれば、少なくともメキシコシティからは居なくなるだろう。


(奴らに全面戦争なんかするタマはねえ。社員を何人か殺せばメキシコからは撤退する......)


多少こちらにも犠牲は出るだろうが、構うまい、奴らとて勝利も利益も無い戦争はしないだろうと考えていた。

大事(おおごと)にする訳が無いと、高を括っていたのだ。


支援者(パトロン)の撤退後は孤立した少女を捕まえる。その後を想像してにやけながら、ジンの入ったグラスを傾けていると、スマートフォンに着信が入る。

画面には『アルチョム』の文字。


「アルチョォム! 元気か!? 」


『ハハ、アレハンドロ! 久しぶりだな! 』


「早速で悪いが、メールで伝えた『エリクサー』の件、そちらで捌けそうか? 」


『エリクサー』......アレハンドロが少女に打った新型の合成麻薬である。脳のリミッター解除による全能感と闘争心を呼び覚ます、危険な劇薬である。

彼らは原液を100倍希釈で売り付けるつもりだが、それでも脳組織の破壊かショック死の可能性は高い。


だが、末端価格はコカインを上回る1グラムあたり1300ドル。マンドラゴラやシヴル草の調達は困難だが、これまでとは比べ物にならない利益を生み出せる商材だった。


万病を治すと言われる伝説の薬の名前を死の危険がある合成麻薬に付けるとは、些か趣味が悪いと言えるが......。


『問題無い。モスクワはちと厳しいが、ウクライナなら何とか出来る』


「有難い。話は変わるがアルチョム、傷物のハイエルフの女に、お前なら幾らの値をつける?」


『傷物だと多少下がるだろうが......それでも5000万ドル以下にはならんだろう。......まさか、手に入ったのか!?』


「いや、ソイツが戦える奴でな。部下やギャング共はソイツに殺された、オマケにデカい後ろ盾もある。近い内に襲撃するが、何とかしないと『騎士団』のバカ共につけ込まれるって状況だ」


電話の向こうから、アルチョムの唸り声が聞こえる。


『兄弟、助けたいがこっちも特区公社への対応で苦しんでてな......特にミス・ソヴィエトだ。アレはツァーリ・ボンバをぶつけても殺せん。そうだな......小隊規模なら派遣出来るぞ、勿論元スペツナズ所属のプロも居る』


「十分過ぎる。こちらで武器は用意する、直ぐにでも寄越してくれ」


『了解した兄弟。もう切るぞ。

До() свидания!(ゃあな)! 』


着信の切れたスマートフォンをスリープにし、アレハンドロは作戦を練るため更に夜更かしをして行くのだった。



数日後、ジェイムズはメキシコシティのホテルの一室で目覚めた。あの女...『クイーン』はホテルや点在する隠れ家を転々としているようだ。

シャワーを浴び、コンビニエンスストアで買った安いシャツに袖を透す。着替えが終わって暫くすると、部屋の内線が鳴る。


『ジェイミー、移動するわよ。荷物を纏めて私の部屋の前に来て』


「了解した。直ぐに向かう」


買ったばかりの黒のビジネスリュックに服とアサルトライフルを仕舞う。ストックを折り畳めるタイプはこういう時に便利だと思い知る。


部屋の前に来いとは言われたものの、彼女の部屋はジェイムズの居る4階では無く、ロイヤルスイートと呼ばれる13階の部屋だ。

エレベーターで13階に上がる。


「おっと......悪い」


「Извините.」


降りようとしたところで、乗り込もうとしたロシア人一行の1人とぶつかってしまう。身長が2mを越すジェイムズより背は低いが、全員に屈強な印象を受けた。


「ロシア人、か? ......まあいい。クイーン! 着いたぞ! 」


部屋のドアを叩きながら呼び掛けると、大きい旅行鞄と共に、シナトラが目を細めた不満そうな表情で出て来る。


「あのねえ......レディーの部屋を訪れるのに配慮が足りてないのでは無くて? はい、これ持って」


「ちょっ、オイ。良いんだけどよ......」


ジェイムズに鞄を持たせ、エレベーターで1階に降りる。


「朝食というかもう昼だけど......レストランに寄るわ。お腹減っちゃった」


「なら後で服屋にも寄ってくれ。ジャンパーでも良いから欲しい。てか防弾チョッキとかはねえのか? お前のそれ防弾仕様だろ」


「これ高いのよ?2万ドル位。チョッキのアテならあるから、用意させるわ」


レストランの受付にチップを渡しながら、店の中央のテーブル席に座る。


「高っ。ま、用意して貰えるならいいんだが......。今日はどうする? この前みたいに襲撃するのか? 」


「襲撃じゃなくて、やりたい事があるの。それには貴方の情報が必要よ」


「情報か。どんなのが欲しい? 」


「......アルマダや他のカルテルに買収されてる警官のリスト」


ジェイムズは神妙な面持ちでコーヒーを1口啜る。短く息を吐き、一度頷く。


「構わんが......サツを敵に回すのか? 」


「物騒ね。カルテルに味方する奴は殺すけど、こっちに引き込めそうな人間は引き込みたいだけ。同盟を組むの」


「俺達も犯罪者だ。カルテルの殺し屋と何も変わらんと、奴らは判断する」


「その時はその時よ。......チッ、虫が......」


シナトラは顔を顰めながら、何も付いていない(・・・・・・・・)腕をしきりに手で払う。


「虫......? 何も無いが......。クイーン? 」


ジェイムズが怪訝そうな顔をして、シナトラに声を掛けようとしたその時だった。

少女の顔が瞬時に強ばるのが見える。


「伏せてッ! 」


「チクショウッ! 」


少女の声を聞いて直ぐさま床に伏せた瞬間、大通りからガラスを割って乗り込んで来た敵から激しい銃撃の嵐に襲われた。

いきなり大声を上げて地面に伏せた2人に驚いていた他の客達は、逃げる事も出来ずに次々と倒れて行く。


「援護を! 」


「任せろッ! 」


リュックからアサルトライフルを取り出し、テーブルに隠れながら牽制射撃を開始する。


「シッ! 」


「ゔっ」


「あぐぁっ」


ジェイムズの銃撃に気を取られていた2人の男をシナトラが射殺する。


「クソっ! 死にやがっ 」


「......ありがと」


「どういたしまして」


殺し屋達が乗り付けてきた車から降りて来た最後の1人は、注視していたジェイムズに射殺され倒れた。

2人は一息付いたが、店内は死体やガラスの破片等で酷い有様だった。


「行くわよ。警察が来る」


「......ああ」


その場を離れ、大通りでジェイムズにタクシーを拾わせ、それに乗車する。


「トランシトまで。......もうバレてるなんてね」


「アレハンドロの事だ、アンタの後ろ盾にも気付いてる」


「そう考えるのが妥当ね。......失礼、セニョール? ちょっといい? 」


シナトラはおもむろに銃を取り出し、運転手の後頭部にそれを突き付ける。


「この時代に無線機なんて何に使うのかしらね? ん? どうなの」


「い、いや......これは......」


タクシー運転手は右手でハンドルを操作しながら、左手に古めかしい無線機を持っていた。


「多方、決められた暗号を話せば、私達が行く場所が伝わるって段取りでしょう? 」


「うぅ......許してくれ! 脅されて、他に道が無かったんだ! 殺されそうになった! 」


「暗号は? 」


銃口を後頭部に押し付けられ、運転手は震える手で胸のポケットからメモ用紙の欠片を取り出す。


「の、乗って来たら......セットしてある無線機を起動して、『カスタマー』の後に目的地を喋る......それだけだ......」


「ふーん。じゃあ無線機を3000ドルで買うわ。どうする? 」


「でも、裏切った事がバレたら殺される......! 」


シナトラはふたたび運転手に銃を突きつけ、耳元でゆっくりと囁く。


「今殺されるのと、逃げる時間がある方、どっちがいい? 」


「そんな、どっちが言いったって......」


口ではこう言っているが、彼にそもそも選択肢など無い。カルテルに脅されればカルテルに付き、別の者に脅されればそちらに寝返る。そういうものだ。


5分後、目的地であるメキシコシティより少し南にあるトランシトに到着する。


「こっち」


シナトラの言う通りに着いて行くと、少し古めな4階建てのアパートメントに到着する。

階段を上がり、405号室の前に立つ。彼女はドレスのポケットから鍵を取り出すと、鍵穴に差し込みロックを解除する。


「こりゃまた......よく溜め込んだな。隠れ家があるってのは嘘じゃなかったんだな」


部屋には家具等は備え付けの物以外は無く、木箱や段ボールが置かれているだけのものだった。


「必要の無い嘘はつかないわ。そこら辺に防弾チョッキの予備ならあったはず」


「あったが......シャツの上にチョッキだと物々しいな。......ん? クイーン、このジャンパーは?」


ジェイムズが段ボールから取り出したのは光沢のあるサテン生地に、背中に龍の刺繍が施された......いわゆる『スカジャン』だ。


「何それ......要らないから貰っちゃって」


「良いのか? なかなかイカすぜ。ドラゴンだ。ハハ」


ジェイムズは防弾チョッキの上から龍のスカジャンを着るが、彼の体格では威圧感が凄まじい。話し掛けるのは警察か裏の人間ぐらいか......。


「さっさと出るわよ。誰に見られてるか分からない」


「おうよ」


部屋から出た後、再びタクシーを拾って乗り込む。


「『ブエン・ビエント』まで」


「あいよ! 」


「ジェイムズ、取り敢えずホテルで情報だけ聞くわ。その後は......ま、後で考えます」


「了解した」


タクシーはそう遠くないホテルに向かって走り出した。今度はジェイムズも注意深く運転手を観察したが、何かをしそうでも無いし、少女も動かないのでこの運転手はシロなのだろう。


今度は何事も無く目的地に到着した。入口からホテルに入り、受付に向かう。

荷物を預かろうとするドアマンは手で制し、チップのみを手渡す。


「こんにちは、本日はご宿泊のご予定ですか? 」


シナトラの身長は少女のそれなので、必然的に見上げる形になる。その見た目や雰囲気と相まって、何処かのお嬢様の様である。


「ええ。2人ね。部屋は別々で」


「お部屋は10階のスイートルームが空いておりますが、そちらをお取りしてよろしかったでしょうか? 」


「うん、お願いね」


「畏まりました。お支払いは......」


「カードで。ハイ」


「お預かり致します。鍵の用意とお部屋の確認を致しますので、少々お待ち下さい」


受付の男が奥に下がる。少ししてカードと2本の鍵を持って戻って来る。


「お支払いは完了致しました。鍵はこちらになります」


「ありがとう」


にこやかに微笑みながら手渡されたチップを、受付の男は少したじろぎながら受け取る。


「さ、行くわよ」


「あいあい。さっきの顔を少しは持たせられないのか? 」


「愛想笑いは苦手なの。はい、自分の鍵くらい持ってて」


ジェイムズに鍵を投げ渡し、10階のスイートルームへ向かう。シナトラの鍵で部屋に入る。

肩にかけていたブランド物のポーチをベッドに投げ、部屋のソファーに寝転がる。


「行儀が悪いな」


「別に良いでしょ。情報は? 」


「紙とペンをくれ。有名どころは覚えてるから、そこを落とせば後は楽勝だ」


「コレでいい? 」


シナトラは、ベッド隣のドレッサーに置いてあったアメニティのペンとメモをジェイムズに投げ渡す。


「......とは言ったが、コレを纏めるのに金と時間を費やしててな」


「10万ドル」


「了解したクイーン。まずメキシコシティだ。警察署長のクラウディオはシロだ。流石にアメリカ大使館とDEAと接する事も多い役職だからな。だがな、副署長のドロテオとその秘書のエウラリオは真っ黒だ」


ジェイムズはメモに今挙げた2人の名前を書き示す。


「アルマダだけじゃない、騎士団からも賄賂を受け取ってる。署長まで話が上がるまでに、コイツが怪しい何件かを揉み消してる。それに、署長の座を狙ってるって噂も出てるしな。クラウディオはドロテオの妻との仲人も務めてたから、奴をかなり信用してる。このままじゃ、このクソ野郎が連邦警察のトップに立つ事になる」


「署長さんはなかなか可哀想な人ね」


「色々とな。それと、陸軍のガビーノ准将もグルだ。ヤツも今の階級に不満を持ってる。だが、ドロテオと違って後暗い事はやりにくい。武器をカルテル側に横流ししたり、軍の情報を渡して小遣いを稼いでる」


「どうやってこういう情報を?」



ジェイムズは部屋の冷蔵庫にあったミネラルウォーターを一気飲みし、息を吐いてから答える。


「っはぁ、俺は基本下の奴らに話を聞いて回ってる。口止め料と釣り合わない危ない橋だって、皆愚痴を言ってるからな。酒か女を奢れば話は聞けるって訳だ」


「大変なのは汚職上司の部下ってこと......。それで? 引き込めそうな人は居るの?」


「心当たりがある。連邦警察の麻薬部特捜隊の隊長......シド・アルバンテナ大佐、エルフだ」


「エルフ......頭が固そうね」


「だが賄賂にも靡かんらしいし、殺そうとしても勘も良いから嵌められないらしい! シドとその部下はカルテルに恨みを持ってる。話す価値はあると思うぞ」


「そうね......近々アポを取ってみましょう。勿論、変わったやり方でね」


「話を聞くかは分からんがな」


ジェイムズの返事に対し、シナトラは特に反応もせず部屋のテレビの電源を付ける。チャンネルはニュース番組の様だ。


「聞かせるのよ。ッ......これは」


ニュース番組は生放送の様で、迫真の様子で喋るキャスターの後ろには、何かが爆発した後の様な建物が映っていた。


建物の入口付近は悲惨なもので、ガラスの破片があちこちに散らばり、道路は一部抉れて焼けた跡が散見された。

巻き込まれた従業員や通行人が倒れており、救急隊員に意識確認をされていたり、布で体を覆われて担架で運ばれていく様子も映されていた。


『本日14時頃、メキシコシティ ラグニージャにて『ゴールドウィン不動産』の事務所が何者かに襲撃されました。目撃者の情報によると、バイクに乗った2人組が手榴弾の様なものを店に向かって投げ込んだとの事です。以前からゴールドウィングループと麻薬カルテルは対立しており、連邦警察はカルテルによる報復か脅迫目的の襲撃とみて捜査してーーー え? 本当に?』


「ん? 」


「何かあったみたいだな」


生放送中にも関わらず、傍に控えていたスタッフから紙を手渡された女性キャスターは、その内容を見て驚きを露にする。


『失礼致しました。メキシコシティ周辺にある、ゴールドウィングループの店舗や施設5件がほぼ同時に襲撃されていた事が分かりました。現在懸命な救命活動が続けられていますが、被害は甚大との事です。ゴールドウィングループ代表カラミティ氏は本日午後7時に会見を予定しており、遺族への補償とグループの今後の対応を発表するとの事です』


キャスターのセリフが終わったその時、シナトラのスマートフォンに着信が入る。


『アガレスだ。シナトラ、ニュースを見たか? 』


「ええ......ごめんなさい、こんな事になるなんて。恐らくアルマダはゴールドウィンが撤退すると思ってる。でも、こんなにすぐ手を打ってくるなんて......私の想像力不足だった」


『父さんは会見でカルテル排除を宣言するつもりだ。最後の大仕事だとね。何、奴らとは前から因縁があったんだ、君が手を出さなくても遅かれ早かれこうなっていた』


「ありがとう。私も次の手は考えてる。早急に動くわ」


『よし、大義名分は出来た。後は行動するだけだ。こちらで軍と政府には話しておく』


「お願い。それと、近々会議を開こうと思うの、奴らを殺す為のね。その時は宜しく」


『了解した。こちらも準備を整えて参加しよう』


「フフフ......アガレス、貴方何時もそうならステキよ」


『可愛い妹の為さ。......もうしがらみは無い。今度こそ奴らを地獄に叩き落としてやる。では、会議で会おう』


通話が終わり、スマートフォンをテーブルに置く。


「クイーン、アガレスってのまさか、アガレス・ゴールドウィンか? 」


「そうよ。で、それが何? 」


「バックにゴールドウィンが付いてたのか......あの野郎、次会ったら眼鏡割ってやる......」


「そっちも因縁があるのね......ま、いいわ。さ、行動しましょう」


シナトラが立ち上がると、ジェイムズは驚いたような表情をする。


「考えが? 」


「フフッ、お手紙を書くのよ」


「......は?何だと? 」



メキシコ連邦警察本部、麻薬部 特捜隊


スーツを着た女性『SYD』と彫られた金属板の貼られた扉を開けると、机には眉目秀麗なエルフの男が座っていた。


「大佐宛にお手紙が届いています」


「誰からだ」


「ええと、『キラークイーン』と」


「何だと!? 貸せ! 」


大佐と呼ばれた男は、静かだったのが嘘のような大声を出して迫る。


「は、はい、これを! 私はこれで! 」


女性は驚いて足早に部屋を出て行く。


「ふざけやがって! 今度はギャング殺しからの賄賂か!! 」


丁寧に封蝋された手紙を引き裂くように開け、中身を食い入る様に読む。


「......ふざけている。ふざけてはいるが、なるほど......」


男は手紙を机に置き、一度深呼吸をする。そして、置いてあったスマートフォンを手に取った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ロシアンマフィアっぽいのも出て来ましたね。 この物語の主舞台は中南米ですが、 昔、『パイナップルARMY』という漫画で見かけた 「テロ組織同士の横断的連携」という状況を彷彿とさせます。 …
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